遊戯王GX―とあるデュエリストたちの日々―   作:masamune

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今回はリオ先生、まことにありがとうございます。


第四十五話 巫女姫の魔法、現代の刃

 

 

 

 冬休みも、終わりに近付いている。ふと、夢神祇園はそんなことを思った。

 正月も終わり――初詣は本当に大変だった。色んな意味で――新たな年を迎えた日。防人妖花に誘われて妖花の実家の神社を美咲や澪と共に訪れたり、KC社に呼ばれて実験的にデュエルを繰り返したりと忙しい毎日だった。

 未だ、祇園の中で答えは出ていない。本校に行くことは決まっているが、その後、進級できるようになってからどうするかは決めていないのだ。

 いくら考えても答えは出ない。そういう意味で、忙しかったこの期間は良かったのだと思う。

 考える時間がない。それは問題の先送りでしかないのは、わかっているのだが――……

 

「どないしたん、祇園?」

「んー、ちょっとね」

 

 美咲の言葉に、祇園は首を左右に振って応じる。今二人がいるのは東京の小さな喫茶店だ。祇園がKC社からの依頼でテストデュエルに参加したのだが、それを終えた後に共に参加していた美咲とこうして喫茶店に来ているのだ。ちなみに誘ったのは美咲である。

 テストデュエルには〝ルーキーズ杯〟の参加者がほとんど全員呼ばれ、新型デュエルディスクの開発のためにデュエルを繰り返した。主にシンクロによる処理の向上やエフェクトの確認のためだったらしいが、詳しいことは専門的すぎてよくわからなかった。

 とりあえず、報酬として金一封と新しいデュエルディスクを貰えることは本当にありがたい。未だに支給品のデュエルディスクを使っており、中学生の頃はテーブルデュエルが主だった。お金についても本当にありがたいと思う。

 

「まあ、疲れたしなぁ。澪さんなんか、終わったらすぐアメリカに向かってたし」

「大変だよね。アメリカの大会だったっけ?」

「スポンサーの関係で今回は断れんかったんやて。まあ、澪さん海外企業も結構スポンサー付いとるからな」

「スポンサーか……凄すぎてよくわからないなぁ」

「何言うとるんよ。祇園、この間話来たって聞いたで?」

「あれは話だけ、僕はついでだよ。丸藤先輩とか菅原先輩とか紅里さんとかが本命みたいだったから」

「祇園はまだなんやかんやで高校一年生やからなー。期待値上がりまくっとるけど」

「まあ、十代くんもいるしね。当たり前だけど十代くんの方が評価は高いって」

「あのドロー運はな、ちょっと賭けてみたくなるレベルや。未熟も未熟やけど、だからこそ期待値が凄いよ十代くんは」

 

 あはは、と笑う美咲。今の彼女は縁の大きな眼鏡をかけ、帽子を被った状態だ。流石に素顔の状態で街を歩いていたら色々と問題になる。

 

「十代くんはともかく、僕については過大評価で困ってるんだけどね……」

「大会の結果見てたら期待されるんもしゃーないやろ。あの参加者の中で準優勝なんやし。しかも一般参加枠で出て、周りに比べたら全く無名やったんやから」

「そうかもしれないけど、やっぱりね。注目されるのは慣れてないから」

「プロになったらそんな毎日やで?」

「あんまり想像できないなぁ……」

 

 苦笑を返す。正直、自分がプロになっている姿というのがあまり想像できないのが現状だ。目指しているし、目標でもあるが……それでも、想像が追い付かない。

 だが、そんなこっちの言葉が納得いかないらしく、美咲は頬を膨らませて言葉を紡ぐ。

 

「もう、そんなこと言うて。プロになるって約束はどうなるんよ」

「うん。それはわかってるよ。約束、だから」

 

 そう、約束。

 心の中にずっとある、大切なモノ。

 

「なら、ええんやけどな」

 

 その時、一瞬だけ美咲が見せた表情は。

 酷く……寂しげだった。

 

「まあ、今はそれでええか。ウチがプロになって三年や。まだまだ待てるしな」

 

