遊戯王GX―とあるデュエリストたちの日々― 作:masamune
会場の空気に、遊城十代は戸惑いを隠せなかった。彼の視線の先――決闘場では、如月宗達が主にブルー生から一方的なブーイングを浴びている。
宗達は卑怯な手段を使ったわけではない。ルールの中で、ルールに則って。彼は彼なりの戦い方をしているだけだ。
先程宗達が使った『デモンズ・チェーン』や『神の警告』には十代自身、何度も苦渋を味わわされている。一発逆転を狙って『トルネード』や『ガイア』といった融合を行っても無効化されたり、そもそも『融合』を止められることも多い。
だが、それは自分自身のタクティクスの問題だと十代は思っている。伏せカードがある以上、相手が何かをしてくる可能性は0ではない。むしろ逆だ。伏せカードとは相手の妨害をするための者なのだから。故に十代は宗達のアドバイスや彼とのデュエルの中で『サイクロン』を三枚積んだり、自身の融合召喚を通しやすくする手段を考えるようになった。
それが当たり前だし、最近ではその駆け引きが楽しくて仕方がない。ドロー運が悪い宗達は序盤を伏せカードで凌ぎ、少しずつ手札を溜めて行く手段をとる。そんな彼の罠をどうかいくぐるかが楽しく……それでようやく、最近は勝てるようにもなってきた。それでも勝率は悪いが。
――如月宗達は、卑怯者ではない。
彼は彼なりの戦い方をしているだけだ。その上で、自分たちとデュエルする時はこちらを鍛えるようなデュエルをしてくれる。言動から素っ気ない印象を受けるが、アレで結構面倒見がいい。実際、制裁デュエルの時は自分や翔のデッキについて真剣に考えて議論をしてくれた。
十代たちだけではない。レッド生やイエロー生のほとんどは必ず一度は彼の世話になっている。高慢なブルー生に絡まれているところを助けてもらった者もいるし、アドバイスを貰った者もいる。特に彼と授業でデュエルした者は必ずといっていいほどアドバイスを貰っている。
だから、十代は思っていた。
――宗達とカイザーのデュエルは、全員が両方を応援するものだと。
そう、思っていたのに――
「何だよ、これ……。何で宗達がブーイングを受けてるんだ……?」
ブーイングをしているのはブルー生だけだ。そして、彼に対する応援はない。
その全てが、十代には異常に見えた。
「……宗達くんの使った『デモンズ・チェーン』と『神の警告』は、『サイバー流』にとって卑怯者が使うカードなんス……」
十代の側で、翔が俯きながらそんなことを呟いた。どういうことだよ、と十代が問いかけると、俯きながら翔は言葉を紡ぐ。
「サイバー流の『リスペクト・デュエル』は、『互いが全力を出せれば勝敗なんて関係ない』っていう考え方なんス……だから、相手に全力を出させない――相手の動きを潰すカウンタートラップや妨害札は卑怯なカードって言われてるんスよ……」
「ひ、卑怯って……なんだよそれ。翔、お前も同じ意見なのか? 宗達が卑怯者だと思ってるのか?」
「そ、そんなことないッス! 最初は、その……そう思ってたけど……宗達くんは僕やアニキや隼人くんをいつも助けてくれて、祇園くんの退学に誰よりも反対してた人ッス。良い人だってわかってる。けれど……アニキ、サイバー流はアカデミアにも浸透しちゃってるんスよ」
翔の声が小さくなる。翔は更に続けた。
「僕、今も弱いッスけど……昔、もっと弱くて……。どうしても勝てなかった時があって、どうしても勝ちたくて、『卑怯』って呼ばれてたカウンタートラップや妨害カードに手を出したことがあるッス。……勝てたッスよ。けど、その後色んな人に怒られた」
「怒られた? 勝っただけで?」
「『お前には相手をリスペクトする気持ちがないのか』って、当時の師範に怒られて……それ以来、デュエルが怖くなったこともあって。サイバー流って、そういう流派なんスよ。昔は、もっと楽しい場所だったのに……」
