遊戯王GX―とあるデュエリストたちの日々― 作:masamune
ウエスト校に通うようになって、しばらくした頃。
夢神祇園が登校すると、全校生徒は講堂へ集合するようにという連絡が入った。澪は朝早く出て行ってしまったようで、授業が始まる前に弁当を渡そうと思っていたのだが……。
「いきなりなんやろな?」
「うん、何だろう……?」
クラスメイトの言葉に首を傾げる。全校生徒を集めるということは、相応の何かがあるはずだ。ただの連絡事項であるならPDAなどで連絡を回せばそれで事足りる。
ざわめきながらも集まる生徒たち。そして全校生徒が集合すると、壇上に一人の少女が姿を見せた。
――二条紅里。
三年生の学年主席であり、同時に生徒会長も務める少女だ。
「はい、皆さん。まずはおはようございます~」
相変わらずの口調で紅里が一礼する。状況が呑み込めないままに、生徒たちも挨拶を返した。
紅里はそれを受けると、マイクを手にした。そのまま続きを口にし始める。
「では、今日の全校集会ですが……龍剛寺校長、お願いします~」
「はい。……おはようございます。多忙な中、よく集まってくれましたね。本日は皆さんに重要な連絡があります。実は今年の冬休み、童見野町にてI²社とKC社を中心に一つの大会が開かれることが決定されました。その名も〝ルーキーズ杯〟。目的は若手デュエリストの発掘と、デュエル界の活性化。
――そして、その大会へ我が校から二人のデュエリストを送り出すことが決定されました」
ざわっ、と講堂内が一気にざわめく。それを制止することなく、龍剛寺校長は言葉を続けた。
「我々だけではなく、本校やサウス校からもアカデミアの生徒が出場するようです。そして代表となる二人の選手ですが……明日一日を使い、代表選考を行いたいと考えています」
ざわめきが増していく。デュエル界における二大会社――I²社とKC社。それが主催する大会で結果を残せれば、プロとなることも夢ではない。
全員が自身の今の立ち位置――ランキングを思い浮かべる。出場できる代表者は二人だけ。ならば――
「では、詳しいことは烏丸さんから話して頂きましょう。お願いします」
「――諸君。気持ちはわかるが、まあ落ち着くといい」
龍剛寺からマイクを受け取り、烏丸澪が凛とした声色で言い放った。彼女の言葉に、ざわめきがぴたりと止む。
「そうだ、それでいい。急いて聞き逃せば後悔するのは世の常だ。……さて、まず第一にこの大会――〝ルーキーズ杯〟は全国放送もされる大規模なものだ。第一回ということもあって、スポンサー各社も相当気合を入れている。諸君らも思うように、ここで結果を残せればプロとしての道も十分開けるだろう。
そして出場選手だが、現時点でアカデミア・ノース校が出場を辞退しているためアカデミア勢は総勢六名。我らがウエスト校からは二人が出場することになっている。更にこの大会はプロ・アマの交流という側面も抱えているため、若手プロも参加する。
現在プロで決まっているのは、『横浜スプラッシャーズ』より響紅葉プロ、桐生美咲プロ。『スターナイト福岡』より本郷イリアプロ、『東京アロウズ』より神崎アヤメプロの四名だ」
ざわっ、と会場内が再びざわめく。澪は更に言葉を進めた。
「その他、現在開催中の日本ジュニアの優勝者と準優勝者。アカデミア中等部より一名、一般参加が二名だ。残り一枠は現在適切な若手プロを探している」
今挙げられた四人は確かに若手と呼ばれるプロたちだが、その実力は確かなメンバーばかりだ。そのことに、講堂内の熱気が上がる。
「そして、諸君らが一番気にしているのであろう点を言っておこう。――私は当日、解説者として参加する。故に代表選考はとりまとめこそさせてもらうが、参加はしない。
――諸君らで、二つの枠を争ってもらうつもりだ」
澪は鋭い視線を全体に向け、更に言葉を続ける。
「諸君らの中にはこう思う者もいるだろう。『相手はプロ。学生では勝てない』――そうだ、確かに『プロのルールならば』諸君らに勝ち目などないだろう。それは私も同意する。年間何千という数の試合をする者たちに勝率や勝ち星で上回れというのは不可能だ。
――しかし、この大会は出会い頭の一発勝負。諸君らにもチャンスは十二分にある。
プロというのは長いスパンで勝利数を競い、勝率を競うものだ。その領域で戦えば勝てないのは道理だろう。しかし、一回きりの勝負ならば十二分にチャンスはある。
