混沌の使い魔 小話   作:Freccia

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胸の大きな女性のあるある……、というものを見て、三人称の練習を兼ねて作っていたものを。





持つ者、持たざる者

 昼食時、学院に暮らすルイズ達はカフェテリアを利用する。ただ、その時々で人数は変わる。ルイズ、シキ、エレオノール、マチルダ、テファ、キュルケと大所帯になることもあれば、今日のように、ルイズとテファだけということだってある。

 

 本来であれば、生徒ではないテファが利用することに疑問が出ないではない。だが、それを言うような蛮勇の持ち主――もとい、無粋な輩はいない。貴族足らんとすれば、持つべきものは様々。中でも、俗に言うところの「空気を読む」というのはなかなかに重要な才覚になる。君子危うきに近寄らず、雉も泣かずば撃たれまい、理解の仕方はそれぞれで結構。

 

 さて、そんな二人が昼食にと来たわけであるが、今席にいるのはルイズだけだ。

 

 理由は単純。貴族として暮らしてきたルイズはメイドに食事を運ばせることに抵抗など存在しないが、半ば自給自足、むしろ、子ども達の世話を行ってきたテファは違う。結果として、適当な料理を運ばせたルイズが席で待ち、テファは食事を載せたトレイ持って追いかけるということになる。付け加えるのなら、誰の影響か、食べるのが好きになったテファは、自分で選びたいということがあるかもしれない。

 

 そんなわけで、ルイズは席でテファを待っていた。それを見つけたテファは、トレイを抱え、嬉しそうに駆け寄る。大きな、その細身の体に見合わないほど豊満な胸は、少し小走りになるだけでもたゆん、たゆんとそれはもう激しく揺れる。ついでに、大きすぎて死角になってしまうんだろう、胸の下部に染みができてしまう。

 

 席についたテファにルイズがそのことを指摘すると、またやってしまったとテファが項垂れる。また、という言葉にルイズの眉がピクリと揺れるが、それは一瞬。

 

 テファはルイズに謝罪し、染みを落とすためにと水場へ向かう。それは、ルイズにとっても心を落ち着けるのにちょうど良かった。ルイズとて、いつまでも自分のコンプレックスをぶつけたりはしない。

 

 そして、テファが戻ってくる。が、思わずルイズは目を顰めた。テファのブラウスは水に濡れ、そのメロンのように大きな胸がはっきりと分かるように張り付いていた。常に衣服を持ち上げるようにしてその存在を主張してはいたが、今はそれが、全力のものになっている。

 

 指摘すると、テファはすぐに乾くからと可愛らしく舌を出す。

 

 ルイズが男にジロジロ見られたんじゃないかと尋ねると、テファは困ったように笑う。そんなに見なくてもいいのにね、と。

 

 ルイズは胸が大きいと大変ね、と口にする。そこには少しばかりの皮肉があったが、ルイズにしてはよくよく我慢したと言える。ルイズのことを知るものであればあるほど、きっとその忍耐を称賛していたであろう。

 

 が、テファにはその皮肉も通じなかったようだ。我が意を得たりと、胸が大きくて困ったことを次々に口にする。テファが身を乗り出すと、その大きな胸がテーブルの上で形を変える。テファにとってはそれが一番楽な姿勢らしい。もちろん、載せるべきものがないルイズには分からない。ルイズの目が、テーブルの上のフォークとナイフに一瞬向かっただけだ。向かっただけで、行動には移っていない。

 

 テファは語る。

 

 胸でコップを倒してしまった、服を選ばないと太って見えてしまう、階段を降りる時は下が見えなくて慎重になってしまう――例えばそういったこと。テファとっては、誰かに聞いて欲しい悩み。

 

 が、それは同じ悩みを持つような人物であるべきこと。テファが姉と慕う人物であれば、似たような悩みが皆無でないだけに、何の問題もなかった。しかしながら、今回の相手はルイズ。口さがない友人から言わせれば、「胸が」ゼロのルイズだ。

 

 十人いれば十人ともが美少女と認めるであろうルイズであるが、こと胸に関して言えば、十人が十人とも胸がないということを認めるであろう。

 

 結果として、話の途中からルイズは笑顔のまま固まっていた。それに気づかないテファは、燻るままで何とか抑えようとするルイズに、せっせせっせと燃料を投下する。

 

