遊戯王GX―とあるデュエリストたちの日々―   作:masamune

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第一部最終話 優しくキミは微笑んで

 

 

 桐生美咲の敗北。それは、この状況を構築した者たちにとって想定外の出来事だった。

 全日本ランキングこそ一桁には届かないが、彼女の実力はその領域に間違いなく届いている。だからこそアカデミア本校オーナーである海馬瀬人やI²社会長であるペガサス・J・クロフォードは秘密裏に彼女をこの舞台に立たせるために協力した。

 最悪の場合は〝祿王〟もいるという判断だったが、それはあくまで保険。桐生美咲という少女の勝利はそれほどまでに信じられていた。

 ――だが、彼女は敗北した。

 責めることなどできようはずがない。己自身の命を懸け、誇りを懸け、他者の命を守るために戦った彼女に過ちなどなかったのだから。

 

「……いいのかよ」

 

 セブンスターズとの戦い。それを表と裏、その両方から見てきた少年が問う。問われた〝王〟は、何がだ、と言葉を紡いだ。

 

「彼らが戦うと決め、我々はそれを受け入れた。ならば、そこで解は出ている」

「そうじゃねぇだろ。もしあいつらまで負けたら――」

「――ほう。キミは二人を信じていないのか?」

 

 どこか挑戦的な笑みを向けられ、一瞬如月宗達は言葉を止めた。だが、すぐに首を振る。

 

「そういう感情論の問題じゃねぇだろうが。桐生美咲が負けたんだぞ? わかってんのか」

「……そうだな。美咲くんが敗北したことについては私も想定外だ。彼女の実力は確かであるし、正直私も彼女が出た時点で終わりと考えていた」

 

 自身の側で寝かされ、死んだように――実際、死の一歩手前の状態だ――眠る美咲の頬を撫でながら、烏丸澪は言った。その言葉に僅かな後悔が感じられるのは、錯覚だろうか。

 

「だが、それでも彼らが戦うと決めたのだ。ならば、私はそれを見守るだけだよ」

「……どうにか、なるのか」

「さて、な。ただわかるのは、彼らが敗北し、〝三幻魔〟が完全に復活したなら――私でも封印は不可能な状態となっているだろうということだ」

「なっ……」

 

 現状、この場においては間違いなく〝最強〟のカードである烏丸澪。その彼女は断言する。これ以上力が増せば、それはもう手遅れなのだと。

 

「妖花くんはどうだ?」

「……情けないですが、私には……何も……」

 

 当代最高峰とまで謳われる〝巫女〟でさえ、澪の言葉を肯定する。

 最悪の未来。想像以上に事態は切迫しているのだと、二人の言葉は告げている。

 

「この場にいる全員が、薄々気付いている。彼らの敗北が即ち終わりだということを」

 

 鮫島も、クロノスも、緑も、亮も、万丈目も、明日香も、三沢も、翔も、隼人も、雪乃も。

 そして何より、影丸と向かい合う二人自身が理解している。

 

「だが、案ずる必要はない。いつの時代も事を成す前から〝英雄〟は存在し得ないのだから」

 

 全員が緊張と共に二人の背中を見つめる中で、〝王〟はただ笑っている。

 

「世界を救うからこその〝英雄〟だ。それは称号であり、故に成し遂げる前からそれを冠されることはない。ならば、後はあの二人にその器があるか否か。それだけだ」

「二人なら大丈夫だってのか?」

「それを決めるのは未来だよ。今じゃあない。だが、まあ、そうだな」

 

 ふっ、と澪が微笑を零す。優しく眠る少女の頬を撫でながら、彼女は言った。

 

「彼らは共に、〝ヒーロー〟の姿を知っている。ならば、それで充分だ」

 

 世界の命運を懸けた戦いが、始まる。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 大きく深呼吸をする。緊張はない。あるのはただ、滾るような想いだけ。

 こんな感覚は初めてだ。あの海馬瀬人のような――否、違う。ある意味では彼以上の強大な力を持つ存在を相手にしているというのに、恐怖は一切ない。

 

「二体一であるため、私の初期手札は十枚、また、LPは8000からスタートさせてもらうが異論はないな?」

「ああ、いいぜ」

「……うん」

 

 十代と共に頷きを返す。急げ、と妖花は言った。つまり、まだ美咲は助かる可能性がある。

 すべきことは単純だ。勝つ。ただそれだけ。

 

「先行は俺だ! ドロー! 手札より『E・HEROバブルマン』を召喚! 自分フィールド上に他にカードがない時、カードを二枚ドロー出来る! ドロー! 更に『融合』を発動! バブルマンと『E・HEROフェザーマン』、『E・HEROスパークマン』で融合! 来い、『E・HEROテンペスター』!! 更にカードを一枚伏せ、ターンエンド!!」

 

 E・HEROテンペスター☆8風ATK/DEF2800/2800

 

 現れるのは三体のHEROによって紡がれるヒーロー。ターンエンド、と十代が宣言した。

 

「私のターン、ドロー。――私は罠カードを三枚伏せる」

「ッ、いきなりか……!」

「…………」

 

 美咲の時と同じ展開だ。一ターン目からの、〝三幻魔〟召喚。

 

「罠カード三枚を生贄に捧げ――『神炎皇ウリア』を特殊召喚!!」

 

 神炎皇ウリア☆10炎ATK/DEF0/0→3000/0

 

 攻撃力、3000。

 かの青眼の白龍と同格の力を示すウリア。その力には、桐生美咲も苦しめられた。

 だが――それがどうした?

