混沌の使い魔 小話   作:Freccia

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選択と区別

人にはやらずにはおれぬこと、言い換えるならば、やらねばならぬことがある。

 

どんなに危険だとしても避けられぬ、そんなことが。

 

たとえ、確実な死を約束されるとしてもそれからは逃れることはできぬ。

 

だから手を伸ばす。

 

それは、本能と言ってもよいじゃろう。

 

 

 

 

 学院長室は本塔の最上階にある。普段ここを使うのは学院長であるわしと、今は席を外しておるが、秘書であるミス・ロングビルだけであるから、十分な広さを持ったそこは、セコイアの重厚な机と、ミス・ロングビル用の机を置いても場所があまりがちになる。本棚にも、わしですらいつ書かれたのがはっきりとしない本からぎっしり詰まっているが、それでもじゃ。

 

 しかしながら、近頃に限っては少しばかり様相が違う。わしの机もミス・ロングビルの机も、普段ならあり得ないほどの量の書類が、それに倍する資料とともに積まれておる。おかげで、ここ最近はその広さが十二分に活かされておる。

 

 理由はと言えば単純なこと、ここ最近の学院が忙しい、その一言に尽きる。もともとの業務に加えて、亡命者の受け入れ。王室に連なるそれなり身分の者たちの亡命であるだけに、相応の処遇というものが必要となる。加えて、表だって言うべきものではないが、政治的な思惑というものがどうしても絡む。

 

 近く片が付くであろう戦争後のことを考え、どう動けばもっとも利を得ることができるか、自然、学院にいる亡命者達へと目が向く。おかげで、当初の予定とは異なり、「アルビオンを守りたい」という王女と「余計な利権を与えたくない」宰相の意向で学院で引き続き受け入れるということとなっておる。

 

 結果的に、それを任されたエレオノール嬢はもちろん、それに協力するわしも、さらに両者を補佐するミス・ロングビルも多忙を極めておる。ミス・ロングビルはわしの秘書でありながら、今朝から幾度となく学院長室とエレオノール嬢の部屋を往復することとなっておる。

 

 そうすると、ふとした時に、ミス・ロングビルの形の良い尻が目に入る。決して露出の多い服ではないが、服の上からでもよく分かるその形の良い尻が。

 

 ――いい加減、真面目ぶることはよすとしよう。

 

 重要なのは、最近のミス・ロングビルが、一言で表すのならとてもエロいということじゃ。おかげで今まで以上に仕事に身が入らん。

 

 もともと豊かな胸と締まった形の良い尻から秘書へと選んだわけじゃが、最近は特にそそられる。老いた身ではあるが、余計な肉はまったくないながらも柔らかそうな、それでいて肉欲的な尻、そして時折見せる表情。トロンとした眦、緩く弧を描く口元、何を思ってのものかは分からんが、とにもかくにもその表情がエロい。

 

 丁度、ミス・ロングビルが戻ってきたようじゃ。忙しいながらもよく手入れのされた肩口にまでかかるエメラルドグリーンの髪。すっと通った、一見すると怜悧なまでに形の良い眉。理知的な瞳は、それに加えて、ときおり魔的な魅力を見せる。視線をおろしていけば、はっきりと存在を主張する胸、それに対比して締まったくびれ、思わず触れたくなるような肉欲的な太もも。どことは言えんが、以前にも増して魅力的じゃ。服装がそう変わっておらんから、これは本人の魅力のなせる業としか思えん。

 

 「……一応言っておきますが、触ったらどうなるか分かっていますよね?」

 

 わざわざ目の前にまで来て言う、その感情のない言葉に、思わず伸ばしていた手が凍りつく。それを確認したミス・ロングビルが背を向けると、視線の先に形の良い尻が目に入る。

 

 とても柔らかい、それでいて弾力のある尻が。

 

 少しだけ指に力を入れると、ただ柔らかいだけでなく、その奥のしっかりとした弾力が感じられる。触れるに合わせて形を変える胸も良いが、この柔らかさと弾力は尻、それもきゅっと締まったまさにこの尻でしか味わえん。

 

「――満足しましたか」

 

 肩口に振り返ったミス・ロングビルがにっこりと口にする。

 

「お、怒らんのか?」

 

「――なわけないだろうが、エロじじい」

 

 にっこりとした表情はそのままに、いや、蔑んだ目と、裂けんばかりにひきつった口元はまったく別のもの。

 

「言いましたよね。触ったらどうなるかって?」

 

「カァーッ! 死ぬのが怖くて魔法学院長が務まるかーっ!」

 

「……そうですか。じゃあ、シキさんに言いますね。学院長にお尻を触られたって。力いっぱい揉まれたって。あーあ、骨ぐらい残るといいですね」

 

「ぬぅ……。し、死ぬのが怖くて、死ぬのが怖くて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ずっしりとした重みのある袋が揺れるたびに、ジャラジャラと音を立てる。これが全部金貨であるから、いったいどれくらいの額になるのだろう。お金を数えて楽しむ趣味というのは理解できないと思っていたけれど、今は分かりそうな気がする。

 

「うっふっふっふ。テファには何を買ってあげようかな。子供達にもたまには美味しいものをお腹いっぱい食べさせてあげたいし。うーん、悩んじゃうなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいことがあったって、やっぱり分かります? ちょっと臨時収入があったんで、妹に何を買ってあげようかなって」

 

「妹ですか? まあ、血はつながっていないんですけれどね。私よりもずっと綺麗でかわいくて、虫も殺せないようなとってもいい子ですよ。今はアルビオンに住んでいるんですけれど、いつか紹介しますね。あ、可愛くてびっくりするぐらい胸も大きいですけれど、手を出しちゃダメですからね?」

 

「ひゃん……。もう、いきなり触らないでくださいってば。これくらいかって、私より大きいって言っているじゃないですか。だから、ん……、つまむのは……。もう、エッチなんだから。シキさんのせいで最近敏感になっちゃて困っているんですからね?」

 

「え、今日は「せーらーふく」でですか? 別にいいですけれど、好きですね。「こすぷれ」みたいで可愛いっていうのが褒められているのかいまいちわからないんですれど……。それと、着たまま良いとか、その、なんというか……。いえ、やっぱりなんでもないです」 


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