「――宗達が言っていたわ。『曲解された教えと、それを信じている信者ほど性質の悪いものはない』って」
不意に聞こえてきた声に、十代と翔が振り返る。そこに立っていたのは、藤原雪乃。そして、明日香やジュンコ、ももえといったメンバーだった。
「どういうことだ?」
「宗達は、中等部の頃からずっとああしてサイバー流やそれを崇拝するボウヤたちの目の仇にされてきた。だから、調べたのよ。サイバー流という流派がどういうものなのか。本当に自分がおかしいのか、ってね。……確か、明日香も手を貸してくれたはずだけれど」
「ええ。兄さんが亮とは同じ学年で、その縁もあったから……少しだけね」
歯切れ悪そうに明日香はそう言葉を紡ぐ。その明日香から視線を外すと、雪乃は静かに言葉を紡いだ。
「サイバー流は、眼鏡のボウヤが語ってくれたみたいに『リスペクト・デュエル』を崇拝してる流派よ。別にそれ自体は宗達も私もどうでもいいわ。けれど、彼らのしていることはリスペクトでも何でもない。ただの自己満足。そういう流派に、成り下がってしまった」
「…………」
翔は無言。ただ俯き、黙って雪乃の言葉を聞いている。
雪乃はそんな翔へと視線を軽く向けると、言葉を続けた。
「サイバー流にはね、十代のボウヤ。『禁じ手』っていうものがあるの」
「禁じ手? 禁止制限みたいなもんか?」
「いいえ、勝手に彼らが『リスペクトに反する』と決めつけているカードたちよ。『裏サイバー』と呼ばれるカードがそうだし、さっき眼鏡のボウヤが言ったようにカウンターや妨害札の類もそこに含まれる。理由は、『相手が全力を出せない』から。……ナメた話よ、本当に」
形の良い眉を歪ませ、言い捨てる雪乃。彼女はカイザーと向かい合う想い人の姿を見つめながら、静かに言葉を紡ぐ。
「全力の形なんて人それぞれ。そこに卑怯も汚いもない。……別に、彼らの中で勝手に自己完結してる論理ならどうでもいいの。問題は、それを相手にも押し付けようとしていること」
それが一番卑怯なのよ――雪乃は、怒りさえ滲ませて言い切った。
「リスペクト、っていう言葉には良いイメージが湧くわ。ボウヤたちも、リスペクト・デュエルに対して悪いイメージはないでしょう?」
「あ、ああ。そりゃ、えーと……」
「『尊敬』だ、十代」
こちらへと歩み寄って来つつ、三沢がそう言葉を紡いだ。その隣では隼人も真剣な表情を浮かべている。
雪乃は頷きつつ、言葉を続けた。
「そう、リスペクト――その言葉の魔力が何よりも面倒なの。リスペクトがない、ということは相手を尊重していないということ。そんな烙印を押されるのは、誰だって嫌でしょう?」
「そりゃあ、まあ……」
「……誰彼かまわず尊敬なんて、ただの愚か者がすることだけれど。でも、それがまかり通っているのが現実で、そして、『自分も相手をリスペクトをしている』と証明する上でこれ以上ないくらいに適切な的がある」
雪乃の瞳は憂いを帯びていた。その視線は、孤独に戦う想い人に向けられている。
「それが、宗達。彼を認めなければ、それがそのままリスペクト・デュエルを信じていることになる。……くだらないわ、誰も彼も」
本当に、くだらない――腕を組み、震える声で雪乃はそう呟いた。
会場では変わらず宗達にブーイングを浴びせるブルー生と、彼らに目を付けられたくないがために黙りこくっているレッド生やイエロー生。そして、この光景を前にして何も言わない教師陣がいる。
リスペクト、と雪乃は語った。そしてカイザーも、以前十代が戦った時に同じことを口にしている。
「……なあ、翔」
ポツリと、この異常でありながら誰も異常と言わない光景を前に。
十代は、呟いた。
「これが、リスペクトって奴なのか……?」
ただ全力で戦っているだけの人間に、四方より罵声を浴びせ続け。
どう考えても間違っているその光景を前に、反論する者が誰もいないという現実。
これが。
こんなものが、〝リスペクト〟だというのか――……?