 

「私はターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー!」

 

 彼女は、最後まで目を逸らさなかった。

 それに、夢神祇園は知っている。

〝伝説〟を。

〝最強〟を。

 ならば、臆する理由は一つもない。

 

『――マスター』

 

 声が響いた。同時、一人の魔術師が現れる。

 金髪の、竜の守護者たるその精霊は、己が主と共に戦うように肩を並べて戦場に立つ。

 

『微力ながら、我が全力を以て援護します』

「ありがとう。――魔法カード『調律』を発動! デッキから『ジャンク・シンクロン』を墓地に送り、デッキトップからカードを一枚墓地へ送る!」

 

 落ちたカード→ドッペル・ウォリアー

 

 並び立つ女性から感じられる加護。その柔らかな、暖かい闇の光を纏い。

 その意志一つだけを武器に、少年は絶望と対峙する。

 

「ジャンク・シンクロンを召喚し、効果でドッペル・ウォリアーを蘇生!――レベル2、ドッペル・ウォリアーにレベル3、ジャンク・シンクロンをチューニング! シンクロ召喚! 『ジャンク・ウォリアー』!!」

 

 ジャンク・ウォリアー☆5闇ATK/DEF2300/1300→3100/1300

 ドッペル・トークン☆1闇ATK/DEF400/400

 ドッペル・トークン☆1闇ATK/DEF400/400

 

 青き屑鉄の戦士が降臨する。バトル、と祇園が宣言した。

 

「ジャンク・ウォリアーはシンクロ召喚に成功した時、場のレベル2以下のモンスターの攻撃力を自身の攻撃力に加える! ウリアを攻撃!」

「ぬうっ!?」

「更にトークン二体でダイレクトアタック!」

 

 影丸LP8000→7900→7500→7100

 

 一撃が通る。影丸が笑みを浮かべた。

 

「ほう――掠り傷とはいえ、〝三幻魔〟を踏み越えて私に刃を届かせるか」

「まだ、終わってない。――魔法カード『ワン・フォー・ワン』発動! 手札の『エクリプス・ワイバーン』を墓地に送り、『ジェット・シンクロン』を特殊召喚! 更にエクリプス・ワイバーンの効果で『レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン』を除外!」

 

 ジェット・シンクロン☆1炎500/0

 

 このままターンを譲れば大ダメージは必死。ならば、やるべきことは一つ。

 

「レベル1、ドッペル・ウォリアーにレベル1、ジェット・シンクロンをチューニング! シンクロ召喚! 『フォーミュラ・シンクロン』! シンクロ素材となったジェット・シンクロンの効果でジャンク・シンクロンを手札に加え、フォーミュラ・シンクロンの効果でドロー!――レベル1、ドッペル・トークンとレベル5、ジャンク・ウォリアーにフォーミュラ・シンクロンをチューニング! シンクロ召喚! 闇を――切り裂け!!」

 

 闇の深さが増していく。その最中、一筋の光が瞬いた。

 

「『閃光竜スターダスト』ッ!!」

 

 思わず誰もが目を細める。あまりにも深い闇の中、その光はあまりにも眩しく、美しい。

 

 閃光竜スターダスト☆8光ATK/DEF2500/2000

 

 現れるのは、閃光の名を持つ星屑の竜。

 その力は、『耐える』ことに特化する。

 

「僕はターンエンド。……理事長。あなたの目的なんて、正直どうでもいい。ただ、僕はあなたが許せない」

 

 燃え盛るような激情を、しかし、胸の内へと抱え込み。

 少年は、宣言する。

 

「だから――絶対に負けない」

 

 それは、敵である影丸への宣言であると同時に。

 自分自身に言い聞かせる言葉に、聞こえた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「……祇園さん、凄いです……」

 

 目の前の光景を見て、妖花は呟いた。正直、妖花の目から見ても祇園はそちら方面に対して強い才能を持っているわけではない。精霊に関係する分野において、彼は間違いなく一般人の域を出ない。

 精霊と触れ合う才能については遊城十代の方が圧倒的であるし、万丈目準などもかなりの才能を有している。彼らならある意味理解できるのだ。〝三幻魔〟に対抗することができる理由も。

 だが、夢神祇園は違う。彼はただ、その意志のみであの場所に立っている。

 辛いはずだ。ここは闇が濃い。中心部にいる祇園は常に極氷の冷気を浴び続けるに等しい圧力を受けているはず。

 

「……どうして……」

 

