遊戯王GX―とあるデュエリストたちの日々―   作:masamune

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第五十一話 代表戦、開幕

 

 

 授業も終わった放課後。夢神祇園はいつものように購買部で仕事をしていた。この時間に食堂を訪れる者は友人と適当に喋りに来る者ぐらいしか普通はいない。故にこの時間は明日の準備と商品の陳列が終われば事実上の休憩時間になる。

 しかし、今日に限っては食堂の隅に普段は見かけない姿が集まっていた。

 

「だから、そこは二次関数――要するに因数分解だっつんてんだろ。ここでXを求めて、で、その後Yを求めるんだよ」

「え、けどそれだとXの答えが二つになるぜ? おかしくねぇ?」

「その場合はそれぞれに対応するYを出すんだよ、十代くん。この場合の答えは二つ。ただ、こっちの答えの場合条件から外れることになるから、結局答えは一つになるけど」

「…………?」

「いやオマエ、顔凄いことになってんぞ」

「祇園くん、ここがわかんないッス……」

「あ、うん翔くん。えっと、化学かぁ……。これは元素記号の丸暗記しかないなぁ……」

 

 正直暇なので、祇園はその集団に参加している。そこにいるのはレッド生たちだ。この間の追試を突破できず、追々試になったものである。

 ちなみに如月宗達はちゃんと追試を突破したのだが――全身海水に濡れた状態で試験を受けた――十代は見事に落ちた。まあ、試験前日にあんなことをしていては仕方ないかもしれないが。

 

「勉強教えてくれっつーから教えてやってんのに、こうも覚えが悪いとこっちのやる気が持たん。オマエ同じミス何度目だよ?」

 

 呆れた調子でそんなことを言うのは宗達だ。その視線の先にいる十代は、うぐっ、と唸った後、勢いよく立ち上がる。

 

「だーっ! もうわけわかんねぇよ! 大体何なんだよXとかYとかZとか! 数学なのに英語出してくんなよ!?」

「……オマエ、よくここに合格できたな」

「十代くんはクロノス先生に勝ってるから、実技は凄いもんね。それこそ座学をカバーできるぐらいに」

 

 苦笑しつつ祇園がフォローを入れる。おっ、と十代が目を輝かせた。

 

「そうだよな祇園! 俺はやっぱ実戦派だぜ!」

「だが学生の本分は勉強だ。正直因数分解なんざ将来何の役に立つのかわかんねぇこと筆頭だが、やれって言われてる以上やるしかねぇだろ」

「宗達くんが言うと説得力皆無だけどね。いつもサボってるのに」

「「「同感だな」」」

「……テメェらこっちの会話に耳傾けてる余裕あんのか?」

 

 その場のレッド生全員が頷き、宗達が額に青筋を作る。だが、宗達は確かにこのメンバーの中では最も出席率が悪い。その彼が『勉強が学生の本分』という言葉を吐くのは確かに違和感がある。

 まあ、そんな状態でもちゃんと人並み以上のことはできるのだから大したものなのだろうとは思うが。

 

「とにかく、追試は合格しないと。美咲も心配してたんだから」

「美咲先生が?」

「うん。『レッド生の中では十代くんが一番危ないから、ゴメンやけど勉強見てあげて』って言われてるよ」

 

 だから勉強、と十代の目の前に広げられた参考書を祇園は指差す。うう、と十代が呻いた。

 

「ちくしょう……、因数分解なんてできなくても何も問題ないだろ……」

 

 ブツブツと呟く十代。祇園はため息を吐くと、そういえば、と言葉を紡いだ。

 

「今は数学だけど、さっきは英語をやってたよね? 十代くんの追々試って何科目なの?」

「…………」

 

 問いかけると、十代が露骨に目を逸らした。くっく、と隣から忍ぶような笑い声が聞こえてくる。そのまま、その笑い声の主は十代へと問いかけた。

 

「十代オマエ、苦手科目は?」

「……数学と英語と現国と科学と物理と――……」

「要するに体育以外だな?」

「い、いやDMも得意だぜ!?」

「本当オマエ、よく入学できたな」

「ここまでなんて……」

 

 呆れた宗達の言葉に流石に同意する。勉強嫌いといっても、まさかここまでとは。

 

「まあ、みっちり叩き込んでやるから覚悟しろ。もういっそ暗記だなコレは。それしかねぇ」

「高等数学はある意味で暗記だからね。その方がいいかもしれない」

「ああ。高校の勉強なんざ最後は暗記で平均点ぐらいは取れる。つーわけでだ、十代。――覚悟しろよ?」

「うぐぐ……!」

 

 悪意が滲み出てくるような宗達の笑顔に、十代が呻く。そして宗達が十代の解答に対して言葉を紡ごうとした瞬間、校内放送が流れた。

 

 

『オシリスレッド一年、遊城十代、如月宗達、夢神祇園の三名は至急校長室へ来てください』

 

