アリィーは、一度は死を覚悟したルクシャナを強く、強く抱きしめた。婚約者という言葉だけでなく、自分はルクシャナを愛していたということを知ったから。
周りを取り巻く人々は、若い二人を微笑ましげに見ている。
ルクシャナは周りの視線に気恥ずかしさを覚えながらも、満更ではない。そして、そんなストレートな感情を全身で表すアリィーが可愛らしいと思った。
ルクシャナは子供をあやすように、アリィーの頭を撫でる。動くやすいよう短く切り揃えられた髪が、子犬のように可愛らしい。そして、アリィーにだけ聞こえるよう、耳元でそっと呟く。
――続きは二人きりになってからね。
その時のルクシャナは、日に焼けて分かり辛くても、誰が見ても分かるほどに真っ赤だった。
「こうやって改めて向かい合うと、恥ずかしいね。変な風に日焼けしちゃったし」
一糸纏わぬ姿のルクシャナは、はにかみながらそう言って、シーツで体を隠そうとした。
「そんなことないさ」
アリィーはルクシャナの長く美しい髪を手に取り、落とす。太陽のように輝く髪がルクシャナの体をサラサラと流れる。細い鎖骨、その下の小さな膨らみを。服で隠れていただろう、そこから下だけが昔と変わらず真っ白。その、触れれば、壊れてまたどこかに行ってしまいそうな体にそっと触れる。
「これはこれで、その、色っぽいよ」
アリィーが頑張って口にした言葉に、ルクシャナはふいっと顔を逸らす。そして、その頬は赤い。そんな様子を可愛いと言うと、ますます赤くなる。
「アリィーの癖に、生意気よ」
いつもであれば馬鹿にされていると思うようなそんな言葉も、今のルクシャナが言えばただただ可愛らしいだけ。そんな可愛らしい婚約者を、アリィーは思わず抱きしめていた。
耳元で可愛いと呟くと、ルクシャナがむーむーと唸る。いつもやり込められている分、それがたまらなくおかしかった。そして、抱きしめた体はとても柔らかい。つい、そんな感想が口をつく――
アリィーは床で正座をしていた。
むろん、行為の途中であったから全裸で。そして、同じく全裸のルクシャナは子供に言い聞かせるように言葉を重ねる。食べられないことがどんなに辛いか、美味しいものを食べることがどんなに素晴らしいのかを。柔らかいという言葉に自覚があったのか、重ねられた言葉はどこか言い訳がましい。
ただ、ちょうど見上げる形になるアリィーにとっては、目の前にある小ぶりの胸と、そこから緩やかな弧を描く臍から下が気になってしょうがない。それは男としては仕方がないこと。
「――ナニを硬くしているのよ、この変態」
ルクシャナの華奢な足がアリィーの下腹部へ、そして、アリィーは声にならない悲鳴を上げる。その悲鳴に、ルクシャナはなぜだかゾクリと体が震えた。アリィーも、冷や汗をかくような意味でゾクリとした。
少しだけ考えこむと、ルクシャナは硬いままのそれをグリグリと踏みつけ、アリィーが悶える。そして、足の指で軽く弾いてみたり。その悶える様子に、ルクシャナは言葉するのは難しいが、何かが自分の中に湧き上がるのを感じた。それは、決して不快なものではない。むしろ、心の底からゾクゾクと体が震えが来るような心地良さ。思わず自らの体を抱きしめるほど。
「………何か、いいかも」
ぼそっとルクシャナが呟く。
アリィーは、愛して止まなかったはずの自分の婚約者を、何か恐ろしいもののように見上げた。
ルクシャナとアリィーの初めては、とても人には言えないものになったとか………。ただ、ルクシャナはとても満足していた、それだけは間違いない。それは、男であれば誇るべきこと。