諸君らも憧れたことがあるだろう? テレビの中で戦うプロの背中に。
夢に見たことがあるだろう? 夢を与える側に立つ自分を。
ここがそのチャンスだ。明日の代表選考は強制参加ではなく、この後PDAにて参加申請をしてもらうことになる。故に出たくないという者はそれでもよかろう。
私は二本の細い糸を垂らすだけだ。それを掴めるかどうかは、諸君ら次第。
――デュエリストならば、自らの手で勝ち取って見せろ!」
澪の言葉に、生徒たちが声を上げた。澪はそれを満足げに見回すと、以上、と言葉を紡ぐ。
「烏丸〝祿王〟澪。諸君らの健闘を期待する」
澪はそれだけを言うと、控えていた紅里へとマイクを渡した。マイクを受け取った紅里は頷くと、全校生徒に向けて言葉を紡ぐ。
「参加については、この後皆さんのPDAにメールさせてもらいます~。今日の夜十時までに、参加する人は連絡を。私も出ますので、お互い頑張りましょう~!」
「「「おおおおっ!!」」」
最高潮の盛り上がりを見せる講堂内。その中で、祇園は静かに拳を握り締めた。
〝ウチはずっとプロで待ってるから、今度は大観衆の前でやろうや〟
まだ、プロデュエリストにはなれていない。それどころか、躓いてばかりだ。
アカデミアでは、『落第者の寮』とされるレッド寮に入ることになって。
友とのデュエルの度に、自身の未熟さを思い知らされて。
勝たなければならなかったデュエルで、〝伝説〟に敗北して。
この場所でも、上には上がいることを教え込まれて。
――それでも、挑むんだ。
静かに、心に誓う。
失うだけ、失った。後は昇っていくだけだ。まだ道は外れていない。随分と後退して、置いていかれて、いつの間にか一人で置き去りになっているけれど。
それでもまだ、道は閉ざされていないから。
「……頑張るよ。頑張る」
だから。
もう二度と、諦めないから。
「――そこで、待ってて」
◇ ◇ ◇
放課後。街の片隅にあるカードショップで、祇園は澪から明日のことについて話を聞いていた。
「代表選考の基本ルールは、予選が少々特殊だ。明日一日を使い、それこそ手当たり次第にデュエルをしてもらう。最低で五十戦だ。その上で勝ち星、LPの得損失、勝率を中心にランキングを付ける」
「成程……ただ勝つだけではダメ、と」
「まあ、勝っていれば普通は上位に入るが。……そのランキングにおける上位四名。一位と四位、二位と三位で試合を行い、勝者を代表者とする。単純だよ」
微笑みながら祇園へとそう言葉を紡ぐ澪。四人、という言葉で祇園は難しい表情を浮かべた。
現在の祇園のランキングは、どうにかこうにか20位にまで上げることができている。しかし、ここから先が鬼門だとも聞いているし、未だ紅里には一度も勝てていない。
そんな状態で上位四名に入り、その上で勝利する……正直、かなり厳しい。
だが、そんなことは澪にはお見通しのようだ。微笑ながら、少年、と彼女は言葉を紡ぐ。
「不利なのはキミにとってはいつもの事だろう? 望むものでは到底ないのだろうが、キミが不利な状況で――言い換えよう、〝挑戦者〟であるのはいつものことだ」
違うか、と澪は問いかけてきた。祇園は僅かに迷い……そして、頷く。
「はい。そうでした。今更、何を怖気づいているんでしょう」
「……優勝賞金は300万。アカデミアの学費を支払って尚余りが出る金額だ。キミにとってはそれも重要だろう?」
「そう、ですね。……まずは、出場できるかですが」
「出場し、プロの一人でも倒せば――もしくは善戦でもすれば、十分にスカウトの目に留まるだろう。キミの目指す場所にずっと近付ける」
「……頑張ります」
拳を握り締め、祇園は言った。
「頑張るって、決めたんです。何があっても、諦めることだけはしないって。それだけは……しないって」
「良い心がけだ。それでこそデュエリスト。欲しいものは自らの手で、勝利によって掴み取る――それはいつの時代も変わらない摂理だよ。勝利は全てを許す。手に入れたいものがあるならば、勝て。それだけだ」
「勝ちますよ。勝ちたいって……思います」
澪の言葉に、祇園は頷いた。
自信はないし、明日のことを考えると震えが先に立つけれど。
それでも、この言葉を紡ぐことには意味がある。
「だって、約束、しましたから」