 

 いきなりの呼び出しに、えっ、と三人で顔を見合わせる。翔や隼人たち、他のレッド生も困惑していた。

 

「三人とも、何かしたッスか?」

「心当たりはないけど……特に何かがあったわけでもないし」

「二人はどうなんだな?」

「ブルーの奴らと喧嘩したぐらいじゃね? つってもあんなんいつものことだけど」

「俺は心当たりないなぁ」

「嘘吐け。オマエこの間俺と一緒にブルーの阿呆共と揉めてデュエルしただろうが」

「……とりあえず、あの二人は心当たるがあるみたいなんだな」

「あはは……」

 

 苦笑するしかない。宗達はいつものことだが、十代は十代で非常に目立つ生徒だ。それ故に本人が意識していない部分でのトラブルが実は結構ある。

 だが、宗達の言うようにそんなことは――良くないことでは勿論あるが――いつものことである。となると、呼び出しは別件のような気がする。

 

「まあ、とりあえず行ってくるよ。――トメさん。少し行ってきます」

 

 購買部の責任者であるトメへと祇園は声をかける。ええ、とトメが頷いた。

 

「行ってらっしゃい、祇園ちゃん」

 

 何故かその表情はご機嫌だった。祇園は首を傾げつつ、十代と宗達の二人と共に食堂を出る。

 ふと外を見ると、雲一つない晴天だった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「しっかし、俺と十代ならともかく何で祇園が? オマエ、何かしたのか?」

「おい宗達、俺だって心当たりないぞ」

「オマエはある意味で俺以上にブルーからは敵視されてんだから自覚しろ」

「うーん、心当たりはないけど……」

 

 正直、記憶を掘り起こしても何も浮かんでこない。いつも通り過ごしていたし、特に問題は起こしていないはずだ。

 宗達はそっか、と頷くと、じゃあ、と言葉を紡いだ。

 

「オマエは別件かもな。ほら、あれだ。復学の件とか」

「……そう、なのかな」

 

 自分でもそうではないかと思っていたことを言葉にされ、祇園も考え込む。一度退学となり、そして戻ってきた自分。やはりそれは異例の事であり、そのことについての呼び出しなら納得できる。ただ――

 

(まだ僕は、何も決められていない……)

 

 条件を満たした後、どちらへと向かうのか。それを祇園は未だ決められずにいる。

 考え込むと泥沼に嵌ってしまい、いつも答えを出す前に打ち切ってしまうのだ。

 

「オマエが何に悩んでんのかは、何となくわかるけどよ」

 

 不意に、宗達がそんな言葉を口にした。前を歩いている彼は、振り返らずに言葉を紡ぐ。

 

「後悔しなけりゃ、それでいいんじゃねーの?」

「……難しいよ、それは」

 

 そう、難しい。

 選択とはいつだって突然で、そして、身を切るようにして訪れるのだから。

 

「祇園、何か悩んでんのか?」

「……ちょっと、ね」

 

 十代の問いかけに、曖昧に頷いて応じる。だったらさ、と十代が言葉を紡いだ。

 

「困ったら声をかけてくれよ。手を貸すから」

「うん。ありがとう」

 

 そう言ってくれる友人がいることが、本当に嬉しくて。

 自然と、笑顔になる。

 

「まあ、あれだ。オマエの人生だろ? オマエが決めろよ」

 

 そして、突き放すようでいて、しかしその本質は大きく違う友人の言葉。

 頷きを返し、その背を追うようにして目的地へと向かう。

 

 ……〝答え〟は、未だ出そうにない。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 校長室の前に出ると、自然と十代と宗達の二人が祇園を前へと押し出した。祇園は苦笑しつつ、校長室のドアをノックする。

 

「オシリスレッド一年、夢神祇園です」

『どうぞ、入ってください』

「失礼します」

 

 返事が返ってくることを確認し、扉を開ける。部屋に入ると、椅子に座っていたのは鮫島校長だ。その隣にはクロノスと響緑の教員二人がいる。

 

「……校長室ってああやって入るんだな」

「……いつも蹴破るぐらいのノリで入ってたから知らなかったぜ」

 

 背後からそんな声が聞こえてきたが、とりあえず無視。鮫島がよく来てくれました、と笑顔を浮かべた。

 

「実はあなたたち三人に、頼みたいことがありまして」

「頼みごと? 何だ校長先生?」

「ドロップアウトボーイ、敬語を使うノーネ」

 

 十代が首を傾げ、クロノスがそれを叱責する。いつも通りの事なのでとりあえずスルーが正しい。

 

「ええ。毎年行われている我が校とアカデミア・ノース校との代表戦は知っていますか?」

「え、何だそれ?」

「あー、中等部にいた時なんか聞いた記憶が……」

「伝統行事ですよね。えっと、確か年間行事予定にも載っていた気がします」

 

