吸血姫に飼われています   作:ですてに

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人的に出来たくぼみの有効活用。


温泉じゃないんだけども

 「シリアスはぶち壊すものって誰かが言ってたのよね~」

 

 石造りの広い浴槽に身を浸しながら、アリサはそうのたまう。その隣には、夜の冷気に触れて目が冴えたなのはが、同じく湯の中で暖まっていた。もう片側には、アリシア、フェイトの順で同じく湯船に身体を沈めている。

 

 月村家の庭の一角に造られた、いわゆる露天風呂。大翔が月村家にクレーターを作成した後、埋める作業をする中で、忍がふと思いついたのが切っ掛けだった。さすがに温泉が掘り起こせたわけではないので、効能が特にあるわけではないが、夜空を見ながら温まれるというのは解放感も相まって、すずか達には評判が良かった。

 実際、毎年春や秋に、バニングス・月村・高町家で、近場の海鳴温泉に泊まりがけで出かけるぐらい、温泉には慣れ親しんでいる一同である。両親の了解も問題なく得られ、週末など時間が取れる時や、毎夕の訓練の後などに利用されている代物である。

 

 そこにアリサ達だけではなく、なぜかテスタロッサ姉妹も一緒に露天浴を共にしている。お互いに名乗りはしたものの、馴れ合うつもりは無いフェイトだが、姉の強引さに押し切られた形である。なお、アルフは大翔達一同の敵意が無いのを感じ取ったことと、お腹が一杯になったこともあり、露天近くの芝生の上で、ごろ寝と洒落込んでいた。

 

『あんな豪勢な骨付き肉を惜しげもなく与えてくれる奴らが悪い奴らなわけはないよ! アリシアにも考えがあるみたいだし、警戒だけは解かないようにすれば大丈夫さ、フェイト』

 

 そんな事を言いながら、だらけモードに入ってしまったアルフに対して、憤りを感じてしまったフェイトはもちろん悪くないのだが、いかんせん他の二人が平時の雰囲気になってしまっているため、フェイトだけが空回りしているようにも映ってしまう。

 

「だって、考えてもみなさい。あの大翔をあだ名で呼ぶ相手よ? 普段のアイツを知っていれば、親しい関係であるぐらい簡単には想像がつくわよ。さらに、アイツの性格上、下手すりゃ、私達そっちのけでアンタと二人だけの世界を展開しかねないじゃない。良くも悪くも目の前のことに集中するでしょ、アイツは」

 

「だから、皆いる所でアリシアちゃんに好きにするように言ったんだね。ダメって言い切った時はどうしてって思っちゃったよ」

 

「アンタは殆ど寝てたでしょうが、なのは。その情報がそっちのツインテール妹から聞いたってネタはあがってるのよ」

 

「ア、アリサちゃん! フェイトちゃんだよっ、ツインテールなんて名前じゃないよっ」

 

「もちろん、分かって言ってるに決まってるじゃない」

 

「わ、悪い顔してるよ、アリサちゃん……」

 

 姉を守ろうと精一杯気を張っているのが分かるが、内心ビクビクしているのが透けているのだ、とアリサは言うのだが、なのはにはさっぱり分からない。短い時間ながらも、悲しげな瞳の中に強く凛々しい意思を持つ姉思いの女の子だという印象を持っている。

 少し小柄な事を除けば、瓜二つの双子に見える姉・アリシアは振る舞い自体ががさつという訳でも無いのだが、どことなく豪快というか、大雑把というか、湯船で鼻歌を歌う余裕があるぐらいに、動じない人なんだなぁと感じている。先程の対面時からすずかが目で人を倒せるんじゃないかという鋭い目線を向けていたのにも、どこ吹く風といったように軽く流してしまっているのだ。

 

「えへへ、ありがとね。短い時間だったけど、ひーちゃんがひーちゃんって分かっただけで、私ここに来てすごく良かった。無茶した甲斐があるってもんだよね」

 

「思いっきり抱き着いていたものね……公衆の面前という恥じらいは無いのかしら」

 

「だからキスとかはしなかったんだよ。あれはスキンシップよ、スキンシップ」

 

 アリサの軽い挑発を気に留めず、アリシアは大の字になって湯船に浮かび始め、月や星々が綺麗だとフェイトにはしゃぎながら話しかけている。なんともリラックスした様子である。

 

「まー、いいわ。で、どうせ、すずかは大翔から話を聞くでしょうから。アリシア、あたし達に協力してくれって言うなら、アイツとの関係を詳しく教えてもらうわよ」

 

 アリサの言うように、ここに大翔達男性陣だけでなく、すずかの姿も無い。この露天風呂はサイズが大きく、仕切りで男性と女性用のスペースを分けているのだが、すずかと大翔は男性用を貸切状態で使用しているのだ。それだけ大翔墜落時の衝撃が大きかったということだが、それは当件とは別の話。