 その理由が理解できない。

 いやきっと、できるのだ。理由付けぐらいならば。桐生美咲――生死の淵を彷徨う彼女が理由なのだろう。

 けれど、それだけで対抗できるとは思えない。

 防人妖花だからこそわかる。〝三幻魔〟は意志だけで対抗できるような相手ではないのだ。

 だからきっと、彼はどこかで無理をしている。

 

「理由など、きっとないのだろう」

 

 不意に、こちらの肩を叩きながら〝王〟が言った。

 

「私たちには力がある。故に相手のことを推し量れるし、更に言えば必要以上に冷静だ。だからこそ己と相手、その力の大小をどうしても考えてしまう。だがきっと、今の少年にはそれがない。ただ、勝つ。その意志だけがそこにはある」

 

 だから今の彼は強いのだと、彼女は言った。

 眩しげに、羨ましげに。

 

「きっとそれが、人として正しい姿なのだろうな。理屈はない。あるのは理由のみ。己が感情と意志、全身全霊の力を込めて――ただ、成し遂げる」

 

 きっと、過去に〝奇跡〟を起こした者の多くはそうだったのだろう。

 何故ならば。

 多くの者が不可能と思うことに挑み、成功したことを指して〝奇跡〟と呼んだのだから。

 

「だが、それは茨の道だ。失敗すれば文字通り全てを失う」

「そうね。だから多くはその選択肢を選ばないわ」

 

 宗達と雪乃の言葉。そう、それがクレバーな思考というモノだ。リスクを最低限に、結果を妥協する。

 だがきっと、それは。

 

「だからこそ、彼らの姿は尊い。――見届けよう。それがきっと、私たちの役目だ」

 

 言葉を受け、妖花は両の手を合わせる。

 祈りの所作。願うは、彼らの勝利。

 人は、己にできることが尽きた時――神に祈る以外の、手段を知らない。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 先制の一撃を入れたのは祇園だ。だが、こんなものはまだ序盤。

 本番は――ここからくる。

 

「私のターン、ドロー。――手札から罠カードを一枚捨て、ウリアを蘇生!!」

 

 神炎皇ウリア☆10炎ATK/DEF4000/0

 

 甦る〝三幻魔〟。その力と存在感は、やはり凄まじい。

 

「バトルだ、ウリアでスターダストに攻撃!」

「ッ、スターダストの効果を発動! 自身を一度だけ破壊から守る!」

 

 守備表示であるためダメージはない。だが、その代わり。

 

『マスター!!』

「――――」

 

 全身を、衝撃が貫いた。

 その痛みは、カムルと戦ったあの時よりも遥かに強い。

 意識が一瞬、消えた。だがすぐに地面を踏み締め、持ち堪える。

 

「……ッ、ぐっ」

「大丈夫か祇園!?」

 

 十代の声に、片手を上げて応じる。これは、正直マズい。

 美咲は、こんな痛みをたった一人で――?

 

「ほう、耐えたか。精霊の加護も受けぬ者がよく耐えたと褒めてやろう。だが、それもいつまで持つか。――魔法カード三枚を伏せ、生贄に捧げることで『降雷皇ハモン』を特殊召喚!!」

 

 降雷皇ハモン☆10光ATK/DEF4000/4000

 

 現れる二体目の〝三幻魔〟。美咲は、この二体にやられたのだ。自然、拳に力がこもる。

 

「ウリアは蘇生したターン、他にモンスターがいると攻撃できない。だが、そんなことは些細なことだ。貴様らはただ、〝三幻魔〟の前に絶望するのみ。カードを一枚伏せる」

 

 ターンエンド、と影丸が宣言する。十代がドロー、と宣言した。

 

「お前を許さないのは祇園だけじゃない! 俺は魔法カード『E―エマージェンシーコール』を発動! デッキから『E・HEROエアーマン』を手札に加え、召喚!! 効果発動! デッキから『E・HEROクレイマン』を手札に加える!」

 

 E・HEROエアーマン☆4風ATK/DEF1800/300

 

 HEROの潤滑油であるモンスターが召喚される。そして、十代の真骨頂が発動する。

 

「魔法カード『融合』発動!!」

 

 得意の融合戦術。だが――

 

「――貴様の得意技などお見通しだ! カウンター罠『魔宮の賄賂』!! 相手はカードを一枚ドローし、その発動を無効にする!」

 

 融合が潰される。ぐっ、と十代が呻いた。そのまま、ターンエンド、と宣言する。その表情は苦々しい。

 

 神炎皇ウリア☆10炎ATK/DEF5000/0

 

「愚かだな、遊城十代。そう易々と〝三幻魔〟にその手が届くと思ったか?――私のターン、ドロー! 私はフィールド魔法『失楽園』を発動! デッキからカードを二枚ドロー! バトルだ! ウリアでエアーマンを攻撃!」

「――――ッ!?」

「十代くん!」

 

 罠カードが増えたことにより攻撃力を増したウリアの一撃が、エアーマンを粉砕する。衝撃と爆風が駆け抜けた。

 

 十代LP4000→800

 