 三者三様の返答に、鮫島も苦笑する。緑が実は、と一歩前に歩み出ながら言葉を紡いだ。

 

「来週の日曜日に行われるんだけど、あなたたち三人にはそれに代表として参加して欲しいのよ」

「え、マジかよ緑さん!? 他校の奴とデュエルできるのか!?」

「ええ。去年までは一対一だったんだけど、今年は三人ずつに形式が変更されたの。あなたたちなら問題ないはずよ」

 

 十代の言葉に、微笑して頷く緑。十代は楽しそうな笑みを浮かべているが、祇園と宗達はそうではない。

 代表戦に選ばれる。それは光栄なことだ。アカデミア本校の看板を背負うことになるのだから。

 だが、何故この三人なのか。そこに疑問が残る。

 

「質問」

 

 不意に宗達がそう言って軽く手を挙げた。なんでしょう、と鮫島が問いかけると、面倒臭そうに宗達は言葉を紡ぐ。

 

「何で俺たちなんだ? こう言っちゃあれだが、カイザーに参加させんのは鉄板だろ?」

「それについては少し事情があるのよ。今回、あちらの代表は三人とも一年生。それに合わせよう、って話になって」

 

 そう言ったのは緑だ。成程、と祇園は思う。そういう条件ならカイザーこと丸藤亮は下げざるを得ないだろう。条件の摺合せは大事なことだ。

 

「それに、丸藤くんは去年の代表戦で勝ってるから。できれば違う生徒に参加して欲しいって考えもあっての事よ」

「三人なのは?」

「今回は例年とは違い、アカデミアのアピールも兼ねてテレビ放送が行われることになったノーネ。そこで一対一では盛り上がりに欠けると三対三の形式がとられることになったのでスーノ」

 

 その言葉に、流石に驚く。テレビ放送。まさかそんな大事になっているとは。

 だが、確かに来年の新入生に向けたアピールという意味では重要だ。そろそろ願書提出の時期でもあるし、経営者側はそういったことを考えているのだろう。

 

「じゃ、最後の質問。――何故、俺たちだ?」

 

 空気が、僅かに軋んだ気がした。

 宗達は真っ直ぐに鮫島を見据え、言葉を紡ぐ。

 

「このアカデミアの売りっつったら寮制だろうが。普段散々威張り散らしてるブルー生にでも出させりゃいいだろ。こう言っちゃなんだが、俺ら三人ともレッド生だ。いいのか、そんなん人前に出して」

「……まず第一に、キミたちを選んだのは私たち教員です。その中でも如月くん、キミは満場一致で決定しました」

 

 宗達の眉が跳ね上がる。鮫島は更に続けた。

 

「キミは単身でアメリカに乗り込み、プロライセンスを勝ち取った。ここは学校です。故に強さだけではまかり通らないことも多くある。しかし、プロは逆。実力さえあれば、強くあることさえできるならばありとあらゆる栄光を手にできる」

 

 学校とは社会に出る前のモデルケースである。しかし、実際は大きく違う。

 結局のところ、『結果』というものを示し続けることでしか世界で生きていくことができないのに対し、学校はむしろそういった存在を排除する傾向にさえある。

 それを『甘え』と呼ぶ者もいれば。

『現実』と、そう呼ぶ者もいる。

 ただ、社会を知る教員たちはその社会のルールに則って宗達を選んだというだけ。

 

「キミの実力は現アカデミアで間違いなくトップクラス。それはキミ自身が証明してきた実績が物語っています」

「……はっ。くだらねぇ。だから出ろってか? 散々、人に喧嘩売っといて」

「それに対して今更お互いに語ることはないでしょう。キミも私も、その部分でわかり合うことはありません」

 

 空気が重い。十代も祇園も、何も言えずに睨み合う二人を見つめている。

 

「断るというのであれば、残念ですが仕方ありません。如何ですか?」

「……チッ」

 

 舌打ち。それと共に、宗達は鮫島へと背を向ける。

 

「話はそれだけか? なら、俺は帰るぞ」

 

 そのまま、宗達は校長室を出て行った。ふう、と緑が息を吐く。

 

「彼は参加してくれそうですね」

「ええ。どうにか、ですが」

「普段の生活には問題しかありませんが、実力は確かでスーノ」

 

 緑の言葉に鮫島とクロノスが頷く。言いたいことは、祇園にもなんとなくわかった。

 誤解されやすいが、宗達は基本的に義理は果たす人間だ。満場一致――そのことに対して背を向けるようなことはおそらくしないだろう。

 

「あの……」

 

 だからこそ、祇園は疑問に思う。

 どうして、自分がここにいるのかと。

 

「僕なんかで……いいんですか?」

 

 遊城十代。如月宗達。この二人の実力は本物だ。アカデミアでも間違いなく上位にいる。

 だが、祇園は違う。確かに弱くはない。しかし、彼の強さは未だ足りないモノが多過ぎるのだ。

 なのに、何故?