 アリサとなのはがアリシアから話を聞き出そうとする中で、声を抑えれば仕切り向こうのアリサ達に話が聞き取られないような位置で、すずかと大翔はアリシアについての話を交わしているはずだった。なお、ユーノと皇貴は邸宅内に待機を命じられている。大翔だけ贔屓だと言い出す勇気は彼らには無かった。誰だって命は惜しいのだから。

 

「んー。信じてもらえるとは思えないんだけどね、自分でも脳内にお花畑でも咲いてるんじゃないかと言いたくなるし……」

 

「わ、私はお姉ちゃんを信じてるからっ」

 

「ありがとう、フェイト。貴女も私の自慢の妹だよ」

 

 可愛い妹の援護ににぱーっと笑いながら、少し強引にアリシアはフェイトの頭を撫で付ける。母・プレシアの仕打ちから、自罰的傾向が強くなってしまっている彼女に、姉は常に行動・言動を肯定するように心がけているのだ。

 

「麗しい姉妹愛もいいけど、勿体ぶるのも限界があるわよ」

 

「そう言うアリサちゃんも、焦らないの。私はちゃんと話すよ。とはいえ、何から話せばいいのか悩むのよ」

 

「じゃ、じゃあ、なんでジュエルシードが必要なんですか?」

 

 アリシアの発言に、はいっ、と元気良く挙手をするなのは。

 

「お、質問形式っていいかも。うん、なのはちゃん、狙いはね。私とママの身体の具合が悪いのを根本的に治療することなんだ」

 

 問いに答えるやり方がしっくり来たのか、先程まで唸り声を上げていた顔つきが瞬く間に変わり、人差し指を真っ直ぐに立て、少し前のめりになりながら、アリシアは質問に答えていく。

 

「私は調子が悪くなると、五感がおかしくなっちゃって、まともに立ってられなくなるぐらいになっちゃう。ママも原因は違うけど、ろくに動けなくなるのは同じ。ただ、一日二日でどうにかなってしまうものでもないから、動けるうちに何とかしようというわけ」 

 

「それは、そっちの世界や私達の世界の医療技術や魔法ではどうにもならないってこと?」

 

「確認済だよ、アリサちゃん。こちらの世界の医療技術がどこまで進んでいるのか分からないけど、魔法ではどうにもならないレベルなのは確か。私達の知ってる人が研究者としても優秀な人なんだけど、その人が治癒魔法では治る次元じゃないって断言しているしね」

 

 フェイトはすぐに研究者というのが、母・プレシアのことを言っているのに気付いた。嘘を告げるつもりは無いが、姉はあの『大翔』という男の子以外に包み隠さず話すつもりはないらしい。結局は、その少年から目の前の彼女達にも伝わることかもしれないけれど。

 そんな姉にとっての『特別』な扱いに、自分以外に彼が含まれていることが、どうにも腹が立つ。母すら知らない、姉が現世に舞い戻れた理由。聞かされて知っているフェイトは、彼が知る権利があるのだろう、と頭では理解できても、姉の特別に自分以外の他人が含まれているのが納得いかなかった。

 

(……あの人には、何人も支えてくれる人がいるのに。お姉ちゃんを取られたら、私はまた、アルフと二人ぼっちになってしまう)

 

 プレシアから虐待とも思える日々を過ごす中で、擦り切れた心が壊れかけた頃に姉は復活し、自分の傷を癒し、自分の世界に色を与え、温もりを教えてくれた。リニスという自分にとっての師匠兼姉代わりだった母の使い魔がいなくなってから、フェイトにはアルフしかいなかった。

 

『いつでもこうやって思い切り抱き締めてあげるからね。その代わり、フェイトもお姉ちゃんをギューっとしてくれないと嫌だよ?』

 

 茶化しながらも、姉は望めば、癒しと安らぎを惜しみなく与えてくれる。また、あの恐ろしい母に対しても、真っ向から啖呵を切ってみせる度胸。自分に折檻をしようとした時の、割って入ってきた姉の剣幕だったり、標的になった母が明らかに怯んでいたり、この数日で見たこともない肉親の一面を次々に目にしていた。

 

『こんな携帯食品ばっかり食べてたら、ママの病気は悪化する一方だし、フェイトも魔導師の力をちゃんと発揮できるわけがないでしょうがぁああああっ! フェイトっ、アルフっ、買い出しに行くわよ! ママ、さっさと財布出してっ!』

 

