吸血姫に飼われています   作:ですてに

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二次創作ですずかさんに惚れました。原作知識が多分に足りず、改変も多いと思いますが、これも作風と思って頂けると幸いです。


無印以前
現状


 「ん……おいし……」

 

 首筋に舌がざらつく感覚に、少しずつ、彼の視界も身体の自由も戻ってくる。

 時間にして1分程度であっても、連続絶頂に著しく似た、快楽の暴力に襲われた後の身体はどうしようもなく気怠く痺れるような余韻が残り、艶やかな紫色の長い髪を撫でる彼の手の動きすらぎこちないものだ。

 

「ん……大翔くん、ご馳走様」

 

 齢八歳にして、この妖艶な笑み。月村すずかは夜の一族たる力を急激に覚醒させつつあった。そして──。

 

「こちらもすぐに楽にしてあげるからね……?」

 

 彼の弱い制止の声はあえて聞こえない振りをして、どこか慣れた手つきで、血を吸い上げたばかりの彼のズボンや下着をずり下ろし、口や手の卓越した技術で彼の嬌声を堪能し、愛おしく思いながら、昂りを鎮める作業に没頭するのだった。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 彼、空知大翔(そらちひろと)は、転生者であった。前世は妻と子を守るためにトラックに撥ねられたのが最後の記憶である。

 転生させられる前に、天界の事務官を称する男にいくつかの特典と引き換えに、強制指定で転生先の世界を決められ、この現実と魔法が入り混じる世界にいきなり落とされた。

 なお、落とされた際に小さなクレーターが作られ、かの有名なヤムチャ形態で流血しながら気絶するぐらいには酷い怪我を負い、そんな彼を敷地内で見つけたのが彼女──月村すずかであり、彼女の吸血活動の始まりでもあった。

 

『最初は舐めるだけのつもりだったよ? だけど、舐めてしまったら、もう止まらなくなって──』

 

 後に最初の出会いを恍惚とした表情で語るすずかであったが、人道的観点と、大変彼の血を気に入ってしまったという吸血姫の性も入り混じり、彼を問答無用で保護したのである。

 彼女の姉、忍はもちろん良い顔をしなかったが、普段はとても大人しい彼女が腕の一、二本を差し出してでも、無理やりに承認させる強い意志……忍に言わせると『瘴気』を撒き散らした為、やむを得ず認めた経緯がある。

 

「……一緒に寝てもいいかな?」

 

 ちなみに彼、それなりに整った顔つきではあるが、美少年といえるほどでは決してない。この世界では資産家の次女で純然たるお嬢様、かつ、思慮深さが外見に滲み出る、癒し系の美少女であるすずか。二人が並ぶとどう見ても釣り合わない。それなのに、すずかが犬のように彼の後ろをちょこちょこ嬉しそうについて回る様子は、彼らが通う聖祥大付属小学校の不思議の一つになっているとかいないとか。

 彼以外には吸血姫の本性を見せることなく、前述の性格通りの彼女であるが、彼女に保護されてから約半年……夜の食事が日常と化してからは、彼の前では最早別人格ではないかと思える程、積極的かつ情熱的な行動を取るようになっている。

 

「水分補給を強引に口移しでやる人が添い寝の許可を求めるのは矛盾していると思うぞ」

 

 命の恩人で、さらに彼女の背景を知識として知っていた彼は、彼女を最初から否定せずに受け入れ、逆に自分の抱えている事情も打ち明けていた。

 知識として、ここが『リリカルなのは』の世界と知っていたこと。とはいえ、原作をしっかり見ていないため、大体の人物像や発生するイベントはつかんでいても、詳細までは知らないこと。前世では妻子持ちであったこと。自分の授かった能力等など……。

 

「血を吸う前後は、ス、スイッチ入っちゃうから」

 

「……わかってるよ。意地悪言ってごめんな」

 

 すずかは彼の言を信じた。能力を見せてもらったこともあるが、彼女にとっては最初から無条件で自分の存在を受け入れ、吸血衝動すら満たしてくれる存在。実際の年齢と乖離していると思える程、精神面が大人びていた彼女も、自然に依存してしまっていたから、彼の言うことは無条件に信じようとしたし、信じられるように疑念を慕情があっさり塗り替えた。

 

「大翔くんに撫でられるの、すごく落ち着くの……」

 

 彼女は彼に依存している自分を自覚している。彼の内面が大人であることを知り、自分が吸血衝動に襲われる際の心の昂りを悪用して、この年では本来あり得ない艶技を身につけ、身体面からも籠絡にかかっていることも。

 

(ずるいよね、私……私を満たして、私を理解してくれる人を逃がさない為に、ひどいことしてる。歪めようとしてる)

 

 さすがに自らの身体で欲を吐き出させるには、彼女は未成熟。彼は記憶の引き継ぎの影響があったからか、性については早熟だったが、流石に精通は終わっていないし、初潮前の少女を抱くようなロリコンの気は無い。