 

「キミは〝ルーキーズ杯〟準優勝者です。遊城くんよりも実績は上ですよ?」

「で、でも……その、十代くんとの戦績は、決して良くは……」

 

 授業における十代と祇園の戦績は、圧倒的に十代の勝ち星の方が上だ。あの時だってギリギリの攻防で勝てただけで、十代とのデュエルはいつだって必死に食らいついている。祇園はどんな時も『挑戦者』なのだ。

 そして、祇園が挑戦する相手は十代だけではない。明日香や雪乃、三沢を中心に祇園が自身よりも強いと思う相手は大勢いる。なのに――

 

「確かに、キミの選考については揉めた部分はあります。ですが、それでもキミを我々は我が校の代表として選びました。――胸を張ってください」

 

 胸を張る、という言葉を前に。

 祇園は、何も言えなくなった。、

 

 

 

 

 

 ――校長室を出る。ふう、と意識しないままに吐息が漏れた。

 

「頑張ろうぜ、祇園!」

 

 十代が笑みを浮かべ、拳を突き出してくる。それに拳を合わせながら、うん、と祇園は頷いた。

 

「ただ、その前に十代くんは追試だけどね」

「…………思い出させないでくれよ」

 

 がっくりと肩を落とす十代に、苦笑を零し。

 

「……頑張るよ。頑張る」

 

 小さく、夢神祇園は呟いた。

 

 

 …………。

 ……………………。

 ………………………………。

 

 

「大人になると、詭弁が上手くなってしまうものですね」

 

 緑とクロノスが仕事のために出て行った校長室。そこで、鮫島はポツリと呟いた。

 代表戦――実を言うと、祇園に関しては他にも候補者がいた。それこそラーイエローのトップでもある三沢大地や、オベリスクブルーの筆頭格、天上院明日香と藤原雪乃。注目の生徒としては最近成績を上げてきた神楽坂などがいる。

 だが、この場合は彼を選ぶことが最良の選択だ。

 実力がないとは言わない。しかし、この場合は実力以外にも彼には要素がある。

 

「桐生さんは最後まで反対していましたにゃー」

「ええ、そうでしょう。その気持ちもわかります。ですが、これが最良なのです」

 

 ソファーに座っている人物――大徳寺の言葉に、鮫島は重々しく頷く。

 テレビ放送。そうなればどんな結果になろうと、どんな試合運びになろうと世間からの評価が降り注ぐ。生徒たちがそんなことを求めていなくても、だ。

 そしてその時、祇園が出場せず別の者が出ていたら?

 そしてその生徒が敗北したならば?

 こちらは実力で選んだと思っていても、世間は決してそうは見てくれない。そしてその時に晒されるのは、敗北したその生徒だ。

 

「世間は人を見ていない。見ているふりをしているだけ。だから、残酷なことも平気で言えるですにゃ」

「守るためとはいえ、これも苦渋の決断です」

「苦渋であろうとなんであろうと、決断したのであればもう背負うしかありませんにゃー」

 

 大徳寺が立ち上がる。その腕に抱かれた一匹の猫が、小さく鳴き声を上げた。

 

「ただ、彼も理解してるはずですにゃ。勝つこと、強くなること――それだけが正義だと。ある意味では、如月宗達よりも」

 

 大徳寺が部屋を出て行く。鮫島は、ふう、と息を吐いた。

 

「どうにも、ままならない」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「なー、祇園。見に行かんでええの? ノース校の人たち来とるのに」

「ノース校の人たちが来てるってことは、ここも利用してもらえるって事でしょ? それなら、準備ぐらいはしておかないと。試合中は流石に来れないし」

「そっかぁ」

「そういう美咲は良いの? 今日はオフだって聞いてたけど」

「家、というかあのボロアパートにおっても仕方あらへんしなぁ。見に来たんよ」

「そっか」

 

 購買部のスタッフぐらいしかいない食堂に、二人の会話が響く。今日はノース校との代表戦だ。試合は午後から行われ、その模様はテレビ中継される。

 その後は両校の親睦会があるが、それは別の話だ。

 

「祇園ちゃんは何番目に出るんだい?」

「えっと、二番目です」

 

 トメの問いかけに、祇園は頷きながら応じる。今日のデュエルの順番は、話し合いの結果十代、祇園、宗達の順となった。二番目はある意味一番気楽なのでありがたい。

 

「そうかい。応援してるよ」

「はい。ありがとうございます」

 

 遠くで、何かの合図のような音が鳴る。

 

「お、来たみたいやね」

 

 美咲が、ポツリと呟く。

 ……試合開始の時間が、近付いていた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「去年は後れを取ったが、今年は負けませんよ」

「いえいえ、今年も勝たせてもらいますよ」

 

 潜水艦でアカデミアを訪れたノース校の生徒たちと同校の校長。バチバチと火花を散らし合う両校の校長だが、そんな空気もお構いなしに一人の生徒が言葉を紡ぐ。

 