 一喝と共に、姉が手料理を振る舞う日もあった。私よりも上手かもしれない、とプレシアが愕然とした顔は印象的だったなと、フェイトは思う。

 そんなフェイトとプレシアの関係も、ぎこちないながらも、アリシアの行動により、日々、いい方向に向かっている。少なくとも、彼女はそう思っているし、お互いにお早うお休みの挨拶を欠かさないようになったのは大きな変化だと感じている。

 ……今さら挨拶などと口にしたプレシアは、泣き落としやお説教、あげくは自分だけを無視する等々、自分が母にどう思われているか的確に理解しているアリシアに翻弄され、涙で枕を濡らしていた。まさか、母に仲直りの仲裁を頼まれるなど、一か月前までは予想すらできなかった。

 

『フェイト、どの辺りまで話していいと思う? ひーちゃんには念話で大よその状況は伝え終わったんだけど』

 

『私はそもそも、この人達を信用できないよ。お姉ちゃんには悪いけど、あの大翔って人も。母さんやお姉ちゃんを治せる、あるいは母さんを説得できる力量があるとは思えない』

 

 姉から念話にそう答えるフェイト。家族の『核』であるアリシアが無条件に信頼する、大翔という存在。いや、正しくは姉の中の『紗月』が信頼する、彼。自分が納得する力を持っているはずがないとフェイトは半ば確信している。母・プレシアを超える大魔導師が早々いるわけもなく、また、卓越した医療技術を持っているわけもない。

 

『んー。確かに俺だけだと無理だろうな。君の言う通りだよ。ただ、やり方はあるよ』

 

『ひろくんだけじゃない。私達が協力することで取れる方法が出てくるから』

 

『!?』

 

 急に指向性の念話が、その当人から届いた。正しくは、姉がお湯の中で自分と手を繋ぎ、姉経由で念話が流れてきたのだ。

 

『さっきは混乱していて済まなかった。すぐ対応できなくて、紗月にも迷惑かけたな』 

 

『仕方ないと思うよ。ずっと思い続けていた人が突然現れたんだもん。あ、ごめんなさい。すずかです。私もひろくんに触れていたので、紗……えっと、アリシアさんから一緒に話を聞きました』

 

 すずかの声も続けて聞こえた理由は簡単なものだった。アリシアとフェイト、大翔とすずかが同じように手を繋いでいたのだ。

 

『あ、私が許可してるからね? あー、それにしても念話しながら、会話するってすごくややこしいっ!』

 

『慣れがいると思いますよ。私も練習してますけど、あんまりうまく出来ません』

 

『そうだね、これすごく頭が疲れる……フェイトー、顔にあんまり出さないの、ってあぁ、もう気づかれちゃったか』

 

 ふとフェイトが目の前に意識を戻せば、腕を組んだ怒り顔のアリサが仁王立ちしていた。即座に姉を庇うように身体を割り込ませて事なきを得るが、姉が何とかばれない様に頑張っていたのを、迂闊な自分の態度で感づかれてしまったのだ。

 

「しどろもどろの返事をしてると思ったら、大翔との内緒話は終わった?」

 

「や、やめてっ!」

 

 すぐにでも攻撃を仕掛けかねないアリサの様子に、デバイス無しとはいえ、最低限の電撃は使えるフェイトは、痺れさせるしかないかと判断しようとする。ただ、ほぼ同じタイミングで大翔も仕切り越しの騒ぎから、念話を割り込ませてきた。もちろん、今度はアリサ達を含めた全員に向けて、声を飛ばしている。

 

『アリサ、ストップだ。というか、すずかも離れてくれ。そろそろのぼせてしまう』

 

『だぁめ。ふふ、目線を必死にそらしているひろくん、可愛い……触れても、いいんだよ?』

 

『す、すずっ!?』

 

「ダーッ! すずかっ! 抜け駆け厳禁よっ!」 

 

 あえて全体念話で、艶のある声を乗せるすずか。対するアリサの反応は迅速であり、待機状態だったフレイムアイズを普段のサイズに戻したかと思えば、鮮やかな一刀両断で仕切りを断ち切り、二人の元へと乱入していってしまう。

 

「すずかっ! やめなさいっての!」

 

「無粋だよ、アリサちゃん……」

 

「た、助かったよ、アリサ……」

 

 アリサにジト目を向けるすずかに、拝むように手を合わせながら、ホッとした表情を見せる大翔。但し、彼の片腕は完全にロックされたままである。逃げられない。

 デバイス無しで素早い剣捌きを見せたアリサに、なかなか油断できないと思いつつも、フェイトは興味本位で混じろうとするアリシアを止めることに集中するのであった。




艦これ、ド嵌り中です。
神通ちゃんと榛名さん、可愛い。
高雄、愛宕姉妹は夜の恋人。

……うん、更新遅れてごめんなさい。

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