遊戯王GX―とあるデュエリストたちの日々―   作:masamune

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第十一話 王国へ

 

 

 

 

 

「何故、手を伸ばすのですか?」

「――諦められないから」

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 アカデミア本島より出発したヘリコプター。そこにはパイロットの他に三つの人影があった。

 

「くっく、まさか本気でついてくるとはなァ。度胸あるじゃねぇか嬢ちゃん」

「女は度胸。違いまして?」

 

 笑みを浮かべた皇〝弐武〟清心の言葉にそう応じたのは藤原雪乃だ。通常、彼を前にするとどうしても委縮してしまうものなのだが、雪乃は堂々と向かい合っている。

 

「言うねぇ、嬢ちゃん。気に入ったぜ。そこのクソガキには勿体ないくらいだ」

「相応しい、相応しくない――共にあるということはその程度では語れないと思います。共に在ることでどこまで高みに昇っていけるか。それこそが第一なのではありませんか?」

「成程、ますます気に入った。いい女を見つけたじゃねぇかクソガキ」

「そうだな。それは俺の数少ない誇れることだよ」

 

 肩を竦めて言うのは雪乃の隣に座る如月宗達だ。そんな彼の言葉に、あら、と雪乃はどこか嬉しそうに微笑む。

 

「どうしたの? 珍しいわね、アナタがそんなことを言うなんて」

「いや、別に? 色々あったしなー」

「最後の方、オメェは見てただけだろうよ」

「なんで〝三幻魔〟のこと知ってんだよ」

 

 言葉には何も返ってこなかった。まあ、大徳寺先生の友人という話であるし、そういうところから知ったのだろうが。

 

「さて、一応自己紹介をしとこうか。――皇〝弐武〟清心だ。所属は……今のところは無所属だな」

「前回はそれどころではありませんでしたしね。――藤原雪乃です。所属はデュエルアカデミア本校二年ですね」

 

 互いの一礼。それを視界に収めつつ、それで、と宗達が問いかけた。

 

「とりあえず来いっつーからこうしてるわけだが、そろそろ目的喋れよ」

「あん? 目的?」

 

 何を言っているんだこいつはという目で見られた。心底イラッ、としたが努めて冷静に言葉を紡ぐ。

 

「とぼけんなよ。雪乃も巻き込んで〝ソーラ〟なんて馬鹿げた兵器作ってる国に乗り込むなんざ、普通に考えて異常だろ」

「この俺がいる時点で普通、なんてのは無意味なわけだが。……そうだな、丁度いい。少しお勉強だ」

 

 言うと清心は己の身を背もたれに預けた。そしてまず第一に、と言葉を紡ぐ。

 

「オメェさんたちはミズガルズ王国について何を知っている?」

「何を、って……〝ソーラ〟とかいう衛星兵器作って色んなとこから非難されてる国だろ?」

「それ以外には?」

「それ以外?」

 

 宗達が首を傾げる。阿呆だな、と清心が笑うと、雪乃が静かに言葉を紡ぎ始めた。

 

「ミズガルズ王国はヨーロッパ圏にある小国よ。豊富な地下資源と技術力に支えられた国ね。反面、国土が小さいこともあって食料自給率は低く、そのせいで足元を見られることもあるみたい」

「ほう、詳しいじゃねぇか」

「一般教養の範囲内です」

 

 ふふ、と微笑む雪乃。その姿を見て、清心は宗達に向かって大仰に息を吐いて見せた。

 

「いいかクソガキ、頭が良いってのはこういうことを言うんだ。オメェのそれは小賢しいってんだぞ?」

「やかましい」

「ああ、そういやオメェは落ちこぼれなんだったな?――馬鹿が」

「ぶっ飛ばすぞテメェ」

 

 ある意味ではいつも通りの会話だ。雪乃もこの二人のやり取りについては放っておくつもりのようだが、しかし、彼女にもやはり気になる部分はある。

 

「ところで、結局どうして私たち――いえ、宗達を?」

「自分を下に置くところが奥ゆかしいねぇ嬢ちゃん」

「私はあくまで宗達についてきただけですから」

 

