吸血姫に飼われています   作:ですてに

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お待たせしました。いったん、これでifは終わります。

いつか続きがあるとすれば、あと一話。
妊娠中か、子供が産まれた後の三人の話になるでしょう。


数年後(後編)

 悪いことをしてるって自覚は、アタシにもあった。本当に久し振りの、大翔とすずかだけの時間。それでも、アタシにとっては、ものすごく重要なことだったし、大翔やすずかには絶対に伝えないといけないことだった。だから、急だと言って割り込んだの。

 

*****

 

 一糸まとわぬ姿でベッドに寝そべりながら、アリサは終始ご機嫌な様子だった。

 

「ふふ、まだ垂れてきてる」

 

 あえて見せつけるようにしてくるアリサは、すずかとはまた色合いの異なる妖艶さを醸し出している。元から快活で太陽のような明るさで、俺達を引っ張る彼女に黄金色のショートヘアはとても似合う。艶っぽいのに、影を感じない。健康的な魅力にあふれている。

 

「本当に、驚いたよ。実現、させちゃったね、アリサちゃん」

 

 俺を真ん中にして、反対側に同じく寝そべるすずかも、同世代と比べて、見事なまでに豊かに実った二つの果実をベッドに押さえつけ、その形を変えていた。

 正直、アリサも平均的な大きさだと思う。随分昔の知識になりつつあるから、原作の彼女がどうだったのかは曖昧で、すずかが大きいということだけは覚えていた。現に、アリサは自分の大きさに劣等感を持つということもなく。むしろ、大きくなり過ぎた感のあるすずかの肩こりを心配する余裕がある。

 

「と言いながら、触る必要は無いぞ。すずか」

 

「でも、大きくなってきてるよ?」

 

「アリサが見せつけるからだ」

 

「ふふ、アタシもすずかも美少女だから仕方ないわよね~」

 

 何が、とは言わないし、あえてハッキリさせることもないだろう。この二人が一回ずつで解放してくれるとも思っていないし、この休憩時間はとてもとても大切にするべきものだ。

 

「その美少女が美女と呼ばれる頃には、二人とも名実ともに俺のパートナーになっているって、夢か妄想を見ているようにしか思えないな……」

 

 自分で頬をつねってみるものの、やはり痛かった。

 

*****

 

 喜びが小さいってすごく不満に思ったけど、結局、大翔はまだ夢のような感覚のようだ。言われてみれば、そうかもしれない。大翔にはずっと伏せてきたことだし。

 

「アタシと一緒になるのが、嫌?」

 

 思わず、出た問いかけは震えていた。冗談めいて言うつもりだったのに、怖さは隠しきれなかった。万が一、大翔に否定されたら。いくら、アタシが走り回って、環境を整えたって、彼自身が望んでくれなかったら。

 ずっと、その恐怖を飲み込んできたけれど、ふとした時に、必ずこうして顔を出す。

 

「……離さないよ」

 

 引き寄せられていた。短い一言だったけど、アタシの涙腺が緩むには十分だった。

 

「決まり事や常識なんて関係ない。すずかもアリサも自分の女なんだと、堂々と開き直れる図太い根性も無ければ……もっといい人に幸せにしてもらえと、手離す勇気も持てなかった。俺自身の狡さのせいで、この関係を何年も続けていた」

 

 髪を梳く大翔の手の温もりが、触れる肌の温もりが、良く頑張ったねとアタシを褒めてくれているみたいで。アタシは流れる涙を拭おうと思わなかった。

 

「この法律は、一人の男性、あるいは女性が複数の異性と婚姻を結ぶことを認める。但し、婚姻対象者のうち、三名のうち一人の者が、四人なら二人以上が、国民生活基礎調査による1世帯辺りの年間平均所得の3倍以上の収入、あるいは30倍相当の資産を所有していることを条件とする」

 

 大翔が次の国会で提出され、ほぼ確実に認められる法案の概要を口にした。近々ニュースにも出る、私が走り回り、結んだ数年間の結果。

 アタシを選んで欲しい。けれど、すずかには絶対に大翔が必要。ならば、いっそ堂々と大翔に二人とも妻にしてもらえるようにしてしまえと、そんな暴走めいた考えから、関係各所へ掛け合い、資金やコネも使えるものは全て使い尽くして現実化させたものだった。