 一気にLPが削り取られる。祇園がもう一度名を呼んだ瞬間、次の一撃が彼を襲った。

 

「他人を気遣う余裕があるのか? ハモンでスターダストを攻撃!!」

「ッ、スターダストの効果で――」

「速攻魔法『禁じられた聖杯』! 攻撃力を400ポイントアップさせる代わりに、モンスターの効果を無効にする!!」

「なっ――――!?」

 

 スターダストの効果が無効になる。これでは、如何に強力な効果を持っていようとも無意味だ。

 

『マスター!』

 

 ウイッチの叫びと共にスターダストが破壊され、衝撃が駆け抜ける。同時、影丸の声が響いた。

 

「ハモンの効果発動! このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時、相手LPに1000ポイントのダメージを与える!」

「――――」

 

 バツン、という何かが弾けた音が響き、鮮血が飛び散った。

 祇園、と十代が声を上げる。だが、少年は動じない。膝をつくことなく、ただそこに佇んでいる。

 

 祇園LP4000→3000

 

 その額から血が零れ、その顔を朱に染め上げる。しかし、彼の瞳の輝きは消えない。

 痛みなどないとでも言うかのように、佇んでいる。

 

『マスター……』

「大丈夫」

 

 服で血を拭い、祇園はウイッチの呼びかけに応じる。衝撃も痛みもあったが、すぐにそんなものは置き去りにした。

 倒れは、しない。

 

「思った以上に耐える。――私はカードを二枚伏せ、ターンエンド!」

「僕のターン、ドロー!」

 

 カードをドローする。状況はよくない。だが、この手札ならば。

 

「墓地にはジャンク・シンクロン、ジャンク・ウォリアー、ドッペル・ウォリアーの闇属性モンスターが三体のみ存在しているため、『ダークアームド・ドラゴン』を特殊召喚!!」

 

 ダークアームド・ドラゴン☆7闇ATK/DEF2800/1000

 

 条件こそあるが、強力な効果を持つモンスターだ。しかし――

 

「罠カード『ブレイクスルー・スキル』発動! その効果は無効だ!」

「…………ッ、手札より『ドラゴン・ウイッチ―ドラゴンの守護者―』を守備表示で召喚!」

 

 ドラゴン・ウイッチ☆4闇ATK/DEF1500/1100

 

 守備表示で現れるのは、祇園にとって大切なカード。竜の守護者たる魔術師。

 

『マスター、私がお守りします』

「ごめんウイッチ……、ターン、エンド……!」

「私のターン、ドロー! 失楽園の効果により、カードを二枚ドロー! ……その魔術師は厄介だ。私は墓地のブレイクスルー・スキルの効果を発動! このカードを除外し、モンスター一体の効果を無効とする! ドラゴン・ウイッチの効果を無効に!」

 

 コストこそ要求するが、自身の破壊耐性に加えてドラゴンたちを守る効果を有するドラゴン・ウイッチ。しかし、その効果を無効にされてしまっては意味がない。

 

「バトルだ、ハモンでダークエンドを攻撃! その瞬間、貴様に1000ポイントのダメージを与える!!」

「――――!!」

『マスター!!』

 

 祇園LP3000→1800→800

 

 またLPを削り取られた。衝撃で意識が霞む。

 しかし、まだだ。まだ、大丈夫。

 

「主を気遣う余裕が、貴様にあるのか? ウリアでウイッチを攻撃! 粉砕!」

「ウイッチ!!」

『――すみません、マスター……!!』

 

 破壊されつつも、精霊として側へと帰還してくれるウイッチ。今の衝撃もかなりのモノだった。このままではマズい。

 

「私はカードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 

 十代がカードをドローする。正直、状況はかなりマズいと言えるだろう。祇園の場にはモンスターがおらず、このままでは次の影丸のターンで祇園が葬られる。

 ならば、今の十代がすべきことは。

 

「行くぜ、リバースカードオープン! 速攻魔法『融合解除』! テンペスターの素材となったバブルマン、フェザーマン、スパークマンを特殊召喚! そして二枚目の『融合』だ!! 三体のHEROにより、このHEROは姿を現す!! 力を貸してくれ、紅葉さん!!――『V・HEROトリニティー』!!」

 

 E・HEROバブルマン☆4水ATK/DEF800/1200

 E・HEROスパークマン☆4光ATK/DEF1600/1000

 E・HEROフェザーマン☆3風ATK/DEF1000/1000

 V・HEROトリニティー☆8闇ATK/DEF2500/2500→5000/2500

 

 かの〝ヒーロー・マスター〟響紅葉より託されたHERO。その攻撃力に、影丸が驚愕の表情を浮かべる。

 

「攻撃力――5000だと!?」

「更に『E・HEROクレイマン』を召喚し、魔法カード『受け継がれる力』を発動!! クレイマンを墓地に送り、エンドフェイズまでその攻撃力分トリニティーの攻撃力をクレイマンの攻撃力分アップする!!」

 

 E・HEROクレイマン☆4地ATK/DEF800/2000

 V・HEROトリニティー☆8闇ATK/DEF5000/2500→5800/2500

 

