遊戯王GX―とあるデュエリストたちの日々― 作:masamune
――全日本ジュニア準優勝者、藤原千夏、一般参加枠、新井智紀インタビュー――
――〝ルーキーズ杯〟は如何でしたか?
「私は一回戦負けでしたが、とても有意義な経験をさせていただきました。今の私の限界を痛感することができ、今後成長する上で非常にいい経験となったと思います」
「楽しかったですね。いやまさか、アカデミア生とはいえ一年坊に足下掬われるとは。修行が足りないッス」
――今後の目標は?
「アカデミア本校への進学を考えていましたが……正直、悩んでいます。私には目標とする人がいて……それは姉のことなんですが、追いつくためにどうすればいいか、真剣に考えようと思います」
「へぇ、アカデミア目指すのか。まあ、ジュニア大会上位入賞者だもんなぁ……。推薦とかあるんじゃないのか?」
「ウエスト校とサウス校から話は貰っていますけど……」
「いいなー。……ん、ああ俺ですか? 勿論、プロですよ。とりあえずは新人王を目指します。ま、その前に大学リーグと、あとドラフトがありますけどね!」
――では、最後に。あなたにとって『DM』とは何ですか?
「……一言で説明するのは難しいです。最初は、姉から教わっただけのもので、勝てば褒められるから続けてきました。しかし、この大会で負けて、悔しくて、情けなくて……ただそれだけのものではないと認識しました。
上手くは言えないんですが……その質問の〝答え〟を見つけるために、私はDMをしているのだと思います」
「え、何か凄ぇ考えてるな……。俺は……んー、そうだな……。元々、中学も高校も大して芽が出なくて、まあ、補欠以下だったんですよ。でも、辞めるって選択肢はなくて。ほら、誰でも経験あるでしょう? 自分より遥かに強い奴とか、上手い奴とかを見て、折れそうになる経験。けど、辞めようとは思わない。敵わないって心のどっかで理解してても、それでも辞めない。辞めたくない。……多分、そういうものかな?」
◇ ◇ ◇
大歓声が、まるで体を叩くように響き渡る。
四方を見渡せば、満員の観客。そこから発せられる声援は、中心に立つ二人へと向けられている。
『さあ、開戦です。先行は、桐生美咲選手』
『この大会もこれが最後。悔いのないデュエルをして欲しいものだ』
解説席の声が聞こえてくることに安堵する。どうやら、思ったよりは緊張していないらしい。
「頑張れ祇園!! このまま優勝だ!!」
「いけ夢神ィ!! 関西の誇り見せたれー!!」
「頑張って、ぎんちゃん!!」
「夢神さん、頑張ってください!!」
「夢神君、頑張れー!!」
「いけ祇園ー!!」
対戦相手である桐生美咲に比べれば、遥かに少ない応援の声。だが、その言葉は何よりも心強い。
今まで歩んできた道で手に入れたもの、手にしたものがあるという、何よりの証明だから。
「ウチのターン、ドローッ☆」
美咲がカードをドローする。歓声がその興奮の度合いを上げた。
「ウチは手札から『ヘカテリス』を捨てて、永続魔法『神の居城―ヴァルハラ』を手札に加え、そのまま発動。一ターンに一度、自分フィールド上にモンスターがいない時、天使族モンスターを特殊召喚できる。――おいでませ、最強の天使!! 『The splendid VENUS』を特殊召喚!!」
The splendid VENUS☆8光ATK/DEF2800/2400
姿を現すのは、世界に一枚ずつしか存在しない『プラネット・シリーズ』の一角。
正真正銘、『最強』の天使モンスター。
「手加減はせんよー? ウチはカードを一枚伏せて、ターンエンドや」
「僕のターン、ドロー!」
カードを引く。美咲のデッキの性質上、こうして上級天使が出てくるのは予測できたことだ。
昔から負け続けてきた美咲の『混沌天使』……やはり、相対すると絶望的な感覚を覚える。
(でも……僕だって、強くなれたはずだ)
手を引いてもらうしかなかった、あの頃よりも。
ずっと、強くなれたはずだから。
「相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しないため、『バイス・ドラゴン』を攻守を半分にして守備表示で特殊召喚!」
