遊戯王GX―とあるデュエリストたちの日々―   作:masamune

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第三話 英雄VS黒竜、……覗きという名の青春?

「ドローパン二つお願い!」

「はい、二つで210円です!……丁度お預かりします、ありがとうございました!」

「Aセット頼むわ!」

「はいっ! Aセット一つ入りました!」

「カードパック欲しいんだけど……」

「はい、こちらになります! どれになさいますか!?」

 

 デュエルアカデミアの昼食時における食堂は、最早戦場と呼んで差支えない場所だ。流石に育ち盛りの学生、そのほとんどが訪れるだけのことはある。食堂はいつも大賑わいだ。

 そんな中、本来ならばその喧騒に参加している立場であるオシリス・レッドの新入生――夢神祇園は、逆に学生たちの対応に追われる立場にあった。

 怒涛のような時間が過ぎていく。人見知りがどうなどという台詞は吐いていられない。

 

「次の方、どうぞ!」

 

 声を張り上げ、必死に業務に専念する。今日で始まってから二週間ほどだが、未だ目の回る忙しさだ。

 でも、それも全て食べていくためである。そう思い、祇園は力を込める。

 

 ――空腹を我慢することは、最早いつものことだった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 昼食時のラッシュも終わり、ようやく落ち着いた頃。祇園は食堂の隅で遅まきながらの昼食に勤しんでいた。食堂ではテーブルを使ったデュエルが行われてたり、雑談に興じている者たちがいたりと如何にも『学食』といった雰囲気を醸し出している。

 そんな中、ようやく昼の業務を終えた祇園の昼食はおにぎりと牛乳パックが一つずつ。購買で余ったものを無料でもらい、それを食べている状態だ。高校生としてはあまりにも少ない量に思えるが、彼としてはこれが日常である。

 ちなみに祇園は普段から一人で食事をしていたのだが、それに気付いた十代、翔、その二人と同室である隼人、三沢などが食事中の雑談相手になってくれている。

 祇園としては申し訳ないと思う反面、嬉しくもあるため……どうにも微妙な気持ちになるのだが。

 

「しかし、前から思っていたが祇園。本当にそれで足りるのか?」

「え? う、うん。十分だけど……」

 

 食事時間、僅か五分。『食事=エネルギー補給』としか思っていない上に、それ以上のものを求めることができない祇園としてはこれで十分だ。そんな意図も込めて三沢の問いに答えたのだが、彼を含めた四人は微妙な表情をしている。

 

「いや、流石に俺はそれじゃ足りないぜ……」

「ぼ、僕もちょっと……」

「俺もなんだな……」

 

 ……そう言われても。祇園としては昼食など食べれない日の方が多かったのだから、これぐらいで十分なのだが。

 まあ、考え方の違いは仕方ない。どう考えても祇園の方が『異常』なのは明白なので、苦笑を零す。

 そうしていつもの雑談に興じる四人。基本的にはデュエルの理論を三沢が持ち出し、他の四人が好き勝手なことを言うという形が多い。もしくは十代主導のデュエル話。

 まあ、結局デュエルが多いのはご愛嬌というべきか。アカデミアがそういう機関である以上、仕方ないのだが。

 

「そういえば。十代、祇園。掲示板は見たか?」

「掲示板?」

「えっと、見てないけど……」

 

 何か重大な連絡事項があっただろうか? そんな意味も込めて翔と隼人にも視線を向けるが、二人も知らないと首を左右に振る。

 三沢は笑みを浮かべると、いや、と楽しげに言葉を紡いだ。

 

「実技デュエルが授業で行われるのは知っているな? ランダムでデュエルの組み合わせが毎時間決められるヤツだ」

「うん。僕はまだ出たことないけど……」

「僕もないッス」

「俺は……前にあったんだな」

「俺は結構組まれる数が多いからあの授業好きだぜ!」

 

 快活に笑う十代。十代が選ばれる回数が多いのは、おそらくクロノス教諭が関係しているのだろうが……正直、そこについてはいちいち考えても仕方がない。十代自身は楽しそうだし、未だ無敗なのだから尚更だ。