いつの間にか増えた、いくつもの約束と。
数えきれない、誓い。
ボロボロになって、今にも崩れそうな夢だけど。
それでも、傷だらけになってでも……守って来たものだから。
「そうか。ならば、期待しているよ」
「期待に応えられるよう、全力で頑張ります」
「ああ、それでいい」
澪が頷く。その笑みは酷く満足気なものだった。
そして、祇園が言葉を紡ごうとした瞬間。
「お兄ちゃ~ん!」
「うぐっ!?」
椅子に座っている祇園へ、強烈なタックルが叩き込まれた。たまらず床へ倒れ込む祇園だが、そんな祇園へ子供たちが群がってくる。
「お兄ちゃんデュエルしよ~!」
「ししょーばっかり独占してズルいで!」
「お兄ちゃんデッキ見て~!」
ここ数週間のうちに、澪のデュエル教室へ通う子供たちに祇園は随分と懐かれてしまった。元々面倒見がいい上にお人好し。その上人畜無害を地で行くような人間だ。子供に懐かれるのも道理である。
「くっく……モテモテだな、少年?」
「いたた……ちょっと待って、順番に。えっと、デュエルからかな?」
「今日は勝つで兄ちゃん!」
「ズルい! 今日はアタシの番やよ!」
「僕の番や~!」
「皆順番に、ね。じゃんけんしよっか?」
子供たちをあやしながら立ち上がり、デッキを準備する祇園。その背に、澪がいきなり抱きついてきた。
「わぷっ!? って澪さん!?」
「うさぎは放っておかれると死んでしまうんだぞ、少年?」
「誰がうさぎですか……」
「どちらかというと虎とかライオンだよね~」
遠くで別の子供たちを相手にしていた紅里がそんなことを言いながらこっちへとやってくる。ライオン――その表現に、祇園はどこか納得してしまった。
「む、どういう意味だ紅里くん?」
「だってみーちゃん、人を食べたような態度取るから~」
「人を喰う、か。ふむ。言い得て妙だな」
紅里の言葉に納得して頷く澪。……ちなみに、体は抱きついたままである。
「えーと、澪さん。離れて欲しいんですが……」
「ほう、嬉しくないのか?」
「えっとですね、当たって……」
「当てているんだ、当然だろうに」
澪の言葉に、祇園は肩を落とす。その様子を見て、澪が満足したように微笑んだ。
「やはり面白いなぁ、少年」
「……勘弁してください」
「健全な青少年なら発情するのは当たり前だぞ?」
「発情?」
「子供の前で何言ってるんですか……」
ツッコミにもパワーがない。澪はまあいい、というと、祇園から離れた。そのまま、近くの席へと腰かける。
「気負い過ぎてもいい結果は出ないぞ。楽に行くといい」
「……そう、ですね」
「うむ。私が実証済みだ」
どこまで信じていいかはわからないが、確かに明日のことは考え過ぎても仕方がないのも事実だ。祇園は頷くと、子供たちの方へと体を向ける。
挑みかかってくる子供たちの、真っ直ぐな瞳。
それが、とても綺麗に見えて。
――同時に、とても懐かしかった。
◇ ◇ ◇
翌日。再び講堂に集められた全校生徒は、一日を使って代表選考を行うことが通達された。
結局、不参加の者は烏丸澪――流石に〝祿王〟は大会に出られないと昨日言っていた通りに――を除いて誰もおらず、全学年問わず全員参加となった。
午後三時までデュエルをこなし、その勝利数や勝率、LPのダメージとポイントで集計するらしい。
ポイントというのは倒した相手によって与えられるボーナスポイントであり、ランキング上位の者を倒すほど多くもらえるのだとか。
この四つの合計値で上位四名を出し、講堂で代表戦を行うとのことだ。ちなみに同一人物とのデュエルは二度目は加算されない。
開始は9時30分。祇園は支給品のデュエルディスクを嵌め、中庭にいた。周囲には祇園と同じようにデュエルディスクを付けている生徒たちが何人もおり、今か今かと開戦を待っている。
「地力は必要だが、逆にある程度の実力を有してさえいればチャンスがあるのがこの代表選考だ。誰も彼も目の色を変えていて、実に面白い」
「はい」
「頑張れ、少年」
木陰になっているベンチに座る澪が、背後からそう声をかけてくれる。
はい、と祇園がもう一度頷いた瞬間。
『それでは、開始です!』
開始の合図が放送で流された。早速、周囲ではいくつもの掛け声が上がる。
そして、祇園の前には――
「夢神祇園、やな。俺は柴村や。――デュエルを申し込む」
「はい。よろしくお願いします」