 雪乃が肩を竦める。清心は腕を組み直すと、色々あるが、と言葉を紡いだ。

 

「ちと放っておけねぇ状況でな。ミズガルズ王国は――というよりあの王家については、俺も無視できる相手じゃねぇ」

「先代国王陛下のことですか?」

 

 雪乃の問いかけに清心は驚いた表情を浮かべた。そのまま、へぇ、と凄みのある笑みを浮かべる。

 

「何者だ嬢ちゃん」

「藤原雪乃。今は如月宗達の恋人です」

「ふん、藤原っていったな。藤原――ああ、成程。あの男の孫娘か」

 

 何かに思い当たったのだろう。清心は更に笑みを濃くし、成程な、ともう一度笑った。

 

「見た目は随分と似てねぇが、その論調は似てる。そうか、あの男の孫か」

「おじい様を御存じなのですか?」

「昔にな。最近復帰したらしいじゃねぇか」

「はい。おかげさまで」

 

 明らかな営業スマイルを浮かべる雪乃。くっく、と清心は笑った。

 

「いいねぇ、嬢ちゃん。気に入ったぜ。――で、目的だが。ミズガルズ王国の先代とは少しばかり縁があってな。その辺を清算しに行く」

「清算?」

 

 宗達が眉をひそめる。妙な言い方だ。清算するという言い方は、まるで縁を切るという風にも聞こえる。

 

「妙な言い方だな」

「そりゃそうだろう。今の国王――いや、戴冠式がまだだから王子か。そいつが大したことねぇようなら、俺にすることはねぇ」

「じゃあ何で俺らを巻き込んだんだよ」

「言っただろう? 〝邪神〟がいる、と」

 

 その言葉に宗達は眉をひそめた。雪乃には結局、自分が持っている〝邪神〟については語っていない。雪乃も聞いてこないということもあって、話していないのだ。

 雪乃の方へと視線を送る。すると、雪乃は静かに首を左右に振った。

 そのことに内心で礼を言い、宗達は清心へと言葉を紡ぐ。

 

 

「〝邪神〟か。けどよ、確か最後の一枚は所有者が割れてたんじゃなかったか?」

「オメェの持ってるそれが唯一の所在不明のカードだったからな」

「じゃあアレか。持ち主がミズガルズ王国にいるってことか?」

「だったら楽だったんだがな」

 

 肩を竦めてそう言うと、清心は一枚の写真を取り出した。そこに写っているのは金髪の男性だ。デュエルディスクを着けている所から、おそらくデュエリストなのだろう。

 

「なんとなく予想はできるが、誰だよ?」

「ジョージ・ブロッシュ。A級カードプロフェッサーだ。ギルドじゃ古参のベテランだな」

 

 カードプロフェッサーという言葉に宗達は眉をひそめた。その呼称には良い印象が無い。いきなり喧嘩を売られた挙句〝邪神〟まで出す状況に追い込まれたのだから当たり前といえば当たり前だが。

 

「で、そのプロフェッサーがどうした?」

「俺も昔から知ってる阿呆なんだがな。二ヶ月前から行方不明で、一週間前に見つかった」

「……嫌な前振りだな」

「良い予感はしないわね」

 

 呟きに雪乃も頷きで応じる。だろうな、と清心も頷いた。

 

「その予想は当たりだ。――発見された時、外傷が一切ないまま絶命していた」

 

 隣で雪乃が息を呑んだ。宗達は、成程、と背もたれに体重を預けながら言葉を紡ぐ。

 

「そのプロフェッサーとやらが、ミズガルズ王国に行ってたってことか?」

「そうだ。しかもここ一年頻繁に行ってたみたいでな。しかもプライベートで、隠れるように。まあ、何かあると考えるのは妥当だろうよ」

 

 その言葉に宗達も頷きを作った。だが、疑問は残っている。

 

「何で俺たちを? 〝邪神〟とかかなりヤバい案件だろ」

「だからこそ、だな。前にも言ったが知られたら面倒事が増える。そもそも〝三幻神〟に対抗するために生み出されたのが〝邪神〟だ。その役目を失って、災厄振りまくだけになってるのを迷惑がられてるってのも皮肉なもんだが」