 

「ああ。その授業だが、次回の組み合わせを見てみろ」

「へぇ、どれどれ……」

 

 三沢がプリントアウトされた紙を机の上に広げ、十代がそれを覗き込む。本当に三沢は準備のいい男だ。

 記されているのは三組。今回はオベリスク、ラー、オシリスがそれぞれの寮の生徒同士で戦うことになるようだ。まあ、普段の十代のようにオベリスク・ブルーの生徒とばかりデュエルしている方がおかしいのだが。

 ちなみに、組み合わせは。

 

『 オベリスク・ブルー 一年 藤原雪乃 VS オベリスク・ブルー 一年 原麗華

 

  ラー・イエロー 一年 扇隆正 VS ラー・イエロー 一年 神楽坂      』

 

 藤原雪乃、という名に祇園は目を引かれる。前に会った……天上院明日香と一緒にいた女生徒だ。雰囲気から年上、若しくは先輩と思っていたのだが違うらしい。

 そんな妙なところに感心していると、おい、と十代が祇園の背中を叩いてきた。見れば、十代は満面の笑みを浮かべている。

 

「こりゃ午後が楽しみだぜ!」

 

 立ち上がり、両の拳で大げさにガッツポーズをして見せる十代。祇園はプリントの一番下へ視線を送り、うん、と頷いた。

 

「そういえば、結局できていなかったもんね。……よろしく、十代くん」

 

 プリントに記された対戦表。

 それを見、祇園も微笑む。

 

『 オシリス・レッド 一年 遊城十代 VS オシリス・レッド 一年 夢神祇園』

 

 英雄と竜。数多の物語で描かれてきた戦いが、決闘という形で新たに記される。

 祇園は、そっと腰のデッキケースを優しく撫でた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「それで~は、実技を始めるノ~ネ」

 

 今日の担当であるクロノスの言葉を受け、祇園はデュエルリングに上がる。個人的にはプロデュエリストを弟に持つ響緑(ひびきみどり)先生の方が良かったのだが――クロノスは贔屓が多く、どうもやり辛い――それは言っても仕方がないだろう。

 それに、今回は外野など気にしていられる相手ではない。

 

「へへっ、やっとお前とやれるなんてな。ワクワクするぜ!」

 

 満面の笑みでデュエルディスクを構える十代。その笑顔を見ると、こちらもついつい笑顔になる。

 

「うん。僕もだよ。――手加減はなしだ。いくよ、十代くん」

「おう! 来い、祇園!」

 

 すでに他の二組は終わっており、これが本日最後の授業だ。それもあってか、観客は多い。

 しかし、既にそんなものは意識の外。目の前の相手を見据えなければ、できることなどない。

 

「それでは、開始でス~ノ!」

「「決闘!!」」

 

 デュエルディスクが先攻後攻を決める。先行は――十代!

 

「俺のターン、ドロー! へへっ、行くぜ祇園! 俺は『E・HEROクレイマン』を守備表示で召喚!」

 

 E・HEROクレイマン ☆4・地 攻/守800/2000

 

「さらにカードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

「僕のターン、ドロー」

 

 十代のフィールドには、守備力2000のモンスターが一体と伏せカード。……ドラゴンデッキであるならば、超えられないわけではない。しかし、手札のカードにあれを突破するカードがないのも事実。

 ならばどうするか――答えは、『デッキから持ってくる』こと!