「……こんなの、こんなのリスペクトじゃないッス……!」
涙声で、翔は呟き。
しかし、彼の言葉は誰にも届かない。
「――宗達は、サイバー流を憎んでる」
雪乃は、静かにそう言った。その言葉に反論できる者は……いない。
「口では何て言っても、それはもう仕方がないこと。……けれど、それは間違っているのかしら? こうまでされて、こんな状況に追い込まれて……! 中等部の頃からずっと一人で戦ってきた宗達に! それでもサイバー流は〝リスペクト〟なんてものを押し付けるの!?」
「……雪乃」
叫ぶ雪乃を、明日香が優しく抱き締める。
誰も、何も言ない。
――聞こえてくる罵倒の声が、どこか遠い世界の言葉のように聞こえた。
◇ ◇ ◇
(なんつーか、この感じも久し振りだねー……)
周囲より降り注ぐブーイングの嵐。中等部にいた頃は日常だった光景だが、長くアメリカへ渡っていたこと――本校へ来てから一度も大勢の前でデュエルをしていないことから、随分と久し振りのように感じる。
「俺のターン、ドロー」
手札を引きつつ、宗達は思う。こういう状況には慣れたものだ、と。
アメリカに渡った時、『日本人』ということで随分と侮られた。それを宗達は今までそうしてきたように力で捻じ伏せたのだが……色々とストレスが溜まっていたこともあり、随分と暴れたものだと思う。
――けれど、こっちとは違って勝てば勝つほど向こうでは〝友達〟が増えていった。
(ディビットには毎日挑まれたし、マッケンジーはアドバイスを求めてきたし、セインはアイドルカードについて語ってきやがったなー……)
正直、アメリカに渡ったばかりの自分は本当に情けなくて、八つ当たりを繰り返す子供のような状態だったと思う。
けれど、彼らはそんな自分を〝友達〟と呼んでくれて。
全米オープンの予選を突破したことをクラスの連中に伝えると、皆が我がことのように喜んでくれて。
(こっちじゃ俺が勝って舌打ちする奴はいても、喜んでくれるのは雪乃ぐらいだったしなー。雪乃も素直じゃないし、俺の勝ちを喜んでくれる奴なんて……孤児院の時以来で)
勝ち進めば進むほど、色んな奴らが笑顔で喜んでくれた。
ニューヨークで決勝トーナメントが行われることになって、一人でホテルをとって会場に向かったら。
(応援席で、俺のことを応援してるアイツらがいて。……嬉しくて、本気で泣きそうになった)
誰かに応援されることなんて、中等部に上がってからは初めてで。
勝って喜んでもらえることも……初めてだったから。
「俺は手札からカードを二枚セットする。そして、『カードカー・D』を召喚」
カードカー・D☆2地ATK/DEF800/400
文字通りカードのような車が現れる。低ステータスのこのモンスターをブルー生たちが馬鹿にするが、宗達は欠片も気にしていない。
「カードカー・Dの効果発動。メイン1にのみ発動でき、召喚に成功したターンにこのカードを生贄に捧げて発動。デッキからカードを二枚ドローし、ターンを終了する。二枚ドロー」
デメリットはあるが、二枚ドローは十分に強力なカードだ。それに、多少の事ならば伏せカードでカバーは利く。
(さて、相変わらず手札は悪いが……まあ、どうとでもなる)
相手はカイザー。そのドロー力では適うはずもない。なら、戦い方を考えるしかない。
思考停止はそこで死ぬ。考えろ。考え続けろ。
それだけで、ここまで勝ち上がってきたのだから。
(俺は、間違ってなんてない。あの時、ベスト8で桐生に負けて。応援してくれてたアイツらに顔向けできないと思った。けど、桐生は俺のデッキを肯定してくれて)
否定され続けたデッキと、信念と、戦い方。
それを初めて、あのプロデュエリストは肯定してくれた。
(応援席のアイツらのとこに行った時、責められることを覚悟してた。応援にまで来てくれたのに、俺は準決勝にさえ上がれなかったから。……けど、アイツらは俺のことを褒めてくれて。俺が負けたことに本気で泣いてくれてる奴もいて)
こんな自分に、そうまでしてくれた〝友達〟に。
呆然と、何も言えなくなって。
ただ、「ありがとう」と頭を下げたことを……覚えてる。
(だから、死ぬ気で5位をとった。俺のことを――俺なんかを応援してくれた奴らに、それぐらいでしか恩返しは出来なかったから。そしたら、皆はやっぱり喜んでくれて。あいつらのおかげで俺は、DMを嫌いにならずに済んだ)
潰れ、消えていくはずだった自分を最初に救い出してくれたのは……雪乃。
けれど、彼女との居場所さえも失い、どうしようもなくなっていた自分を救ってくれたのは……アメリカの連中だったから。
「さあ、あんたのターンだぞ。――カイザー」
雪乃が肯定してくれて、アメリカの〝友達〟が救い出してくれて。