 だが、そんな表情も一瞬。美咲は肩を竦める。祇園は出しかけた言葉を呑み込み、ごめんね、と言葉を紡いだ。

 

「随分待たせちゃってる」

「ええよ、『待つ』っていうんも案外悪くあらへんから。何ていうかな、悪くないんよ。待つ楽しさって、確かにあると思うから」

「……そっか」

「だから、どんだけ遅くなってもええから……待ってるよ?」

「うん」

 

 すぐに、応じることができた。

 それがどこか、嬉しかった。

 

「……そういえば、妖花ちゃんはどないしたん?」

 

 ふと思い出したように美咲が言う。ああ、と祇園は頷いた。

 

「テストデュエルが終わったところで用事があるってどこかへ行っちゃって……。一応、帰る時にはKC社の本社に戻って来るって言ってたんだけど」

「そうなんや。何やろ、用事って」

「急いでたみたいなんだけど……何だろう?」

 

 二人して首を傾げる。

 答えは、出る様子はなかった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 しばしば東京は森林がなく、コンクリートジャングルが広がっているというイメージを持たれやすい。確かに高層ビルが多く人も多いが、緑が全くないわけではない。中心部を外れれば森林を窺うことはできる。

 日本は狭いという。だが、人などちっぽけなものだ。ほんの少し足を伸ばせば、自らの知らないところに行くことができる。

 

「ここで良かったのか?」

「はい、ありがとうございます」

 

 バイクを停め、しがみつくようにして後ろに乗っていた少女へと新井智紀は問いかける。少女――防人妖花は少し大きめのヘルメットを脱ぎつつ、礼儀正しく頭を下げてきた。

 

「気にすんな。こっちは地元だしな」

「でも、一時間も乗せてもらって……」

「これぐらいいつものことだよ。つーかむしろ大丈夫か? 俺は慣れてるが、休憩ありとはいえ一時間しがみつきっぱなしは疲れただろ?」

「い、いえ大丈夫です!」

 

 ぶんぶんと首を左右に振る妖花。とりあえずその言葉に納得し、ヘルメットを受け取ってしまいこむ。妙なことになったもんだと思いつつ、それで、と新井は妖花へと言葉を紡いだ。

 

「地元民の俺が言うのもなんだが……というかだからこそ言うが、こんな寂れた神社に何しに来たんだ?」

 

 視線を向ける。そこにあるのは小さな神社だ。新井が小さい頃からある神社なのだが、随分と寂れている。幼い頃は入口にあった狐像を怖いとも思っていた。というか夜に見ると本当に怖い。

 妖花は苦笑を零すと、えっと、と神社の方へ視線を向けながら言葉を紡ぐ。

 

「この神社は私の仕える神様と縁がありまして。一度訪れておきたかったんです」

「へぇ……家は神社なのか」

「はい。見習いの巫女ですけど……」

 

 えへへ、と笑う妖花。それに対してこちらも笑みを返し、なら、と新井は言葉を紡いだ。

 

「行くなら済ませちまおう。この後戻らなきゃなんねーしな」

「え、でも、そこまでご迷惑をおかけするわけには……」

「ここまで来たらそこまで手間でもない。気にすんな。……てか、どの電車に乗ればいいかわからなくて焦りながら右往左往してた小学生とか放置できるわけないだろ」

「す、すみません……」

「気にすんな。ほれ、行くぞ」

 

 そう言うと、石段を登っていく。妖花はすぐに隣に追いついてきた。

 決して大きな神社ではないため、すぐに境内に入ることができる。やはりというべきか、人の姿はない。

 

(相変わらず寂れてんなぁ)

 

 大学生になってから一人暮らしをしているため訪れることはほとんどなくなったが、幼少期から高校を卒業するまで幾度となく訪れた場所だ。その時からこの雰囲気は変わらない。

 

「…………」

 

 妖花を見ると、お堂の前に立って両手を合わせ、静かに目を閉じている。どことなく素人のそれと違って雰囲気があるように見えるのは考え過ぎだろうか。まあ、本職なのだからやはり何かが違うのだろうとは思うが。

 鳥居のところまで下がり、新井は柱に背を預ける。冷たい風が吹き抜け、思わず体が震えた。

 どれぐらいの時間待ったのか。そう長くはなかったはずだが、気が付いた時には妖花がこちらに歩み寄って来ていた。

 