 これで攻撃力がウリアを超えた。バトルだ、と十代が宣言する。

 

「トリニティーでウリアとハモンへ攻撃!! 吹き飛ばせ、トリニティー!!」

「ぬう――――!?」

 

 影丸LP7100→6300→4500

 

 二体の〝三幻魔〟が吹き飛ばされる。

 

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 同時、トリニティーの攻撃力が元に戻る。影丸がカードをドローした。

 

「小癪な……! 〝三幻魔〟を虚仮にしたこと、後悔させてやろう! 私のターン、ドロー! 手札の罠カードを墓地に送り、ウリアを特殊召喚!!」

 

 神炎皇ウリア☆10炎ATK/DEF6000/0

 

 更に攻撃力を上げるウリア。更に、と影丸は言葉を紡いだ。

 

「魔法カード『死者蘇生』! ハモンを蘇生する!」

 

 いとも簡単に並び立つ二体の幻魔。ぐっ、と十代と祇園は思わず呻いた。ほとんどの手札を使い切る十代の一手。それを、こうも容易く。

 

「やはり貴様は危険だ、遊城十代。しかし、だからこそ――〝三幻魔〟復活の贄に相応しい。見せてやろう、最強の幻魔を!! 魔法カード『幻魔の殉教者』発動! 自分フィールド上にウリア、ハモンが存在する時、手札を全て墓地に送ることで『幻魔の殉教者トークン』を三体特殊召喚する!!」

 

 幻魔の殉教者トークン☆1闇ATK/DEF0/0

 幻魔の殉教者トークン☆1闇ATK/DEF0/0

 幻魔の殉教者トークン☆1闇ATK/DEF0/0

 

 現れる三体のトークン。その身に纏う闇の衣が、次に現れる存在の禍々しさを強調している。

 

「失楽園の効果でカードを二枚ドロー!――三体のトークンを生贄に捧げ、『幻魔皇ラビエル』を特殊召喚!!」

 

 轟音と共に、その悪魔は現れる。

 最強の名に相応しき、絶対的な絶望を纏い。

 

 幻魔王ラビエル☆10闇ATK/DEF4000/4000

 

 その咆哮が、大気を揺らした。

 

『――マスター……』

「…………ッ」

 

 一歩、後ずさりそうになるのを何とか祇園は堪えた。見れば、十代も何かを堪えるようにその場に踏み止まっている。

 

「まずはその鬱陶しいHEROから消えてもらおう。――ハモンでトリニティーを攻撃!」

「――――」

 

 十代の表情が強張る。この攻撃が通れば、それで十代の敗北だ。

 故に、祇園は手札よりそのモンスターを特殊召喚した。

 

「手札の『工作列車シグナルレッド』の効果を発動! 相手の攻撃宣言時にこのモンスターを特殊召喚し、攻撃対象をこちらへと移し替える! そしてシグナルレッドはその戦闘では破壊されない!」

「鬱陶しい羽虫めが……! ラビエルの効果により、『幻魔トークン』を特殊召喚!」

 

 幻魔トークン☆1闇ATK/DEF1000/1000

 

 忌々しげに影丸が舌打ちを零す。突如現れた赤い工作列車がトリニティーを庇うように現れ、ラビエルの一撃を受け止める。

 だが、まだだ。まだ、次の攻撃が残っている。

 

「だが、その程度の小細工で三幻魔は止まらん! ラビエルでトリニティーを攻撃!」

「リバースカード、オープン! 速攻魔法『禁じられた聖槍』!! ラビエルの攻撃力を800ポイント下げ、他の魔法、罠の効果を受け付けなくさせる!!」

 

 十代LP800→100

 

 文字通りのギリギリ。後一撃を喰らえばそれでゲームエンドのところにまで十代のLPが追い込まれる。

 

「十代くん!」

「ぐっ……、だ、大丈夫だ!」

 

 口元から零れる血を拭い、十代は叫ぶ。正直状況はかなりマズい。

 LPにおいても、盤面においても。〝三幻魔〟の力は圧倒的だ。

 

「私はターンエンドだ!」

「僕のターン、ドロー!」

 

 手札を見る。勝負はこのターンだ。そうしなければ、十代のLPが危ない。

 

(手札は4枚……だけど……)

 

 影丸のLPに手を届かせるには、三体の幻魔を倒す必要がある。そして現状、この手札では超えることができない。

 

(そもそも攻撃力で上回ることは不可能……。なら、モンスター効果って事になる……)

 

 除去効果といえば『ジャンク・デストロイヤー』だが、この手札では出せない。それに、出したとしても追撃のカードが用意できない以上、次のターンでウリアに潰されるだろう。

 

(どうしたらいい……? どうしたら……!?)