「なぁ、俺の相手はどいつなんだ?」

 

 遊城十代である。彼は楽しそうな笑みを浮かべ、潜水艦の方へと視線を向ける。するとノース校の生徒たちの人垣が割れ、一人の生徒が歩み出てきた。

 

「――俺だ」

 

 聞き覚えのある声と共に現れたのは、一人の男子生徒だ。黒いコートに身を包むその人物に、えっ、と十代が驚きの声を漏らす。

 

「ま、万丈目!? ノース校の代表は万丈目なのか!?」

「おい、さんを付けろ!」

 

 そう言って歩み出てきたのはガタイの良い生徒だ。構わん、と万丈目が言葉を紡ぐ。

 

「俺たちの強さは俺たち自身が証明すればいい。久し振りだな、遊城十代」

「あ、ああ。けど、まさか万丈目がノース校に行ってたなんて……」

「ふん。そんなことはどうでもいい。……それよりもだ。お前たちの代表は他に誰がいる?」

「如月宗達と夢神祇園だ、万丈目」

 

 久し振りだな――そんな言葉と共にそう捕捉をしたのは三沢だ。成程、と万丈目が頷く。

 

「貴様がこんなところにいるのは珍しいと思ったが、そういうことか。――如月宗達ッ!!」

 

 万丈目が鋭い視線を飛ばす。その視線の先にいるのは、ベンチに座る一人の男。

 激しい感情を滾らせる万丈目とは対照的に、その人物はどことなく気怠げだ。

 

「俺は帰って来たぞ! 如月! 貴様に今度こそ勝利するために! 忘れているなら教えてやる! 俺の名は! 一!!」

 

 宗達を指差しながら、高々と宣言する万丈目。それに追従するように、ノース校の生徒たちが声を張り上げた。

 

「「「十!! 百!! 千!!」」」

「万丈目サンダー!!」

「「「サンダー!!」」」

 

 大合唱に、流石の十代たちも気圧される。だが、宗達は再び欠伸を零すときっぱりと言い切った。

 

「チェンジで」

「貴様ァ!!」

 

 あんまりといえばあんまりな宗達の言葉に、万丈目が吠える。宗達は立ち上がると、まあいいや、と呟いた。

 

「とりあえず面は見たし、俺は先に行ってるぞ。じゃあな、万丈目」

「さん、だ如月!」

「俺に勝てたら考えてやるよ」

 

 じゃあな――そう言葉を遺し、立ち去っていく宗達。十代が、へへっ、と笑みを零した。

 

「楽しみだぜ万丈目。良いデュエルをしような!」

「ふん、どんなデュエルだろうと勝つのは俺だ。行くぞお前たち!」

 

 万丈目の号令を受け、動き出すノース校の生徒たち。

 あまりにも自然に人を従えるその姿に、十代は思わず凄ぇ、と呟きを漏らした。

 

 戦いの時が……迫っている。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 テレビ局のスタッフも到着し、着々と準備が進んでいく会場。その裏方では、変装した美咲がスタッフたちと言葉を交わしていた。

 

「なんだ、美咲ちゃんがいるなら実況をお願いすればいいのに。本社もさ」

「あはは、ウチは今日オフですから」

「ああ、そうなの? それなら仕方ないか」

「すいません。……あ、今日の司会って宝生さんなんですね」

「うん、最近は売れっ子になって来ててスケジュールが難しかったんだけどね」

「ほな、後で挨拶行かなアカンなぁ」

 

 ルーキーズ杯でも司会を務めた知り合いのアナウンサーを思い浮かべる。彼女なら確かにこういった催しでも普段通りに仕事をしてくれるだろう。

 

「ああ、そうそう。今日のスポンサーは万丈目グループなんだけど……」

「あれ? しゃちょーの発案やないんですか? あんま詳しくは聞いてへんのですけど」

 

 立ち去ろうとした背中に賭けられた言葉に首を傾げる。うん、とプロデューサーが頷いた。

 

「元々、何かをする予定ではあったらしいけどね。万丈目グループが金を出すなら、って丸投げしたみたいだよ」

「……こういうとこホンマ適当やなしゃちょー」

 

 呆れた声で言う美咲。だが、これで自分にあまり話がなかった理由がわかった。KC社が主導でないならそれはそれは情報も回ってこない。

 まあ、今回はスタッフ側ではなく観客として楽しめるということだろう。それならそれでありがたい。

 

「ほな、失礼します~」

 

 頭を下げ、部屋を出て行く。観客席に行こうかと思ったが、やめておいた。ノース校の生徒に騒がれると少し面倒臭い。

 そうなると、試合の様子を見れるロビーがベストだろうか。そんなことを思いながら歩いていると、大画面の前にあるソファーに座る二人の人物に気付いた。画面には何故か日曜日に毎週放送されている戦隊モノの映像が流れている。