「終わったのか?」

「はい。色々と報告ができました」

 

 報告、とはどういう意味か。霊感もなければ別段信仰が厚いわけでもない新井としては言葉の真意はわからない。だがまあ、巫女というからには何かが〝視えて〟いるのだろう。

 にこにこと笑顔を浮かべている少女を見る。純粋な笑顔だ。

 子供特有。否、子供にしかできないモノ。

 

「よし、帰るか」

「はいっ!」

 

 子供の笑顔に対してこんなことを思うようになるとは、自分も年老いたな――そんなことを思う。

 それにしても彼女欲しかったなー、などと思いながら石段を降りようとする新井。最後に境内の方へ視線を向けたが、そこで人影を見つけた。

 

「あん? 珍しいな、人なんて」

「そうなんですか?」

「ガキの頃からここにゃ何度も――というよりほとんど毎日来てたが、参拝客なんざ数えるほどしか会ったことないぞ」

 

 よせばいいのに毎日学校に行く前に立ち寄り、少しでも強くなれるようにと願掛けをしていたことを思い出す。結局高校では芽が出なかったが、大学リーグで活躍できている今を考えると願いは通じたのだろうかとも思う自分がいる。

 まあ、それよりもだ。とにかくここには人気がない。だというのに、人影――それも15、6程度の少年とは妙なこともあるものである。

 

(しかもありゃ、デュエリストか)

 

 鞄からデュエルディスクが微妙にはみ出している。別に珍しいものではないが、やはり目が行くのはデュエリストの性か。

 

(ま、どうでもいいわな)

 

 とはいえ、関係ない赤の他人だ。特に興味はない。故に帰ろうとしたのだが――

 

「……赤い、竜……?」

 

 ポツリと、隣の妖花が呟いた言葉と。

 それに反応し、こちらへ鋭い視線を向けてきた少年の姿を見て。

 

 ……面倒臭ぇなぁ、とそう思った。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

〝ソレ〟が目に入ったのは、一瞬だった。

 圧倒的な存在感。普段から多くの精霊を目にし、その存在を感じ、言葉を交わし合うことができる妖花は〝精霊〟というものに対して耐性の様なものがある。元々の素養もあるが、妖花は『存在に圧倒される』ということがないのだ。

 精霊は神と同一視されることもあるほどに強力な力を持つ存在だ。人前に現れる〝彼ら〟は基本的に人に害をなす意思はなく、また害を及ぼすほどに大きな力を持たないためにそこまで害はない。だが、一部とはいえ悪意持つ精霊や存在するだけで周囲に影響を及ぼすほどの力を持つ精霊も確かに存在する。

 妖花はそういった存在を数多く見て来たし、巫女として受け入れることもしてきた。一度だけだが、〝神〟と同格の存在を自身の身に降ろしたこともある。

 ――だが、一瞬とはいえ視えたものはあまりにも『違って』いた。

 見ているだけで冷や汗が流れてくるほどの力。まるで何もかもを背負い、宿しているかのような力。

 美咲や祇園が持つ特別な〝竜〟からも力を感じたが、それとは明らかに違う。同質でありながら、力の絶対値が違い過ぎる。

 

「おい、お前」

 

 少年の視線がこちらを射抜き、体が震えた。それに気付いているのかいないのか、少年はこちらへと躊躇なく歩み寄ってくる。

 

「デュエル、しろよ」

 

 そして、少年は鞄からデュエルディスクを取り出しながらそう宣言した。驚き言葉を返せないでいる自分。その目の前に、優しく手が差し出される。

 

「随分といきなりだな。最近のガキは礼儀も知らねぇのか」

 

 新井だ。こちらを守るように割って入り、少年を睨み付けている。少年は新井へと視線を向けると、先程までの雰囲気が嘘のようにすまない、と静かに頭を下げた。

 

「俺の名は不動遊貴。すまないが、俺とデュエルしてくれないか?」

「……まあ、デュエリストがデュエルを挑むのは当たり前だが。俺は新井智紀。で、こっちは――」

「防人妖花です」

 