バイス・ドラゴン☆5闇ATK/DEF2000/2400→1000/1200→500/700
現れるのは、紫色の体躯をしたドラゴンだ。生贄素材としても優秀な効果を持つモンスターである。
「そしてバイス・ドラゴンを生贄に捧げ――『ストロング・ウインド・ドラゴン』を召喚!」
ストロング・ウインド・ドラゴン☆6風ATK/DEF2400/1000→3400/1000→2900/1000
現れるのは、暴風を纏うドラゴン。その咆哮が、会場内に響き渡る。
「バトルだ! ストロング・ウインド・ドラゴンでヴィーナスに攻撃!」
「ッ……!」
美咲LP4000→3900
攻撃が通り、竜の一撃によって天使が粉砕される。僅か100ポイント――しかし、先制したのは祇園。
「やるなぁ、祇園。すぐにヴィーナスが破壊されるとは思わんかったわ」
「店長さんに貰ったカードなんだ。頑張れ、って言われて」
「えー、いいなぁ。ウチ貰ったことないでそんなん」
美咲が笑う。祇園も微笑を返し、カードを一枚セットした。
「僕はカードを一枚伏せて、ターンエンド」
「ウチのターンやな、ドローッ☆――魔法カード『トレード・イン』や。手札のレベル8モンスター、『光神機-轟龍』を捨てて二枚ドロー。更にフィールド魔法『天空の聖域』を発動!」
フィールドが姿を変え、荘厳な楽園へと姿を変える。
これで、天使族モンスターはその戦闘においてダメージを受けなくなった。
「そしてヴァルハラの効果を使い、『堕天使アスモディウス』を特殊召喚!」
堕天使アスモディウス☆8闇ATK/DEF3000/2500
現れるのは、漆黒の堕天使。攻撃力3000という力を持つ、破格のモンスターだ。
だが、この数字ではヴィーナスの呪縛から解き放たれて攻撃力3400となっているストロング・ウインド・ドラゴンは超えられない。
「このままやと超えられんけど、まあ、その前にアスモディウスの効果や。デッキから『コーリング・ノヴァ』を墓地へ。そして、アスモディウスを生贄に捧げ――」
最強クラスの堕天使が姿を消す。そして、現れたのは――
「――『堕天使ディザイア』を召喚!!」
堕天使ディザイア☆10闇ATK/DEF3000/2800
現れたのは、レベル10という数字を持つ強大な堕天使。特殊召喚こそできないが、その代わりに召喚する際に天使族一体の生贄で召喚できるという効果を有している。
そして、何よりもその効果が強力無比だ。
「ディザイアの効果を発動。一ターンに一度、攻撃力を1000ポイント下げることで相手のモンスターを一体、墓地へ送る。悪いけど、ストロング・ウインド・ドラゴンには退場してもらうで」
「…………ッ」
堕天使ディザイア☆10闇ATK/DEF3000/2800→2000/2800
放たれた闇の力に引きずり込まれ、暴風を纏う竜が破壊される。美咲はバトル、と宣言した。
「ディザイアでダイレクトアタック」
「罠カード『ガード・ブロック』! 戦闘ダメージを0にし、一枚ドロー!」
美咲の硬さはある意味で常軌を逸している。今は極力ダメージを減らしておきたい。
「んー、まあ、しゃーないか。カードを一枚伏せて、ターンエンドや」
これで美咲の手札は0。ここからどうにか巻き返さなければならないが――
「僕のターン、ドロー!」
まだ、デュエルは始まったばかり。
ここから――巻き返す。
◇ ◇ ◇
――アカデミア・ウエスト校代表、二条紅里、菅原雄太インタビュー――
――〝ルーキーズ杯〟は如何でしたか?
「楽しかったです~。国民決闘大会やインターハイと違って、色々な経験ができました~」
「悔しさは半端ないけど、ええ経験でしたわ。自分の力についても再確認できたしなぁ」
――今後の目標は?
「……プロには興味がなかったんですが、その考えが変わりました。私を受け入れてくれるチームがあるかはわかりませんが、プロを目指したいです。目標とする人に、追いつきたいので~……」
「お、プロ目指すんか? いやー、良かったで。お前、勿体ないと思てたんや」
「えへへ~、菅原くんは~?」
「俺は当然プロになるで! チームは阪急一択! 俺の力で関西を盛り上げるんや!」
「お互い頑張ろー!」
「勿論や!」
――では、最後に。あなたにとって『DM』とは何ですか?
