遊戯王GX―とあるデュエリストたちの日々― 作:masamune
それは、一人の少年が紡いだ物語。
それは、一人の少女が紡いだ物語。
それは、数多の決闘者たちが紡ぎ上げた物語。
これは、〝誰か〟のために戦い続けた者たちの軌跡。
「そう簡単には、負けられない。任せるって、そう……言われたから」
尊敬する先達が卒業し、彼らこそが先達となった。
「新入生は皆元気やなぁ」
「喧嘩売られる方は面倒臭ぇだけだがな」
新たにできた後輩たちに対する想いは、それぞれに。
「アニキは僕のアニキッスよ!」
「俺のアニキだドン!」
「ふん、慕われているじゃないか十代」
「へへっ、なんか嬉しいな」
季節がまた、移り替わる。
「まさかこの三人で肩を並べることになるとはね。何が起こるかわからないものだ」
「肩を並べる? 馬鹿なことを抜かすもんじゃあねぇなぁ。いつ、俺たちが肩を並べたってんだ?」
「珍しく意見が合いましたね。我々が相容れることは有り得ない。あってはならないのです。それはあまりにも道理に合わないのですから」
「これは申し訳ない。誰かとチームを組むなんて随分と久し振りのことだったのでね。少し興奮しているんだ。確かに、我々は絶対に相容れない。そういう立場であり、そういう存在であるが故に」
「……あんたらホント仲悪いんだか良いのかわかんねぇな」
「良いわけなかろう?」
命を懸けた戦いが終わり、訪れるのは誇りを懸けたデュエル。
そう……なるはずだった。
「私とデュエルをしてみないかい? キミに興味がある」
「その心の内に潜む迷い……私が導いてあげよう」
「――口元がにやけてんだよ、ロシア娘」
「お勤め、きっちりこなさんとアカンしなぁ」
「申し訳ないが、私はキミたちに対して一切の興味がない。ただ、このデュエルをとある少年が見ている。それだけで、本気を出すのには十分だ」
「遊城十代。僕は、キミを認めない!」
数多の思惑が絡む中、少年たちは知る。
世界とは、悪意に満ちていて――
「……ごめん、美咲……。約束、果たせなく……なっちゃったよ……」
これほどまでに、ままならない。
「初めてだよ。これほどまでに、誰かを殺したいと思ったのは」
「どうして、どうしてこんな! 祇園が何をしたっていうんや!」
「藤堂詩音を知っているか? テメェらが未来を奪った俺の家族の名前だ。知らねぇならそれでいい。ここで黙って死んでいけ」
「原因は不明。治療法も不明。あるのは事実のみ。だからこそ、どうにもできない」
伸ばす手の先は、遥か遠く。
何も掴めず、地に落ちる。
「――返せと、言いやした。詩音サンを……返せ、と」
「ガキが。二人がかりで女の子を追い回して恥だとも思わないのか?」
「私の役目であり、役割です。だから、私が戦います」
憎悪が世界を焦がし、命は零れ落ちていく。
決して交わらぬはずの者たちでさえ、その手を取り合うほどに。
「テメェは俺の一番大事なもんに手を出した。――生きて帰れると思うんじゃねぇ」
「最早どれだけの時間、恋い焦がれたかも忘れた。それだけが欲しかった。なぁ、嬢ちゃん。オメェはあいつの娘だ。だから忠告してる。そこを退きな、ってよ。……それでも立つってんなら、それでもいい。ここで死んどきな」
「祈るんや。神様に。人に。それを無視するほど、世界は残酷やないはずやから。誰も助けてくれないほどに、世界は理不尽ではないはずやから」
「祈るな。神など所詮、ただの傍観者だ。力が無ければ死ぬ。それが嫌ならそもそも戦場に立つべきではない。命を懸け、敗北し、そうしてそこで這い蹲っている時点でキミの物語は終わっている」
運命は、〝戦う者〟に試練を課した。
「余がここに来たのは友がため、そして人のためだ。まさかとは思うが、貴様ら。人の意志を無視して結論を下すつもりだったとは言わぬだろうな?」
「想いは届く。私はそのために存在している。だから、どうか。どうか――……」
「納得できるわけあらへん……ッ!! できるわけないやろ!! 勝てないとか! 理不尽とか! そんなんで奪われたことを! 理不尽を認められるわけないやろ!!」
「……すみませン、お嬢サン……、自分は――……」
「もう失わない。奪わせない。俺はそう誓ったんだ。そのための力は、得たはずなんだよ!!」
「事情などどうでもいい。貴様を殺す。それで私の目的は達成される」
散っていく命。語られることなき物語。
「――ブルーアイズ。未知なる壁を突き破れ」
光差す、未来へ。
「失わないために戦うって決めたんだ。僕はもう、僕自身の非力のせいで誰かを失いたくない」
迫りくる絶望の光。
抗うは、正しき闇。
その想いが、世界に届く。