 静かに頭を下げる。自然と、神前にいるような気分になっていた。

 目の前の遊貴という少年に対してではない。彼の背後に控えている〝何か〟に対してだ。

 

「で、デュエルだが……」

「私が相手でよろしいでしょうか?」

 

 新井の言葉を遮るように妖花が言うと、遊貴は頷いた。妖花はバッグから小型のデュエルディスク――試作品で、今日テスト用としてもらった――を取り出すと、デッキをセットする。

 ふう、と新井が横でため息を吐いた。そのまま、しゃーねぇ、と肩を竦める。

 

「デュエリストがデュエルすんのは当たり前だ。……頑張れよ」

「はいっ」

 

 頷き、遊貴と向かい合う。遊貴もデュエルディスクを構え、一度息を吸った。

 ――そして。

 

「――決闘!!」

 

 不可解な感覚を抱えたまま。

 デュエルが、始まった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 先程見たものは何だったのか。それを確かめるという意味も含め、妖花はデュエルディスクを構える。

 力持つ存在が妖花の前に現れることは珍しくない。〝巫女〟――精霊や神々と言葉を交わし、人との架け橋になるという役割は理解している。

 故に、理由があるはずなのだ。きっと。

 自分の目の前に、こんな場所で偶然現れたことには。

 

「先行は俺だ。ドロー。……モンスターをセット。カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

 遊貴の立ち上がりは静かだ。デッキがわからないのが不安だが、やれることは決まっている。

 

「私のターンです。ドロー」

 

 手札を見る。大会を終え、多くの人と出会い、妖花は新たなデッキを作った。

 この間準優勝した大会で手に入れた二枚のカード。それを主軸としたデッキを組んだのだ。今日のテストではかなり驚かれたが、同時に気に入っても貰えた。

 エクゾディアとは違う、打ち合うためのデッキ。

 

(相手がいなかった時は、相手がいなくても一人で回せるデッキを作っていました)

 

 それしか持っていなかったということもあるが、エクゾディアを組んでいた理由はそれだ。相手がいなくても回すことのできるデッキはそう多くない。

 だが、今は違う。向き合い、戦うことのできる人たちができた。

 だから――

 

「私は手札より魔法カード『グリモの魔導書』を発動します。一ターンに一度しか発動できず、デッキから『魔導書』と名の付いたカードを一枚手札に加えます。私はフィールド魔法、『魔導書院ラメイソン』を手札に加え、発動です」

 

 妖花の背後に、巨大な塔のような建物が出現する。魔導書院――多くの英知が集う、魔導師たちの聖地だ。

 

「そして手札より『魔導召喚士テンペル』を召喚!」

 

 魔導召喚士テンペル☆3地ATK/DEF1000/1000

 

 現れたのは、茶色のローブで全身を包み、顔さえも隠した魔導師だ。両手に持った魔法具から、白い煙が漂ってきている。

 

「テンペルの効果を発動します。魔導書を発動したターン、このカードを生贄に捧げることでデッキからレベル5以上の光か闇属性の魔法使いを一体、特殊召喚します。この効果を使うターン、私は他にレベル5以上のモンスターを特殊召喚できません。――テンペルを生贄に捧げ」

 

 テンペルが呪文を詠唱し、その姿が光に包まれる。その身を以て高位の魔術師を呼び出す力は、単純であるが故に強力だ。

 

「来てください。――ブラック・マジシャン・ガール!!」

 

 ブラック・マジシャン・ガール☆6闇ATK/DEF2000/1700

 

 現れたのは、かつて〝決闘王〟も使用した超レアカード。

 DMにおける最高の魔術師、その唯一の弟子たるモンスター。

 

「ブラック・マジシャン・ガールだと……!?」

「まー、驚くよなー……。俺らもブッたまげたし」

 

 驚きの声を上げる遊貴と、苦笑しながら呟く新井。妖花は笑みを浮かべ、バトルです、と宣言した。

 

「ブラック・マジシャン・ガールでセットモンスターを攻撃! ブラック・バーニング!!」

「くっ……! セットモンスターは『幻獣機ハムストラット』だ。戦闘で破壊されるが、リバース効果により幻獣機トークンを二体特殊召喚する」

 