十代や祇園、三沢といったメンバーが目指してくれている……『如月宗達』という〝強さ〟を。
――嘘にはしない。
そうは、させない。
だって、それだけが。
勝つことだけが――今の自分を証明する手段だから。
◇ ◇ ◇
「俺のターン、ドロー」
宗達の宣言を受け、カイザーはデッキからカードをドローする。状況は正直、そこまで良くはない。宗達のフィールドには伏せカードが二枚と『デモンズ・チェーン』があり、特にデモンズ・チェーンはこちらの『サイバー・ツイン・ドラゴン』を縛っている。
こちらの場には『パワー・ボンド』で攻撃力が二倍となっているサイバー・ツイン・ドラゴンと伏せカードが一枚。モンスターの攻撃力的にはこちらが優勢だが、そんなものは如月宗達には通用しないだろう。
(その上、向こうは手札が五枚あるのに対し俺は手札が二枚……聞いていた通り、彼には『巧者』という言葉が良く似合う)
如月宗達の弱点として『ドロー運の無さ』が挙げられる。これはカイザーたる丸藤亮が師範から聞いた言葉だが、手札0からの逆転というものを如月宗達は今まで一度も行ったことがないのだとか。
元々手札を全て消費するようなデュエルをしないというのもあるのだろうが、彼が操る『六武衆』というカテゴリはその圧倒的な展開力こそが持ち味だ。それがこうも鳴りを潜めているということは、やはり手札が悪いのだろう。
故に防御札や妨害札を入れるしかなく、それによってまた手札の事故が増える。
(外野がうるさいが……俺はキミのことを卑怯だとは思わない。キミは俺を最大限に警戒し、全力で向かってきている。慎重に手を進めているのもそれが理由だろう。全米オープン五位入賞……それは卑怯者が辿り着けるような領域ではない)
全米オープンはプロも参加する大規模な大会だ。彼が出場したのはU―25部門でこそあるが、あの大会には日本より桐生プロが出場していたし、その他にも本郷プロや何よりも〝祿王〟が参戦していた。そんな中で五位を獲ることが如何に難しいか……想像は難しくない。
(ならば、こちらも全力で向かわせてもらおう)
相手はこちらと同等――それぐらいの覚悟で挑む。
「俺は手札から魔法カード『大嵐』を発動! フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する!」
これが通れば、そのまま戒めを解かれたサイバー・ツイン・ドラゴンでゲームエンドだが――
「リバースカード、オープン。カウンタートラップ『魔宮の賄賂』。相手はカードを一枚ドローし、魔法・罠の発動を無効にして破壊する」
「む、成程……ドロー」
カウンタートラップの中ではかなりスタンダートなカードである『魔宮の賄賂』により、カイザーの『大嵐』が無効にされ、カイザーがカードをドローする。宗達の表情を見る限り、この程度は想定内だというところか。
『今度はカウンタートラップ……!』
『どこまで卑怯なんだよ……!』
再び聞こえてくる罵声。宗達は表情を変えない。まるでこれが当たり前のことであるかのように、涼しい表情をしてこちらを見ている。
この状況は、言ってしまえばカイザーがホームといった状態だ。それでも普通、ここまでのブーイングは有り得ないものだが……。
(気を取られるな。俺は俺の全力を以て戦えばいい)
一度静かに深呼吸をすると、カイザーは前を見た。
罠を張るならばそれでもいい。その全てを――超えるだけだ。
「俺は手札から『サイバー・フェニックス』を召喚!」
サイバー・フェニックス☆4炎ATK/DEF1200/1600
炎の中から、一機の鳥が現れる。サイバーの名に相応しい機械仕掛けの鳥は、宗達を見て大きく嘶いた。
「バトルだ! サイバー・フェニックスでダイレクトアタック!」
「…………」
宗達LP2000→800
宗達のLPが1000を切る。周囲から歓声が上がったが、カイザーは難しい表情をしていた。今の攻撃、あの伏せカードで迎撃されると思っていたのだが……。
「……俺はターンエンドだ」
とはいえ、できることはこれ以上存在しない。カイザーはターンエンドを宣言する。
「俺のターン、ドロー」
高火力のカイザーと、展開力の宗達。一瞬で決まると思われていたデュエルは、長期戦の様相を呈していた――
◇◆◇◆◇
『ねぇ、あなたが強いと聞いたのだけれど……本当?』
『いきなりだな、オイ。誰だよ』
『あら、クラスメイトである私のことを覚えていてくれないなんて……少し、ショックね。傷ついたわ』
『興味ねぇからな。で、何だ? 校舎裏で一人惨めに弁当食ってる俺を笑いに来たのか?』
『まさか。……どうして食堂へ行かないのかしら?』
『陰口叩かれんのわかっててそんなとこ行くわけがねー。クラスメイトならわかってんだろ。俺がどんだけ嫌われてるかくらい』