 

「伏せカードを警戒していても始まらない……! 相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない時、このカードは攻守を半分にして手札から特殊召喚できる! 『バイス・ドラゴン』を特殊召喚! 更に手札から『エクリプス・ワイバーン』を召喚!」

 

 バイス・ドラゴン ☆5・闇 攻/守2000/2400 → 1000/1200

 エクリプス・ワイバーン ☆4・光 攻/守1600/1000

 

「凄ぇ! 一気にドラゴン二体かよ! けど祇園、その二体じゃ俺のクレイマンの守備力は超えられないぜ!?」

「うん。だから、今から呼び出すよ。僕は手札から、魔法カード『ドラゴニック・タクティクス』を発動!」

 

 直後、フィールドにチェス盤のような文様が現れた。その中心に存在していたバイス・ドラゴンとエクリプス・ワイバーンが吸い込まれ、一個の巨大なチェスの駒になる。

 

「このカードは自分フィールド上のドラゴン族モンスター二体を生贄に捧げ、デッキからレベル8のドラゴン族モンスターを特殊召喚する魔法カード。僕はデッキから――『ダーク・ホルス・ドラゴン』を特殊召喚!」

 

 ダーク・ホルス・ドラゴン ☆8・闇 攻/守3000/1800

 

 チェスの駒が割れ、そこから漆黒の竜が現れる。攻撃力3000という、かの『ブルーアイズ・ホワイトドラゴン』と並ぶその破壊的な攻撃力に観客がざわめき出す。

 

「攻撃力3000!? 凄ぇな祇園! そんなドラゴンも持ってたのか!」

「『レッドアイズ』と合わせて僕のデッキに四体いる最上級ドラゴンの一角だよ。効果モンスターなんだけど……いまは発動できないし、置いておくね。その前に墓地へ送られたエクリプス・ワイバーンの効果発動。デッキからレベル7以上の闇か光属性のドラゴン族モンスターをゲームから除外し、墓地のエクリプス・ワイバーンが除外された時、そのカードを手札に加える。僕はデッキから『ダーク・アームド・ドラゴン』をゲームから除外する」

 

 これで準備が整った。祇園は、クレイマンに狙いを定める。

 

「いけ、ダーク・ホルス・ドラゴン!」

 

 叫び声を上げ、敵を粉砕するダーク・ホルス・ドラゴン。下級ヒーローでは随一の守備力を持つクレイマンも、3000という数字は耐え切れない。

 

「ぐうっ!? けど、この瞬間トラップカード発動! 『ヒーローシグナル』! デッキからレベル4以下のE・HEROを特殊召喚! 俺はデッキから『E・HEROスパークマン』を特殊召喚するぜ!」

 

 E・HEROスパークマン ☆4・光 攻/守1600/1000

 

 紫電を纏ったHEROが現れる。それを見て、んー、と祇園は考え込む仕草を見せた。

 

「『攻撃の無力化』とかかと思ったんだけどな……。まあ、仕方ないか。僕はリバースカードを二枚セット。ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー! へへっ、祇園。やっぱり凄ぇなお前。まさか一ターン目から攻撃力3000のモンスターが出てくるとは思わなかったぜ」

「そういうコンセプトのデッキだから。……それに、十代くんならすぐにこの状況をひっくり返すよね?」

「ああ、行くぜ! 俺は手札から装備魔法『スパークガン』をスパークマンに装備! このカードは三回まで相手フィールド上のモンスターの表示形式を変更できる! ダーク・ホルス・ドラゴンを守備表示に!」

「しまった……!」

 

 ダーク・ホルス・ドラゴンが守備表示となり、翼を折りたたんだ状態になる。その攻撃力こそ3000と強大だが、守備力は1800とやや低い。そして、祇園が思っている通りなのだとしたら――

 

「更に『融合』を発動! 手札の『E・HEROフェザーマン』と『E・HEROバーストレディ』を融合! 現れろ、マイフェイバリットヒーロー! 『E・HEROフレイム・ウイングマン』!」

 

 E・HEROフレイム・ウイングマン ☆6・風 攻守2100/1200

 

 竜の腕を持つHEROが現れる。破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与えるという凶悪極まりない効果を持つ、入学試験でクロノスを倒したHEROだ。

 

「行くぜ祇園! 俺はスパークマンを攻撃表示にし、バトル! フレイム・ウイングマンで――」

「させない! トラップカード発動、『和睦の使者』! このターン僕のモンスターは戦闘では破壊されず、また、戦闘ダメージも受けない!」

「なっ!?」

 