 

「資産や収入で縛りをつけ、想いだけで結ばれるのは認めず、生計が立てられるのが絶対条件。財産分配などを考えるなら、むしろ当然と言える」

 

 関係各法の改正も必要となるため、実際に施行されるのは、早くて私達が大学に入る年。あの衝動の強さを思えば、高校卒業と同時に大翔に一人目を授けてもらう、と宣言していたすずかは、考え方を変えることは無いだろう。だから、アタシの秘事は本当にギリギリの時間だった。

 なお、アタシも大翔もすずかも既に、それぞれの事情で収入は得ている。アタシやすずかは役員報酬としての要素が強いけれど、大翔は技術屋として。

 

「すずかにも言ったことだけど。俺は、ずっとどこかで、自分『なんか』にアリサ達がずっと寄り添うわけがない、いつか離れていくんだって思いがずっと消えなくて。これだけ身体を重ねあって、なお、信じ切れない自分に嫌気がさしていた。……だけど」

 

 大翔は一度、言葉を止めた。アタシの涙をそっと指で拭って、アタシとすずかを交互にじっと見て。アタシを捕えて離さない、すずかも魅了されている、あの深い色合いの瞳が、アタシを見ていた。

 

「ここまでしてもらえて、信じられないわけないだろ。俺の子供を真剣に望んでくれる女に、三人が堂々とお互いに夫だ妻だと言い合える関係を創り上げてくれた女。二人の想いを疑えるわけがないじゃないか……」

 

 届いた。やっと、届いた。アタシは大翔の傍に寄り添うんだと、心から叫んでいいんだ。すずかと目が合う。頷き合う。念話しなくても分かる。アタシ達の想いはやっと大翔の一番深い所に届いて、根を張ろうとしているんだ。

 

「俺、欲張りになっていいのかな。とびっきりの綺麗な女の子二人も捕まえて、二人とも俺の恋人だ、誰にも渡さないんだと、胸を張ってしまっても、いいのかな」

 

「誇りなさいよ、馬鹿」

 

「お互いの両親は既に説得済みだからね? アリサちゃんの計画実現には、デビットおじ様や、お父さんも協力してるんだから」

 

 そう、外堀はとっくに埋まっていて。ただ、大翔がアタシやすずかを信じ切ってくれないと、全て意味は無いから、パパもママも、すずかのおじ様やおば様も、大翔の心が定まるのを待ってくれていた。

 バニングス家と月村家の娘を同時に娶る。それは大翔を一生、私達のしがらみに巻き込むということ。ただ、大翔は自分自身でこうするんだと決めれば、決してへこたれないし、折れない。懸命に努力を続け、必ず道を開いてきた。だから、大翔がアタシとすずかを離さないと、絶対に離したくないと本気で思ってくれれば、三人で歩んでいく未来は開けると、確信出来ている。

 

「……ありがとう。すぐには無理かもしれないけど、二人に相応しい、『流石は月村の、バニングスの婿』だと言われるようになってみせる。足りない点は何でもいくらでも、容赦なく指摘してくれ」

 

 そして、大翔はさらっと婿入り宣言をしてみせた。すずかも、私も、お願いしなければならないことを先んじて言われたものだから、とっさに声が出ない。大翔のことだ、お互いの家が娘しかいない時点で、迷わずそうすると決めたのだろう。忍さんは既に跡取りを放棄して、愛と家族と研究一筋に生きるのだと公にしてしまっている。

 アタシは大翔の腕を思い切り抱き締める。全く同じ行動をすずかも取っていた。嗚呼、アタシ達はこういう大翔の発言が、行動が、愛おしくて仕方が無い。どうして、こう躊躇いが無いのよ。三人で歩むと決めた途端、これだもの。それなのに、二人に思い切り抱き着かれて、ものすごく動揺しているんだから。

 ええ、絶対に幸せにしてやるわよ。アリサの夫で良かったと、大翔が心の底から思えるように。極上の二人の女が、あんたを本気で想っているんだから、あんたが幸せになるのは、必然なのよ?