「……私が、初めて目指したいものを見つけたもの。それが、DM。だから大切なものです」
「青春や。俺の全てを懸けとる。それが終わる時は、俺がもう走れなくなる時。それ以外の答えはあらへんなぁ」
◇ ◇ ◇
とりあえず、場は覆した。だが、状況がいいとは言えない。
祇園の手札は五枚。それだけあれば、打てる手も多いだろうが――
「僕は手札より、魔法カード『光の援軍』を発動。デッキトップからカードを三枚墓地に送り、『ライトロード』と名のついたモンスターを手札に加える。……『ライトロード・ハンター ライコウ』を手札へ」
落ちたカード→ライトパルサー・ドラゴン、竜の転生、冥王竜ヴァンダルギオン
落ちた三枚のカードを改めて確認。……これなら、どうにかできるかもしれない。
「僕は墓地の『ライトパルサー・ドラゴン』の効果を発動。手札から光属性モンスターと闇属性モンスターを一体ずつ墓地に送ることで、墓地から特殊召喚する。『エクリプス・ワイバーン』と『レベル・スティーラー』を墓地に送り、蘇生!」
ライトパルサー・ドラゴン☆6光ATK/DEF2500/2000
現れるのは、胸の装置より無数の光を放出する純白の竜。レベル6の上級ドラゴンの中では最高峰の攻撃力を持つモンスターだ。
「そして墓地に送られた『エクリプス・ワイバーン』の効果により、デッキからレベル7以上の光または闇属性のドラゴン属性を除外! そして、墓地のこのカードが除外された時、除外したそのモンスターを手札に加える! 僕は『レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン』を除外!」
綺麗な流れだ。この一連の流れだけでも、十分祇園が強くなったことが伺える。
「そして、僕は手札より『ドラゴン・ウイッチ―ドラゴンの守護者―』を召喚!」
ドラゴン・ウイッチ―ドラゴンの守護者―☆4闇ATK/DEF1500/1100
次いで現れたのは、準決勝で遊城十代に競り勝ったフィニッシャーのモンスター。金髪をポニーテールにした、ドラゴン使いの魔術師。
「バトルフェイズ。ライトパルサー・ドラゴンでディザイアへ攻撃!」
「聖域があるため、ダメージはないよ」
「うん、わかってる。――ウイッチでダイレクトアタック!」
「リビングデットの呼び声や。『コーリング・ノヴァ』を攻撃表示で蘇生。……戦闘で破壊される」
コーリング・ノヴァ☆4光ATK/DEF1400/800
現れたのは、天使族専用のリクルーター。戦闘で破壊されたことにより、効果が発動する。
「『コーリング・ノヴァ』は戦闘で破壊された時、デッキから攻撃力1500以下の光属性、天使族モンスターを特殊召喚できる。せやけど、『天空の聖域』がある今、このカードを特殊召喚や。――さあ、おいで。『天空騎士パーシアス』!」
天空騎士パーシアス☆5光ATK/DEF1900/1400
現れたのは、ケンタウロスのような姿をした光の騎士。聖域を駆け抜け、その騎士は美咲へと首を垂れる。
「……僕はターンエンドだよ」
「ウチのターン、ドローッ☆」
手札を引く。どうやら、デッキも本当に喜んでいるようだ。
祇園とデュエルできること――それが、本当に嬉しいらしい。
「ウチは天空騎士パーシアスを生贄に捧げ――『天空勇士ネオパーシアス』を特殊召喚!!」
天空勇士ネオパーシアス☆7光ATK/DEF2300/2000
現れたのは、荘厳な気配を纏う天使。その体から放たれる威圧感に、会場が思わず息を呑む。
「ネオパーシアスは天空騎士パーシアスを生贄にして特殊召喚できる。貫通効果を持ち、相手に戦闘ダメージを与えるとカードを一枚ドローする。――ドラゴン・ウイッチに攻撃や」
「…………ッ、破壊される」
「ダメージが通るから、一枚ドロー」
祇園LP4000→3200
ここでようやく祇園のLPにもダメージが通る。会場が大いに沸いた。
「そして、ネオパーシアスの効果。『天空の聖域』がある時、ウチのLPが祇園のLPを上回っていればその分だけ攻撃力がアップする。差分は700……よって、700ポイントアップ」
天空勇士ネオパーシアス☆7光ATK/DEF2300/2000→3000/2000
攻撃力3000となったネオパーシアス。しかも、このモンスターはその攻撃力が貫通効果を持つ性質上、守備表示モンスターが相手でも上がり続ける。強力なモンスターだ。
「さあ、ウチはターンエンドやで?」
笑みを零す。
こんなにも楽しいデュエルは、本当に久し振りで。
期待を込めて、祇園へと視線を向けた。
◇ ◇ ◇
――プロデュエリスト、響紅葉、本郷イリア、インタビュー――
――〝ルーキーズ杯〟は如何でしたか?
「楽しめたし、いい経験になった大会でした。来年以降も是非続けてもらいたいですね。僕にとって弟子というか……気になっている子の実力も見ることができたので、満足しています」
「あまりプロとアマのこういう形での交流はありませんから、良い機会になったと思います。悔しさこそ残りましたが」
「リベンジならいつでも待っているよ?」
「日本シリーズでお返しします」
――今後の目標は?
