出てくるエルフの登場人物は原作から結構離れた性格に。意図したわけではないけれど、絶望から揺り戻しの幸福、そして、原作にはなかったイベントを追加。結果として、原作でMの気質が出ていたテファがS、逆にファーティマはMに……
──ペンを走らせる。
久方ぶりに書く、本国への報告書。ここ数日は書くことも無くなっていたが、 ファーティマが彼らに接点を持ったことは委細に渡って報告しなければならない。そも、それが、ファーティマにとっての功績にもなるのだから。
「──あの、お父様」
「どうした?」
ファーティマの問いかけに、振り返らず答える。
「私も手伝うことはありませんか? 報告書であれば、私も仕事の一つとして行っていましたから」
「……いや、そう時間がかかるものではない。私一人で問題ない」
ファーティマのことを書いているのに、本人がというのもおかしなことになる。それに、これが終わればファーティマを妻に迎える為の準備も行わなければならない。それを見られるというのは、どうにも気恥ずかしい。
「……そうですか」
ファーティマは残念そうではあるが、こればかりは仕方がない。むろん、好ましくはあるが。
ファーティマへは背中を向けていて良かった。自分がどのような顔をしているか、それを思うにも気恥ずかしいのだから。
──どれだけ時間が経っただろうか
「──お父様、お茶でもいかがでしょう?」
2度目のファーティマの問い。確かに、喉の渇きを感じないではない。
「いや、大丈夫だ。まだ不慣れだろう、無理しなくても良い」
外であればともかく、この学院内で一人というのも心細かろう。
「……そうですか」
そして、ため息。背中に感じる気配はどうにも残念そうだ。確かに、することもないだろう。
「時間があるのなら、せっかくだ。人の街でも見に行ってくれば良い。しばらくはここで過ごすことになる。他の場所に行ってみるのも良いだろう。何かしら、得るものがあるだろう」
「……考えてみます」
部屋の中には、ペンを走らせる音だけ。
「──ファーティマ、まだ、しばらく時間がかかる。そうだな、あと半刻程度はかかるだろう」
「……はい。あの、私、外に出ていますね」
気落ちした、寂しげな声。
「もし待てるならばだが、一緒に行ってみるか」
「え?」
「まだ、色々と不慣れだろう。むろん、私もこの国についてそう知っているわけではないがな」
「──はい」
一転、弾んだ声。
参った、そう嬉しそうにされると対応に困る。
用事で出ていたイザベラを見つけだして話すと、いかにも不機嫌だといった様子。
「──ほう、私のことをほっぽり出してデートかい。いいご身分だねぇ」
「……すまなかった。確かに、好ましくないな」
「本気にするなよ、この石頭。冗談に決まっているだろう。頭が良い癖にバカじゃないのかい。私のことは気にせず行ってきな」
「良いのか?」
「そこまで野暮じゃないよ。いいから、ちゃんとエスコート……。ちなみにあんた、どこに行こうと思っている?」
「どことは……」
「いいから、どこに行くつもりか言ってみな」
「私が知っているのはガリアだけだからな。違いを把握するために中心街の散策、あとはそうだな、図書館があれば良い。文化の把握には良かろう」
しばしの沈黙。ようやくイザベラが口を開く。
「……なあ、あんた。女と付き合ったこと、ないだろう」
イザベラは眉をしかめ、いかにも残念なものを見るように。
「……エルフと人で文化が違うとは思わないのか?」
「あんた一人だけを見ていればそうも思うがね。ファーティマ、ルクシャナ、テファと少しばかりエルフを見たんだ。少なくとも若い女の感性はそこまで違わないってのは分かるよ。それからするとあんたは──とても残念だ」
「……そうか」
確かに、特定の相手と付き合ったことはない、確かにないが……。
「……あんたがどうしてもというのなら、知恵を貸してやらなくもないよ。そうだね、散策は適当でもいいだろうから、それなりに食えて躾の行き届いた店とかね。私の名前を出せば、お前らが多少おかしなことをしてもフォローしてくれるだろうさ」
確かに、私は食事についてあまり気にしない。栄養さえとれればそれで良い。人の国の店での注文も、よく分からない。
「あとはそうだね、ついでに服屋も行ってくるといい。質はエルフが作っているものの方が上等だが、ここじゃあ、少しばかり浮いている。見合ったものがあっても良いだろう。それに、そういうの選ぶのはファーティマも嫌いじゃないだろうさ。軍なんてところにいたわりには、どうにも乙女なようだしね。無理せず、本人がじっくり見れるようにしてやればそれで良いさ。貴族であれば店の者を呼ぶのが一般的だけれど、色々と見るのも面白いもんさ」
……服か。服を見たてるには、何を基準にすれば良いだろうか。
「……イザベラ」
「気にしなくて良いよ。これは貸しだからね。ちゃんと返してくれなきゃ困るよ」
「いや、それもそうなのだが……。恥を偲んで言う。一緒に来てくれないか」
「……もう一回、言ってくれるかい」
「一緒に、来て欲しい。頼む」
「ちょっと、何を言っているか分からないんだけれど……」
「正直に言おう。自分で考えてどうこうということは、今までなかった。それに、年代が違う。ファーティマが何を喜ぶか、全く分からない。助けてくれ。頼む。この通りだ」
イザベラに頭を下げる。
「あんた、仕事以外は残念なんだね。……分かったよ、何というか不憫だ」
同情の視線も、甘んじて受け入れよう。
「──こら、ファーティマ。私を放って遊びに行こうなんて、ないんじゃないかい? ちょうど私も街に行こうと思っていたんだ。私も一緒に行くからね」
「あうぅぅぅ……。そんなつもりじゃ、そんなつもりじゃないけれどぉ……」
ファーティマ、すまない。
──イザベラ、本当にすまない。