混沌の使い魔 小話   作:Freccia

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40話とは別に、テファの追加分の勉強。
前に書いた、闇に潜む者、家族の食卓の続きというか裏話として準備していたものを少しだけアレンジ。







暗闇の中で

 

 

 

 テファ姉様は、悲しそうな顔。でも、そんな顔はして欲しくない。笑った顔でいて欲しい。

 

 シキ様から私達姉妹が孤児院とは名ばかりのあの場所で、どんな風に生きてきたか、そんなことを聞いたせいで。

 

「──ねえ、アイリちゃん。本当に良いの? 辛い記憶を無理に思い出さなくたって、いいんだから」

 

 私より、テファ姉様こそが辛そう。それに、方法は分からないけれど、汚れた私の記憶を体験するなんてあまり良いことじゃないと思う。テファ姉様は、本当に眩しいぐらいに綺麗なのに。

 

「私にとっては、ただの記憶ですから。それに、私達はテファ姉様のおかげであの場所から出られたんです。役に立てるのなら、何だってやります。ただ、テファ姉様を汚すようなことは……」

 

 テファは静かに首を振って、私に口付ける。男の人にされたのと違って、とても温かい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 股の、ズキズキとした痛みで目が覚めた。今日の「客」は、自分が楽しめればそれで良いという人だった。溢れたものが足に伝わって気持ち悪い。無作法だけれど、シーツで拭う。

 

 ベッドには、私と妹のイリヤだけ。

 

 イリヤの目元に残った涙を、そっと拭う。かすかな月明かりでも、イリヤの銀髪はキラキラとして綺麗。まだまだ可愛らしい顔立ちは、本当に愛おしい。双子だから私だって同じ顔のはずなのに、どうしてか違う。私の方が大人びていてイリヤは羨ましいというけれど、私はイリヤの可愛らしさが羨ましい。

 

 イリヤの綺麗な銀髪を一度だけ撫でて、裸のままの体に毛布をかける。気休めにしかならないかもしれないけれど、風邪をひいちゃいけないから。情けないけれど、姉らしいことなんて、それ位しかできない。

 

 薄暗い部屋を見渡す。締め切った部屋には、淀んだ空気。

 

 ベッドと、あとは「客」の為の小さなワードローブだけ。自分が満足すれば用なしということなのか、私達を抱いた男はいない。でも、生臭い空気があの男がいたことを嫌でも思い出させる。その臭いは口の中にも残っていて、早く濯ぎたい。

 

「客」には、精液を飲ませて欲しいとお願いする。「美味しい」なんて言って、自分でも馬鹿みたい。

 

 誰が思いついたんだかも分からない、口に咥えての性行為。私達の「飼い主」に教えこまれたそれは、嫌で仕方がない。あんなグロテスクなものを口に含むだけでもだけでも嫌なのに、生臭くて、喉に絡みつく精液には吐き気がする。

 

 でも、それで「客」が満足してくれれば、する回数が減る。その分、早く寝ることができる。そのことだけは、少しだけ感謝している。

 

 そして、双子の姉妹だという私達の付加価値にも。せっかく双子だからと、「客」の相手は二人ですることが多い。他の子達は一人で相手をしなければいけないから、本当に悲惨。体を壊す子だって、何人も見てきた。

 

 その中には頭がおかしくなった子がいて、そんな子は更に悲惨。

「客」のうけが良くないから、壊れても良いからという扱いになる。

私達へわざわざ見せた「ショー」は、まるで魚を調理するようだった。足がなくなって、手が無くなって、少しづつ小さく、人ではない別のものに変わっていく。「客」は、その度に痙攣する体を、好き勝手に貪る。

 

 あれは、私達が怯える様子を楽しむための、そして、躾でもあったのかもしれない。あの時の要求はいつもよりも酷かったのに、誰も逆らわなかった。逆らえなかった。

 

 ふと、風が頬を撫でた。生臭い空気が少しだけ薄まる。

 

 うん、外の空気を吸おう。夜の空気はまじりっけなく澄んでいて、余計なことを考えなくて済むから。それに、窓から景色は遠くまで広がっていて、それを見るのは好き。昼間にそんなことをしたら怒られるけれど、夜だけは見逃してもらえる。

 

 あれ? 窓は、閉まっていたはずじゃ……

 

 

 

 

 

 あの時、窓辺に佇んでいた、真っ黒くて大きなヒト。そのヒトが来て、私達の「飼い主」は変わった。「飼われている」私達にはそれだけのこと。ただ、「飼い主」に望まれるまま、望まれる役割をするだけ。妹と、イリヤと一緒に居られるのなら、それだけで十分。

 

 でも、違った。

 

 出られないと思っていた建物の外へ、自由に出て良いと言われた。

窓からは見ていた景色でしかないのに、どうしてだか涙が流れた。

私だけじゃなくて、イリヤも。姉妹っていうのは、そんなことまで同じなんだって分かって少しだけおかしかった。

 

 

 

 

 

「──よろしくね。アイリちゃんにイリヤちゃん」

 

 連れられていったお店。そして、そう言って笑ったテファという名前の新しい「飼い主」 私達の好きなようにして良いと言ったそのヒトとは、どう接すれば良いのか、まだ私もイリヤも分からない。

 

 でも、ただ笑いかけられだけなのに、どうしてかまた涙が出てきた。そして、どうしてかずっとずっと昔、赤ちゃんだった時のことを思い出したような気がした。

 

 

 

 

 

 


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