「そこまで危険なら破棄するなり燃やすなりすりゃいいのにな」

「死にたいならやってみるか?」

「遠慮しとく」

 

 肩を竦める。すると、まあ、と清心は言葉を紡いだ。

 

「あまりそこは気にすんな。オメェたちを連れてきたのは万一の保険だ。旅行とでも思っとけ」

「旅行ねぇ」

 

 何か忘れてる気がするが……まあいいだろう。

 

「あら、それじゃあ観光でもしようかしら」

「いいな、それ」

「まあ宿の方は手配してやる。俺に迷惑かけねぇなら好きに過ごしな」

「呼ぶなよ。てかテメェに言われたくねぇ」

 

 言うと同時、ヘリが大きく揺れた。外を見れば、空港に着いたらしい。ヘリポートが見える。

 

(しかし、〝邪神〟ねぇ……)

 

 一時期、特に〝三幻魔〟との戦いの時は鬱陶しいほどにこちらへと干渉してきたのだが、最近はほとんどこちらへと干渉してこなくなり、随分と大人しい。

 動いてきたら動いてきたで鬱陶しいことこの上ないので静かなのはいいのだが、沈黙しているのもそれはそれで不気味だ。

 

(まあ、別にどうでもいいか)

 

 その時が来たら対応を考えればいい。今は今だ。

 

「そういえば、宗達。寮のことはいいの?」

「ん? ああ、まあ、大丈夫だろ多分」

 

 雪乃の問いかけに、宗達は軽い調子で応じる。

 

「なんだかんだで、どいつもこいつも頼れる連中だ」

 

 究極的なことを言えば、宗達はいてもいなくてもあの寮にとっては同じだ。戦力として上位にいても、リーダーにはなれない。ならばこの状況においてやれることはほとんどないのだ。

 

「良かったわね、宗達」

「何がだ?」

 

 雪乃の微笑。そのまま彼女は。

 

「やっと、自分を置いておける場所を見つけられて」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 しばらく行方を晦ましていた人物からの連絡に、海馬瀬人はいつも通りの鋭い声色で応じた。相手の口調は相変わらずで、海馬は呆れと共に言葉を紡ぐ。

 

「言い訳を聞こうか、美咲」

『いやその、なんというか。……ごめんなさい』

「素直に謝罪したことは認めてやろう。……それで、丸二日姿を消したと思えばいきなりミズガルズ王国にいるなど、何のつもりだ?」

『丸二日消えてたこともミズガルズ王国におることも原因がよーわからんのですよ。まあ、理由はわかっとるんですけど』

「ふぅん、貴様が言っていた〝悲劇〟とやらか。随分と非ィ科学的な話だが」

 

 一度目の連絡の際に桐生美咲から側近である磯野へとある程度報告が行なわれている。その報告書に海馬も目を通したのだが、どうもオカルトな部分が目立っているのだ。

 

『まあ、気持ちはわからんでもないですけども』

「……まあ、いい。とにかく、見つけたのだな?」

『――はい』

 

 海馬の問いかけに、美咲は即答で応じた。その言葉に、そうか、と海馬は頷きながら椅子に背を預ける。

 

「ならば、最大限の援助をしてやる」

『ありがとうございます』

「それが貴様との契約だ。……わかっていると思うが、美咲」

 

 声を低くし、海馬は呟くように言う。

 

「――貴様に敗北は許さん」

 

 その言葉に、電話の相手は微笑を零す。

 

『当たり前ですよ。ウチはずっと、このために生きてきたんですから』

 

 そして通話が切れる。初めて出会った時から彼女がずっと願い、目的にし続けてきたこと。それがようやく結実しようとしている。

 

(だが、まさか倫理委員会とはな……)

 

 面倒な連中程度に思っていたが、ここまで邪魔をしてくるとなると……本当に対応を考える必要が出てきそうである。

 さてどうしたものか――そんなことを考えていると、部屋の扉がノックされた。

 

「城井です」

「入れ」

 

