混沌の使い魔 小話   作:Freccia

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ウラルとアイリス

 

 

「──ちょっとだけ、待っててね」

 

 そう言って、アイリスは部屋から出ていった。

 

 1人になったウラルは、目を閉じる。固く握りしめられた手は、微かに震えている。

 

 長いとも短いとも取れる時間が過ぎて、扉が開いた。

 

 戻ってきたアイリスの手には、とても手の込んだリボンでラッピングされた真っ赤な箱。ほのかに甘い香りのするその箱を、アイリスは愛おしげに見つめる。

 

 アイリスは得意げに笑い、口元に人さし指を当てる。

 

「イリヤには秘密だよ。私の宝物。食べるのが勿体無いぐらいに綺麗なチョコレート。ね、ウラルちゃん、一緒に食べよう」

 

 箱の中には、ほんの4つだけ。でも、それぞれがとても可愛らしい、甘い宝石。

 

 綺麗な赤の、ハートの形のチョコレート。アイリスが口に含むと、チョコレートの甘さの中に爽やかなベリーの香り。

 

 表面の小さく砕いたナッツが香ばしい、ダイヤの形のチョコレート。ウラルが口に含むと、チョコレートの甘さを引き立てる、どこか懐かしい香り。

 

 他とは違う、真っ白くて丸いチョコレート。アイリスが口に含むと、チョコレートだけでは届かないミルクのやさしい甘さ。

 

 ココアパウダーに包まれた、丸いチョコレート。ウラルが口に含むと、ほのかな苦味が引き立てるチョコレートの甘さ。

 

 2つずつのチョコレートは、あっという間に溶けて無くなった。それでも、とても美味しかった。2人がこれまで食べたどんなものよりも美味しかった。涙がこぼれるほど、甘かった。

 

 空になった箱を名残おしく眺めて、アイリスは小さな小瓶の液体を飲み干す。小さく咳き込んで、苦しげに顔を顰めた。

 

 アイリスの目は、赤く染まっていた。

 

 ウラルが、微笑む。

 

「お揃いですね。アイリスの銀色の髪に、とても綺麗」

 

 つられて、アイリスも笑う。

 

「嬉しいな、ウラルちゃんの赤い目、とても綺麗だから。さ、行こう。もう、あんまり時間がないから。……でも。ふふっ、少しだけ楽しみ。男の人は、私達を虐めるばかりだったんだから、最期ぐらい良いよね。男の人なんて、大っ嫌い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲルマニアの陣幕に、死体があった。

 

 銃弾に半ばより引き裂かれ、残る体も無残に溶けかけた巨大な鳥の死体。そして、そこへ半ば埋もれるように朽ちた少女の死体。

 

 巨鳥は、あと一歩の所まで、しかし、限りなく近づいた。

 

 少女は、自らの命が失われるまで狂ったように笑い、死を振りまいた。

 

 死体の周りには、死体が広がる。人や、人だったものや、単なるモノも。

 

 全体からすれば、些細なもの。それでも、命と引き換えに最期の意地だけは通した。

 

 倒れたものたちは、今際の際に聞いただろう。あどけなくも、ありったけの呪いに塗りたくられた声。全ての死を願う声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イリヤという少女がいた。

 

 銀髪の、美しい少女。親の知れない孤児ではあっても、自らの境遇を嘆くことは無かった。贅沢は出来なくても、きちんと読み書きを学べる孤児院で、未来を夢見ることができたから。

 

 そんな少女は、同じ孤児院出身の少年に愛の告白をされた。ごくありふれた容姿で少女には釣り合っていなかったけれど、少女は受けいれた。その少年の誠実さが、とても心地よかったから。

 

 やがて、2人の子供が生まれた。金の髪と、銀の髪の、双子の女の子。母となったイリヤは、普段言わないわがままを、その時ばかりは言った。2人の名前は、もう決めているからと。







 ウラルとアイリス、イリヤは原作にないオリジナル。名前は、分かる人に取っては適当と取れるかもしれないけれども、特にウラルは、描いているうちにとても愛着の沸いたキャラター。健気に頑張る女の子というのは、良いもの。幸福では無くても、最期に本人は満足できるだろうささやかな幸せをというのが、特に好み。だから、次にオリジナルで描こうとしている話のヒロインも、そんなキャラクター。境遇の悲惨さではずっと上にするつもりだから、その描き方こそ見せ場として作りたいところ。

 それはそれとして、ウラルという名前は、ウラルフクロウという典型的な見た目の梟から取ったもの。そういったありふれた名付けにはなったけれど、キャラクターの属性としては、目一杯付属。使い魔といえば梟というところから始めて、天使の要素から両性具有、生まれたばかりなら感情が未熟な無表情系ロリ、鳥娘なら巨乳、あとは個人的な好みから受けた恩を絶対に忘れない自己犠牲精神。最期は、アトラスに倣って、無理をした悪魔の成れの果ての半スライム化をイメージ。

 アイリスの名前は、イリヤとセットでFateから。親子でなく双子の姉妹としたけれど、全てがオリジナルのコピーとしてのホムンクルスだからある意味そう変えていないのと、感情の方向性は同じに。アイリスの死に様も、同じといえば同じ。最期については、ゼロの使い魔の原作に出てきた感情の暴走と引き換えに力を得る薬と、アトラス好きなら印象深いだろうアリスをイメージ。可愛らしい見た目の造形に反して、ペルソナで登場したスキルの「死んでくれる?」は、全体超高確率呪殺は凶悪。最初の予定では、最期は感情が枯れ果てて、本当に大切だった人を大切だと思う感情も忘却。最期の最期まで一緒に戦う為に自らウラルに食べられて──と考えていたけれど、都合上断念。ウラルが泣きながらも……というのは、出来れば作りたかったシーン。そこからの派生として、イリヤがウラルのことを姉と呼ぶ最後か、イリヤが幸せな家庭を作る所を見届けてから梟として息を引き取るウラルというものも考えていたり。



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