 

*****

 

 俺に強く抱き付いてきている、アリサのリンカーコアから漏れ出る魔力が、熱を帯びている。熱情が、魔力と交じり合って、体中を駆け巡っているのが分かる。

 怒らせるようなことは言っていない確信はある。が、アリサがここまで昂っているのは、俺が彼女達を信じ切る心を持つと、公言したことと無関係ではないだろう。

 

 アリサは、いつだって俺達を鼓舞し、立ち塞がる様々な困難に真っ先に飛び込み、道を切り開いてきた。それを俺が押し広げ、すずかが確固たる形に仕上げていく。俺とすずかの役割が逆になることもあったが、いつも先頭に立ち、俺達の手を引っ張るのはアリサだった。

 

「二年ね」

 

「……二年?」

 

「すずかが一人目の赤ちゃんを産むのが、大学一年の時ってことでしょ? 可能なら、アタシも合わせるか、一年ずらしの年子にするか、その辺りはおいおい考えるけど」

 

「ふぇっ!?」

 

「情けない声出さないでよ、すずか。父親や母親になるって、そう簡単なことじゃないでしょ? 産まれてしまえば、いくらファリン達が助けてくれるといえど、子供に時間を取られて、固まった時間なんて取りにくくなる。だったら、それまでに大翔にはバニングス家や月村家の『当主』として必要なことをある程度叩き込んでしまわないといけない。実質、二年よね。かなりタイトなスケジュールになるわよ」

 

「ア、アリサ?」

 

「アリサちゃん?」

 

 面食らう俺とすずか。当主ってなんなんだ。すずかも動揺しているから、これはアリサ個人の考えとは思うけど。

 

「もちろん、パパやおじ様が健在だから、今すぐってわけじゃないわよ。ただ、アタシ達が子供を産み、育てるってことは表に立てない期間が必ずあるってこと。その時に、大翔がアタシやすずかの役回りを出来ないと、いろいろ面倒になるわよ?」

 

「ひろくんを、全面的に矢面に立たせるのは、嫌だよ。そうでなくても、私達の事情にたくさんたくさん、巻き込んでいるのに」

 

「嫌も何もないわよ、すずか。じゃあ、他の誰かに任せられるの? アタシはアタシ個人の役割を大翔やすずか以外に任せたいとは思わない。経営の代行とか、そういうのは優秀な人に任せればいいけど、アタシが務める、バニングスの『顔』の代わりを出来るのは、パパかママか、夫になる人しかできないと思ってる」

 

「それなら、まして、ひろくんには!」

 

「出来る。大翔は数年前から私とすずかが出席する催し事には必ず顔を出しているし、常に私達の近くに配置されている。皆、勘ぐっているわよ。あのお嬢様方の常に近くに侍る若い男は誰だって。それに、パパやおじ様も大翔について問われても、肯定的な物言いはしないけれど、否定的なことも一つも言わない。敏い取引先は大翔に対して、もう態度を変えているはずよ」

 

 確かに、一、二年前からか。パーティー等の場で、目の敵のように感じる視線の数が若干減り、媚びへつらうような人が増えたとは思っていた。基本、俺は何も分かりません、ただの護衛なので、というスタンスを貫き通していたので、別にどちらでも良かっただけのこと。

 

「覚悟をしておけってことだな」

 

「そうね」

 

「ひろくん!」

 

「その辺りの意見の相違は二人で話し合ってくれ。高度な経営や政治的判断となると、俺は判断を誤るから、二人の指示に従うよ」

 

 まぁ、どちらにせよ、猛勉強は必要ということだろう。やると決めればやるだけのことだと、心づもりだけはしておこうと思った。

 

「やりたくない、って言ってくれれば解決なのに……」

 

「それはアタシが困るわね。とはいえ、アンタが嫌となれば、子育てを任せるやり方もあるから、その辺りはすずかと話をしてから、改めて大翔に展開するわ」

 

 平和裏にどうか話し合ってくれ、と俺は願う。と同時に、親父さんやデビットさんに、俺からしっかり話をした上で、教えを請わなければならないな、と考えていた。

 ……ゆっくりと眠気が襲ってくる中、俺の身体越しに早速話し合いを始めていた二人が、そっと呟くのが、聞こえた気がする。

 

「ずっと、一緒だからね。おやすみなさい」

 

「必ず幸せにしてあげる。だから、今はGood Night……」




本編の最後がこうなるかは分かりません。
というかそこまで書くかも分からない。

すずかとアリサ、並び立たせるにはなかなか贅沢過ぎるヒロインなのです。

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