混沌の使い魔 小話   作:Freccia

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宴の後に

 それは食事時、テーブルを囲んだ際のふとした一言。

 

 ルイズが自らの姉であるエレオノールと、そしてマチルダを何度か見返して言ったこと。

 

「お姉様達、その、少しふくよかになったような気がするんですけれど……」

 

 ルイズにしては珍しく、少しだけ控えめな言葉。しかし、ピシリと固まるエレオノールにマチルダ。おそらく、十二分に心当たりがあったんだろう。

 

 ともすれば徹夜仕事が続き、やつれていることもあった二人。それがここ最近だろうか、日本で言うところ正月のようなものなのか、連日のようにパーティーが続き、結果として血色良く、むしろ以前よりも……

 

 実際、テーブルの上にもそれが表れている。二人してルイズよりも2、3割は多い。よくよく思い返せば、エレオノールなどはルイズよりも控えめだったはずだが。しかしながら、そういえばと思わないこともないではない。お土産に買ってくるケーキやらも、ルイズ達に負けず劣らず食べていたような気がする。それは、マチルダもしかり。

 

 ――ふむ。

 

 2人のウエスト周りに手を伸ばせば、確かに存在を主張する………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長い髪を後ろに括ったエレオノールとマチルダ。それがリズミカルに揺れている。2人は飾り気は全くなく、ただただ動きやすいだけの服に身を包んで黙々と走っている。時折、運動に無縁だっただろうエレオノールを、マチルダが励ましながら。

 

 そんな様子を眺めていると、テファがやってきた。どうやら、走っている二人にタオルと飲み物を持ってきたらしい。

 

「二人とも、随分長く走っていますね」

 

 感心したようにテファが言う。自分は走るのが苦手だからと、本当に感心したように。理由はまあ、言うまでもないことなんだろう。誰だって重りをつけて走るとなれば、それは苦手にもなるだろう。

 

 ところで、とテファが尋ねる。

 

「シキさん、何でそんなものをぶら下げているんですか?」

 

 不思議そうに首をかしげるテファの視線の先には、俺が首からかけている紐でつながれた板切れ。その板切れには、エレオノールとマチルダが随分と感情を込めて文字を書いていた。あいにくと意味は分からないが、込められている感情がひしひしと伝わってくる、そんな文字。

 

「まあ、色々と、な……。ちなみに、何と書いてある? 本当はそろそろ文字を憶えないといけないんだが」

 

 少しだけ逡巡して、テファが言う。

 

「……えっと、『私はデリカシーがありません』って書いてあります。半分は姉さんが書いたものですよね?」

 

 ああ、予想していたものより穏やかで何より。

 

 さて、少しは真面目に協力しようか。俺は、今ぐらいがちょうど良いと思うのだが、それは本人がどう思うかなんだろう。エレオノールはもう納得していたと思っていたが、そうでもなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、ベッドにうつ伏せで横たわるエレオノール。時折起き上がろうとはするが、くぐもった声を上げるだけに終わって、結局あきらめた。マチルダはともかく、これまで運動をしてこかなったエレオノールではそもそも体がついてこなかったらしい。一日でやせられるものでもないだろうに。

 

 もっとも、そのマチルダも辛そうではあったが。それでも、どうにも太らない体質らしい、ルイズにテファ、ウラルにルクシャナを羨ましげに見てはいた。

 

 顔を青ざめさせて視線で助けを求めるウラルにルクシャナだが、さて、どうしたものか。下手なことを言うとまたデリカシーがないということになりかねない。そも、エレオノールにマチルダ、二人にせっかく見つけたからと、餅やら何やらを勧めていたのは俺なのだから。食べた量はルイズ達とそう変わるものではかったのだが。口にはしないが、そこは成長期がそうでないかの差だろうか。

 

 そして、ルイズはルイズでいつの間にやらテファの胸を鷲掴みにしている。理由はまあ、テファが胸ばかりが大きくなるとか、そういうことを言ったんだろう。更に顔色を悪くしたウラルを、ルクシャナが何とか支えているようだから。相変わらず、ウラルは不憫でならない。

 

 となると、何か、ダイエットに良いメニューでもあっただろうか? ああ、最近は随分と重い食事ばかりだったから、七草粥など良いかもしれない。正月メニューの後とくればアレだろう。懐かしくもある。

 

 ふと思い出す。そういえば、あの千晶ですら、正月明けなどではダイエットをしていたような。どこの世界でも、女性には共通した悩みなんだろうか。


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