吸血姫に飼われています   作:ですてに

43 / 49
副産物が生まれました

 一同にだけ確実に伝わるように、念話に相当する技術で訴えかけたウーノ。皆に問題なく伝わり、まずは大翔が口を開く。

 

『俺は構いませんけど、ウーノさんのメリットが感じられないのですが』

 

『……貴方や、貴方の可愛いパートナーさん達の信用が得られるなら、私には充分過ぎるメリットがありますよ。また、研究者の娘として、貴方の稀少技能「融合」の可能性をもっと知りたいというのもあります。魔力そのものや、変換気質。魔法の使用方法等、魔力に関連するものだけが複写できるのか。あるいはもっと大きな可能性を秘めたものなのか……!』

 

 頭に直接伝わる声は、彼女がやや興奮気味であることも伝えてきていた。クアットロは長姉が珍しく知的欲求を前面に押し出していると驚きを覚え、フェイトやアリシアはこんなはしゃいだ感情を出す人だったんだと、天然おっとり系の彼女への印象を修正していく。

 ひとまず、人避けや内緒話にもなる内容のため、テラスだけを包むように封時結界を張る大翔達。その間にアリサが手早く、内緒話のために結界を張ることを翠屋の経営者たる士郎達に伝えて、飲み物を手にして戻ってきていた。

 

「……この結界、日除け効果も兼ねてますね?」

 

「夏も近づいて日差しも強くなってきてますし、鍛錬中に汗もかきますから、野外での日焼け対策でちょっと術式に組み込んでみました。結界の内側に薄い保護膜を張るような感じで」

 

「アタシやすずかの要望なの。夏のレジャー対策にもなるじゃない?」

 

「……何でもありって感じですねぇ」

 

「便利な魔法、って感じでいいと思うけどな。ひーちゃんのこの改造はナイスだと思う」

 

 今さら感が漂う一同である。ただ、女性陣からすれば、非常に好評なものであった。

 

「でも、お姉ちゃん。術式は見せてもらったけど、結構制御がややこしくて、大翔以外にさっと使いこなせるの、母さんやユーノぐらいだよ?」

 

『三人いれば十分だと思うよ、フェイト。それに、魔法の本当の使い方って感じがする』

 

「そうだね、アリシア。生活を便利にするって、魔法『らしく』ていいよね」

 

「私やアリサちゃんも習得の練習をしていますし、冬場は逆に寒さを防ぐのにも使えるように出来そうだって、空いてる時間でひろくんと研究は続けています」

 

 術式の解析なら私も役に立てるから、是非手伝わせてほしいとウーノが申し出た後、再び、話題は本題へと戻っていく。

 

「ええと、私の固有技能については、伊集院さんからお聞きになられてますか?」

 

「概要は聞いてます。ただ、直接戦闘に関わる技能じゃないから、詳しくは……」

 

「では、ざっと説明させて頂きますね。私の固有技能は、「不可蝕の秘書」フローレス・セクレタリー。特に気配を消さなくても、レーダーやセンサーの類に引っ掛からない高性能なステルス能力と、高度な知能加速・情報処理能力向上をもたらします」

 

「ん? 普段からウーノさんがレーダーとかに引っかからないってことは、機械だけじゃなくて、検知や検索みたいな魔法にも引っかかりにくいってことかな?」

 

「そうですね。目視は出来ますし、存在自体が希薄になるわけでもないですが、魔力や熱等による感知は非常に難しくなります。視線を外せれば、その場にいないのと一緒ですね。あ、もちろん技能のオンオフは出来ますので」

 

 アリシアが漏らした疑問に、すずかの顔色がやや悪くなりかけるも、ウーノの即答によって、すぐに元に戻っていた。常時発動技能となれば、大翔を認識できにくくなるため、死活問題のレベルで考えていたのだろう。

 

「ステルス機能は、対人であれば不意をつきやすくなる、というところで終わりますがぁ。知能加速・情報処理能力向上の方が、大翔さんにはいい話だと思いますよぉ」

 