「まずは、チームのリーグ優勝だね。七割方の試合を終えて今チームは二位だから、十分狙えると思ってるよ」
「同じく、チームのリーグ優勝です。後は、個人での成績ですね。海外大会にも出場しようと考えています」
「今のところ、僕は今年は個人での大会出場は考えていませんが……近いうちに必ず姿を見せると約束します」
――では、最後に。あなたにとって『DM』とはなんですか?
「昔は楽しいもの、っていうだけだったけど、今は仕事の面もあって、辛い部分もあります。でも、それでも捨てられないから……きっと、好きなのでしょう」
「私と私の父を証明するために必要なもので、パートナーです。それ以上の答えはありません。無論、大切なモノではありますが。最早私にとっては体の一部のようなものでもありますから」
「ああ、それなら僕もだ。今更捨てることはできないなぁ」
「それも含めて、大切な存在です」
◇ ◇ ◇
――プロデュエリスト、神崎アヤメ、推薦枠、防人妖花、インタビュー――
――〝ルーキーズ杯〟は如何でしたか?
「非常に有意義且つ、楽しめた大会でした。来年、再来年と続けて欲しい催しだと思います」
「その、初めは怖かった部分もあったんですが、凄く楽しくて……。来て良かった、って思いました。たくさんサインももらえて、嬉しかったです!」
「まだ貰っていない人はいるのですか?」
「その……海馬社長にサインをお願いしたいんですが、会えなくて……」
「……意外と怖いもの知らずですね」
――今後の目標は?
「知ってくださっているかもしれませんが、昨年は未熟ながら『新人王』の称号を頂くことができました。しかし、それはあくまでルーキーの中ではという評価です。これがピークと思われないように精進し、いずれはタイトルを、と考えております」
「えっと、私はアカデミアを目指したいと思って……ます。その、夢神さんにいろいろ助けてもらって、あんな風になりたいなぁ、って……」
「それはいいですね。彼は実にいい好青年です」
「はいっ!」
――では、最後に。あなたにとって『DM』とは何ですか?
「〝相棒〟、という表現が一番しっくりきそうな気がしますね。DMのおかげで手にしたものが多くあり、切っても切れない関係です」
「えっと……うー、どう説明したら……」
「あなたの言葉でいいと思いますよ」
「は、はいっ。えっと、私にとって、プロはテレビの中でしか起こっていないことで、憧れて、眺めているだけの世界でした。でも、ペガサスさんや、澪さんが私に声をかけてくれて……DMのおかげで、私はここに来れました。だから、〝恩人〟、っていうのが一番、かな? みんなのことは大好きで、凄くお世話になっているので……」
「成程。良いですね」
「はいっ!」
◇ ◇ ◇
一ターンを終えるだけで、こうも容易く攻守が逆転する。本当に、美咲は凄い。
通常、巻き返されたら立て直すには時間がかかってしまうのが普通だ。だが、美咲はターンを返せば即座に巻き返してくる。
(やっぱり、強い。どうにか今は喰らいついていけてるけど……)
今のままではじり貧になることはわかり切っている。だが、やれることは一つだけだ。
「僕のターン、ドロー!」
カードを引く。美咲のフィールドにある伏せカード……あれが気になるが、今まで使ってこなかったことから考えても攻撃反応の類ではないように思う。だったら何だと聞かれれば答えられないが、どの道考えても仕方がない。
「僕は手札より速攻魔法『月の書』を発動! モンスターを一体、裏側守備表示にする! ネオパーシアスを守備表示に!」
「む、ネオパーシアスの守備力は2000や。突破されるかぁ……」
「ライトパルサー・ドラゴンでネオパーシアスを攻撃!」
「あらら~」
純白の竜の一撃により、天空の勇士が破壊される。祇園は更に、と言葉を紡いだ。
「モンスターをセットし、墓地の『レベル・スティーラー』の効果を発動! ライトパルサー・ドラゴンのレベルを一つ下げ、守備表示で特殊召喚!」
ライトパルサー・ドラゴン☆6→5光ATK/DEF2500/2000
レベル・スティーラー☆1闇ATK/DEF600/0
これでセットモンスターを合わせると場にはモンスターが三体。とりあえず、次のターンに倒されるようなことは避けられる。
しかし、先のターンでレベル・スティーラーを出すか迷った時に出さなくて良かった。出していれば今頃、ネオパーシアスの一撃で甚大なダメージを受けていたはずである。
「僕はターンエンドだよ」