 

「やはり、疑問だな。敵である以上初めから全力で叩き潰すのが得策ではないか? 幸い、数の有利はこちらにある」

「……しかし、相手の情報もありませんから……。探る、ということも必要なのではないでしょうか……?」

「ああ、成程。確かにそれもそうか。土壇場の最後っ屁は怖いものではある。能力の把握は大事だな」

「……それよりも、自分としては奇襲をかけないことの方が疑問です……。すでに敵が街を破壊している以上、言葉による説得は不可能ではありやせんか……?」

「それは私も考えたが、あれはおそらく注意を引きつけるという意味もあるのではないか? 彼らの目的は守ることだろう。それを怠るわけにはいかん」

「……成程、流石はお嬢サン……」

 

 ……とりあえず、女子高生とどう見てもその筋の人間である大男が子供向けの番組について真剣に議論している絵は色々とおかしい。

 

「……何してはるんですか澪さん、ギンジさん」

「む? おお、美咲くんか」

「……お久し振りです、桐生サン……」

 

 手をひらひらと振ってくる女性と、立ち上がって礼儀正しく頭を下げてくる男性。その二人に、美咲は思わずため息を漏らす。

 烏丸澪と烏丸銀次郎。共にプロデュエリストであり、特に姉の方は規格外そのもののようなデュエリストだ。

 

(……まあ、人がおらん理由は何となくわかったけど)

 

 この辺りにだけ人影がない理由。それは十中八九銀次郎が原因だろう。どう見ても一般人には見えないその顔を見ては、学生は近寄れない。

 

「で、何しに来たんです?」

「何をしに、とは愚問だな。観戦だよ。少年と遊城くんが出るのだろう? 家にいても寝るだけ、それこそテレビで試合を眺めるだけだ。それならば現地に来ようと思うのはおかしなことではないと思うが」

「いやまあ、別にそれはええんですけど。よく起きれましたね?」

「うむ。来る途中の船では寝ていたがな」

 

 はっは、と笑う澪。隣の銀次郎が苦笑しているところを見るに、おそらく彼が世話をしたのだろう。

 基本的にやればできるようなことは何でもこなすのが澪だが、家事を含め私生活は割とだらしない。

 彼女の同級生でもある二条紅里曰く『最強のニート』なので仕方ないといえばそうなのだろうが。

 

「いやしかし、助かったぞ美咲くん。会場に入ると私たちでは騒ぎになりかねん。どこか落ち着けるような場所はないかな、美咲くん? 通りがかった生徒にでも聞こうと思ったが、誰も通らないのでな。困っていたところだ」

「ああ、成程……。ゆーても、観覧席みたいなとこには先客いますしね……。万丈目グループのトップ二人と同室でもええですか?」

「む……、その二人だと不用意に近付くべき相手ではない気がするな。正式な場でないならば、お互いのためにならん」

 

 澪が眉をひそめる。まあ、確かにその通りだ。澪も万丈目の二人も共に背負った肩書きと立場がある。それがこういったイレギュラーな形で会うのは色々とリスクが大きいだろう。

 

「それやと、ここが一番かもしれませんね。色んな意味で」

「ふむ、キミが言うならそうなのだろうな。ギンジ、どうだ?」

「……自分はともかく、御嬢サンはあまり人前に出ない方がいいかと……」

 

 銀次郎が頷きながらそう言葉を紡ぐ。仕方がないな、と澪は息を吐いた。

 

「ならばここで観戦しようか。観客席には元々立ち入る気はなかったから、別に問題はないだろう」

「そうなんですか?」

「……御嬢サンは、人ごみが苦手なンで……」

「ああ、成程です」

 

 頷く。美咲も得意な方ではない。職業柄、そういうところに行くことは多いが。

 

「そういえば美咲くん。少年は一緒ではないのか?」

「祇園ですか? 今は別のとこですけど」

「そうか、残念だな。久し振りに会いたかったが」

「まあ、その内来ますよ。参加選手やし――」

 

 美咲が言い切る前に、廊下の向こうから話し声が聞こえてきた。見ると、随分と大所帯の集団が歩いてくる。

 その先頭にいるのは遊城十代。彼はこちらに気付くと、笑みを浮かべて軽く手を挙げてくる。

 

「お、美咲先生!」

「おはようさんや、十代くん。三沢くん、天上院さん、藤原さん、〝侍大将〟、丸藤くんに前田くんも」

「おはようございます」

「はい、おはようございます」

「ふふ、おはようございます」

「ういッス」

「おはようございますッス」

「おはようございますなんだな」

 

 それぞれの挨拶。その中で、なあ、と十代が首を傾げながら言葉を紡いだ。

 

「こんなところで何してるんだ? もうすぐ始まるぜ」

「ん、ああそれは――」

「――久し振りだな、遊城くん。見たところ、着実に成長しているようだ」

 