「……マルチタスクと組み合わせたり、とか?」

 

「ですですぅ、アリサさん。技能と技能の掛け合わせによる改良、なんて大翔さんが好みそうな案件じゃないですかぁ」

 

「間違いなくのめり込むやつだわ、クアットロの言う通りよ」

 

「補助的な技能って軽視されがちですけどぉ、オールラウンダーの大翔さんにマルチタスクとウーノ姉様の固有技能が合わさればぁ……! 傷ついたアリサさんを腕に抱えながら治癒魔法を使いつつ、空いたもう一方で怒りのスターライトブレイカーをぶっぱ! なんてことも現実に~」

 

「……はっ! ちょ、ちょっとカッコいいかもとか思っちゃったじゃない。ねぇ、すずか……すずか?」

 

「……」

 

「完全に浸っちゃってるね、すずかちゃん」

 

『紗月さんや、騎士に守られるお姫様シチュゆえ致し方なしですわ』

 

「そうですなぁ、アリシアさんや」

 

「自由過ぎるよ、お姉ちゃん……」

 

 本人そっちのけで妄想がやり取りされる有様を横目に、大翔は差し出されたウーノの手に自分のそれを重ねていく。

 

「……さくっとお願いします」

 

「では、いきますね」

 

 かくして、ウーノからエネルギーの奔流が大翔へと流れ、二人はテストの成否を直接身体で知るのだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 「くっ、くはははははっ! これでテスタロッサ女史の一強状態も終わりが見えましたよぉ! 私のシルバーカーテンも合わさり最強に見えますぅ!」

 

 「不可蝕の秘書」フローレス・セクレタリー。「幻惑の銀幕」シルバーカーテン。

 通常行動状態でもレーダーやセンサーの類に引っ掛かることの無い高性能なステルス能力に加え、幻影を操り、生命体や機械を問わず、対象の知覚を騙すことが出来る力。絶対的なものではなく、時間をかければ解析されるものとはいえ、術者本人を検知するのは非常に困難なもの。

 

 結論から言えば、複写は成功した。多重思考と不可蝕の秘書を組み合わせることで、脳内での情報処理能力は著しく加速したのが、大翔には実感できている。ただ、技能を目一杯使うと、急激な頭痛に襲われた為、自力の基礎処理能力も慢心することなく、鍛えていく必要があることもすぐに悟ることになった。

 また、嬉しいことに『融合』の制御方法についても、完全では無いにせよ理解が進んだ。具体的に可能になったこととして、全ての魔力特性を受け取り、相手の魔力総量を増幅させ、特性全てを渡す技能だったものが、取捨選択が出来るようになったのだ。

 

「はい、すずか、アリサ。試しに『フローレス・セクレタリー』だけを複写したよ」

 

「不思議ね……確かに、普段の魔力が流れ込む感じと違ったもの。あ、でも、このウーノの技能、もっと地頭を鍛えないと、今のアタシじゃ3割ぐらいしか使えないかも。すぐ頭が痛くなりそう」

 

「私も似たようなものかな。基礎をしっかりと鍛え続けないとダメだってことだね」

 

「……俺も全開でというわけにはいかないな。技能自体に慣れるとまた違ってくるだろうけど」

 

 雄叫びを上げるクアットロを無理やり自分の膝枕に押し込み、強引に落ち着かせつつ、ウーノは三人の様子に驚きの声を上げた。

 

「大翔さんだけでなく、本当にお二人とも受け入れることに躊躇いがないのですね」

 

「んー、大翔からだからっていうのはあるわよ?」

 

「うん。ひろくんだからこそ。ね、ひろくん。技能だけもらうのって、なんだか落ち着かないから、魔力も流してくれないかな?」

 

「ああ、寝る前みたいな感じでいいのか?」

 

 すずかの願いに、属性等の気質抜きとなった大翔本来の魔力が、ゆったりと手が繫がれたままのアリサやすずか、間から手を重ねてきたアリシアへと流れていく。

 