「ウチのターン、ドローッ☆」
美咲の手札はこれで二枚。とはいえ、『神の居城―ヴァルハラ』がある。どうにでも動いてくるだろうが……。
「ウチはヴァルハラの効果を使い、手札より『マスター・ヒュペリオン』を特殊召喚!」
マスター・ヒュペリオン☆8光ATK/DEF2700/2100
現れたのは、聖域を守り、中心に座す絶対的な力を持つ大天使。
神々の意向を実践する代行者たちを束ねる、天使の王。
「マスター・ヒュペリオンは一ターンに一度、墓地の光属性・天使族モンスターをゲームから除外することで相手フィールド上のカードを一枚破壊できる。せやけど、今ここには『天空の聖域』がある。天空の聖域がある時、マスター・ヒュペリオンはこの効果をもう一度使える。つまり、二枚まで破壊できるわけや」
ただでさえ高い攻撃力と、手札・墓地の『代行者』を除外することで特殊召喚できるという安易な召喚条件を持っているのに、除去効果まで有しているマスター・ヒュペリオン。相変わらず、理不尽な力を有している。
「まずは墓地の『ヘカテリス』を除外して、ライトパルサー・ドラゴンを破壊や」
「ッ、ライトパルサー・ドラゴンが破壊されたことにより、墓地からレベル5以上の闇属性ドラゴンを特殊召喚できる! 『冥王竜ヴァンダルギオン』を蘇生!」
「残念やけど、『コーリング・ノヴァ』を除外してヴァンダルギオンを破壊や」
「…………ッ」
冥界を統べる王さえも、天使たちの王には敵わない。容赦なく破壊される。
「更にウチは墓地の『天空騎士パーシアス』と『The splendid VENUS』の二体の光属性モンスターを除外し、『神聖なる魂』を特殊召喚!」
神聖なる魂☆6光ATK/DEF2000/1800
現れる、新たな天使族モンスター。本当に、美咲のデッキは次から次へと上級天使が現れる。
「神聖なる魂は相手ターンのバトルフェイズに相手モンスターの攻撃力を下げる効果を持ってるけど……まあ、関係あらへんか。まずは神聖なる魂でレベル・スティーラーを攻撃し、マスター・ヒュペリオンでセットモンスターを攻撃や」
「ッ、セットモンスターは『メタモルポット』! お互いのプレイヤーは手札を全て捨て、カードを五枚ドローする!」
「なんや、ライコウやと思ったけど。……五枚ドロー。ふむ、面白い手札やな。今、ウチの墓地には『光神機-轟龍』、『天空勇士ネオパーシアス』、『堕天使ディザイア』、『堕天使アスモディウス』の四体の天使モンスターがいるよ。そして墓地の天使族モンスターが四体のみの時、この天使が降臨する。――『大天使クリスティア』を特殊召喚!!」
大天使クリスティア☆8光2800/2300
現れたのは、光を背負う最強の天使。その威光に、祇園は思わず息を呑む。
大天使クリスティア――特殊召喚の条件こそ面倒だが、それを補ってあまりある効果を持つ。
「大天使クリスティアがこの効果で特殊召喚に成功した時、墓地の天使を一体手札に加えることができる。ウチは『堕天使ディザイア』を手札に。そしてクリスティアがいる限り、お互いのプレイヤーは特殊召喚ができひんよ。……ウチはカードを一枚セット」
そう、このどうしようもない程に強力な制圧力故に、あのカードは準制限カードに指定されている。
「さあ、ここからや。楽しませてや、祇園?」
ターンエンド、と美咲が宣言する。祇園は一度、大きく深呼吸をし。
「僕のターン、ドロー!」
カードを、引いた。
◇ ◇ ◇
――アカデミア本校代表、丸藤亮、遊城十代インタビュー――
――〝ルーキーズ杯〟は如何でしたか?
「非常に有意義且つ、勉強になりました。個人的に悩んでいたことがあったのですが、この大会で答えが出せたように思えます」
「滅茶苦茶楽しかったぜ! プロはやっぱ凄かったし、またやるなら是非出たいな!」
「それは俺もだな。リベンジしたい」
「カイザーとも戦ってみたいぜ!」
「ああ、いずれやろう」
――今後の目標は?
「自分の信じる信念を証明するという意味でも、プロに挑戦するつもりです。大きな声では言えませんが、ありがたいことにスカウトの話も来ているので」
「強くなること、かな。やっぱり。勝てたかもしれないデュエルもあったし、まだまだ遠くて勝てないって思えたこともあってさ。やっぱ、今度は勝ちたいって思うから。勿論、カイザーにだって勝つぜ?」
「期待している。俺個人としては、夢神ともデュエルしたいところだがな」
――では、最後に。あなたにとって『DM』とは何ですか?