 何とか笑顔を保ったルイズがコトリと首を傾げ、「大変なのね」とそれだけ口にする。

 

 そしてテファは、「ルイズが羨ましい」と文字通りの爆弾を投げ込む。せっせと準備された燃料は、すべてを焼き尽くす爆炎へと変わる。

 

 ルイズの両手が、テファの胸を鷲掴みにする。だが、その小さな手ではとても収まりきるものではない。そのことが一層、炎を広げる。ルイズの口からは、滾るものとは正反対の、聞くものを芯から凍てつかせるような響き。

 

「で、私はこれを、千切れば良いのかしら?」

 

「違うよっ!?」

 

 ことここに至ってようやく、テファは姉であるマチルダからの注意を思い出す。しかし、爆弾というのは一度火がついてしまえばあとは弾けるのみ。

 

「あら………」

 

 ルイズの手に力が込められ、鷲掴みにされた胸が上へ。

 

「ひうっ!」

 

 小さな、テファの悲鳴。

 

 

「コレが………」

 

 そして下へ。

 

「えうぅぅ……」

 

「邪魔で、しょうがないんでしょう?」

 

「や、やめてぇぇぇ………」

 

 ルイズの手の中で、柔かなそれが揉みしだかれ、その手は止まらない。むしろ、いっそう激しくなる。テファは懇願するが、ルイズが許さない。

 

「……本当に大きいのね。キュルケより大きいってどういうことよ」

 

 ルイズの手は止まらないが、それでも、声には幾分かの冷静さが戻っている。ただ、ひたすらに手の中に収まらないそれを揉みしだき、そして、確かめるように持ち上げる。

 

「く、くすぐったいのぉ……。もう、許して………」

 

 テファは涙ながらに訴え、渋々ながらルイズは揉みしだくのを止める。そして、じっとその手を見つめる。

 

「少しは、反省したの?」

 

 ルイズはジロリと睨みつける。

 

「は、はい………」

 

 叱られた子どものように、テファは身を縮こまらせる。

 

「ふうん………。じゃあ、これから私の言うことを聞くなら、まあ、考えなくもないわ」

 

「う、うぅぅ………」

 

 射殺さんとばかりの視線に、テファはただ怯える。

 

「返事は?」

 

 しかし、ルイズにとっては既に確定事項。これは単なる確認作業でしかない。テファはただ、頷けば良いし、それしか選択肢はない。

 

「はい、分かりました………」

 

「良い返事ね。じゃあ………」

 

 ルイズがコホンと咳払いをする。

 

「また今度、揉ませない」

 

「え?」

 

「嫌なの?」

 

「い、嫌だけれど………。あ、あうぅ、分かりましたぁ」

 

 睨みつけられ、思わず頷くテファ。

 

「――よろしい。まあ、これからはもう少し考えないとね。皆が皆、私みたいに寛大だとは限らないから。姉様だったら本当に千切られるかもしれないんだからね?」

 

 ルイズのちょっとした冗談にも、テファを顔を青ざめさせる。ルイズの本気さを既に身を持って知っただけに、尚更。男からの視線の意味を少しずつは理解しはじめていたテファであるが、それを理解して活用する前に「女性からの視点」を知ることはができたのは幸いであった。女性からの嫉妬というのはかくも恐ろしいものであれば。

 

 そして、ルイズ。

 

 ルイズがあんなことを言ったのは、何だかんだで感触が気に入ったのともう一つ。揉めば自分も少しばかりはあやかれるんじゃないかと思ったから。母と長女の慎ましやかな胸だけを見ていれば諦めるところであるが、次女であるカトレアは豊かなを胸を持っている。ルイズにはまだ希望があると、少なくとも本人は信じている。

 

 が、実際は大きくなるのはテファの胸。自分で揉む度にそれを身を持って知らしめられるのはルイズ。ただ、大きな胸に惹かれる男の気持ちを知ることができたのは収穫かもしれない。今のルイズであれば、例え、好きになった男が「大きな胸には男の浪漫がある」とのたまうとも、一発殴るぐらいで許せることだろう。

 

 そして、これは蛇足かもしれないが、そんなルイズとテファの戯れを見た男子生徒達。普段であれば絶対に知ることはなかったであろう新たな嗜好を知ることをできたのは、幸福であったということができるかもしれない。美少女が美少女を責める様、それはかくも美しきものかと。


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