ガリアの姉妹姫。それは、単なる華ではないからこその愛称。
姉と称されるイザベラ。魔法の才こそ十人並みであるが、それが何であろう。思慮深く柔軟な思考は国を富ませ、表には出さずとも、人の情を知るイザベラは民を慮る。民は、そんな彼女のことを敬愛してやまない。叡智と慈愛を持った、理想の女王。
妹と称されるシャルロット。年齢に比較して一回り以上幼く見える、可愛らしい容姿。しかし、決して侮ってはならない。魔法における天才的な才能と、それを用いた戦闘能力は国内においても指折りの実力。庇護欲を誘う外見は、その身に秘めたるものを知らなければ、致命の罠。イザベラにシャルロットが寄り添う限り、不慮の事故など起こりえようはずがない。
姉は妹を慈しみ、妹は表舞台において姉を立てる。本当の姉妹ではないというのに、真に姉妹らしい2人。だからこそ、民は、子が姉妹であった時にはその名にあやかった。才に溢れ、共に支えあう素晴らしき姉妹になって欲しいとの願いを込めて。
そんな姉妹は、今日もまた王城にある。
イザベラは、シャルロットに微笑みかけながらゆっくりと小首を傾げる。
「──聞こえなかったから、もう一度言って欲しい」
微笑みかけられたシャルロットは、先の言葉を繰り返す。
「絶対、に、い、や。行きたくない」
イザベラの表情は変わらない。額の青筋以外は、極上の笑みと言える。
「理由を聞かせてもらえるかしら?」
普段の砕けた口調とは違う、丁寧な言葉遣い。普段シャルロットにそのような言い方はしないが、真に怒りを持った時には敢えてそうする。むろん、シャルロットとてそのことを理解している。しかし、彼女としても引くわけにはいかない理由がある。
「パーティーは嫌。イザベラと一緒に行くパーティーだとろくに食べられないから。それに、ドレスは窮屈」
「私の顔を立てると、思ってだな……」
あまりの理由に、イザベラは顔を引きつらせる。
「私は自由な生活を選んで、イザベラは女王として生きることを選んだ。私には、向いていない」
「少しは、働こうという気にならないのか?」
「荒事は駄目だって言うから」
「当たり前だろうが!? 姫が騎士の真似事をするやつがあるか。大人しく守られていろ!」
「だから、外に出ない」
イザベラの顔から表情が消える。
「──私が最近感心した言葉に、働かざるもの食うべからずというものがある。お前にぴったりな仕事をやろう。好きに食べて、好きに寝ていられる仕事だ」
「……どんな仕事?」
シャルロットに取ってこの上なく好ましくはあるが、イザベラの表情に不吉なものを感じずにはいられない。
「結婚だ。役目といえば夜だけだから、最高だろう? 前々から話はあったが、私が断っていたんだ。しかし、すぐにまとめよう。幼女趣味という性癖以外、条件が好ましくてな。表立って言うわけにはいかなくて、断るのになかなか難儀していたんだ。なに、40をとうに越えているが、絶倫だともっぱらの噂だ」
「──あら、随分と綺麗に着飾ってきたのね。うん、可愛らしくていいじゃない」
パーティの会場で、ルイズが言った。視線の先には、ひたすらに食べ続けるシャルロットがいる。普段から見た目に反した食欲だが、今回はそれに拍車がかかっている。
イザベラは、それを苦々しげに見ている。表情には、どこか諦めがうかがえる。
「まあ、な。うん、今回の所は、ちゃんと出てきただけでも良しとしよう。ドレスも大人しく着てきた。次は、コルセットも必ずつけさせよう。……もう少し、王族としての務めを果たすつもりになって欲しいものだがな。税でもって生活するのに、それが無駄飯食らいになるほど恥ずかしいものはない」
生真面目ならイザベラに、ルイズが微笑む。
「イザベラって、本当に上に立つ人として理想的ね」
対するイザベラは、こそばゆい顔。が、すぐにいつもの不敵な笑みを浮かべる。
「誰よりも誇り高い貴族と評判高いルイズに言われるとは、私としても嬉しいね。聞いているぞ。貴族院で啖呵を切っての大演説の数々。率先して自ら範を示してみせることで、全員を黙らせたそうじゃないか。あんまり素晴らしいからな、書にまとめて、うちの連中にも配らせてもらったよ」
「……勝手に何てことをしてくれるのよ、あんたは。というか、そんなの自慢にもならないわよ。あなたのように新しいアイデアで改革なんてことも出来ていないし。最近ようやくアカデミーに食糧生産向上の研究を始めさせることができたけれど、そうさせる為だけでどれだけ時間がかかったか。いつになったら結果が出るのか、気が遠くなりそうだわ」
自分にも厳しいルイズの在り方に、イザベラは嬉しくなる。顔を合わせることもなかなかに難しいとはいえ、ルイズのような存在こそが、イザベラに取っては支えになる。
「なに、その方向に持っていけただけでも大したものだ。頭が硬い連中を辛抱強く説得して動かしたんだからな。十分に誇っていい。それに、アルビオンの民にも期待されているそうじゃないか。蜜月の関係とはいえ、食糧の融通は余裕があってこその話だからな。……ああ、そうだ」
イザベラは、かつてルイズが言った事を思い出す。
「自分の成長を見せつけたいやつがいるっていうのも、大丈夫じゃないか?」
しかし、ルイズは難しい顔。
「うーん、もう少し結果を出せないと駄目かな。あっちも、遠慮無く鞭打つ人がいるし」
イザベラは苦笑せざるを得ない。
「厳しいねぇ」
「うん、これでもかって見せつけて、立派になったって土下座させるぐらいでないと」
そこまでとなると、さすがのイザベラも顔を引きつらせざるを得ない。
「怖いねぇ……。誰だよ、お前にそこまで言わせるやつは」
