ルクシャナがフォークを置く。
「ありがとう、アリー。やっぱりあそこのケーキが一番よね」
にっこりと笑う、ルクシャナ。澄まし顔も綺麗で好きだけれど、一番はやはり笑顔。日に焼けた肌にも映える。
最近お気に入りのケーキを──俺の分まで──食べて上機嫌。渡すのにこれ以上のタイミングはないだろう。
「ん? 手紙? ──あ、叔父様からじゃない」
出し主を確認して更に上機嫌になるルクシャナ。プレゼントを受けとった子供のように、楽しげに封を開く。敢えて俺経由で届いた手紙を。
読み進め、楽しそうな表情が寂しげに陰る。
「……そっか、叔父様も結婚するんだ。うん、喜ばしいことだね」
ルクシャナは何かを懐かしむように目を細める。
昔、ルクシャナは俺に言った。それが初恋かどうかも分からないけれど、初めて憧れたのがその人だと。悔しく思うと同時に、誰からも尊敬されるあの人ならばと納得してもいた。もしかしたら、とられることはないという安心もあったのかもしれない。
そして、ルクシャナは──
「はあっ!?」
バンと音をたて、ルクシャナが立ち上がる。手紙を握る指はブルブルと震えている。顔は、怖くて見れない。だから、嫌だったのに。
「……な、なあ、ルクシャナ」
「相手が私より年下ってどういうことよ!?」
「……その、色々と事情があるんじゃないかと」
「どういう事情よ!?」
ルクシャナの射抜くような視線をビシビシと感じる。目を合わせずとも、はっきりと分かる。
「……やっぱり、おかしいな。うん」
すみません、納得させるのは無理そうです。俺には、無理です。辺境から戻ってきてから、ルクシャナが怖いんです。
「私には子供に興味がないと言っておきながら……」
ああ、ルクシャナが本気で怒っている……。
「おかしいでしょう!? ねえ!?」
ガシリと肩を掴まれ、力任せにゆすられる。椅子が、激しく軋む。
「あ、俺? ……た、確かに子供にというのは良くないな」
「うるさい! 誰が子供よ!」
ズドンと腹に響く衝撃。
「ぐぅ……」
そして、両肩にルクシャナの手。
「ねえ、あなたもそう思うの? 私が子供だって。私に胸がないからかしら? 正直に言ってくれる? 怒らないから?」
そ、そんな引きつった笑みで言われても……。正直に言ったらまた殴るだろうに。
「そ、そのだな……。ルクシャナにはルクシャナの魅力的な所があって……」
ルクシャナの指が俺の頬に触れ、顎へと伸びる。顎を持ち上げるっていうのは、もう少しロマンチックなシチュエーションの方が嬉しい。あと、さっきのような笑顔の方が嬉しいな。
「じゃあ、アリーは私のどこが魅力的だと思うのかしら?」
「る、ルクシャナは綺麗だから……」
「他には?」
「たまに可愛い所を見せてくれるし……」
「たまにってところが気になるけれど、他には?」
「すらっとして、スレンダーな所とか……」
「ねえ、それって胸がないってことかしら?」
「い、いや、そんなつもりは……。ぐふっ……」
ま、また同じ場所を……
「私はエルフの中じゃ平均ぐらいよ! テファが大きすぎるのよ!」
……テファって誰。ああ、意識が遠くなってきた……
「──今は行けないけれど、一度はこっちに戻るわよね。ふふ、叔母様、会える日を楽しみにしているから。叔父様も、ねえ?」
すいません、やっぱりダメでした。俺にルクシャナは止められません。