「自分自身の成長のために欠かせないものであり、大切な存在だ。それ以上の言葉はない」
「最高に楽しくて、最高に燃えて、最高にワクワクするもの! だから俺はこれからもデュエルを続けるんだ。紅葉さんや遊戯さんみたいになるって目標があるから、諦めないぜ」
◇ ◇ ◇
『凄まじいデュエルですね……桐生プロの場には、上級天使が三体……』
『これだから美咲くんは恐ろしい。少年もよく喰らいついているが、防戦一方だ。ここらで巻き返せないと厳しいものがあるな』
『しかし、クリスティアは特殊召喚を封じる効果を持っていますよね?』
『その上、2800の高打点。正直、このカードを初手に出されると詰むデッキはそれなりに多いぞ』
『どうするつもりでしょうか……』
『このままゲームエンドか、それとも否か。……少年の真価が試される時だ』
取り合えず、できることはやったつもりだ。『大天使クリスティア』――まさか、ここまで天使族モンスターを連打することになるとは。
普通なら、ここで相手が『詰む』ということも珍しくない。一ターンで強力なモンスターを出そうとすれば、結局特殊召喚に頼るしか方法がないのだ。
(除去カードゆーても、クリスティアは破壊されたらデッキトップに戻る。ヴァルハラがある以上、その場凌ぎや)
祇園はどうするつもりか――先程から、表情が悩ましげだ。真剣に手を考えているのだろう。
祇園が一度目を閉じ、大きく深呼吸する。……どうやら、方針が決まったらしい。
「いくよ、美咲」
「はいな」
「まずはクリスティアを無効化する……! 手札より速攻魔法『禁じられた聖杯』を発動! モンスターの効果を無効にし、攻撃力を400ポイントアップする! 対象はクリスティアだ!」
大天使クリスティア☆8光ATK/DEF2800/2300→3200/2300
クリスティアの攻撃力が変化する代わりに、その効果が失われる。……まあ、これは予測できていたことだ。
「そして僕は、墓地の光属性モンスター『エクリプス・ワイバーン』と闇属性モンスター『バイス・ドラゴン』を除外し、『カオス・ソーサラー』を特殊召喚!」
カオス・ソーサラー☆6闇ATK/DEF2300/2000
現れたのは、混沌の魔術師。仮面の底から覗く闇が、小さく揺れる。
「除外されたエクリプス・ワイバーンの効果で『レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン』を手札に。そして、カオス・ソーサラーの――」
「リバースカード、オープン。永続罠『デモンズ・チェーン』。モンスター一体の効果を無効にし、攻撃不可とする。対象はカオス・ソーサラーや」
「ッ、さっきのターンに伏せたカードか……」
「どうする祇園?」
「こうするよ。――墓地には『ドラゴン・ウイッチ―ドラゴンの守護者―』、『冥王竜ヴァンダルギオン』、『レベル・スティーラー』の丁度三体の闇属性モンスターがいる。墓地の闇属性モンスターが三体のみの時、このモンスターを特殊召喚! 来い、『ダーク・アームド・ドラゴン』!!」
ダーク・アームド・ドラゴン☆7闇ATK/DEF2800/1000
かつて、一度だけ共に出場したタッグデュエルの大会。
そこで手にした、思い出のカード。漆黒のその竜が挙げる咆哮に、思わず微笑が漏れてしまう。
「……懐かしいカードやなぁ……」
「うん。覚えてる?」
「当たり前やろ。……楽しかったなぁ」
「……うん」
大切な思い出があり。
それは色褪せずに、心に残っている。
「じゃあ、ダーク・アームド・ドラゴンの効果だ。墓地の闇属性モンスターを除外し、フィールド上のカードを破壊できる。ドラゴン・ウイッチを除外し、デモンズ・チェーンを破壊」
「む……」
「これでカオス・ソーサラーは効果が使えるようになった。カオス・ソーサラーの効果で、クリスティアを除外」
大天使が除外される。まさかこうもあっさり突破されるとは。