 幻獣機ハムストラット☆3風ATK/DEF1100/1600

 幻獣機トークン☆3風ATK/DEF0/0

 幻獣機トークン☆3風ATK/DEF0/0

 

 現れたのは、戦闘機のようなモンスターだった。ガールの攻撃によって吹き飛ぶのだが、その代わりに幻影のようなモンスターを二体、残していく。

 トークン自体は珍しいものではない。『スケープ・ゴート』が有名だし、『終焉の焔』といったカードもある。だが、『幻獣機』というカテゴリーにはあまり覚えはない。

 

「私はカードを一枚セットし、ターンエンドです」

 

 いずれにせよ、これ以上できることはない。妖花はターンエンドを宣言する。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 未だ底を見せないままに。

 不動遊貴が、カードをドローした。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 世界最強のデュエリストといえば、かの〝決闘王〟を誰もが思い浮かべるだろう。神のカードを従え、数多の大会で勝利し続ける行ける伝説。

 そんな彼は数多くのカードを使用してきたが、その彼の相棒といえば『ブラック・マジシャン』を誰もが挙げることだろう。

〝決闘王〟永遠のライバルにしてKC社社長、海馬瀬人が持つ『青眼の白龍』とも幾度となくぶつかり合ってきた最強の魔術師。それ故か、ブラック・マジシャン及びその関連カードの値段は軒並み高く、『ブラック・マジシャン・ガール』に至っては彼以外のデッキには入っていないと言われるぐらいだ。

 その理由は単純で、そのレア度とサポートカードの高さ故にだ。単体で持つ者は多かろうが、使用できるレベルでデッキを組める者がいないのである。

 それに挑戦するようにデッキを組んだのが、防人妖花だ。

 まるで神に愛されたかのような天性のドロー運を武器に、彼女は周囲の協力を得てデッキを組み上げた。魔法使いたちによるデッキ――それが実戦レベルなのかどうかは、新井自身が身を以て理解している。

 故にそこまで心配はしていない。だから、問題は別にある。

 

「『幻獣機』とはまた珍しいカテゴリーだな」

「ご存じなんですか?」

「トークンを使う、一風変わったカテゴリーだ。見ての通り戦闘機をモチーフにしてて、一部の例外を除けば『トークンがある時は破壊されない』、『トークンのレベルが加算される』って効果を持ってる。……だよな?」

「ああ。更に言えば、トークンを生贄に捧げたりすることで幻獣機は効果を発揮する」

 

 遊貴が頷いて補足してくれる。新井は付け加えるように言葉を紡いだ。

 

「爆発力はあまりないが、継続戦闘能力は高いぞ。気を引き締めろ」

「はいっ!」

 

 妖花が元気よく頷く。あの調子なら大丈夫だろう。

 それに対し遊貴は新井の方を見ると、よく知っているな、と言葉を紡いだ。

 

「あまり知られていないカテゴリーだと思っていたが」

「確かにマイナーではあるが、男に戦闘機を嫌いな奴はいねーよ」

「成程」

「戦闘機はロマンだ。……正直、興味がある。巨大戦艦は知ってるが、幻獣機に関しては聞きかじっただけだからな。期待してんぜ」

 

 笑みを浮かべる。遊貴も薄く笑うと、いいだろう、と言葉を紡いだ。

 

「幻影を生み、敵を倒す力。見せてやる」

 

 笑みを浮かべる遊貴。そのまま彼は一枚のカードをデュエルディスクに差し込んだ。

 

「確かに展開力はあまりないが……補う術はある。速攻魔法『緊急発進』を発動! 相手フィールド上のモンスターの数がトークンを除いたこちらのモンスターよりも多い時、任意の数のトークンを生贄に捧げることで『幻獣機』を生贄に捧げたトークンの数だけ特殊召喚する! 二体のトークンを生贄に捧げ、『幻獣機ブルーインパラス』と『幻獣機コルトウイング』を特殊召喚!」

 

 幻獣機ブルーインパラス☆3風・チューナーATK/DEF1400/1100

 幻獣機コルトウイング☆4風1600/1500

 