 呼び出していた人物の来訪に、海馬は入室を促す。失礼します、という言葉と共に一人の女性が入ってきた。

 真面目そうな印象を受ける年若い女性だ。桐生美咲のマネージャーである城井――その女性がこちらへ一礼する。

 

「お呼びと聞きましたが……」

「忙しいところを呼び出した。貴様の担当している桐生美咲だが、しばらくの間活動を休止することが決定された」

「え――」

「それに伴い、貴様にも休暇を与える。聞けば美咲のマネージャー業務のせいでほとんど休めていなかったようだな。これを機に体を休めるといい」

 

 言い切ると、海馬は視線を手元の資料に落とした。そんな彼に対し、あの、と城井が声を上げる。

 

「それは、先日の件が原因でしょうか……?」

「……ない、と言えば嘘になる。だがそれはきっかけに過ぎん。それに、あの小娘がこの程度でへこたれるような器ではないことは貴様も知っているだろう?」

 

 その言葉に、城井は迷いを見せながらも頷いた。そして彼女が一礼して出ていくのを見送ると、海馬はそばに控えていた磯野へと声をかける。

 

「――磯野」

「はっ」

 

 傍に控えていた黒服が一礼する。海馬は睨み据えるようにして彼女が出て行った扉を見つめながら、静かに彼へと指示を出した。

 

「ミズガルズ王国へ人手を回せ。美咲が必要と判断した場合、すぐにでも介入できるようにしろ」

「よろしいのですか?」

「国の思惑など知ったことか。どうせ何もできんし何もしようとしない。ならば少しでもコントロールできるようにしておくべきだろう。そしてもう一つ。あの女にも監視をつけておけ」

 

 その言葉に磯野が驚きの表情を浮かべた。海馬はそんなことなどおかまいなしに言葉を続ける。

 

「杞憂で済めばいい。だが、あの目は気になる」

「……わかりました。手配しておきます」

「ああ」

 

 頷く。そして改めて資料へ視線を落そうとすると、磯野が思い出したように言葉を紡いだ。

 

「瀬人様。もう一つご報告が」

「なんだ?」

「烏丸澪嬢が完全に行方を晦ましました。監視をしていた者たちも、いつの間にか眠らされていたらしく……」

「ふぅん、小娘が」

 

 手を組み、思案する。リスクとリターンを天秤にかけ、彼女の思考を予測する。

 

「……まあ、いい。放っておけ。あの小娘については下手につつけば藪蛇となりかねん」

「承知しました」

 

 磯野が頷き、指示を与えるために部屋を出ていく。それを見送ると、海馬は一人呟いた。

 

「……俺の知らないところで、何が起こっている……?」

 

 その呟きに対し、答える者は。

 誰も、いなかった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 周囲を無数の兵隊に囲まれている。

 現在の状況を一言で説明すると、まさしくそれだった。銃口こそ突きつけられていないが、周囲を取り囲む兵隊たちは皆一様に緊迫した空気を纏っており、そのせいで空気が重い。

 隣の雪乃は相変わらず表面上は平然としているが、いつもより立ち位置が僅かにこちらに近く、また腕組みしている手に力が篭っている辺り、内心はかなり焦っているはずだ。

 まあそれを冷静に見ている宗達自身、余裕綽々というわけではない。最悪力ずくで――それこそ〝邪神〟の力を使ってでも逃げるつもりであるし、その場合は目の前にいる元凶を生贄にする気満々だった。

 

(まあ、ジジイが余裕そうだし大丈夫なんだろうが)

 

 とはいえ、目の前の元凶は相変わらずの笑みを浮かべている。宗達がゆっくり構えているのも皇清心という男が平常という理由もあるのだ。

 

「目的は何だ?」

「だから言ってるだろうが。皇清心が来た、って上に伝えな。それだけでいい」

「貴様……」

 

 先程からこの会話の繰り返しである。清心の態度がかなり悪いので――いつものことだが――周囲の兵たちも殺気立ち始めていた。

 まあ確かに仕方がないと言える。〝ソーラ〟という大量殺戮兵器の開発により、ミズガルズ王国は国際的にかなりデリケートな状況にあるのだ。そんな国にいきなり皇清心などという人間が現れたら警戒せざるを得ないだろう。