ルイズは、嬉しいとも、なぜだか、悲しいとも取れる曖昧な表情。
「それは、内緒。それにね、これは私の中での勝手な競争。子供みたいなところを直して、どっちが本当に大人になれるか。ま、今の所は私が勝っていると思うけれどね」
強気の言葉に、イザベラは安堵する。イザベラに取って、ルイズはそうあって欲しいから。だからこそ、遠慮せずに皮肉も言える。
「さすがだな。体つきは子供だっていうのに」
「ふーん、言うほどあなたも豊かとは言いづらいと思うけれど?」
こういったやり取りは、ルイズに取っても望むところ。しかし、こと体における女性らしさというのは分が悪い。案の定、イザベラはニヤリと笑う。
「なに、私は人並みのものはある」
イザベラが強調してみせるドレスの胸元には、谷間らしきものが見て取れる。ルイズのドレスの胸元には、作れないものだ。
ルイズへの勝利を確信したイザベラは、しかし、ちらりと視線を人だかりへと向ける。
「まあ、お前の姉と比べればささやかだがな。しかし、本当にあれで姉妹か? 父も母も同じで、そこまで差がつくとは」
あまりにも差があれば、ルイズとしては嘆きようもない。ルイズの視線も、自らの姉へと向けられる。
「まあ、ねぇ。姉様も、今回は頑張っているし……」
人だかりの中心に、ルイズの姉であるカトレアがたおやかに微笑んでいる。胸元が大きく空いたドレスから溢れる母性に、独り身の男がこれでもかと群がっている。
予定通りとはいえ、イザベラとしてもこの光景は呆れざるを得ない。
「うちから連れてきた男共は、運が良いな。本人に落ち度は無いとはいえ、色々と訳ありの連中が多くてな。良縁なら例え母親ほどの年齢差であってもという意気込みのやつばかりだったんだが」
しかし、自然と疑問が浮かぶ。
「ところで、何で結婚していないんだ? 既に子供がいてもおかしく無いぐらいの年だろう。家柄、器量、全くもって欠点無しに見えるんだが……。国を継がせるということで無ければ、それなりに自由に出来るだろう?」
ルイズは難しい顔。
「そうなんだけれど、どうしてかしらね。なぜか流れてしまうのよ。ええ、本当に分からないの」
「そういうことも、あるか。まあ、私達も他人事じゃ無いからな。
それと、聞いたか? ルクシャナが身籠ったらしいぞ。エルフは子供を授かりにくいと聞いていたというのに、このままだとファーティマにも先を越されそうだ」
「そうね。かといって……」
ルイズの視線の先には、カトレアに負けずに男を集めて、ハメをはずしかけているキュルケがいる。
「あれだけ念押ししたのに、それで変なのを選んだら、どうしてくれようかしらね」
「その時は、テファに倣ってもらうしかないな。本人にとってもその方が良いだろうさ」
この上無く責任感の強い女王2人は、力強く頷きあう。
イザベラは、書いている内に愛着の湧いたキャラクター。健気に頑張る、愛着の湧くキャラクターほど酷い目にあっているのは、まあ、好みの問題。恐らく、そういう人はそれなりにいるはず。付け加えるなら、女王としての役割をきちんと果たした結果、囚われのお姫様としての扱いになるというのも、ある意味では自然な流れだと思う。当初の予定では、父親とのやり取りの中で本当に捨てられたと理解して自害ということも考えていたので、それに比べれば控えめ。それに、そういう前置きがあってこそ、羨んでいても共に在りたいと願うタバサとの健全な関係にというのが活きるはず。タバサは、ロイヤルなニートになってもそれはそれで。
ルイズに関しては、影が薄くなったというのは事実。そもそも、ヒロインでは無く妹というポジションが難しい。妹というのは、そのままではメインヒロインにはなり難いからこそ、それを活用する為の話、ヒロインとの関係性を使った話があって良かった。例えば、エレオノールとマチルダと、もう少し心情的に切り込んだ話など。家族として、最終話で優柔不断を責める役割を持たせたけれど、それならそれで、もう少し伏線を作って掘り下げておきたかったところ。加えて、テファのような明確な目標が無く、貴族として誇れる生き方をというのも、キャラクターの芯とするには甘かった。キャラクターを作るに当たっては、その核というものが必要。そうで無いと、書くうちにブレも出てくる。
ブレということであれば、10年近く書いていると自分の記憶力の問題は当然として
、書く環境が変わる度にデータの引き継ぎに問題が出た。ノートパソコン、ポメラ、ポメラ2代目、Android端末、Android端末2代目、iPadと移行する中でデータが抜け落ちたり、バックアップ用のevernoteが上書きされて消えたり。プロットや資料が消えたりは、かなり困る。次に書くのもそれなりに長編になるのだから、反省点を踏まえて最初に環境準備をしておきたいところ。後からやろうとしても、時間が経てば経つほど、どこに何があるのかも分からなくなるから。そもそも、それが存在したということも忘れたり。
現在の書く環境としては、iPad mini+カバー型のロジクール製ウルトラスリムキーボードに、アプリがiテキストと標準のメモを併用。どこでもストレス無く書けるという点で不満は無いのだけれど、バックアップが弱い。それと、追加で、一番最初のノートパソコンで使っていたVerticaleditorのような使いやすいアウトラインプロセッサも欲しい。ツリー形式でデータを一つにまとめられたので、例えば、キャラクターの特徴や、それぞれのストーリーの概略を一括して参照するといった使い方ができる。話が長くなればなるほど、そういうものがあるか無いかで効率が違うのというのを実感。