 

 焦りだけが募っていく。やはり自分では力不足だったのかと、そんなことが浮かんでくる。

 四枚の手札――澪なら、きっと己の体に傷一つつけることなく相手を制圧する。宗達なら、その展開力と搦め手で押し切る。万丈目なら、予測もつかないトリッキーな戦術で場の戦況を変える。三沢なら、〝三幻魔〟の対策を考え、実行する。明日香なら、臆することも退くこともなく戦い抜く。雪乃なら、どんな状況でもあの微笑を称えて君臨する。

 ならば――夢神祇園は?

 ここにいる、〝何にも選ばれなかった者〟は、どうだ?

 どうやって、あの絶望と戦えばいい?

 

「どうした? 今更臆したか? 何者にも選ばれることなき貴様は場違いだ。――消えろ」

 

 威圧感を伴う影丸の台詞に、思わず息を呑む。言い返せない。結局、自分にできることは。

 

 

『マスター、まだです。まだ、終わってはいません』

 

 

 並び立つ魔術師の言葉が、俯きそうになった心を推し留めた。魔術師は、更に言葉を続ける。

 

『選ばれなかった――違う。違いますマスター。あなたは私を見出してくださいました。打ち捨てられ、消え逝くはずだった私を見つけてくださった。だから私は、あなたを選んだ』

 

 風が、舞う。

 星屑の煌めき。一瞬だけ見えたその姿は、世界に一枚だけの、託された竜。

 

『私だけではありません。私たちはあなただからこそ主と認めたのです。それに、あなたが今救おうとしているあの方は。あなただからこそ、あの言葉を紡いだのでしょう?』

 

 笑顔と共に、最後に伝えてくれたあの言葉。

 それは、きっと。

 

「――そうだね、ウイッチ」

 

 憧れの背中を、幻視した。

 いつだってそうだった。

 彼女の背を見ながら、応援の言葉を送って。

 そして彼女は、振り返る。

 その顔に、優しい笑顔を浮かべながら。

 それが、憧れた彼女の姿。

 

「決めたんだ。今更、退くことなんて絶対にない!!」

 

 吠える。才はない。力はない。だが、世界は待ってくれない。

 ならば、今持てる全力で。

 

「羽虫がよく吠える」

 

 ふん、と影丸が鼻で笑った。何だと、と十代が声を上げる。

 

「大徳寺先生はあんたのことも心配していたんだ! それを!」

「ふん、所詮は奴も駒の一つに過ぎん」

「何だと!?」

「そこの小娘もだ。確かに少々予定外だったが、結果を見れば〝三幻魔〟に上等な贄を捧げる結果となっただけ。貴様らも変わらん。駒の域を出ない」

 

 頭が、沸騰しそうだった。

 もう――止まらない。

 

「手札より魔法カード『手札抹殺』を発動! 互いのプレイヤーは手札を全て捨て、同じ数のカードをドローする!」

 

 十代と影丸は一枚、祇園は三枚。

 これは賭けだ。ここで引けなければ――

 

「――届け」

 

 命でも、魂でも、何でもいい。

 全てを懸ける。全てを犠牲にできる。

 だから、今この時だけは――

 

「届ぇっ……!!」

 

 今度こそ。今度だけは。

 救うのだ。取り戻すのだ。

 

「――魔法カード『死者転生』を発動! 手札の『救世竜セイヴァー・ドラゴン』を捨て、手札抹殺で捨てた『金華猫』を手札に加える!」

 

 あの笑顔を。

 

「『貪欲な壺』を発動! 墓地のフォーミュラ・シンクロン、ジャンク・ウォリアー、閃光竜スターダスト、ドッペル・ウォリアー、ジャンク・シンクロンをデッキに戻し、二枚ドロー!! 更に手札を一枚捨て、『ジェット・シンクロン』を蘇生」

 

 あの日々を。

 

「魔法カード『死者蘇生』!! 『ドラゴン・ウイッチ―ドラゴンの守護者―』を蘇生!!――レベル3、シグナルレッドとレベル4、ドラゴン・ウイッチにレベル1、ジェット・シンクロンをチューニング!! シンクロ召喚!!」

 

 何があっても――取り戻す!!

 

「集いし願いが、新たに輝く星となる!! 光差す道となれ!! シンクロ召喚!!――飛翔せよ、『スターダスト・ドラゴン』!!」

 

 星屑の煌めきを纏い、その竜が降臨する。

 美しきその竜は、少年を守るように飛翔する。

 

「ふん、特別な力を持つカードだろうと扱う貴様が未熟では脅威にはならん!」

「そうだ、僕は弱い……でも、それでも、諦めるわけにはいかないんだ! 『金華猫』を召喚! 効果により、墓地から『救世竜セイヴァー・ドラゴン』を蘇生する!!」

 

 スターダスト・ドラゴン☆8風ATK/DEF2500/2000

 金華猫☆1闇ATK/DEF400/200

 救世竜セイヴァー・ドラゴン☆1光・チューナーATK/DEF0/0

 

 場に並ぶ三体のモンスター。先程のデュエルにおいて、美咲はこれをレッド・デーモンズ・ドラゴンでやろうとした。ならば、そこに意味はあるはずだ。

 再び白紙となったカードを握る。ここから先は賭けだ。何かがあることはわかる。だが、手が届くかどうかはわからない。

 