「ふぁ……うん、この感覚じゃないと、どこか変な感じがして……ん……」

 

「すずかぁ、ちょっと変な声出てるわよ……心地良いのは分かるけど……」

 

「全身をゆったりと解されている感じなんだよねぇ……けど、ほんとに雷とか炎の力を感じないから、切替できてるんだ……ねぇねぇ、ひーちゃん。変換気質とか稀少技能が付与されないなら、フェイトも交じって大丈夫かなぁ。コアの容量が多少増えても、フェイトの場合、問題ないよね?」

 

 程良く蕩けて、甘えた声を出す紗月に供給を続けつつ、大翔はマルチタスクを使うまでもなく、すぐに結論を出す。

 

「ウーノさんのお陰で『融合』技能をオフした状態で、魔力付与や治癒魔法が唱えられるようになったから。容量だけ増やすことも出来るし、単純な魔力付与にすることも出来るね。もっと出来る事は増えるかもしれないけど、スイッチの切替が出来るようになったのはデカいよ」

 

「おぉ~。じゃあ、フェイトだけじゃなくて、ウーノさんもクアットロさんも入ってみるぅ? あったかいんだよぉ、ひーちゃんの魔力って」

 

「そ、そんな、いいよ、お姉ちゃん」

 

「遠慮しない、ほれほれぇ~」

 

「ひゃ、ん、お姉ちゃ、強引……なんだからぁ……あ、とっても、ぽかぽか、するね……」

 

 言葉では非難を上げつつも、声は弱弱しい。また、いくつもの属性を内包する大翔の魔力は、姉の言う通り、暖かさを感じられるもので、フェイトは自然と身体の力が抜けるのを感じていた。

 

「ダメですねぇ~これは~籠絡されそうですよぉ……」

 

「魔力は、個人の特性が強く出ますが……あったかい、ですね、大翔さんは……」

 

『堕ちたねぇ。既に完堕ちな私が言うのもなんだけどぉ……』

 

「アリシアさんぅ、まだですよぉ……まだ95%ぐらいしか囚われてないですからぁ」

 

「それって堕ちきってるのと一緒よねぇ、アタシはとっくにハマってるけど……あー、力抜けるわー」

 

 融合技能の一定制御が可能となったことで、すずか、アリサ、アリシア以外の人物が、大翔から初めて魔力付与を受けたわけだが、一種のヒーリング効果でもあるのか、彼の膝はすずかとアリサが半分ずつ確保し、背中に寄り掛かるアリシアの膝にフェイトが収まる形で、皆しばらくその恩恵に浸る時間を過ごした。

 魔力を循環させながら、肩揉みを試行してもらったウーノは疲れも取れ、肌の調子も上向いたと自覚できたのか、大翔への技能譲渡は大正解だったと上機嫌である。

 

「たまに、また肩を解してもらってもいいですか?」

 

「それぐらい、いつでも。技能をもらったお礼には足りないと思いますが」

 

「いえいえ、大翔さんは腕のいい整体師として食べていけます。ねぇ、クアットロ?」

 

「大翔さんの魔力は危険ですよぉ……あぁ、まだ力抜けてま、すぅ……」

 

 鮫島の運転する車の中、可愛い寝息が4つ。大翔とウーノの会話中に、クアットロも夢の中へ。

 

「……すずかやアリサの就寝時に魔力の流れを整えるつもりで、普段からよく付与はしてたんですけど、フェイトやクアットロさんまでぐっすりだなんて」

 

「魔力や私達の稼働エネルギーの流れって、血液の流れと似てるんだそうです。だから、澱みを流して整える効果があるのかもしれませんね」

 

 すずかやアリサ、アリシアに効果がより抜群なのは、もちろん別の理由もあるからだろうが、あえて口にするまでもないかとウーノは考えていた。彼女達の手は、彼の手や腕をつかんで離そうとしていないのだから。




ナンバーズ(一部)の籠絡化が進んだようです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。