腕章を見る限り、三年生であることが確認できる。その申し出に頷くと、祇園もデュエルディスクを構えた。
「「決闘(デュエル)!!」」
互いの五枚のカードを引く。先行は――相手だ。
「俺の先行だ! ドローッ!――俺は手札より『E・HERO クレイマン』を守備表示で召喚! 更にカードを一枚伏せ、ターンエンドや!」
E・HERO クレイマン☆4地ATK/DEF800/2000
『E・HERO』――本当で何度も見、そして数少ない勝利と数多い敗北を味わわされたモンスターが召喚される。
『HERO』そのものは有名なカテゴリーだ。〝ヒーロー・マスター〟響紅葉を中心に、プロの世界でも愛用する者は数多く存在している。
しかし、祇園の思い描くHERO使いは一人だけだ。
――遊城十代。
大切な友達であり、ライバル。
ふと、その姿を思い出して。
「僕のターン! ドロー!」
それを振り払うように、祇園は手札を引いた。
「僕は手札から魔法カード『サイクロン』を発動します! これにより、相手の伏せカードを一枚破壊!」
「くっ、『ヒーロー・シグナル』が……!」
破壊したのは十代もよく使用していたトラップカード。後続を断てたのは大きい。特に『E・HERO エアーマン』などを出されると厄介だった。
「僕は更に魔法カード『闇の誘惑』を発動! デッキからカードを二枚ドローし、闇属性モンスター一体を除外する! 二枚ドロー!――僕は『レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン』を除外します!」
除外される、その能力において他の追随を許さない最強のレッドアイズ。相手が眉をひそめた。
「お前の切り札やないんか?」
「はい、切り札ですよ。――僕は装備魔法『D・D・R』を発動! 手札からコストとして『ライトパルサー・ドラゴン』を捨て、除外されているレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを特殊召喚!」
「なにぃ!?」
「更にレッドアイズの効果発動! 一ターンに一度、手札または墓地からドラゴン族モンスターを特殊召喚できる! 甦れ――ライトパルサー・ドラゴン!」
レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン☆10闇ATK/DEF2800/2400
ライトパルサー・ドラゴン☆6光ATK/DEF2500/2000
並び立つ光と闇のドラゴン。ほう、と後ろで澪が感心したような声を上げた。
「更に手札から『アレキサンドライドラゴン』を召喚!」
アレキサンドライドラゴン☆4光ATK/DEF2000/100
現れるのは、四つ星以下の効果なしモンスターでは最高の攻撃力を持つ光のドラゴン。本校でトメさんに貰ったパックから当てたモンスターだ。
「バトルフェイズ! ライトパルサー・ドラゴンでクレイマンへ攻撃!」
「ぐうっ……!」
「更にアレキサンドライドラゴンでダイレクトアタック!――トドメです、レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンでダイレクトアタック!!」
「ぐおおおおっ!?」
柴村LP4000→-800
相手のLPが0になり、決着が訪れる。祇園が一礼すると、柴村は手を差し出してきた。
「強いなぁ、面白かったで」
「ありがとうございます」
「お互い頑張ろな」
握手をしながらそう言葉を遺すと、柴村はすぐに移動を始めてしまった。次の相手を探しに行ったのだろう。
とりあえず、これで一勝。次は――
「私とデュエルよ、夢神君!」
クラスメイトの女子がそう言って肩を叩いてきた。祇園は頷き、デュエルディスクを構える。
とにかく勝ち星を稼ぐ必要がある。昼休みである12時になるまで、全力で動かなければ。
「「決闘(デュエル)!!」」
そんな風にして、デュエルをする祇園を。
澪は、微笑を浮かべて見守っていた。
◇ ◇ ◇
「さて、現在のところはどうですか?」
校長室。昼休みに入って一旦中断中の代表選考について、龍剛寺がそう問いかけてきた。問いを向けられた相手――烏丸澪は、例によって祇園が作った弁当を口にしつつ言葉を紡ぐ。
