ちょうど、本編で主要なキャラクターを一切出さなかったというのもあるので、こんな作品を。
20131201 ウラルとシエスタの場合を追加
ルイズの場合
真剣な表情でリンゴに向かうルイズ。
片手には相棒である杖ではなく、普段であれば見ることすら稀である包丁。
小ぶりなナイフではなく、普通の包丁を選んでしまったのが一つ目の失敗。
そして、サクリ、サクリとリンゴを──少しばかり指を──刻む。
涙目になりながらも諦めない。
何事も力押しのスタンスであるルイズは、致命的に料理に向いていない。
さて、出来上がるのは耳のないウサギ。
少しばかり赤いのはご愛嬌。
「──何よ!? 文句があるなら食べなきゃいいじゃない!?」
マチルダの場合
ナイフを片手に、サクサクと刻んでいく。
刃物の扱いに危なげな様子など全くない。
むしろ、エプロンとあいまって、料理上手な若奥様といった様子。
見る間にウサギの形になったリンゴが並ぶ。
「──意外でした? そりゃまあ、普段料理なんてしないですけれどね。でも、別に不器用ってわけでもないですから。それに……」
いたずらっぽく笑って見せる。
「こういうのって、男の人って喜ぶんですよねぇ」
エレオノールの場合
危なげなく、リンゴを刻んでいく。
いっそ、普段から料理をしていると思わせるほど。
見る間にリンゴはウサギの形に──しかし、そこで終わらない。
むしろ、これから本番とばかりに集中する。
そして完成するのは随分と写実的な、いっそ、彫刻と言うべきほどの力作。
一仕事終えたと満足気なエレオノール。
「──どうです、すごいでしょう? 私、こういうの結構得意なんですよ?」
テファの場合
鼻歌交じりに、リンゴはあっという間に可愛らしいウサギの形になる。
「子供達が喜んでくれるから、必ずリンゴはこうしてるんですよ。でも、最近は大きくなって、あんまり喜んでくれないのが寂しいかなぁ」
テファは寂しいと言いながらも、どこか嬉しそう。
「──あ、でも、派手なのだと喜んでくれるんですよ? ピザの生地なんかをこう、バーンってやると」
テファが両手を上げて生地を叩きつけるような動きをすると、つられるように、あるものがたゆんと激しく自己主張する。
「男の子って、こういうのが好きなんですよね」
ニコニコと笑うテファだが、一つだけ間違い。
そこは、「男の子」と限定する必要がないということを。
ルクシャナの場合
リンゴを手に取ると、布で綺麗に磨く。
顔が映る様子を見て、満足気に頷く。
そして、皮ごと齧る。
これまた満足気に頷く。
「──リンゴって、皮ごと食べるのが美味しいんですよね。皮を捨てちゃうなんてとんでもない」
シャクシャクと齧って、あっという間に芯だけに。
少しだけ名残り惜しげに見ていたが、流石にそれ以上は食べられない。
ルクシャナの手はもう一つへ……
キュルケとタバサの場合
「──ね、美味しい?」
キュルケがタバサに尋ねる。
「……ん」
返事もそこそこ、タバサは黙々と口に運んでいく。
皿に並んだリンゴはあっという間に消えていく。
「お代わり、いる?」
「……ん」
「ふふ、本当によく食べるわよね、あなた。それだけ食べたのがどこに行くのか不思議なぐらい。待っててね、すぐに用意するから」
年はそう変わらないというのに、年の離れた姉妹か、いっそ親娘のよう。
イザベラの場合
「──は? 馬鹿じゃないのかい? 何で私がそんなことをしなきゃいけないんだよ」
「……ぐぅううう。何で私が……」
慎重に慎重に、ナイフでリンゴをウサギの形に。
少しばかり歪ながらも、怪我もなく出来上がる。
出来としては上々ながらも、本人としては納得いかないらしい。
「……何だよ。文句があるなら言いなよ。初めてなんだからしょうがないじゃないか!?」
ウラルの場合
サクサクとナイフを操り、リンゴは危なげなくウサギの形に。
普段料理することなどはないが、人知れず努力した結果。
皿の上には綺麗に並べられたウサギ達。
ウラルは何も言わず、そばに控える。
ただ、視線はリンゴに。
基本的に無表情なのがウラルであるが、今回は敢えてそうしようと努力しているのが伺える。
食べたいというのを必死に隠しているその様子は、背伸びする子供のようで微笑ましい。
つい、悪戯心が湧いてくるほど。
食べないのかと尋ねると、面白いように狼狽える。
ついついからかいすぎて、涙目になってしまったのを反省するほど。
シエスタの場合
手慣れたもので、皿にはウサギの形に剥かれたリンゴが並ぶ。
エレオノールのお気に入りとなったシエスタであるから、エレオノールの為にという風景は珍しいものではない。
もう一人いる人物を空気のように扱うのも、然り。
そのちょっとした欠点や、あるいは、その原因である恋愛に対しての強過ぎる憧れさえなければ、何でもそつなくこなすのがシエスタ。
従者としての教育を受けてきたわけでもないのに読み書きができ、なおかつ、手を出すのに程よい器量と平均より上の胸、そして、少しばかりのドジっ子属性。
メイドとしてのスペックは地味に高い。
──基本的に地味だが。
それと、シエスタのウサギリンゴを見て考え込むエレオノール。
ポツリと漏れた「やり過ぎたかも……」という言葉は、分かる人にしか分からない。