混沌の使い魔 小話   作:Freccia

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にゃんにゃんの日

いつものように、皆で朝食を摂る。

そこで交わされる会話は、他愛もないこと。

 

町であんなものを食べてみたら美味しかった、子ども達がこんなことをやっていて可愛らしかった、例えばそんなこと。そんな些細なことでも、嬉しそうに話されれば、食事だって美味しくなる。

 

「ーーそういえば知ってる?」

 

ふと思い出したこと。

 

「何がだ? ルイズ」

 

尋ねるシキは、きっと知らないだろう。

 

「今日はネコの日なんだって」

 

「何か云われでもあるのか?」

 

「んー、多分そういうのは関係ないのかな? 単純に、今日の日付がネコの鳴き声みたいに置き換えられるからだと思う」

 

何とはなしに両手を丸めて「にゃん」とポーズを取る。すると、シキどころかお姉様も、ミス・ロングビルも、そしてテファまでもがクスリと笑う。

 

「……わ、笑わないでよ。自分でやっておいて何だけれど」

 

やってから後悔しても、もう遅い。本当に、散々にからかわれた。

 

 

 

 

 

 

お姉様が席を立つときに、一言二言、シキの耳元で呟いて行った。そして少しだけ時間をおいて、シキが追っていった。

 

「……うん、これはやるわね」

 

「……やるでしょうね」

 

私の言葉に、間髪入れずに同意するミス・ロングビル。

 

「何が?」

 

そして、分からないと首を傾げるテファ。

 

ちょうど良い。私だけが笑われるというのも何だ。

 

「テファ、一緒に良いものを見に行きましょうか」

 

「え? う、うん……」

 

あらあら、何でそんな怖いものを見た風に言うのかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お姉様の部屋の前。

 

ドアはしっかりと閉じられているけれど、きっといる。ミス・ロングビルが手早く解錠の魔法で鍵を開き、二人で隙間からそっと覗く。テファも、後ろから覗き込んでいるんだろう。

 

ーーいた。

 

部屋の中央にシキとお姉様。猫耳を、そう、猫耳をつけたお姉様がいる。そして、「にゃん♪」とはにかみながらポーズを取る。

 

ミス・ロングビルと私、ぴったりとくっついているから、お互いの体の震えが伝わってくる。笑っては、笑ってはいけない。

 

 

シキがお姉様の頭を撫でる。

 

お姉様は「えへへ」と幸せそうだ。そして、その下でシキが私たちにあっちへいけと手を振っている。

 

何とか、何とか自分で自分を抓って堪えた。

 

でも、もう駄目。息が、できない。

 

 

 

 

 

 

 

次の日朝食の時。

 

テファがシキの前で猫耳をつけて、「にゃん♪」とポーズを取る。そして、撫でて、撫でてと、まるで誰かさんみたいに。

 

お姉様は顔を真っ赤にして逃げて行った。

 

そこまで恥ずかしいなら、やらなければ良いのに。

 

そしてテファ、何であなたがそんなことをするの? さすがに色々と心配になるんだけれど。

 


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