『醜い嫉妬ねぇ……。女のそれは華になることはあっても、男のそれは惨めなだけよ』
『それには同意するが、数の暴力ってのがあってな。数が多い方が正義なんだよ、今の世の中』
『なら、あなたは悪なのかしら?』
『悪じゃねーの? 何人か再起不能にしてっし、素行不良だし』
『……フフッ、面白いわねアナタ……♪』
最初に出会った時は、変な女だと思った。同時に、またか、とも。
学校中から嫌われる人間がどんな奴なのか。もう入学式が終わって三か月も経つのに、一人で飯を食べている人間を面白がっているのだろうと。
そんな風に思ったのを……覚えてる。
『……こんなもんでいいか?』
『あぁん、もっとぉ……♪』
『デュエルするだけで無駄にエロい声出すな! オマエ本当に中学生かよ!?』
『あら、スタイルと容姿は抜群だけれど、確かに私は中学生よ?』
『自分で言うのかよ。……で、満足か? つーか、授業サボって良かったのかよ』
『フフッ、その言葉はそのままお返しするわ』
『俺はいーんだよ。学年トップだし。授業なんざ出なくても成績とれてるし』
『……私もね、少し退屈だったのよ。つまらないオトコばかりで、毎日がブルー……』
『何かオマエ、ため息がエロい』
『オ・マ・エなんて他人行儀ねぇ……雪乃、って呼んで頂戴?』
『あん?』
『私はね、強いオトコが好きなの。――気に入ったわ』
『アア、ソウデスカ』
『あら、もっと喜んだら? 私に褒められると、他のオトコは泣いて喜んで「踏んでください」って言うわよ?』
『それオマエの周囲の奴がおかしいだけだからな!? それが男のスタンダートじゃねぇからな!?』
『ほら、またオマエ。雪乃、って呼んで?』
『……雪乃』
『フフッ、ありがとう♪ 私も、宗達、って呼ばせてもらうわね?』
『ご自由に』
『ねぇ、宗達?』
『何だよ、雪乃』
『フフッ♪ 何でもないわ♪』
『……よくわかんねぇ奴だな』
その時は、正直『わけのわからない女に絡まれた』程度にしか考えていなかった。
けれど、後に気付く。
……悪意以外の感情を他人から向けられたのは、中等部に入ってそれが初めてだったんだって。
『今日も大活躍だったな』
『ええ、もう少しで宗達と同じ一桁台に上がれるわ』
『俺は学年一位だけどな』
『そのあなたに校舎裏でこうして特訓してもらったから勝てているのよ。感謝してるわ』
『……なあ、雪乃。オマエ、ここに来るのやめろ』
『……どうしてかしら?』
『自覚してるんだろ。オマエ、俺と一緒にいるせいで変な目で見られてるぞ』
『…………』
『他人が関わろうとしない人間には、自分の関わるべきじゃねぇ。世の中ってのはそういうもんだ』
『悟ったようなことを言うのね』
『こんな経験してるとな。世の中なんてどうしようもねぇって……そんな風に思うんだよ』
『……わかったわ。サヨナラ、宗達』
こうすることが一番だと思った。雪乃にまで、自分と同じ思いはさせたくない。
そんなくだらないことを、思っていて――
『今日の相手は……っと。……雪乃』
『久し振りね』
『ああ。遂に、トップ4に入って来たのか』
『ええ。時間はかかったけれど、ね』
『一ヶ月も経ってねぇじゃねぇか。……まあいいや、やろうか』
『その前に、一つだけいいかしら?』
『何だ?』
『私が勝ったら、私と付き合いなさい』
『…………は?』
『あなたの隣に立つために、私は努力をした。そしてようやく、ここまで来た。……どうかしら?』
『……俺は――』
あの日のことを、一生忘れないと思う。
一人だったのが、二人になった日。
それが、この日だったから。
彼女が〝強い〟といってくれ、目指してくれた自分。
それを、嘘にしないために。
――必ず、勝つ。
◇ ◇ ◇
引いたカードを確認する。手札はこれで六枚。……状況は悪くないが、このままだと面倒なことになりそうだ。何より『サイクロン』を引かれてしまうだけで攻撃力5600の二回攻撃が暴れ出す。
ならば、ここで動いておくことに――意味はある。
「俺は手札から永続魔法、『六武衆の結束』を発動。このカードには最大二つまで、『六武衆』と名のついたモンスターの召喚・特殊召喚成功時にカウンターが乗っていく。そしてこのカードを墓地に送ることで、乗っているカウンターの数だけカードをドローできる。そして俺は『六武衆―ザンジ』を召喚。更に場に『六武衆』と名のついたモンスターがいる時、このモンスターを特殊召喚できる。『六武衆の師範』を特殊召喚」
六武衆―ザンジ☆4光ATK/DEF1800/1300
六武衆の師範☆5地ATK/DEF2100/800
六武衆の結束 0→2
場に二体のモンスターが一瞬で並ぶ。宗達は更に手を進めた。