 トラップカードを発動すると共に現れた使者たちが、フレイム・ウイングマンの攻撃を受け止める。危ないところだった。これがなければ、正直負けていた。

 

「くっ、俺はターンエンドだ」

 

 悔しげにターンエンドを宣言する十代。それはそうだろう。こちらには健全な状態のダーク・ホルス・ドラゴンが残ってしまったのだから。

 

「僕のターン、ドロー。……ダーク・ホルス・ドラゴンを攻撃表示に。――バトル! スパークマンへ攻撃!」

「何だって!? ぐっ!?」

 

 十代 LP4000→2600

 

 スパークマンが破壊され、攻撃力の差分のダメージが十代のLPから引かれる。周囲から疑問の声が上がった。

 

『……おいおい、何で弱い方を攻撃したんだ?』

『プレイミスだろ、間違いなく』

『流石オシリス・レッドだな』

 

 主にオベリスク・ブルーの方から嘲笑するような声が響いてくる。だが、祇園は澄ました表情のままだ。そして、そんな彼の内診を代弁するように三沢が口を開く。

 

「いや、今の祇園の選択肢に間違いはない」

「えっ、どういうことッスか三沢くん? アニキのフレイム・ウイングマンを破壊した方が良かったんじゃ……」

「いや、この場合は『スパークガン』を装備したスパークマンの方が厄介だ。ダーク・ホルス・ドラゴンはその攻撃力こそ強大だが、守備力は1800。下手をすれば下級モンスターに破壊される守備力しかない。祇園の伏せカードにもよるが、それこそいつでも破壊できる上にスパークガンなしで現状ダーク・ホルス・ドラゴンをどうにかする方法のないフレイム・ウイングマンより、スパークガンを装備したスパークマンの方が危険。当たり前のタクティクスだよ」

 

 当たり前、という三沢の言葉に、周囲のブルー生たちが表情を厳しいものにする。祇園は、ふう、と息を吐いた。

 

「僕はターンエンドだよ、十代くん」

「へへっ、流石だな祇園。だが、ヒーローはまだ死んじゃいないぜ。俺のターン、ドロー!……くっ、俺はリバースカードを一枚セット、フレイムウイングマンを守備表示にしてターンエンド!」

「僕のターン、ドロー」

 

 祇園の手札はこれで三枚。場にはダーク・ホルス・ドラゴンと、伏せカード。対し、十代の手札は一枚。フィールドのカードはフレイム・ウイングマンと伏せカードが一枚。

 状況的にはこちらが明らかに有利だ。だが、油断はできない。相手は凄まじいドロー力を誇る、ある意味では『天才』と呼べる相手。ならば――

 

(――全力で、叩きに行く!)

 

「僕は手札から『ハウンド・ドラゴン』を攻撃表示で召喚!」

 

 ハウンド・ドラゴン ☆3・闇 攻守1700/300

 

 闇属性、レベル3の通常モンスターとしてはおそらく最高レベルの攻撃力を持つドラゴンだ。祇園は更に手札のカードをデュエルディスクに差し込む。

 

「魔法カード『古のルール』を発動! 手札からレベル5以上の通常モンスターを特殊召喚する! いくよ、十代くん!――『真紅眼の黒竜』を特殊召喚!」

 

 真紅眼の黒竜 ☆7・闇 攻守2400/2000

 

 咆哮を上げる、伝説に最も近い位置にいたデュエリストの相棒としても有名なカード。その存在感に、周囲の者たちから純粋な賞賛の声が上がる。

 だが、誰よりもその姿に興奮していたのはおそらく目の前のデュエリストだ。

 

「くーっ! 凄ぇ! 凄ぇぜ祇園! お前とのデュエル、めちゃくちゃ楽しいぜ!」

 

 普通なら絶望さえしてもおかしくないこの状況。しかし、十代は笑っている。祇園はそんな彼に対し、思わず微笑を零した。

 