「更に、冥王竜ヴァンダルギオンを除外して、マスター・ヒュペリオンを破壊。……レベル・スティーラーを除外して、伏せカードを破壊」
一瞬迷いながらも、三回目の効果を使う祇園。その瞬間、美咲は伏せカードの効果を発動した。
「リバースカード、オープン! 罠カード『光霊術―「聖」』! 自分フィールド上の光属性モンスターを生贄に、除外されているモンスターを特殊召喚する! 神聖なる魂を生贄や!」
最初から伏せられていたカードはこれだった。正直、発動するタイミングがなかったと言える。
「せやけど、祇園は手札から罠カードを見せて無効にできるよ。どうや?」
「……ううん。ないよ」
「なら、効果が通る。――おいでませ、最強の天使!! 『The splendid VENUS』!!」
The splendid VENUS☆8光ATK/DEF2800/2400
再び姿を見せる、『プラネット』の一角。会場が湧き立った。
「さあ、どうする祇園?」
「――僕はダーク・アームド・ドラゴンを除外し、『レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン』を特殊召喚!!」
レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン☆10闇2800/2400→2300/1900
現れる、最強の黒竜。だが、天使の威光の前ではその力も霞んでしまう。
「レッドアイズの効果を発動。一ターンに一度、墓地からドラゴンを蘇生する。墓地から『ライトパルサー・ドラゴン』を蘇生!」
ライトパルサー・ドラゴン☆6光ATK/DEF2500/2000→2000/1500
並び立つ布陣。いつもの、というと妙だが、これが祇園のカオス・ドラゴンの強さだ。
「更に手札より魔法カード『死者転生』を発動! 手札の『真紅眼の黒竜』をコストに、墓地の『ストロング・ウインド・ドラゴン』を手札に! そして、ライトパルサー・ドラゴンを生贄に捧げ――『ストロング・ウインド・ドラゴン』を召喚!!」
ストロング・ウインド・ドラゴン☆6風ATK/DEF2400/1000→3650/1000→3150/500
暴風を纏うドラゴンが現れる。向かい合う天使と暴風の竜。それはまるで、試合序盤のやり直しのようにも見えた。
「バトル! ストロング・ウインド・ドラゴンでヴィーナスを攻撃し、レッドアイズでダイレクトアタック!!」
「――『速攻のかかし』や。レッドアイズの攻撃は遠さへんよ。バトルフェイズは終了や」
相手の直接攻撃宣言時に手札から捨てることで相手のバトルフェイズを強制終了させる『速攻のかかし』。場が空いている方が都合のいい美咲にとっては、『バトル・フェーダー』よりも優先度が高い。
「……僕はターンエンド」
祇園がターンエンドを宣言する。とはいえ、危ないのは危なかった。まあ、光霊術が通らずともかかしがいたのでそこまで心配はしていなかったが――
「ウチのターン、ドローッ☆」
デュエルは終わりに近付いている。
そんな風に感じながら、美咲はカードをドローした。
◇ ◇ ◇
――プロデュエリスト、桐生美咲、インタビュー――
――〝ルーキーズ杯〟は如何でしたか?
「楽しい大会でしたよ~。約束も果たせましたし。それが本当に……本当に、嬉しくて。
まあ、とりあえず大成功ですね。個人的には、これ以上ないくらいに成功やと思います。来年以降も続ける気らしいですし、今後もよろしくお願いします♪」
――今後の目標は?
「とりあえず、『世界九大大会』の出場資格を狙おうかな、と。流石に本選シードは世界ランク12位以上の人だけやから、三部予選の世界ランク72位以内のとこから目指すつもりです。後は勿論、『横浜』のリーグ優勝! 応援よろしくお願いします☆」
――では、最後に。あなたにとって『DM』とは何ですか?