「六武衆の結束を墓地に送り、二枚ドロー。……バトルフェイズ。師範でサイバー・フェニックスへ攻撃」
「リバースカード、オープン! 『ガード・ブロック』! 戦闘ダメージを受けた時に発動でき、そのダメージを0にすると同時にカードを一枚ドローする! そして破壊されたサイバー・フェニックスの効果発動! 攻撃表示のこのモンスターが戦闘で破壊された時、カードを一枚ドローする!」
「……手札を補充されたか。一筋縄じゃいかないなー、やっぱり。俺はカードを一枚伏せて、ターンエンド」
カイザーのドローに会場が湧く中、小さく呟く。戦うこと自体は出来ているが、それだけだ。
どうにも攻め手が足りない。
(つーかさ、やっぱ……強いな)
アカデミアの頂点であり、絶対的なカリスマを誇る帝王――丸藤亮。弱いとは思っていなかったが、やはり……強い。
(……ジュニアで優勝してるような実力者だ。弱いわけがねぇのもわかってた。それに、やっぱさ……憧れてた俺もいるわけで)
勝利することでしか自分自身の居場所も、立場も守ることができなかった宗達にとって。
誰にも敗北しない〝最強〟とは、誰よりも憧れる存在だ。
(けど、ここで勝てば……俺が〝最強〟だ)
相変わらず手札は悪く、どうにも攻めに行けないけれど。
それでも、やれることはある。
「俺のターン、ドロー。――手札から魔法カード『サイクロン』を発動! これにより、デモンズ・チェーンを破壊する!」
「…………む」
序盤からずっと二頭の機械竜を縛り続けていた鎖が破壊される。戒めを解かれた龍が、歓喜するように咆哮した。
会場が大いに湧く。宗達が圧されている状況になった瞬間に湧くのだから……本当にわかり易い。
「バトルだ! サイバー・ツイン・ドラゴンで六武衆―ザンジへ攻撃!」
「させるか! リバースカード、オープン! 『次元幽閉』! サイバー・ツインを除外する!」
ザンジへと襲い掛かろうとしたサイバー・ツイン・ドラゴン。しかし、ザンジの目の前に現れた次元の穴に吸い込まれ、消滅する。
次元幽閉――攻撃してきたモンスターを問答無用でゲームから除外する強力なカードだ。
「成程、突破するのは本当に骨が折れる。……俺は『サイバー・ヴァリー』を召喚し、カードを一枚伏せてターンエンドだ」
サイバー・ヴァリー☆1ATK/DEF0/0
「また面倒臭いカードを……。俺のターン、ドロー」
小さく呟く。サイバー・ヴァリー。複数の効果を持つモンスターだが、この場合厄介なのは攻撃した場合だ。サイバー・ヴァリーは攻撃対象になった時、このカードを除外することでバトルフェイズを強制終了させるという効果を持っている。更に一枚ドローのおまけつきだ。
面倒なカードだ。しかもそろそろ防御の種が切れてきた。そうなると――
「自分フィールド上に二体以上の『六武衆』と名のつくモンスターがいる時、このモンスターは特殊召喚できる。――『大将軍 紫炎』を特殊召喚!」
大将軍 紫炎☆7炎ATK/DEF2500/2400
紅い甲冑を身に纏う将軍が現れる。侍たちの長であり、宗達の切り札であるモンスターだ。
「ザンジでサイバー・ヴァリーに攻撃!」
「サイバー・ヴァリーの効果発動! このカードが攻撃対象になった時、このカードを除外してバトルフェイズを強制終了する! そして一枚ドロー!」
「面倒臭い……くっそ、下手なもんだしても的になるだけだしな……ターンエンド」
放置も考えたが、居座られるのはそれはそれで面倒だ。故に攻撃したのだが……やはり、ドロー能力は面倒臭い。
「俺のターン、ドロー。……相手フィールド上にモンスターが存在し、こちらにモンスターがいない時、このカードは特殊召喚できる。『サイバー・ドラゴン』を特殊召喚!」
「ま、そうくるよな」
サイバー・ドラゴン☆5光ATK/DEF2100/800
カイザーのフィールドに現れる、一体の機械竜。サイバー流を象徴するモンスターであり、その汎用性の高さ故にかなりの高額で取引きされているカードだ。
だが、単体では紫炎には勝てない。このままでは宗達が返しのターンで決めてしまうが――
「リバースカード、オープン! 永続罠『DNA改造手術』! このカードが存在する限り、フィールド上に存在するモンスターは全て宣言した種族となる! 俺は『機械族』を宣言する!」
「機械……?――ってまさか……!」
「そう――この融合モンスターはサイバー・ドラゴンとフィールド上に存在する機械族モンスターを墓地に送り、『融合』のカードを必要とせず特殊召喚できる。俺の場のサイバー・ドラゴンと相手モンスター三体を墓地に送り――『キメラティック・フォートレス・ドラゴン』を特殊召喚!!」
キメラティック・フォートレス・ドラゴン☆8ATK/DEF0/0→4000/0