 現れるのは、新たな戦闘機が二体。その姿に、妖花は思わず息を呑む。

 

「コルトウイングの効果だ。このカードの特殊召喚成功時、場に『幻獣機』がいれば幻獣機トークンを二体、特殊召喚できる。トークン生成」

 

 幻獣機トークン☆3風ATK/DEF0/0

 幻獣機トークン☆3風ATK/DEF0/0

 幻獣機コルトウイング☆4→10風ATK/DEF1400/1100

 

 トークンが現れたことにより、コルトウイングのレベルが上昇する。相変わらずの面白い効果だ。

 

「そしてコルトウイングの効果だ。トークンを二体生贄に捧げることで、相手フィールド上のカードを破壊し、除外する」

「ッ、『エフェクト・ヴェーラー』です! コルトウイングの効果を無効に!」

 

 優秀な手札誘発系カードが効果を発揮する。成程、と遊貴は頷いた。

 

「ならば、次の手だ。――レベル4、コルトウイングにレベル3、ブルーインパラスをチューニング! シンクロ召喚! 出撃せよ、『幻獣機コンコルーダ』!!」

 

 それはきっと、一瞬の白昼夢。

 だが、確かに。確かに、視えた。

 ――赤き竜が、遊貴の背後で咆哮しているのが。

 

 幻獣機コンコルーダ☆7風ATK/DEF2400/1200

 

 先程までのモンスターたちに比べ、更に巨大な戦闘機が姿を見せる。その威圧感に、思わず新井も息を呑んだ。

 

「そして更に、手札より『幻獣機デザーウルフ』を召喚! 召喚成功時、幻獣機トークンを一体、特殊召喚する!」

 

 幻獣機デザーウルフ☆4→7風ATK/DEF1700/1200

 幻獣機トークン☆3風ATK/DEF0/0

 

 今度は戦闘ヘリだ。召喚時にトークンを生む、優秀なモンスター。

 コンコルーダ、トークン、幻獣機。厄介なものが並び立つ。成程、と新井は言葉を紡いだ。

 

「一瞬でこれか。……面倒臭いデッキだな本当に」

「どういうことですか?」

 

 妖花が首を傾げる。その疑問には遊貴が頷いて応じた。

 

「コンコルーダがいる限り、俺の場のトークンは破壊されない。そしてデザーウルフは幻獣機共通のトークンがいる時に破壊されない効果を持つ」

「要するに、コンコルーダを潰してトークンを潰してようやく幻獣機が倒せるって事だ」

 

 ブラックホールや激流葬などの全体破壊カードでも一枚ずつしか破壊できない、鉄壁の布陣。これが『幻獣機』の強さ。

 

「さあ、バトルだ。――コンコルーダでガールを攻撃し、デザーウルフでダイレクトアタック!」

「あうっ!?」

 

 妖花LP4000→3600→1900

 

 妖花のLPが大きく削り取られる。通常よくある、『守備力が高い』や『戦闘破壊できない』といった単純なモノとは違う硬さ。

 世にはまだまだ面白いデュエリストがいる――新井は、口元に笑みが浮かぶのを自覚した。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 状況は正直宜しくない。だが、打てる手がないというわけでもない。

 ならば、やれることをやるだけだ。

 

「私のターンです、ドロー。スタンバイフェイズ、ラメイソンの効果を発動します。墓地、もしくは自分フィールド上に魔法使い族モンスターがいる時、デッキの一番下に魔導書を戻すことで一枚ドローします。『グリモの魔導書』を戻し、一枚ドロー」

 

 手札を確認。……大丈夫だ。これなら動ける。

 

「リバースカードオープン、『ネクロの魔導書』。墓地の魔法使いを一体除外し、このカード以外の魔導書を見せることで墓地の魔法使いを一体攻撃表示で特殊召喚します。『ヒュグロの魔導書』を見せ、エフェクト・ヴェーラーを除外してブラック・マジシャン・ガールを蘇生!!」

 

 ブラック・マジシャン・ガール☆6→7ATK/DEF2000/1700

 

 甦る、魔法使いの弟子。更に、と妖花は言葉を紡いだ。

 