「――――ッ、ゴホッ!」

『マスター!』

 

 吐血。これはきっと警告だ。踏み込むなという、警告。

 さっきから頭痛が酷い。目も霞んできた。救世竜セイヴァー・ドラゴン――あのモンスターが場に出た瞬間からだ。

 これは、そういうことなのだろうか。

 お前には荷が重い――そう、言っているのだろうか。

 

「行けよ祇園、やっちまえ!」

 

 十代の言葉。それが、折れそうになる心を奮い立たせる。

 霞む目で、前を見る。荷が重いのは重々承知。だがそれでも、貫き通さなければならないことがある。

 

「うっ、ぐ、あああッ……!」

 

 力を振り絞る。脳内に浮かぶ朧気なイメージ。そこへ必死に手を伸ばす。

 

『マスター……!』

 

 見れば、ウイッチが祈るように手を組んでいた。その祈りが、自身の身体へ光となって降り注ぐ。

 だが、足りない。これでは足りない。

 

「届いて、ください……! お願い、届いて……!」

 

 聞こえてくる祈りの声は、妖花のモノか。温かな力を感じる。

 だが――足りない。

 

「愚かな……。精霊に選ばれ、役目を負わされた者がその命と魂を懸けてさえ届かぬ領域。そこに貴様如きが踏み込めると思ったか?」

 

 その言葉に込められていたのは、憐憫。

 だから、夢神祇園は。

 

「――美咲は、僕の手を、握ってくれた……ッ!!」

 

 あの日、一人ぼっちだった自分。

 

「助けて、くれたッ……! 救い出して、くれたんだ……!」

 

 黄昏の、日々の中。

 

「だから、今度は……! 今日は……! この時は……!」

 

 彼女との〝約束〟と、彼女と過ごす日々だけが、僕を支えてくれた。

 

「僕が――美咲を救う!!」

 

 失わない。絶対に。

 失って――たまるか。

 

 

 

 ――――――――――――――――――!!

 

 

 

 轟いたのは、竜の咆哮。

 天より、一体の竜が降臨する。

 

「……赤き、竜……?」

 

 呆然と、そう呟いたのは誰だったのか。

 その言葉と共に、〝答え〟が見える。

 

 

 ――奇跡よ、起これ。

 

 

「集いし星の輝きが、新たな奇跡を照らし出す! 光さす道となれ! シンクロ召喚! 光来せよ、『セイヴァー・スター・ドラゴン』!!」

 

 セイヴァー・スター・ドラゴン☆10光ATK/DEF3800/3000

 

 現れたのは、世界を救う光の竜。

 その神々しき姿に、誰もが心を奪われた。

 

「ぬうう……! だが、その攻撃力では幻魔には届かん!」

「セイヴァー・スター・ドラゴンの効果発動! 相手フィールド上の表が表示モンスター一体の効果を無効とし、その効果をコピーする! ウリアの効果を無効に!」

「何だと!?」

「バトル!! セイヴァー・スターでウリアを攻撃!! シューティング・ブラスター・ソニック!!」

 

 駆け抜けた一陣の光条は。

 三幻魔の一角を、砕き切る。

 

 影丸LP4500→700

 

 大きくLPが削られる影丸。祇園は、たまらず膝をついた。

 

「祇園!?」

「……ッ、カードを一枚伏せ、ターンエンド……」

 

 スターダスト・ドラゴン☆8風ATK/DEF2500/2000

 

 救世の竜の姿が消え、スターダストが帰還する。奇跡は一度、それも一瞬だ。これは当然の結果とも言える。

 

「くっ、くくっ、ははははは! それだけか!? 維持することさえ叶わぬとは――所詮は凡愚! だが!」

 

 カードをドローし、影丸は言う。

 

「三幻魔を虚仮にした罪は重い! 相応しい制裁を用意してやろう! 失楽園の効果でカードを二枚ドロー! 更に罠カードを捨て、ウリアを蘇生する!」

「……罠、発動……! 『威嚇する咆哮』……!」

 

 獣の咆哮が響き渡った。ウリアの罠破壊も、こうなれば通用しない。

 

「まだ抗うか!!」

「祇園!」

「十代、くん……ちょっと、もう、僕は……」

 

 立ち上がる力さえ満足にない。だから、ここは。

 

「……最後、任せてもいいかな?」

「ああ! 任せろ!!」

 

 その声を祇園は完全に膝を折った。もう、流石に限界だ。

 だが、意識は手放さない。今にも消えそうな意識を、それでも必死に保つ。

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 奇跡は、一度きりじゃない。

 だから、きっと。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 夢神祇園は、意志を通した。奇跡を起こした。

 

『十代くん』

 

 声が、聞こえる。

 それは、大切な恩師の声で。

 

「ああ、任せろ大徳寺先生! 俺は魔法カード『賢者の石―サバティエル』を発動! LPを半分支払うことで、このカードとデッキ・墓地にあるカードを交換する! 『クリボーを呼ぶ笛』を発動し、ハネクリボーを特殊召喚!!」