 ただ、すずかによる吸血及び奉仕活動により、毎日ドライオーガズムを強制的に与えられている状態の彼自身が、すずかの行動を強く否定することが出来なくなっている。

 痛みには歯を食い縛り耐えられるが、気持ち良いことに抗うのはとんでもなく困難なこと。結局は、そういうことだった。

 

「すずか……。何を思って、ここまで俺に尽くしてくれるのかは分からないけど、俺はどこにも行かな……」

 

 最後まで言い切れず疲労から寝息を立てる彼に、すずかは掛け布団を二人を覆うように羽織り、彼の腕を抱き枕にするような姿勢となる。

 

「ありがとう、大翔くん。これからも、傍にいてね。そのためだったら、私、は……」

 

 彼の匂いを感じながら、また、すずかも間を置かずに、安らかな眠りの世界へと誘われるのだった。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 「またあんたたちは……」

 

 日常となりつつある、すずかが大翔のベッドで共に朝を迎えたのを、ノエルから報告を受け自身でも確認した、すずかの姉・忍は最早癖となりつつある、ため息をつく。

 ちなみに朝といっても、完全に日は昇っておらず、厳密には夜明け前だ。夜の一族──吸血鬼の亜種たる忍とすずかは、朝、あるいは昼間に短い睡眠を取るだけで、ずっと活動が可能である。太陽の下での活動も問題ない。

 原種と比べると、身体能力は落ちる彼女達だが、弱点が少ないというメリットがあるし、人間の目からすれば、人外か化け物か、どちらにしても規格外であるのに変わりは無い。忍はそんな種族の習性に倣っているだけで、むしろ、大翔の傍で熟睡しているすずかが変わり種なのだ。

 

「すずかにこれだけ幸せそうな寝顔を見せられていると言いにくいんだけど、貴方が自制してくれないと、どこまでも爛れた性活になりかねないんだから。頼むわよ?」

 

 生活の文字が違う響きに聞こえたが、大翔は突っ込まない。突っ込めば自爆するだけである。

 

「分かっています。身寄りも無く、記憶喪失である俺を保護してくれて、学校にも行かせてくれているのは忍さんです。さらに、俺がすずかと共にいるのを容認してくれている。ここまでしてくれているのに、二人で堕落するってどんな恩知らずかって思いますよ」

 

 忍は知っていた。すずかが吸血行為ばかりでなく、卑猥な行為にまで及んでいることを。ただ、それが自分の妹主導で、文字通りの力づくであるということも分かっていた。自分の一族が全力を出せば似たような体格の人間を取り押さえるのは容易く、さらに吸血後の疲労しきった大翔が抵抗するなど、無理難題に等しい。

 

「あんたと話していると、子供と話しているのが錯覚に思えてくる。魔法使いだからって、そこまで成熟するわけでもないでしょ」

 

 自分の背景をある程度までは、実際に保護してくれている忍にも話している。魔法の力を持つことも。ただ、さすがに前世云々の話を信じられるとも思えず、その辺りは記憶喪失でぼかしていた。

 すずかは自分の存在が救いになったと同時に、依存の対象になったことぐらい承知している。だから、前世の記憶などという、無茶苦茶な話を信じてくれたのだ、と。

 

「トレーニング、行ってきます」

 

 実のところ、忍は自分とすずかを引き剥がしたいと思っていると、大翔は考えている。ただ、安易に実行すれば、すずかの心身バランスが著しく崩れて、どうなるか予想出来ない懸念から、彼女は躊躇っているだけだと。

 だからこそ、自身を鍛え、すずかが自立出来るまで、しっかり見守れる兄のような役割を演じなければ。改めて、内心を奮い立たせた彼は身を起こし、ベッドから足を下ろそうとする……が、ぐいっと強い力で引っ張られ、再び彼はベッドに逆戻り。というか、捕獲された。一瞬、彼の身体が宙に浮く体勢になっているのを、忍はしっかり目撃してしまっている。

 

「おふっ、す、すずか?」

 

「むにゅ……待って、大翔君。私も、行く……」

 

「すずか。離してあげなさい。貴女もまだ眠そうだし、彼はいつもの魔法と身体トレーニングでしょう?」

 

「だから、だよ……すぐ準備、するから……ノエル、ごめん。ウェアを」

 

 ずっと黙っていたものの、部屋の中には屋敷のメイドであるノエルもおり、全く無駄のない動きで近くの洋服タンスから、大翔とすずかのトレーニングウェアを取出し、二人に手渡す。

 

「あ、ありがとう、ノエルさん。相変わらず動きの一つ一つが洗練されてるよな……」

 

「お褒め頂き恐縮ですわ」

 

 もう一つ、すずかのウェアがなぜ、彼の部屋のタンスからすっと出てくるのか。それに突っ込む勇気は無い大翔だった。さらに、まだ寝ぼけているすずかがパジャマの上下を躊躇いなく脱ぎ捨てようとして、大翔が素早くその場を離れようとしたものの、またあっさり捕まり、インナー姿の彼女を直視するわけにはいかず、背中を向けて着替えた羽目になったのは余談である。




こんな感じで。すずかさん可愛いよすずかさん。

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