「手札より魔法カード『賢者の宝石』を発動! ブラック・マジシャン・ガールがいる時に発動でき、デッキから『ブラック・マジシャン』を特殊召喚します! 来て、ブラック・マジシャン!!」

 

 それは、黒衣を纏う最高位の魔法使い。

 圧倒的なステータスというわけではなく、何か特別な効果を持つわけでもない。

 しかし、その存在は。

 ただそこに『在る』だけで――他を圧倒する。

 

 ブラック・マジシャン☆7闇ATK/DEF2500/2100

 

 ある意味で、世界で最も有名なモンスターの一体。

 黒衣の魔術師が、弟子と共に戦場に立つ。

 

「更に手札より『魔導教士システィ』を召喚! そして魔法カード『ヒュグロの魔導書』をブラック・マジシャンに発動! 攻撃力を1000ポイント上げ、このモンスターが戦闘でモンスターを破壊した時、デッキから『魔導書』を手札に加えます!」

 

 魔導教士システィ☆3地ATK/DEF1600/800

 ブラック・マジシャン☆7闇ATK/DEF2500/2100→3500/2100

 

 強大な力を内包した魔導書を手に取り、最強の魔法使いが更なる力を解放する。バトル、と妖花は宣言した。

 

「ブラック・マジシャンでコンコルーダを攻撃! ヒュグロの魔導書の効果で『グリモの魔導書』を手札に加え、更にシスティでトークンを、ガールでデザーウルフを攻撃!」

「ぐううっ……!?」

 

 遊貴LP4000→2900→2600

 

 一瞬で場を吹き飛ばされる遊貴。妖花は更にメインフェイズへと手を進める。

 

「『グリモの魔導書』を発動し、『ネクロの魔導書』を手札へ。更にエンドフェイズにシスティの効果を発動。魔導書を唱えたターンのエンドフェイズ、このカードを除外することで魔導書を一枚と光、または闇属性のレベル5以上の魔法使いを手札に加えます。『グリモの魔導書』と『魔導法士ジュノン』を手札に」

 

 何を手札に加えるかは迷ったが、これがおそらく最善だ。マジシャンの指定が揃っている以上、そう容易くは突破されないはずである。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 そして、カードをドローする遊貴。

 彼は引いたカードを見、笑みを浮かべた。

 

「良いデュエル、そしてタクティクスだった。――だが、勝つのは俺だ。墓地の『ブルーインパラス』の効果を発動! 相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターがいない時、墓地のこのカードを除外することで幻獣機トークンを一体特殊召喚する! 更に『幻獣機ハリアード』を召喚!」

 

 幻獣機トークン☆3風ATK/DEF0/0

 幻獣機ハリアード☆4→7風ATK/DEF1800/800

 

 トークンが現れ、戦闘機が現れる。本当に次から次へと凄いデッキだと妖花は思う。

 

「ハリアードの効果を発動。トークンを生贄に捧げることで、一ターンに一度手札から幻獣機を特殊召喚できる。俺は手札より『幻獣機コルトウイング』を特殊召喚! コルトウイングの効果により、トークンを二体生成する!」

 

 幻獣機コルトウイング☆4→10風ATK/DEF1600/1500

 幻獣機トークン☆3風ATK/DEF0/0

 幻獣機トークン☆3風ATK/DEF0/0

 

 現れる幻獣機。効果発動、と遊貴は言葉を紡いだ。

 

「さっきは回避されたが、今度はさせない。――トークンを二体生贄に捧げ、ブラック・マジシャンを破壊し除外する!」

「ブラック・マジシャン……!?」

 

 これを防ぐ術はない。例えば魔導書には魔法か罠を受け付けなくさせる『トーラの魔導書』というものがあるが、これはモンスター効果に対応していないのだ。

 

「更にハリアードの効果だ。一ターンに一度、このカード以外のカードの効果を発動するために自分フィールド上のモンスターが生贄に捧げられた時、幻獣機トークンを生み出す」

 

 幻獣機コルトウイング☆4→7風ATK/DEF1600/1500

 幻獣機ハリアード☆4→7風ATK/DEF1800/800

 幻獣機トークン☆3風ATK/DEF0/0

 