 

「……つーかアポ取ってねぇのかよジジイ」

「俺ァ忙しいからなァ……。アポ取ったところで行くかどうかすら怪しい」

「そんなんだからこの状況になってんじゃねーのか」

「さァな。まあ、見てろ」

 

 笑みを浮かべて肩を竦める清心。それに合わせるように、奥から一人の男が現れた。佇まいと階級章から察するに、ここの責任者だろう。

 

「ミスター・スメラギを名乗っているのは貴様か」

「んん? オメェさんは……」

「王宮警備隊隊長、ヴィーノ・マックスだ。……成程、確かに私の知る英雄の姿と似ている。だが、今我が国にあの英雄が訪れる理由がない」

「ほお」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべて応じる清心。彼は両手を広げると、それで、と問いかけた。

 

「ならどうする?」

「本当に英雄だというのであれば、その実力を見せてもらう」

 

 そう言って、ヴィーノはデュエルディスクを取り出した。それを受け、清心も笑う。

 

「いいねぇ、わかりやすい。――なら教えてやる。オメェの言う英雄は、今も変わらずここに君臨してるってな」

 

 そして、互いにデュエルディスクを構える。

 

「「決闘!!」」

 

 その光景を見て、ポツリと。

 

「……英雄、っていうより、ラスボスだよなアレ」

「……まあ、ヒーローというには違和感あるわねぇ」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 向かい合う二人の決闘者と、それを見守る者たち。依然として周囲を取り囲む兵士たちは銃を構えており、異様な空気が流れている。

 だが、それとは別に周囲の兵士たちからは一種の期待感のようなものを感じもする。成程確かに、『英雄』なる人物が目の前にいればそうなるのかもしれないが。

 

「先行はそちらに」

「ほう、いいのかい?」

「実力を確かめるのが目的だ」

 

 ヴィーノが頷きながら言う。清心が口笛を鳴らした。

 

「いいねぇ、その実直さ。嫌いじゃねぇ。いいだろう、なら俺はフルモンスターで相手してやる」

「何……?」

「さあ、俺の先行だ」

 

 笑みを浮かべたまま手札を引く清心。周囲の兵士たちがざわめきを漏らし、隣の雪乃も首を傾げた。

 

「フルモンスター……デッキ構成をモンスターだけで行うということかしら?」

「そういうことだろうな。理論上可能だが普通はしないやり方だが……」

 

 魔法・罠ゾーンにセットできるモンスターである『白銀のスナイパー』や『AF』といったモンスターの存在や、シンクロの登場により強力なモンスター効果を持つモンスターが増えたこともあり、あくまで理論上という形で考察はされてきた。

 とはいえ、先程例に挙げたAFなどはむしろそのサポートカードである魔法・罠があってこそ真価を発揮するというカテゴリーでもある。そういう意味でフルモンスターは狂気の沙汰とも呼ばれるデッキ構成なのだが……。

 

「俺は手札より、『コアキメイル・デビル』を召喚」

 

 コアキメイル・デビル☆3風ATK/DEF1700/800

 

 現れたのは青い体躯をした悪魔だ。悪魔族で風属性モンスターという珍しいモンスターである。

 

「コアキメイル・デビル……?」

「コアキメイルはエンドフェイズに共通効果として維持コストがかかるが、まあそれは置いておいていい。コアキメイル・デビルが存在する限り、メインフェイズに発動する光及び闇属性モンスターの効果は無効化される――こっちのほうが重要だ」

 

 疑問符を浮かべた相手に清心がそう言葉を紡ぐが、周囲には困惑の空気が広がるだけだ。そんな中、雪乃がつまり、と言葉を紡ぐ。

 

「メインフェイズでありコントローラーのという指定がないということは、そのモンスターがいる限り『終末の騎士』に代表される召喚時効果は光と闇において無効化され、また、手札、墓地で発動した場合も無効になるということかしら?」

「おお、よくわかってるじゃねぇか嬢ちゃん」

「ありがとうございます」

 