現れたのは、巨大な機械の蛇。サイバー・ドラゴンの面影こそあるものの、その輝きはどことなく鈍い。
相手のモンスターを条件さえ合えば巻き込むという凶悪な効果を持つモンスター。その効果の性質上避けることは困難なモンスターだ。それを見て、宗達は苦い顔をする。その攻撃力は素材にしたモンスターの数×1000ポイント――最早、圧倒的だ。
「バトルだ! キメラティック・フォートレス・ドラゴンで攻撃!」
「リバースカードオープン! 『和睦の使者』! このターンの戦闘ダメージを0にし、モンスターを戦闘破壊から防ぐ!」
「この場合はダメージだけか。……俺はターンエンドだ」
「俺のターン、ドロー……!」
サイバー流の特徴の一つはその高火力だ。それはわかっていたが……この手札では、碌なことができない。
今の宗達の手札は、『六武衆推参』、『真六武衆―シナイ』、『真六武衆―カゲキ』、『諸刃の活人剣術』、『六武衆の結束』だ。この手札でできることは……本当に限られている。
六武衆の結束を使い、カードを二枚引くことは可能だ。だが、それは逆に何も引くことができなかった時に終わることを意味している。
「…………ッ」
デッキを見つめる。この状況を打破できるカードは、最早宗達のデッキには三種類だけ。ここでどうにかしなければ、カイザーのことだ。次のターンで殺しにくる。
まだ引けていない『ブラック・ホール』と『六武衆の荒行』、『真六武衆―ミズホ』を引ければ、あるいは可能性があるのかもしれないが――
『何だよ、打つ手がないのか?』
『ははっ、所詮は卑怯者だな。こんなことだろうと思ったぜ』
『今までの勝ちも全部イカサマだったんじゃねぇか?』
聞こえてくる、嘲笑の声。普段なら気にもならないはずなのに、酷く、耳に響く。
打つ手はある。けれど、それは不確定なドローに賭けるしかなくて。
如月宗達には、そんな力はなくて――
「――いい加減にしろ!!」
響き渡った、一喝に。
会場の全てが……動きを止めた。
「お前たちは俺たちのデュエルの何を見ていた!? 卑怯者!? 如月のどこが卑怯者だ!! 彼は俺を最大限に警戒し、その上で全力で向かってきている!! 真の卑怯者は集団で如月を貶めようとするお前たちだ!!」
声を発したのは、宗達の眼前にいる男。
帝王――丸藤亮。
「お前たちのどこにリスペクトがある!? 如月が何も言わずにいたからこそ俺も黙っていたが……これ以上は容認できん!! 真の恥知らずは!! リスペクトを汚しているのはお前たちだ!! 俺も如月も全力で向かい合っている!! そこに卑怯も汚いもない!! 俺たちのデュエルをこれ以上汚すつもりならば俺が相手になろう!! 今すぐ降りてくるといい!!」
放たれたその言葉に、応じる者はいない。
静まり返った会場は、二人を見つめている。
「邪魔をしたな、如月。ターンを続けてくれ」
「……どうも」
言われるが、どうしようもない。耐えようと思えばモンスターを並べて二ターン……否、一ターンなら耐えることができるだろう。
だが、それならば六武衆の結束によるドローに期待すべきだ。このままではじり貧には違いない。
……けれど。
ドロー運のない自分が、目的のカードを引ける確率など――……
「何やってんだよ宗達!!」
不意に聞こえてきたのは、背後からの応援の声。
振り返ると、十代たちがこちらを見ていた。
「宗達ならまだ打つ手があるんだろ!? 俯くなよ!! お前らしくないだろそんなの!!」
安く物を言ってくれる。相手はカイザーだ。そう簡単に事が運べば苦労しない。
けれど。
(……雪乃)
祈るようにして額の前で両手を合わせ、瞳を閉じる少女の姿。
その姿を見て、ああ、と宗達は納得した。
――どの道、打つ手なんて一つじゃないか。
「……待たせたな、カイザー」
「いや、問題ない」
「腹は、決まったよ」
「そうか。――来い」
「ああ」
頷き、そして。
宗達は、可能性へと手をかける。
「俺は手札より永続魔法『六武衆の結束』を発動! そして手札より『真六武衆―カゲキ』を召喚! 更にカゲキの効果発動! 召喚成功時、手札からレベル4以下の六武衆を特殊召喚できる! この効果により、『真六武衆―シナイ』を特殊召喚!」
真六武衆―カゲキ☆3風ATK/DEF200/2000→1700/2000
真六武衆―シナイ☆3水ATK/DEF1500/1600
六武衆の結束0→2
「そして六武衆の結束の効果を発動! このカードを墓地に送り、カードを二枚ドローする! 俺は、俺は――……ッ!!」
引けなければ、敗北。
そして、如月宗達にはドロー運がない。
博打にもならない賭けだ。普通に考えて、いつもの流れを考えれば――
――でも、ここしかねぇ……!!
ここで勝つしか、俺には生き残る道はねぇんだよ……!!
