課金厨のソシャゲ廃人がリリカルなのは世界に神様転生してまた課金するようです 作:ルシエド
今まで特に気にしてなかったんで全く気付いてませんでした
評価に一言が付かなくなったことに何か疑問持てよって話ですよねHAHAHA!
闇の書事件の裁判が行われる、その日。
過去に闇の書に大切なものを奪われた人間に罵声を浴びせられ、ヴィータは裁判所の控室の椅子に腰掛けていた。
―――この人殺しッ!
護送の車から降りて裁判所に入るまでの、ほんの数秒を狙った出来事だった。
「……」
こういったことが起こるのは、管理局もヴィータも承知していたことだった。
だから今日の裁判は一般人の傍聴が不可能になっており、はやてと守護騎士達を合わせた六人の裁判を順繰りに一気に終わらせる形式となっていたのだが、"公開されていない裁判の日付"を聞きつけた被害者がこのタイミングを狙ってくることは、どうやっても止められない。
誰が裁判の情報を漏らしたかはこの際問題ではない。
問題なのは、ヴィータが少し落ち込んでいることだった。
「あたしのやったことの、報いだもんな……」
ヴィータは感情的な人間だ。
そのため、悪い記憶を後までぐずぐず引きずることが時たまある。
表面上は元気で大雑把で悩みなど無い人間のようにも見えるが、シグナムやザフィーラなどと比較すればかなりナイーブな少女なのである。
ちょっと落ち込むヴィータ。
そんな彼女の肩が、背後からポンポンと叩かれる。
ヴィータが振り返るとそこには、管理局の制服を来た課金少年となのはが立っていた。
「よ」
「こんにちは、ヴィータちゃん」
「お前ら……」
「かーっ、あの時は辛かったなーっ、アカウント取られてきつかったなーっ!」
「……悪かったよ。言い訳はしない」
「お前が言い訳しないならオレも気にしない。
全部水に流して忘れるわ。
ガチャの爆死の記憶のように、何もかも無かったことにしよう」
「お前なぁ」
「過去を気にするのはいいが、お前気にしすぎじゃないか?
後ろ振り返って立ち止まるのは楽だぞ、何せ一歩も歩いてないんだからな。
だから前向け。
過去じゃなくて明日を見て前に進め。
大切なのは今日爆死しても、明日また挑もうとする不屈の心だ。
お前の心に罪悪感があるなら、泣かせた人の数だけどこかの誰かを笑顔にしなくちゃならない」
「……!」
「今日からはお前が、沢山の人の悲しみを終わらせる番なんだ」
「―――」
少年は笑って、"悲しみを終わらせる"という役目のバトンをヴィータに渡す。
それは一人が十人にも、百人にも渡せるバトン。
そしてバトンを受け取った人間が増えれば増えるほどに涙が減って、笑顔が増える、そんな魔法のようなバトンだった。
「でも、それだと」
「笑え、ヴィータ」
闇の書にかつて大切なものを奪われた人の気持ちを思い、ヴィータは躊躇う。
そんなヴィータの背中を、少年は押した。
"他の誰かを笑顔にする前に、まずお前が笑顔になれ"とヴィータに伝える。
「数百年以上、他人を苦しめてきた書の物語。
その最後が"全員平等に笑ってないビターエンド"ってのはどうにも気に入らない。
なんか、ガチャ引きまくったのに最後まで良い物が何一つ当たらなかった時みたいじゃないか」
ガチャも世界も人生も、大当たりと大外れが連続するものならば、その最後が大当たりである限り、なんとなくいい終わりに見えるものだ。
笑顔で終わらせる。
それが少年の選んだ、闇の書の悲しみの終わらせ方。
「最後は笑おうぜ。書の歴史の最後は笑顔で飾ろう。
そうすれば、苦しみながら引き続けたガチャの最後に、SSRが当たったみたいな感じになる」
「その例えはどうなんだ?」
ヴィータは深く深く溜め息を吐き、そして、とても優しげに笑った。
「……まあ、言いたいことは伝わったよ」
そんなヴィータの笑顔を見て、なのはが嬉しそうな笑顔を浮かべて駆け寄る。
少女はヴィータの手を取って、その手を上下にぶんぶんと揺らし、ヴィータに彼女なりの精一杯のエールを送った。
「頑張ってヴィータちゃん! 私裁判所の外で応援してるから!」
「やめろ! 恥ずかしーだろうが!」
かくして、課金少年はクロノの補佐の一人として法廷に入り、ヴィータもまた裁かれる側の人間として法廷に入る。
その結果は、ヴィータが予想していたものよりもちょっとだけいいものだった、とだけ。
闇の書事件から、六年が経った頃。
課金の力が世界を何度も救った六年が終わり、課金少年は15歳になっていた。
彼は今喫茶店におり、彼の目の前では12歳の少女が頬杖ついて少年の目をじっと見ている。
少女の名はティアナ・ランスター。
自堕落な人間に対しては割と厳しい少女である。
「ティアナちゃん、流石に奢ってもらうわけには……」
「は? 最近まで借金で首が回ってなかった奴が何言ってんの」
「ぐッ」
「しかもそれで今の彼女に手綱付けられて、財布握られちゃったんでしょ?