 くくっ、と楽しそうに笑う清心に一礼する。その隣で、宗達が引き継ぐように言葉を紡いだ。

 

「要するに『エフェクト・ヴェーラー』は使えなくなったっつーことだな」

「成程、モンスターのみであるという構成上最大の弱点である効果無効に対する対策というわけか……」

 

 納得したようにうなずくヴィーノ。だがコアキメイル・デビルにも勿論弱点はある。自身もまた光と闇のモンスター効果が無効化されてしまう上に、維持コストがかかる。それをどうクリアするつもりか……。

 

「更に俺は手札の『星見獣ガリス』の効果を発動。デッキトップのカードを墓地へ送り、それがモンスターだった場合そのレベル×200のダメージを与えて子のモンスターを特殊召喚する。デッキトップは『レベル・スティーラー』だ。200ダメージを与え、特殊召喚」

 

 ヴィーノLP4000→3800

 星見獣ガリス☆3地ATK/DEF800/800

 

 微々たるダメージだが先制の一撃が入る。成程、とヴィーノが頷いた。

 

「普通のデッキならばギャンブルとなる効果を、フルモンスターにすることで確実に成功させているということか。だがこの程度のダメージならば何の問題もない」

「くっく、わかってねぇなァ……。オメェさんはもう、詰んでるんだよ」

「は――」

「星見獣ガリスを手札に戻し、『A・ジェネクス・バードマン』の効果を発動」

 

 A・ジェネクス・バードマン――場の表側表示モンスターを手札に戻すことで特殊召喚できるチューナーモンスターだ。ガリスが清心の手札に戻り、本来ならバードマンが現れるはずだが……。

 

「――バードマンは闇属性。よって効果は無効となり、場には特殊召喚されない」

 

 場に残ったのはコアキメイル・デビルのみだった。どういうことだとざわめく兵士たち。それに答えるように言葉を紡いだのは雪乃だった。

 

「成程……。コアキメイル・デビルはあくまで無効にするだけ。発動できないわけではなく、また、破壊もしない」

「要するにコストは問題なく発動するってことだな。バードマンの場合、手札に戻す部分はあくまでコストだ。無効の範囲には含まれてない」

 

 二人の解説を聞き、周囲の兵たちが納得したようにおお、と声を漏らした。同時、ヴィーノの表情が変わる。

 

「待て……。それでは、つまり」

「先行一ターンKILL。……悪いな」

 

 笑み。そして、それが紡がれる。

 

「――これで終いだ」

 

 防ぐ手段はない。

 ヴィーノは茫然とした表情のまま、己のLPがただ減っていく様を見つめていた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 夜。ホテルの一室でシャワールームから聞こえてくる音を聞きながら、宗達は机の上に置いてある携帯端末を眺めていた。

 あの後あんまりとはいえばあんまりな決着に一部の兵士たちは納得がいかないようで文句を言ってきたのだが、そこへ清心が「負けたら相手に対して卑怯、か。くっく、随分と躾がなってねぇじゃねぇか。今の王の器が知れる」と挑発し、更にヒートアップした。

 相手が銃を持っているということもあり、雪乃を庇いながら宗達は逃げようとしたが無論そう上手くいくはずもない。さてどうしたものかと思っていると、奥から貴族らしき女性が現れた。その人物が兵士たちを下がらせ、清心といくつかの言葉を交わして今回はどうにか終わったのである。

 

(しかしあのジジイ、顔が利くってのは嘘じゃねぇみたいだな)

 

 女性の方は清心に銃を向けているという状況にかなり慌てていたし、謝罪の言葉も口にしていた。清心がああだから軽く流してしまったが、事前連絡もなく王宮に訪れてこの対応というのはいくら何でも異常だろう。

 本当によくわからない男だ。確かに世界ランカーとしては最古参であるし、嘘か本当かわからない噂も多い人物だが、彼はあくまで一般人のはず。〝邪神〟という例外こそあるが、それにしたってなぜあの男にその一角が預けられているのかという疑問があるのだ。

 

(考えれば考えるほど意味不明なジジイだな……)

 