『クリクリ~』

 

 十代LP100→50

 ハネクリボー☆1光ATK/DEF300/200

 

 相棒の姿がフィールド上に現れる。

 

「待たせたな相棒! 俺はもう一度サバティエルを発動! 『死者蘇生』! 祇園の墓地から救世竜セイヴァー・ドラゴンを蘇生!」

 

 十代LP50→25

 救世竜セイヴァー・ドラゴン☆1光・チューナーATK/DEF0/0

 

 夢神祇園は、このカードで奇跡を起こした。

 ならば、自分も。

 

「三回目だ! サバティエルの効果で『融合』を手札に加え、発動!!」

 

 十代LP25→13

 融合するのはハネクリボーとセイヴァー・ドラゴン。

 現れるのは――

 

 

 マアト☆10光ATK/DEF?/?

 

 

 現れるのは、千年アイテムを携えた神官。

 何だ、と影丸が呻いた。

 

「何だそのモンスターは!?」

「マアトの効果発動! カード名を一つ宣言し、デッキトップをめくる! それが宣言したカードだった時、そのカードを発動し、続けて効果を使用できる! 更に成功するたびに攻撃力が1000アップする!」

「不確かな可能性に頼るというのか!?」

「不確かなんかじゃない! 祇園は奇跡を起こした! 美咲先生は命を懸けた! なら俺は、俺のデッキを信じて二人に恥じないデュエルをする!!」

 

 臆することはない。このデッキは自分が信じたデッキだ。ならば、答えはわかり切っている。

 

「一枚目! 『E・HEROバーストレディ』!!」

 

 引いたカードはバーストレディだ。そのまま、バーストレディが特殊召喚される。

 

「二枚目! 『禁じられた聖杯』! ウリアの効果を無効にする!」

 

 見える。道筋が。答えが。

 

「三枚目! 『サイクロン』! 失楽園を破壊!」

 

 怒涛の連続成功。それを見て、馬鹿な、と影丸が呻いた。

 背後、戦況を見守る者たちからも声が上がる。

 

「精霊の加護に加え、彼自身の豪運。成程、〝ミラクル・ドロー〟とはよく言ったものだ」

「無茶苦茶だな。だが、十代らしい」

「当然ッスよ!」

 

 誇らしげに語るのは、彼をアニキと慕う一人の少年。

 

「アニキのドローは――最強だ!!」

 

 奇跡のドローの担い手が。

 闇を切り裂く、光を紡ぐ。

 

「四枚目!! 『ミラクル・フュージョン』!! 場と墓地のバブルマン、クレイマン、フェザーマン、バーストレディで融合召喚!! 来い、『E・HEROエリクシーラー』!!」

 

 E・HEROエリクシーラー☆10光ATK/DEF2900/2600→3500/2600

 

 現れるのは、四大属性の全てを備える究極のヒーロー。

 大徳寺が十代を最強の錬金術師と評した、その理由。

 

「そして最後だ! 賢者の石―サバティエルは三回使用された後、モンスター一体の攻撃力を相手フィールド上のモンスターの数だけ倍にする!! お前の場には〝三幻魔〟とトークンが二体、攻撃力は五倍だ!!」

 

 E・HEROエリクシーラー☆10光ATK/DEFATK/DEF3500/2600→17500/2600

 

 賢者の石が姿を変え、光の剣となる。

 

「攻撃力――17500だと!?」

「バトルだ! 影丸理事長! あんたの野望もここで潰える!!」

 

 そして、エリクシーラーの一撃がラビエルへと放たれ。

 永い長い戦いが、ようやく終わりを迎えた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 全てが終わった後。残されていたのは、干からびた老人だけだった。

 羨ましかったと、彼は語る。生徒たちを見守るうちに、無限の可能性を持つ者が羨ましくなった。

 

「あなたの理由なんて、正直どうでもいい」

 

 宗達に体を支えられながら、祇園は影丸へとそう言い放った。

 

「ただ僕は、生涯あなたを許さない」

 

 それは、譲れぬ一線。

 多くが傷ついたし、傷つけられた。その原因でもあるこの人物を、祇園は許すことはない。

 

「……それを聞いて、少し安心した」

 

 影丸は、小さく呟いた。

 そして、この場の全員へと頭を下げる。

 

「――すまなかった」

 

 それが、決着。

 ヘリで運ばれていく影丸。それを見送っていると、不意に声が聞こえた。

 振り返る。そこでは、薄く目を開けた少女が。

 

 駆け出す。転ぶ。周囲の声を置き去りに。

 ただ、その少女の下へ。

 

「ただいま」

 

 その少女は、優しく微笑んでいて。

 だから、こちらも笑顔で。

 

 

「――おかえり」

 










少年たちが紡いだ奇跡。
一つの旅が、ようやく終わる。




というわけで、セブンスターズ編完結です。
いやー、長かった……。
二期に移る前に色々と小ネタがある予定なので、またよろしくお願いします。

どもども、ありがとうございました。

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