なんかもう収束砲撃クラスの情けなさだけど、それなら奢ってあげるわよ」
「いやあいつは彼女ってわけじゃ……なっちゃんより厳しいことは確かだけど」
「女から女に乗り換えて行く、まるでヒモやってるクズみたい……」
「いやいやいや、
『童貞から非童貞になるとガチャ力が落ちる』
理論が否定されるまでは女性関係持つ気はねえよ、オレ」
「知ってるわよ。あんたに彼女居たことあるなら、あんたにそこまで甲斐性無いわけがないわ」
ティアナの言葉は辛辣だが、どこか心配に似た感情が見える。
厳しい言葉をぶつけ、発奮させて改心させる思惑がありそうなニュアンスの話し方だ。
「てか、オレ君に借金のこととか話したっけ?」
「兄さんが言ってたわよ。
『うちのリーダー"なの破産"待ったなし……!』
って。意味は分からなかったけど、内容はなんとなく理解できたから」
「ティーダちょっと妹の前ではガード緩すぎじゃないですかね」
「だからまあ、あんたの借金状況とか知ってたわけ」
彼女には12歳らしからぬ理性と、12歳相応の子供らしさがチラチラと見える。
「私、管理局に入ることにしたから」
「え?」
「兄さんを目標に、あんたを反面教師に。
模範的な管理局員になって出世して、あんたを部下にしてあげる!
こきつかって真人間に鍛えてあげるわ! だから出世したらあたしの部下に―――」
「悪い、オレ来年には管理局抜けるんだ」
「は?」
と、ここに来てティアナの言葉に本気の殺意が混じる。
今一瞬、ティアナはガチの殺気を言葉に込めていた。
「どういうことよ!?」
「いや金の問題がちょっと片付いたら、今度は休暇の問題が出て来たというか……
したいことのために休みが必要になってきたというか……転職しようかなあと」
「何!? 兄さんといつもやってる悪巧み!? あたしも混ぜなさいよ!」
「おいコラ、声でけえよ」
少年はティアナを落ち着かせ、座らせる。
ティアナは魔力強化した体で少年の襟首を掴んでおり、少年は抵抗甲斐なく引き倒されていた。
将来有望すぎる少女である。
「分かった、分かった、ティーダと相談して、ティーダが許可出したらな」
「……分かった。約束よ」
「今夜、晩飯前にはそっち行くから」
「晩ご飯も食べて行きなさいよ、万年金欠」
「晩ご飯はうちで食べるんだよ。でも、サンキュ」
少年はティアナとの会話を終え、喫茶店を出る。
首を右に回しながら、少年は辺りを見渡す。
首を左に回しながら、少年は辺りを見渡す。
ミッドの町並みを見て、少年は少し忌まわしそうに目を細めた。
「最近『ミッドはもう終わりだ』とか言ってる人をちょちょく見るわけだ、まったく……」
ミッドチルダには、少年が十数年の準備期間を設けてどうにかしなければと覚悟するほどの、それの賛同者が現れるほどの、未曾有の危機が迫っていた。
だが、その一ヶ月後。
少年が危惧していた未曾有の危機とは別の危機が、ミッドチルダに襲来していた。
「主っ!」
「わーっとるよ、リインフォース。こらアカン。ちょっと形容の言葉が見つからんわ」
管理局で闇の書の罪を償うべく働いていたはやてとリインフォースが、空を見上げる。
「肉眼で見上げても全体像の把握が困難。
魔法を使って見ないとなんも把握できへん、こんなことがあるんやな……」
宇宙に。
ミッドの地上から空を見上げて、その姿が一部見えるくらいの距離に。
とてつもなく巨大な人型ロボットが、現れていた。
「全長、20万km以上……!
ミッドチルダという星を、片手で握り潰せるレベルのサイズです!」
「ちゃうでリインフォース。
片手で握り潰せるとちゃう、握り潰しに来とんのや」
「それはそうですがッ!」
しかもそのロボ、とてつもなくデカい上に明らかにミッドチルダを潰しに来ている。
ここまでデカいとアルカンシェルでも何発撃てば倒せるのか、まるで見当もつかない。
新歴史上最大級の大事件、『ミッドに巨大ロボが攻めて来たぜ事件』が起ころうとしていた。
「失礼する」
「うん?」
「! 何者だ!? この距離まで、気配を断って接近してくるとは……!」
「いや、私は怪しいものではない」
「その眼帯が怪しいぞッ!」
「ちょいちょいリインフォース、落ち着こ、な?」
そんなタイミングで現れる、銀髪の少女。
少女は眼帯を付けていて、腰からナイフを吊っているものの、両手を上げて害意がないことを表していた。
戦士の匂いを嗅ぎ取ったリインフォースは警戒していたが、はやてははんなりと笑って、銀髪の少女に話しかける。
「で、私達に何か用なん?」
「うちのリーダー……あなた達がKと呼ぶ人物から、言伝がある」
「なっ……!?」
「へー、Kさんが。このタイミングで、通信じゃなく人を使って……
……ふーん……ん、だいたい分かった。私には何かしろって細かい指示は無いんやろ?」
「うむ。……だが、流石だな。リーダーが信頼するのも分かる。
リーダーはあなたを『一番頭が良く判断も的確な友人』と言っていたが、その通りのようだ」
「ややわー、照れてまうなあ。あ、そや。君の名前、教えてくれへんか?」
はやての問いに、銀髪の少女は待ってましたとばかりに髪をかき上げ、名を名乗る。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「特に理由はないんやけどそれ絶対偽名やろ」
課金少年が特に理由なく勘で付けた偽名、銀髪の少女が気に入っていた偽名は、八神はやての直感力の前に一発で見破られていた。
『ラウラ・ボーデヴィッヒ』
八神はやての前に現れた謎の人物。CV:井上麻里奈。
サラリと流した銀髪と、片目を覆う眼帯が特徴的。
眼帯の下の眼は戦闘機人タイプゼロと同様の調整が施されており、機能解放で金眼化とビーム発射を同時に行う。ヴォーダン・オージェ? 知っている子ですね……
明らかに偽名だが、偽名を偽名と言わせない妙な迫力のある人物。
ラウラ・ボーデヴィッヒ……いったい何者なんだ……