 再び生成されるトークン。本当に厄介なデッキだ。

 

「そして、リバースカードオープンだ。――『風霊術「雅」』。自分フィールド上の風属性モンスターを一体生贄に捧げ、相手フィールド上のカードを一枚デッキの下へ戻す。トークンを生贄に、ガールをデッキの下へ」

 

 ずっと伏せられていたカードが面を上げ、一人の少女が呪文の詠唱を始める。

 使うタイミングは幾度となくあったはずなのに、どうして。

 

「魔導書相手ならば『トーラの魔導書』は当然警戒する。だが、この状況ならば発動はできないだろう。――決着だ、ハリアードとコルトウイングでダイレクトアタック!!」

「あうっ!?」

 

 妖花1900→300→-1500

 

 妖花のLPが0を刻み。

 デュエルは、終わりを告げた。

 

「――ありがとうございました!」

 

 ソリッドヴィジョンが消えていく中、妖花は礼儀正しく遊貴へと頭を下げる。ああ、と遊貴も頷いた。

 

「良いデュエルだった。……一つ、聞いてもいいか?」

「はい。何ですか?」

「率直に聞かせてくれ。夢神祇園とはどういう人間だ?」

 

 真剣な表情で、遊貴がそんなことを聞いてきた。妖花は驚きの表情を作るが、えっと、とすぐに言葉を紡ぐ。

 

「凄く、優しい人です」

 

 それ以上の言葉は何かが違う気がして、口にしなかった。遊貴は、そうか、と小さく頷く。

 

「直接会いたかった。父さんのカードの担い手だったから。……だが、それも無理らしい」

 

 ふと、遊貴がそんなことを言い。

 そして、ありがとう、と妖花と新井に向かって小さく頭を下げた。

 

「縁があれば、いずれまた」

 

 そうして、少年は去っていく。

 一瞬、赤き竜が姿を現し。

 

 ――そして、その姿が見えなくなった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「――さん、新井さん」

「ん……?」

 

 自らを呼ぶ声に、新井はゆっくりと目を開けた。どうやら眠っていたらしい。

 

「って、は? どこだここ?」

「あの、大丈夫ですか?」

 

 周囲を見ると、見覚えのある神社の境内だということがわかる。正面には、心配そうにこちらを見ている少女の姿。

 

「え、あれ?」

「あの、お疲れなんじゃ……」

「いや、疲れとかは別に。……なぁ、さっきまで誰かいなかったか?」

 

 名前が思い出せないが、蟹のような髪型をした少年がいた気がする。だが、妖花は首を傾げるだけだ。

 

「神主の方とはお話しましたけど……」

「……そっか。気のせいだな。よし、帰るか」

「はいっ」

 

 ぼんやりとしか思い出せないということは、きっと夢だったのだろう。しかしこんなところで寝てしまうとは、思ったよりも疲れが溜まっているようである。

 自信のバイクがある場所へ向かっていく新井。故に彼は気付かなかった。

 少女が神社を振り返り、静かに言葉を紡いだことに。

 

「――神様の領域では、奇跡が起こる」

 

 時が歪み、空が歪む。

 その異常は、時として一つの奇跡を生み出してしまう。

 

「何を、伝えに参られたのですか……?」

 

 その問いに、答えられる者は。

 この場には、いなかった。

 

 










神が住まう場所で起きた、縁という名の奇跡。
神々に愛されし巫女姫は、何を願われたのか。








とりあえず神判、てめーは二度と牢獄から出てくるな。いやマジで。


今回はリオ先生、まことにありがとうございます。
我らが遊星さんの息子さんだという彼。歪んだ時空の中で赤き竜の導きにより妖花ちゃんと激突しました。
幻獣機も魔導もポテンシャルはあり、楽しいデッキです。『幻獣機ビッグ・アイ』は強い(確信)
相手のいなかった妖花は、相手を想定することで殴り合うためのデッキを組み上げました。というか魔導でチートドローとかポテンシャル今作品一位なんじゃ……。まあ、仕方ないですね。


更新が遅くて本当に申し訳ないですが、見捨てないでくださると幸いです。
ありがとうございました。


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