混沌の使い魔 小話   作:Freccia

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ちょっとした実験。
描きたい人物そのものは一切出さずに、他人の視点――というよりも、感想のみで描いたらどうなるか。
うまくできれば少ない文量で話を進めたり、あるいは、一人称で作る場合にも自由度が上がるかなぁと。







嫌われ者

 この日、ちょっとしたニュースに皆が沸いた。

 

 何と、エスマーイルが死んだらしい。経緯に関しては伏せられてるようだが、大切なのはそこじゃない。あいつは良くも悪くも水軍の癌である、鉄血団結党の中心──だった。

 

 水軍を私物化していたあいつらがいなくなるという、そのことこそが重要だ。あいつらは、鉄血団結党などというご大層なお名前だけあって、言う事だけなら立派なものだ。エルフの種としての優越を説き、蛮族に鉄槌を下すべきだと言う。しかし、あいつらは現場のことを知らない上に、口だけだ。

 

 戦争というのは根性論じゃない。綿密に戦略を立てた上での最終手段だ。誰だって、もちろん俺だって死にたくはない。だからこそ、本当に必要だと思えなければ、自分の命なんてかけられない。

 

 そもそもあいつらは、水軍とは、軍とはどうあるべきかということを分かっていない。軍は、政治屋の利権争いの為にあるんじゃない。国を守る為にある。そういう意味じゃ災害救助だって喜んでやるし、いまなら、正体不明の化け物どもの対処。それこそ俺たちのやるべきことだろう。プライドがどうこう言うつもりはないが、やるべきことすらやれないなんていうのは、ただ悲しい。

 

 まあ、何にしても、しばらくの辛抱だ。上のやつらがどうするのか、見ものだ。皆と賭けをしたが、1週間以内に逃げ出すというのが1番人気だ。

 

 

 

 

 

 ──賭けに関しては、少しばかり予想がはずれた。

 

 次の日には、主要なポストにいたものは皆逃げ出した。これには皆がただただ呆れた。どうせ逃げ出すだろうとは思ってはいても、まさかここまで鮮やかに逃げ出すとは誰も思わなかった。恥という考えがないんだろうとはいえ、これには幾ら何でも予想外。そんなやつらに頭を抑えられていたと思うと、自分たちが情けなくなる。

 

 素直に喜べないということで、賭け金は皆で飲むことにした。ささやかながら祝いと、これから忙しくなるだろうということから。やるべきことはいくらでもある。

 

 

 

 

 

 

 更に次の日、下の連中の大部分も逃げ出した。

 

 まあ、それは仕方ない。上がいたからこそ好き勝手にできたのだ。後ろ盾がなくなったのなら、素直に出て行ってもらった方が、それがお互いにとって良い。幾ら何でも、これまでのことを水に流すということはできないのだから。

 

 そういえば、エスマーイルに特に目をかけられていたファーティマはまだ残っているが、どうするつもりだろうか? あいつに抱かれていたとも言うが、まさか、次の相手でも探すつもりか。しかし、容姿にはそれなりに目を見張るものがあるが、見た目はまだまだ子供なだけに、それは難しいだろう。

 

 

 

 

 

 

 次の日、あらかたのメンバーは去ったが、ファーティマだけはやはり残っていた。

 

 それはそれで感心するが、相変わらず妙な根性論を振りかざし、それでいて少校という階級はそのままなので、面倒といえば面倒というのが困ったものだ。隊を編成しなおすにも、統制上関わらせなければならないのだから。

 

 

 

 

 

 

 あくる日、ファーティマの様子は少しおかしかった。

 

 終始暗い表情で、それでいて、ちょっとしたことでもお得意のエルフ至上主義を振りかざすという、何とも情緒が不安定。なまじ階級が高いだけに厄介なところだ。だから、ちょっとした諍いが起きたのは、まあ、仕方ないことだろう。

 

 これまでは、少なくとも口に出すことはタブーになっていた、ファーティマの出自。エルフの恥であり裏切り者、その言葉にファーティマは銃を抜いた。

 

 幸いなことにすぐに取り押さえられ、大事には至らなかったものの、やはり厄介。もちろん、形だけなら上官に対する侮辱であるが、誰が庇うだろう。丁度良いということで、「教育」を受けさせるということになった。組織としては忌むべき習慣ではあるが、元を辿れば、鉄血団結党こそが積極的だったのだから、これは自業自得とも言える。

 

 ただ、まあ、ファーティマが処女だったというのが、意外といえば意外か。それと、何をされても泣かなかったというのは、それだけは認めても良いかもしれない。それが行為をエスカレートさせる原因になったろうということは皮肉だが。


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