 笑みと共に紡がれた言葉に、えっ、と十代が声を漏らす。それに応じるように、澪が立ち上がった。十代の表情が驚きに変わる。

 

「って、〝祿王〟!? なんでここに!?」

「デュエルを見に来ただけだよ。特に他の理由はない。……ああ、そうだ丁度いい。紹介しておこうか。私の……まあ、弟のような存在の烏丸銀次郎だ」

「……初めまして……烏丸銀次郎です……」

 

 ゆっくりと立ち上がり、そのまま深々とお辞儀をする銀次郎。

 ――瞬間。美咲を除く全員が固まった。

 

「え、あ、え……」

 

 どこからどう見てもその筋の人間にしか見えない銀次郎を見て、その場の全員が硬直している。くっく、という笑い声が響いた。

 

「純粋だな、本当に」

「……御嬢サン、自分はどこかへ行った方が……?」

「大丈夫だ、ギンジ。……安心するといい。ギンジは別にキミたちが想像するような人間じゃあない。自分で言うのもなんだが、胡散臭さなら私の方が遥かに上だ」

「ホンマに自分で言うのもなんですねソレ」

 

 確かに胡散臭さでは澪の方が遥かに上だ。銀次郎はああ見えて小心者であり、大舞台に弱い傾向がある。

 まあ、見た目は色々とアレだが。

 

「……いや、ちょっと待ってくれ。烏丸銀次郎――もしかして、『東京アロウズ』の?」

 

 ふと、思い出したように三沢が言った。ハイ、と銀次郎は頷く。

 

「……末席では、ありやすが……」

「三沢くん、知ってるッスか?」

「ああ。『東京アロウズ』のプロ選手だよ。トリッキーな戦術を使うプロだ」

「えっ、おっさんプロなのか!?」

「十代、いくらなんでも失礼よ」

「ボウヤらしいけれど、ね」

「…………おっさん……」

 

 呟く銀次郎に微妙に影が差しているのは落ち込んでいるからだろうか。正直、傍目から見ているだけでも相変わらず怖い。

 まあ、悪い人間ではないことはわかっているので気にしない方がいいのではあると思うが。

 

「なぁなぁ、デュエルしようぜ!」

「こらこら。もうすぐ試合開始やろ?」

「十代、急がないとマズいんだな」

「げっ、マジか。あ、じゃあさ。終わったらデュエルしてくれ! あ、いやしてください!」

「……自分で良ければ、喜ンで……」

 

 にっこり。そんな形容詞が似合うような笑みを浮かべる銀次郎。

 ……うん。やっぱり怖い。

 

「じゃあ、行ってくる!」

 

 走り出す十代。それを見送り、他の者たちも観客席へと向かっていく。美咲もまた教職員用の席に向かおうとしたが、立ち去る直前に一つの光景が目に入った。

 烏丸澪と、如月宗達。

 互いに背を向けたまま、二人が言葉を交わし合う光景が。

 

「――少し見ないうちに随分と変わったようだな、坊や」

「こんなんじゃ、まだまだ足りやしねぇがな」

 

 空気が、僅かに軋む。

 その異様な雰囲気に、その場の全員がただ黙して見守っていた。

 

「成程、『捨てた』のか。面白い。それで私と同じ領域に立ったつもりか?」

「足りねぇのはわかってる。届かねぇことも理解してる。だが、必ずだ。必ずあんたを引き摺り下ろす。俺の目指すものは、その先にしかねぇんだ」

「その野望の果てに、何を望む?」

「俺の存在を証明する。俺はここにいるということを、俺がここにいたということを証明するんだよ」

 

 カツン、という靴の音が静かに響く。

 血塗られた道を歩むと決めた男は、静かに歩を進める。

 

「拍手はいらねぇ。称賛も必要ねぇ。欲しいのはあんたたちが持ってる称号だ。この手に確かに残るもんが手に入らないなら、それは敗北なんだよ」

「虚しいだけだぞ。こんなものを手に入れたところでな」

 

 ピン、という乾いた金属の音と共に、何かが宙を舞う。

 ――指輪。

〝祿〟の文字が刻まれた、〝王〟の証だ。

 

「手に入れなきゃ、それさえわかんねぇだろうが」

 

 そして、少年は立ち去っていく。

 小さく、その〝王〟は笑みを零した。

 

「ならば、私を殺しに来い。殺せるのであれば、な」

 

 大画面のテレビの中から。

 代表戦の始まりを告げる声が、響いてきた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

『それではこれより、デュエル・アカデミア本校とデュエル・アカデミアノース校の代表戦を行います。各校三人ずつの代表戦を行い、勝ち星の多い方が勝者となります』

 

 会場内に司会である宝生アナウンサーの声が響き渡る。同時に、歓声が轟いた。

 

『それでは、まずはアカデミア本校の一番手。オシリス・レッド所属。――遊城十代くんです』

 