「うん。僕も、本当に楽しいよ。だから、手加減はしない。――リバースカード、オープン! 『黒炎弾』! このカードはフィールド上に『真紅眼の黒竜』がいる時のみに発動でき、このターンレッドアイズが攻撃できなくなる代わりに攻撃力分のダメージを与える!」

「なっ!? ぐわっ!」

 

 十代LP2600→200

 

 十代のLPが、一気に危険域にまで落ち込む。祇園は、更に追撃の指示を出した。

 

「バトル! ハウンド・ドラゴンでフレイム・ウイングマンに攻撃!」

「くっ、だがフレイム・ウイングマンが戦闘で破壊された時、トラップカード発動! 『ヒーロー・シグナル』! デッキからレベル4以下のE・HERO一体を特殊召喚する! 俺は『E・HEROバブルマン』を守備表示で特殊召喚!」

 

 E・HEROバブルマン ☆4・水 攻/守800/1200

 

「そしてバブルマンの効果発動! フィールド上にこのカード以外のカードが存在しない時に召喚・特殊召喚に成功した時、カードを二枚ドローできる! 二枚ドロー!」

「なら、バブルマンをダーク・ホルス・ドラゴンで攻撃!」

「くううっ……!」

 

 二枚のドローを許したが、これで十代の場はがら空き。対し、祇園は手札こそないもののフィールドにはモンスターが三体。どう考えても圧倒的に有利なのは祇園である。

 ――しかし。

 

(……どうしてだろう。何となく、負ける気がする)

 

 本当に、これはただの勘だ。自分にできる上で最高のプレイングをした。しかしそれでも、遊戯十代というデュエリストはそれを超えてくる。そんな気がするのだ。

 そしてそれは――間違いではない。

 

「へへっ、楽しいぜ祇園。本当に楽しい。けどな、勝つのは俺だ! 俺のターン、ドロー!」

 

 十代 手札3→4

 

「行くぜ! 俺は手札から『強欲な壺』を発動! デッキから二枚ドローする!」

 

 ここでドローカードを引くところは、流石というべきか。祇園としては『必須』と言われるが故に値段が高く、持っていないカードである『強欲な壺』が羨ましいところだ。

 

 十代 手札3→5

 

「更に『融合回収』を発動! 墓地から『融合』と『フェザーマン』を手札に加える! 更に『天使の施し』! 三枚ドローし、二枚捨てるぜ!」

 

 十代 手札4→6

 

 手札が一気に六枚にまで増え、その上できっちりとキーカードである『融合』を手札に加え、更には墓地肥やしまで行う姿には祇園としても呆然とするしかない。おそろしいドロー力だ。サーチ関係のカードを一枚も使っていないというのに。

 

「そして墓地の『E・HEROネクロダークマン』の効果発動! このカードが墓地に存在する時、一度だけ生贄なしでE・HEROを特殊召喚できる! 来い、『E・HEROエッジマン』!」

 

 E・HEROエッジマン ☆7・地 攻/守2600/1800

 

 所謂『貫通効果』を持つ、現行のE・HEROの中では融合以外で最大の攻撃力を誇るHEROだ。光り輝く身体が、その身に秘めた破壊力を物語っている。

 

「更に、手札から『ミラクル・フュージョン』を発動! 墓地のフレイム・ウイングマンとスパークマンを除外し――現れろ、『E・HEROシャイニング・フレア・ウイングマン』!」

 

 現れたのは、白銀の身体と白銀の翼をもつHERO。そしてその効果を知っている祇園は、誰もがそのHEROを凝視する中、一人苦笑を零す。

 

「……惜しかった、なぁ」

 

 そう、ポツリと呟いた瞬間。十代がその視線をこちらへ向けてくる。

 

「シャイニング・フレア・ウイングマンの効果! このカードは墓地のHEROたちの数×300ポイント攻撃力を上昇させる! 墓地のHEROは五体! よって攻撃力が1500ポイントアップ!」

 

 E・HEROシャイニング・フレア・ウイングマン ☆8・光 攻/守2500→4000/2100

 