 あの破綻した性格のせいで見失いそうになるが、皇清心という男はかつてプロフェッサー・ギルドの創設に関わっている。メインとなった初期構成メンバーはペガサス・J・クロフォードの秘蔵っ子が中心であったが、その他の外部メンバーは彼がスカウトした者が多いとは一部で有名な話だ。

 そしてその人物はというと、現在机の上に置かれた携帯端末で宗達と言葉を交わしている。

 

『で、そっちはどうだ?』

「どうも何も実は信用されてねぇだろクソジジイ」

『ほお?』

「盗聴器仕込まれてたぞ。とりあえず全部潰したが、多分これ隣の部屋からも盗聴されてるんじゃねぇか?」

 

 机の上に置かれた小型の機械に視線を向けつつ、ため息と共に宗達は呟く。清心は王宮内の客室に通されたが、宗達と雪乃はそうはいかず向こうの計らいでホテルへと通された。スイートがどうとか言っていたが断り一室ずつ普通の部屋を用意してもらったが、調べてみるとこれだ。

 

『よく気付いたじゃねぇか』

「人の荷物に探知機仕込んどいてよく言うぜ。……実際どうなんだ?」

『さてなァ。考えられるとすりゃアレだ、王子とはほとんど面識がねぇからな。向こうもはいそうですかと受け入れるわけにはいかねぇんだろうよ』

「成程ね……」

 

 ヘリの中でも繋がりはあくまで先代国王とのモノであると言っていた。個人でそれはどうかと思うが、この男なのでまあそうなのだろうと思うしかない。

 それに、宗達にとってミズガルズ王国自体は正直どうでもいい。彼はあくまで〝邪神〟の関係者として巻き込まれたのであり、国の情勢や最近噂の〝ソーラ〟のことなどは気にすべきことではないのだ。

 

「それで、情報はあったのか?」

『何とも言えねぇなァ。とりあえず何人か捕まえたが、全員知らんそうだ。ただまあ、何となくきな臭い気もするがな』

「ふーん。根拠は?」

『勘だ』

「当てにならねー……」

 

 こういう人間だった。宗達は息を吐くと、最後の質問を投げかけた。

 

「新しい国王とやらにはいつ会えるんだ?」

『明後日だな。だから明日は好きにしとけ。それが表立ってかどうかはともかく、監視はつくだろうがな』

「了解」

 

 明後日――その言葉に僅かに表情を変えると、宗達は通信を切った。同時、別途にゆっくりと倒れこむ。

 

(明後日か)

 

 元々その気はなかったが、これで本格的にレッド寮の件にはかかわれなくなった。心配はしていないが、気にはなる。

 

「さて、どうなるか……」

 

 どう転ぼうと受け入れるつもりではある。十代さえいれば悩む必要もなかったのだが……。

 

「……あの馬鹿、何してんだかね」

 

 呟いて、目を閉じる。

 妙に穏やかな気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミズガルズ王国、玉座の間。近々行われる戴冠式で新たに国王となる人物は、来客に応じていた。

 

「……改めて問おう。貴殿の名は?」

 

 その言葉を受け、二人の男女を従えた青年が頷いた。

 

「斎王琢磨と申します、殿下。

 我らは〝白の結社〟――否、〝光の結社〟。迷い人を導くことこそ我らが使命」

 

 両手を広げると同時、宙に無数のカードが舞う。

 それらは規則的に空中で並ぶと、斎王の指示を待つように動きを止めた。

 

「――迷いを、抱えておられますね?」

 

 

 白が、浸食していく。

 世界が、歪んでいく。

 

 

 

 

 ――しかし。

 

 

 

 

「すまねぇ。道に迷ってさ。遅れちまった」

 

 

 極東の、小さな島に。

 希望は、まだ。

 

 

 










相変わらずやりたい放題なお人。
多分普通にデュエルしたいだけだったのに先行1KILLかまされるかわいそうな人がいましたね。





新年一発目がガリスワンキルという酷いことになってますがまあ平常運転平常運転。
さてさて、遂に次回、彼が復活……かもしれません。

というわけで、また次回お逢いできればと。
ありがとうございました。



新年もどうにかこうにか頑張ります。

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