 本校側の生徒から歓声が上がる。それに手を振り返しながら、十代がステージの上へと上がっていく。

 

『そして、アカデミアノース校の一番手。デュエルランキング二位、紫水千里(しみずちさと)選手です』

 

 そしてノース校の歓声と共に現れたのは、一人の少女だ。眼鏡を掛け、少し大きめのパーカーで身を包んでいる。ショートカットの茶髪と、縁の大きい眼鏡が印象的だ。

 

「へへっ、楽しいデュエルにしようぜ!」

「よろしくお願いします」

 

 二人が向かい合う。そして。

 

「「――決闘!!」」

 

 戦いが……始まる。

 

「先行は俺だ! ドロー! 俺は手札から『E・HEROエアーマン』を召喚! 効果発動! デッキから『E・HEROフェザーマン』を手札に加えるぜ!」

 

 E・HEROエアーマン☆4風ATK/DEF1800/300

 

 現れるのは、HEROにおいてエンジンとなるモンスターだ。十代は更に、と言葉を紡ぐ。

 

「更に『沼地の魔神王』を捨て、『融合』を手札に。カードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

「私のターン、ドロー。……手札より、『憑依装着―アウス』を召喚」

 

 憑依装着―アウス☆4地ATK/DEF1850/1500

 

 現れたのは、『霊使い』シリーズの少女たちの一角だ。どことなく使い手の少女に似た、地の力を使う魔法使い。

 

「バトルです。――アウスでエアーマンに攻撃」

「くっ、リバースカードオープン! 罠カード『ヒーロー・シグナル』! 自分フィールド上のモンスターが破壊された時、デッキからレベル4以下の『E・HERO』を一体特殊召喚できる! 『E・HEROバブルマン』を特殊召喚! そしてバブルマンの効果で二枚ドロー!」

 

 十代LP4000→3950

 E・HEROバブルマン☆4水ATK/DEF800/1200

 

 現れるのは水のHEROだ。それを受け、成程、と千里は頷く。

 

「それでは、メインフェイズ2です。私は手札より、フィールド魔法『魔法族の里』を発動します」

 

 周囲の風景が、変わっていく。

 多くの観客が見守るものから、魔法使いたちの領域へと。

 

「魔法族の里がある限り、相手プレイヤーは私のフィールド上にのみ魔法使い族モンスターがいる時、魔法カードを使用することができません」

「なっ!?」

 

 十代が驚きの声を上げる。彼のデッキには魔法使い族モンスターが入っていない。つまり、魔法は封じられたということだ。

 

「私はカードを二枚伏せ、ターンエンドです」

「俺のターン、ドロー!」

 

 魔法を封じられた――それはつまり、『融合』を封じられたということだ。正直、十代にこの状況はかなり辛い。

 だが、罠カードは使用できる。ならば、そこから突破すればいい。

 

「――スタンバイフェイズに、このカードを発動します」

 

 だが、相手は更なる一手を打ちこんでくる。

 

「永続罠、『王宮のお触れ』。罠カードは全て無効となります」

 

 魔法と、罠が封じられた。

 ぐっ、と十代は小さく呻く。

 圧倒的な展開があるわけでも、強力なモンスターが向かってくるわけでもない。

 ただただ、『何もさせない』。そんな意思が、伝わってくるようだった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

(成程、『里ロック』か。随分と渋い手を使う)

 

 画面に映し出されたその光景を見、澪は薄く笑みを零した。飲み物でもと思って買いにきたが、成程面白いことになっている。

 融合によって繰り出されるHEROたちの力は強力だ。だが、それも『融合』あってのこと。この状況では十代が得意とする戦術は使えなくなったといっていいだろう。

 

(まあ、このまま潰されるのもまた経験ではある)

 

 コーヒーを飲みつつ、歩を進める。天性の引きがあっても、対応できるカードをデッキに入れていなければどうにもならない。どうするつもりか、実に楽しみである。

 

「……む?」

 

 不意に、向こうからは知ってくる人影が見えた。目を凝らす。

 ――そしてその人物の正体に気付くと、澪は思わず笑みを浮かべた。

 

「久し振りだな、少年。こうして直接会うのはとても久し振りな気がするよ」

「澪、さん?」

 

 そこに現れたのは、自分が興味を抱く数少ない人物。

 夢神、祇園。

 

 ――誰もいない廊下に、会場から聞こえてくる歓声が響き渡る。

 

 











デュエルに入れなかったです。すいません。







とりあえずまあ、祇園くんは相変わらず大人の都合で振り回されています。
ルーキーズ杯で目立ってしまった以上、他の生徒に比べて知名度があるので利用されちゃってますね。プロ入りの宗達くん、同じくルーキーズ杯で結果を残した十代くんの二人と一緒に出るとなると祇園くん一択なのが現実なんですよね……。興業の面を考えると特に。
世知辛いもんです、世の中は。


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