この大陸の中で――とりわけメイジと呼ばれる者たちの中で、密かにブームとなっているものがあった。
「マジック&メイジ」
要は、対戦式のカードゲームである。「場違いな工芸品」を参考にしたというそれは、プレイヤーは偉大なメイジとなり、召喚した使い魔を使用して相手プレイヤーを打ち倒すというものだ。
使い魔としては様々なものが存在する。ゴブリンやオークといったものから、果ては風竜や火竜といったものまで。
通常なら使い魔としてはなかなかお目にかかれないものも、自分の使い魔として使用することができる。更に、もし自分の使い魔を持っているのならば、それをゲームに合わせたオリジナルのカードにした上で使用することができる。
戦闘に長けた使い魔であればあるほど普段活躍する機会がないだけに、これは非常に好評を博した。いくつかの特典があるのに加えて、使い魔自身が持っている能力を反映させることができる。強いカードということは、すなわち、それだけ優れた使い魔だということになる。
なにかと娯楽というものが不足するなか、対戦性、コレクション性に加えて、メイジならば当然持っている自分の使い魔を活躍させたいという欲求に答えたこのゲームは非常に魅力的であった。
そしてここにもまた一人……
息を弾ませながら、ルイズが駆け寄ってくる。そのたびにルイズの自慢も桃色の髪も、ふわりふわりと風に流れる。そんな仕草一つ一つが、面白いおもちゃを与えられた子供のように、楽しくてしょうがないといった様子だ。
「――ねえ、シキ、これ知ってる!?」
そんなルイズがさし出してきた手には、小さなカードが握られている。案外、見た目通りだったのかもしれない。
「そのカードか?」
「うん。これ」
ルイズの手の中のものへと視線を落とす。カードは単純なトランプなようなものとは少し違った。
たぶん、ユニコーンだろう。一角の馬の絵が描かれ、その下にいくつかの数字、更に、読めはしないが、何か説明書きのようなものが書かれている。あえて言うなら、ずっと昔に流行ったカードゲームに似ているのかもしれない。
「その反応は大体わかったってことでいいのかな? でね、ちょっとだけシキに協力して欲しいんだけれど」
「――対戦相手としてか?」
もしも似たようなものなら、記憶にある限り、一番流行っているときはそこらで集まってゲームを行っているのを見かけた。大体は勝負の仕方のパターンが決まってしまうようだが、それならそれで、自分でそういったものを見つけるのも楽しいんだろう。流行り廃りは激しかったが、それでも最盛期の人気は社会現象とでも言えるほどのものになっていたはずだ。
「うーん、それはそれでいいんだけれど……。このゲームのルールとか知ってる?」
「それ自体は初めて見たからな。まあ、多分そういうカード使った対戦ゲームで、あとは魔法だとか援護するカードがあるんだろうなというのが分かるぐらいだな」
感心したような表情のルイズからすると、答えには十分満足してくれたといった様子だ。
「そ、大体それで合ってるわ。でも、これってメイジの中ですごく流行っているんだけれど、なんでか分かる?」
スッと人差し指を突き出し、「先生」の口調になる。その様子はどこかエレオノールと重なる。もちろん、顔立ちが幼い分、凛々しさより、かわいらしさが占める割合の方が大きい。
「いや、さっきも言った通り初めて見たからな」
なんとなく、ルイズの頭を撫でる。
「……撫でなくていいから。えーと、なんで流行っているかっていうとね、実際の自分の使い魔をカードにできるの。そうするとなかなか普段は活躍できなくても、人前で活躍させられるでしょう? カードとしても、使い魔から作った場合は色々特典があるから、どんな使い魔でも活躍させられるの」
「それは人気になるのも、なんとなく分かるな」
使い魔というものは、とかく愛着がわくものらしい。そういったカードゲームで自分の使い魔を使えるというのは、やはり格別なんだろう。そういえば使い魔とは何をするものだったかという疑問も浮かんだが、まあ、今更だろう。
「――だから、手を出して。カードを作るっていっても、すぐに終わるし」
さあ、とばかりに手を出してくる。多分、俺のカードをということだろう。
「……それは構わないが、あまりおすすめできないな」
ふと、思い出す。あのゲームでもたしか……
「いいから、いいから。シキのカードなら絶対負けないでしょ?」
するりと腕をとると、上目遣いに「おもちゃ」をおねだりする。ルイズの中ではこうすれば断られないという方式が出来上がってしまっているらしい。あまりそういったことが上達するのはまずいから――
「まあ、そうだな……」
次からは考えよう。それに、カードが使えるのは……
「――カードって、一枚だけじゃないんだな」
「うーん、普通は一枚だと思うんだけれど、強化カードっていうのもあるから。ちょっと見せて。えーと……」
――そして、ある「決闘」の場。
手札からカードを一枚ドローする。ずっと一緒にいる相棒のカードだから、見ずとも分かる。「火竜 フラン・プファイル」 攻撃力3000 守備力2500の最強クラスのカードだ。使い魔から作ったカードだから、ノーコスト召喚というおまけまで付いている。こいつが手札にくればまず負けはない。
「――悪いね。僕の勝ちだ。攻撃力で最強の『火竜』のカードを引いた。このカードを場に出せば勝負は決まる」
自身満々に勝負をしかけてきた桃色の髪の少女にどうだとばかりに目をやるが、驚いた様子は全くない。むしろ、それがどうしたと言わんばかりに口元に笑みすら浮かべている。
「そう……。なら、私はその前にこのカードを場に出すわ」
スッと手札から場にカードをすべらせる。
――というか
「……僕のターンなんだけれど」
「次のターンで『混沌王』の特殊能力『召喚』発動。『単眼の巨神』『災厄の騎士』を特殊召喚」
どうやら、自分の世界に入ってしまっているらしい。聞こえていないようだ。
「……あの、だから僕のターン」
「私のシキは無敵よ。さあ、どうするの?」
不敵に笑い、ビシリと指を突きつける。顔はものすごく可愛いらしいのに、頭はちょっと可哀想なのかもしれない。
「いや、どうするっていうか……。君、ルール分かってる? ルール無視している君の反則負けだよ……」
「――シキ。決闘で負けちゃったよ……」
「……どうやって? 負けようがないと思うんだが」
「それにあのカードも使用禁止になっちゃった……」
「それはまあ……仕方ない。多分、そうなるとは思っていた」
使用禁止カード
「混沌王」
攻撃力 6000
守備力 6000
耐性 「銃」「地」以外の攻撃無効化
召喚――場に二体まで追加特殊召喚
地母の晩餐――スキル発動時、攻撃力9999換算
妖精の加護――墓地に送られるのを一度だけ無効化