「……ウチにとっては、もう、切り離せないモノです。手に入れたモノも、失ったモノも多くあって。捨てれば今まで歩いてきた道を否定するようで、できそうにありません。
好きか嫌いかでも語れませんねー……。そういう次元やないんですよ。まあ、自分でも何言うてるかわからないんですが……。
まあ、とにかく。ウチにはやらなければならないことがあって。そのためにDMは絶対に必要で。
それに……DMは〝絆〟の象徴なんです。ウチの世界と、ウチを繋げるための。それが、ウチの〝答え〟です」
◇ ◇ ◇
正直、予感はしていた。
約束の場所で、こうして向かい合ってデュエルをして。
楽しくて、必死で、いっぱいいっぱいだったけど。
――終わるんだな、と。
心のどこかで、確かにそう思う自分がいた――……
「祇園」
美咲が、微笑を零した。
うん、と頷いて応じる。
「楽しかったよ」
「……うん」
僕もだよ、と頷いた。
ずっと、ずっと願っていた。
――彼女と、こうして向かい合う時を。
「不安だったんだ。昔から」
「…………」
「僕は弱いから。美咲は僕なんかとデュエルをしても楽しくないんじゃないかって。ずっと……思ってた」
優しいから。
文句の一つも言わずにデュエルをしてくれるのだと……そんな、不安がずっとあった。
「ねぇ、美咲」
「うん、祇園」
「僕、強く……なれたかな?」
それは、ずっと聞きたくて。
けれど――聞けなかったこと。
「……昨日、謝らなアカンことがあるって言ったやんな?」
「うん」
「それとは別に、今日の祇園を見て、謝らなアカンことがもう一つできたんよ」
苦笑を浮かべて。
誰よりも憧れ続けた〝ヒーロー〟は、真っ直ぐにこちらを見つめてきた。
「昨日、軽々しく『強くなったね』なんて言って、ごめんな」
その、言葉は。
「改めて、今日デュエルをして、本当に心から言うよ」
ずっと、言って欲しかった言葉で。
「――強くなったね、祇園」
その、一言で。
全てが、報われた気がした――……
「さあ、最後や。――墓地の光属性モンスター、『The splendid VENUS』と闇属性モンスター、『堕天使アスモディウス』をゲームから除外し。現れよ、最強の混沌。――『カオス・ソルジャー―開闢の使者―』を特殊召喚!!」
カオス・ソルジャー―開闢の使者―☆8光ATK/DEF3000/2500
現れるは、最強の混沌。
その絶対的な、気配を前に。
「バトルや! カオス・ソルジャーでストロング・ウインド・ドラゴンを攻撃! 更にダメージステップに手札から『オネスト』の効果を発動!! このカードを捨てることで、エンドフェイズまで相手モンスターの攻撃力を得る!」
カオス・ソルジャー―開闢の使者―☆8光ATK/DEF3000/2500→6650/2500
倍以上の攻撃力にまで膨れ上がった混沌の戦士を前に、為す術もなく暴風の竜は破壊される。
「そして、カオス・ソルジャーは戦闘で相手モンスターを破壊した時、もう一度攻撃できる!」
目指した背中、追いかけ続けた背中は、やはり、どうしようもないくらいに遠くにあって。
「レッドアイズへ攻撃!!」
ようやく向かい合うことのできたその人は、やはり……輝いていて。
「終わりやな、祇園」
「うん」
「楽しかったよ」
「うん」
直視できないくらいに、眩しい笑顔で。
「今日のところは――ウチの勝ちや!」
あの日と変わらぬ、言葉をくれた。
「うん。……ああ、もう」
あの頃のように、向かい合えたことが嬉しくて。
でも、それとは違う気持ちもあって。
「……悔しいなぁ……」
思わず、そう呟いた。
祇園LP3200→200→-3650
終幕の音が、鳴り響く。
会場が、爆発するような拍手に包まれた。
『優勝は――桐生美咲選手です!!』
『素晴らしいデュエルだった。今一度、惜しみなき拍手を』
第一回〝ルーキーズ杯〟、優勝者――桐生美咲。
準優勝者――夢神祇園。
◇ ◇ ◇
――一般参加枠、夢神祇園、インタビュー――
――〝ルーキーズ杯〟は如何でしたか?
「本当に、楽しかったです。最初は、僕なんかが場違いかもしれないって思っていたんですが……色んな方に励まされて、背中を押されて……どうにかこうにか、決勝まで進めて。
本当に、嬉しくて。テレビの中の世界を眺めているだけだった僕が、こんなところに立っているのが、夢じゃないかって思えるくらいで。
今は、ただただ感謝の気持ちでいっぱいです。応援して下さった皆さん、本当にありがとうございます」
――今後の目標は?
「僕が決勝にまで行けたのは、ただの偶然が重なった〝奇跡〟のようなものだと思っています。実際に大会に出ておられる方は僕なんかよりも遥かに強い方ばかりですから。
だから、今の僕の目標は少しでも強くなることです。いつか自分を誇れるくらいに、強く。
……とある先輩に言われたんです。『自分が嫌いだろう?』って。僕は、答えられませんでした。好きとも、嫌いとも答えられなくて。
だから、胸を張れるようになりたいです。
僕を信じてくれている人も、応援してくれている人も大勢いて。その方達の前で、虚勢であっても胸を張れるぐらいに強くなりたいです。
自分自身を誇れるようになること。それが、僕の目標です」
――では、最後に。あなたにとって『DM』とは何ですか?
「――夢、です。
憧れた人を追うために。
目指した世界に立つために。
ただただ追いかける、僕にとっては大切なモノ。
それだけで、いいです。
それだけで十分だって……最近、ようやく知りましたから」
――〝良き、旅路を〟
一人の少年は、再び歩き始める。大切な想いを、抱きながら――……
完全に最終回だよコレ。大丈夫かおい。