「順当なところは順当、というところでしょうか。紅里くんは34戦32勝でトップ。次いで菅原雄太が37戦31勝で二位。この二人は鉄板でしょう」
「二条さんはランキング一位、菅原くんも最近ようやくランキングを二位に上げてきましたからねぇ」
「ええ。中々三位から上がれずにいましたが。……後は混戦ですね。個人的に面白いのは、ランキング一桁台の者があまりいないという点でしょうか。予想外に苦戦しているようで」
「元々、キミを除けば生徒たちの実力の差などあってないようなものですよ。だから面白い」
「ええ、同感です。……後残り二時間。その間に、誰が入り込んでくるか」
楽しみですよ、と澪は微笑んだ。その澪に、そういえば、と龍剛寺校長が言葉を紡ぐ。
「キミが気にしている例の彼はどうですか?」
「……喰らいついてはいますね。上手くいけば代表選考に上がって来るでしょう」
「ほう、それは楽しみです」
「ええ、楽しみです」
言いつつ、澪は弁当箱のふたを閉める。……今日も実に美味しかった。彼は本当に良いお嫁さんになれる。
「さて、どう転ぶか。個人的には頑張って欲しいが……な」
◇ ◇ ◇
『タイムアップです! 現在行われているデュエルを最後として予選を終了いたします!』
その放送とほとんど同時に、祇園は何度目かの勝利を得た。対戦相手に礼を言い、握手を交わしてから教室へと向かう。
集計が終了次第、上位四名は放送で告知される。祇園は疲れた、と小さく呟いた。その祇園の肩を、クラスメイトが軽く叩く。
「よう、夢神。どうやった?」
「やれるだけのことはやったつもりだけど……」
「夢神は強いからなー。可能性あるんちゃうか?」
「うーん、どうだろ……?」
自信があるかというと、正直微妙だ。数はこなした記憶はあるがそれなりに負けはしたし、どうなるかは正直わからない。
クラスメイトと雑談を始める祇園。だが、基本的に祇園は聞く側だ。いつの間にか集まってきたクラスメイト達と、とりとめのない言葉を交わす。
「こいつさー、いきなり二条先輩にケンカ売っとったんやで?」
「デュエルや。……負けたけどな」
「フルボッコやったもんな!」
「やかましいわ! お前かて次に挑んで同じ目に遭ってたやろが!」
「生徒会長はもう、強過ぎてよくわからへん」
「私、菅原先輩に負けたー」
「あの人も大概やからばぁ。絶望感が半端やないで」
「あはは……」
今日の予選のことを語るクラスメイト達。しかし、彼らの表情に不満はない。
やはりみんな、デュエルが好きなんだな――そんなことを祇園が思った時。
『さて、諸君。本日の予選を通過した四名をここで発表しよう』
スピーカーから澪の声が聞こえてきた。教室を含め、学校内が一気に静まり返る。
『今から呼ぶ四名は、発表後すぐに講堂へ来るように。では、一人目。――第一位。77戦70勝、3―A所属二条紅里くん』
三年棟から歓声が上がった。おそらく紅里の教室の者たちからだろう。
『続いて、第二位。――同じく3―A所属、80戦66勝。菅原雄太』
再び歓声。共にランキング一位と二位の二人だ。順当だったといえる。
『第三位。――1―E所属、79戦58勝。夢神祇園』
えっ、という言葉が口から洩れた。
周囲も、いきなりのことに反応できなかった。
『第四位。――2―B所属、68戦48勝。沢村幸平。以上だ。おめでとう』
第四位の発表が終わり。
教室で――爆発するような歓声が沸き上がった。
「凄いやないか祇園! マジかお前!」
「夢神くん凄いやん! 頑張れ!」
「やったなおい! 凄いで自分! ホンマに凄いわ!」
クラスメイト達が我がことのように喜んでくれる。祇園はそれらに頷き、微笑を浮かべた。
「やった……!」
それは、小さなガッツポーズで。
だからこそ――祇園の心を何よりも物語っていた。
◇ ◇ ◇
講堂にて、相手と向かい合う。
約束の相手が待つその場所へ行くために、避けては通れない相手だ。
「よろしく」
デュエルランキング第二位、菅原雄太。
クラスメイトに聞いたところによると、プロ入りも確実視されているデュエリストだという。
「よろしくお願いします」
相手は格上だ。ならば、こちらも全力で挑めばいい。
それだけで……十分だ。
「「――決闘(デュエル)!!」」
格上に挑むのは、初めてではない。
ただ、己の全てを懸ければいい。
――全てを失った少年が、勝利へと手を伸ばす。