勝たなければ、強くなければ。
如月宗達は、生き残ることさえ……できないから――
「二枚、ドローッ!!」
手札を、見る。
引いた、カードは。
『六武の門』
『紫煙の道場』
――引けなかった。
望んでいたカードは、手札に来なかった。
(まあ、そうだよな……ああ、ちくしょうが)
勝ちたかった。どうしても。
ここで勝つことが、できなければ。
如月宗達は、また黄昏の日々に落ちていくというのに――
「俺は……ターンエンドだ」
ターンの終了を宣言する。防ぐカードがない上、元々カイザーは伏せカードがあっても踏み込んでくるタイプだ。ブラフに意味はない。
それに……このデュエルではもう、そんな足掻きをすることさえ億劫だった。
「俺のターン、ドロー。……いいデュエルだった。故に、俺もお前に一つの覚悟を見せよう。――俺は手札から魔法カード『オーバーロード・フュージョン』を発動!! フィールド・墓地から融合素材となるモンスターを除外し、機械族の融合モンスターを特殊召喚する! 俺はフィールド・墓地より合計五体のサイバー・ドラゴンを含むモンスターを除外し――『キメラティック・オーバー・ドラゴン』を特殊召喚!!」
キメラティック・オーバー・ドラゴン☆9闇ATK/DEF?/?→4000/4000
現れたのは、五つの頭を持つ混成の機械竜だった。素材モンスターの数×800ポイントの攻守を持ち、同時に素材の数だけモンスターに攻撃できるという能力を持つモンスター。
その姿を見、鮫島校長が立ち上がる。
「い、いけません! そのカードはリスペクトに反した――」
「――ならば師範! 相手の戦術を批判し! あり方を批判し! あまつさえ俺に如月を倒せと指示を出すあなたのどこにリスペクトがあるのですか!?」
鮫島校長に、凄まじい怒気を込めた言葉を返すカイザー。そのまま、カイザーは鋭い視線を鮫島へと向ける。
「俺はもうあなたを『師範』などとは呼ばない! 俺の信じるリスペクト・デュエルはここにある!――往くぞ、如月!! キメラテック・オーバー・ドラゴンで攻撃!! エヴォリューション・レザルト・バースト!! 五連打ァ!!」
「――――ッ!!」
宗達LP800→0
宗達のLPが、0を通過し。
長い長いデュエルが、これで幕を閉じた。
静まり返る会場。その中央で。
「見事!! 素晴らしいデュエルだったノーネ!!」
一番最初に声を上げ、拍手をしたのはクロノスだった。それにつられるように、周囲からも歓声が上がる。
そして、カイザーと宗達は互いに歩み寄ると、握手を交わした。
――それが、このデュエルの結末だった。
◇ ◇ ◇
森の中、一人の少年の背中を見つける。
幾度となく憧れて、そして……いつの間にか恋した、その背中を。
「こんなところにいたのね」
「……雪乃か」
宗達は振り返らない。ただ、虚空を見つめている。
その背に向かい、お疲れ様、と雪乃は言葉を紡いだ。
「頑張ったわ、あなたは。本当に……頑張った」
「珍しいな、雪乃がそんな風に言うなんて。明日は雨か?」
「そうかもしれないわね」
二人の距離は、近くて遠い。
視線を交わさぬままに、二人は言葉を交わし合う。
「……ごめん」
ポツリと、呟くように宗達はそう言った。
「俺……負けちまったよ」
勝たなければならなかったのに。
どうしても――勝ちたかったのに。
「情けない姿を見せて……本当にごめん」
「……情けなくなんて、ないわ」
宗達と背中合わせになる位置へ、雪乃が座り込む。
軽く体重を預けると、温かさが背中に伝わってきた。
「格好良かったわ」
「……そう、か」
「ええ。あなたは私が認めたオトコだもの。私が認めて、憧れて……人生で初めて、想いを寄せた人。勝たなければ終わりってあなたは言うけれど。それは間違いよ。何があっても、私はあなたを裏切らない。あなたは私を守ってくれた。だから今度は、私の番」
「いいのか。こんな……情けない、馬鹿野郎で」
「言ったはずよ。私はあなただから、如月宗達というオトコだからここでこうしているのよ。……初めて出会ったあの時から、私はずっとあなたに憧れていた。あなたの強さと優しさに――恋をした」
そんなあなたが格好悪いはずがない、と。
雪乃は、宗達の手に自身の手を重ねながら言葉を紡いだ。
「あなたはいつだって……私の〝ヒーロー〟なんだから」
たった一人で、ボロボロになって。
一人きりでいるのが、誰よりも怖いくせに。
それでも、その怖さを押し殺してまで……私を守ろうとしてくれた最愛の人。
「――ありがとう」
宗達が、そう言葉を紡ぎ。
小さく、頷きを返す。
そこから先はもう……互いに言葉はなかった。
必要――なかった。
居場所を守り続けるため、勝ち続けることを自らに課していた一人の少年。
彼は、目指し続けた〝最強〟に敗北する。
――けれど、それでも。
彼には、帰るべき居場所が……あった。
丸藤亮、遊城十代。
アカデミア本校代表として、〝ルーキーズ杯〟出場決定。
代表戦、決着!!
勝者は、『帝王』ッ!!
というか宗達くんのドロー運ではチートドロー相手は厳しい。
十分善戦しましたが……。
さーて、これでようやく〝ルーキーズ杯〟だー!!