 その攻撃力はダーク・ホルス・ドラゴンを悠々と越え、更にはかの『神』と同等にまでパワーアップする。

 その姿を見て、嗚呼、と祇園は呟いた。

 

「――やっぱり、凄いな」

 

 何度も実技の度に見てきた、逆転のドロー。身を以て体感すれば、その凄さはよくわかる。

 

「行くぜ、祇園!」

 

 楽しそうな十代の笑顔。それを見ると、こちらも思わず笑ってしまうから不思議だ。

 

「バトル! エッジマンでレッドアイズに攻撃! 更にシャイニング・フレア・ウイングマンでダーク・ホルス・ドラゴンに攻撃だ!」

 

 逆らう術はなく、破壊される二体。そして、ここで終わらないのがHEROの恐ろしいところである。

 

「シャイニング・フレア・ウイングマンの効果発動! 破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!」

「ぐううっ……!?」

 

 祇園 LP4000→3800→2800→-200

 

 一気にライフが削り取られ、ソリッドヴィジョンが消滅する。何となくデッキトップのカードを捲ってみると、次のカードは『ブラック・ホール』だった。

 もう一ターン……いや、十代の手札はまだ残っていた。結局、実力不足ということだろう。

 そんなことを思っていると、十代が腕を突き出し、本当に楽しそうに言葉を紡いできた。

 

「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ、祇園!」

「うん。僕も楽しかったよ」

 

 次は勝つ――そう言葉を紡げない自分に僅かに苦笑し、十代と握手を交わす。

 こうして、英雄と竜の戦いは――終わった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 夜。昼間のこともあり、祇園は改めて自分のデッキと睨めっこをしていた。本来ならここで調整なり何なりをするべきなのだろうが、祇園はそのためのカードを持っていない。いや、持ってはいても調整に仕えるようなカードがないといった方が正しいだろうか。

 所持カード枚数、約100枚。いや、下手をすれば三桁もないかもしれない。

 ずっと昔に使っていて、もうカードたちがボロボロになってしまったデッキと、ある人物の協力のおかげで組み上げることができたドラゴンデッキ。その二つに加え、それこそ『拾った』カードを二十枚ほどしか祇園は持っていない。

 故に、結局自身のデッキと睨み合いをするくらいしかないのだ。

 

「……今思えば、シナジーしてるのかしてないのかよくわからないカードがたくさんある……。『思い出のブランコ』とか、対応してるカードは四枚しかないのに……。でも、うーん……」

 

 頭を悩ませたところでどうにもならないのだが、だからといって悩むことが止められるわけではない。結局、延々と悩み続けるようになるだけだ。

 その時、不意に視界の中で光が弾けた。

 

「ん……?」

 

 見れば、一枚のカードが光っていた……ように見えた。ずっと昔から大切にしてきた、初めて手にしたカード。そのカードを手に取り、祇園は苦笑を零す。

 

「もう少し、生かして上げられればいいんだけどな……」

 

 呟き、デッキをケースにしまう。その時だった。

 

「祇園! 助けてくれ!」

「――――ッ!?」

 

 いきなり扉を開けて入って来た十代に、心臓の音が跳ね上がる。同時に、なんかデジャヴ、とも祇園は思う。

 

「えっと、どうしたの?」

「翔が攫われた!」

「ええっ!?」

 

 衝撃の言葉に、思わず声を上げてしまう。十代は焦った調子で頷いた。

 

「頼む! 一緒に来てくれ!」

「う、うん。わかった」

 

 立ち上がり、走り出す十代の背中を祇園は追う。

 一体どうして――そんなことを、思いながら。

 

 

 …………。

 ……………………。

 ………………………………。

 

 

「……心配したのに、これはないと思うよ翔くん」

「僕は無実ッスよ~!?」

 

 視線の先、文字通り『簀巻き』にされた翔へ半目を向けながら祇園は呟いた。それに対し、翔は必死の弁明をしている。

 

「お前ら、翔を返せ!」

 

 そして、事態を本当に呑み込めているのか疑いたくなる十代の台詞。……正直、ここは強く出られる場面ではないだろう。

 視線の先にいるのは四人の女生徒だ。明日香と雪乃、そして……よく明日香と一緒にいるところを見かける女子二人。明日香と雪乃はともかく、その二人は相当ご立腹のようだ。

 

「十代くん、落ち着いて。言い分は向こうにあるよ」

「何言ってんだよ祇園。翔はやってないって言ってるんだぜ?」

「えっとね、セクハラとか痴漢とかと一緒で、この手の犯罪は被害者の主観によるところが大きいんだよ。特に翔くんの場合、現行犯だから……」

「ええっと、つまりどういうことだ?」

「弁明の余地がないってこと」

「酷くないッスか!?」

 

 翔が抗議の声を上げるが、正直仕方がない。昔色々かじったせいで妙に詳しくなった法律知識。こんなところで生かされるとは。

 

「そうよ、覗きなんて最低よ!」

「然るべき処分を受けてもらいますわ」

 

 ご立腹のお二方の言葉。……被告人の弁明は、証拠能力あっただろうか?

 しかし、祇園としても翔を見捨てるという選択肢は無しだ。さて、どうしたものか――そんなことを思っていると。

 

「まあ、落ち着きなさい二人共。この坊やを突き出したところで、私たちにメリットはないわよ?」

 

 雪乃が二人の仲裁に入った。その言葉を受け、二人はでも、と呟く。その二人へ視線を送り、明日香がそうね、と頷いた。

 

「私とデュエルよ十代。私に勝てたら彼を解放するわ。今回の覗きも目をつぶってあげる」

「お、デュエルか。いいぜ、挑まれたデュエルからは逃げない主義だ!」

「そうこなくちゃ」

 

 とんとん拍子で進む会話。祇園は二人から距離を取ると、簀巻きにされている翔に声をかけた。

 

「……本当にやってないよね?」

「やってないッス! 神に誓うッス!」

 

 この場合、どの神様に祈るのだろう――そんな益体もないことをふと思ったが、すぐに思考から追い出した。祇園は、ふう、とため息を吐く。

 

「そもそも、どうして女子寮に来たの? 男子禁制だよ?」

「ラブレターを貰ったんスよ……」

「ラブレター?」

 

 差し出されたものを受け取る。何というか、まぁ……。

 

「字が汚すぎるし、下品だよこれ。天上院さんが書いたものには見えない。……大体、宛名が十代くんになってるよ?」

「ううっ……」

「まあ、浮かれた気持ちもわからなくはないけど……」

 

 呟く、それと同時に、十代と明日香のデュエルが始まった。

 

 ――結果は、十代の勝利。

 何というか、知っていたがHEROは融合先が豊富で変幻自在の戦い方ができる。強いなー、と祇園が思っていると、明日香がこちらへ視線を合わせてきた。

 

「ねぇ、あなたもデュエルしない?」

「……嬉しい申し出だけど、その……デッキ持ってきてなくて」

 

 苦笑を零す。慌てて出てきたせいでデッキを置いてきてしまったのだ。実は内心ハラハラ状態だったりする。

 

「……そう。ならいいわ。また今度、私ともデュエルしてもらうわよ?」

「こちらこそ、お願いします天上院さん」

「明日香でいいわ。十代もそう呼んでるしね」

 

 視線を向けた先の十代は、こちらに向かっていつの間にか移動した翔と共にボート上で手を振っている。祇園もそれに応じ、一礼だけしてボートに乗り込んだ。

 それを静かに見送る明日香。その背に、雪乃が声をかける。

 

「面白い男ね、あの二人」

「雪乃……どう思う?」

「私としては、祇園……あの坊やが気になるわ。〝彼〟と同室に校長がするぐらいだから、何かあるとは思ったけど……楽しみね」

 

 フフッ、と妖艶な笑みを残し、女子寮へ戻っていく雪乃。それを見送り、明日香はポツリと呟いた。

 

「……十代、か……」







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