混沌の使い魔 小話   作:Freccia

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いじめっ子といじめられっ子、いじめられたい子

 肩口にかかる、熱い吐息。

 

 ベッドの上、抱きしめたままのマチルダへ背中側から手を回す。服の上からでも分かる、片手では収まりきらない胸。ゆっくりとなぞるように触れると、もどかしげに身をよじらせる。

 

 以前はマチルダにお預けをくらって焦らされるということもあったが、今は違う。普段は気の強いところもある彼女を屈服させる、それは支配欲とも言えるような何かを満たしてくれる。ほんのり赤く、羞恥に染まった表情は、普段とは違った魅力がある。

 

 手を、胸から背中、そして、ゆっくりと這わせるようにおろしていく。意図に気付いたのか、マチルダが身を震わせる。例え趣味が悪いと言われても、それでも、そんな反応が見たくてつい悪戯をしたくなる。それは、男なら多かれ少なかれあるものだろう。

 

 マチルダの尻を撫でる。そして一言。

 

「――今日は、後ろでしようか?」

 

 マチルダの腕に力が込められる。やがて聞こえる――すすり泣き。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 床から見上げたマチルダの目には、うっすらと涙が浮かんでいる。乱れた着衣はそのままベッドに腰掛け、投げだした足が不満げに揺れる。子供のように口を尖らせたマチルダ。

 

「……シキさんがどうしてもと言うのなら、いいんですよ。シキさんには返し切れないぐらいの恩がありますし」

 

 でも、とキッと視線を強め、マチルダが続ける。

 

「分かって下さい。私だって恥ずかしいんです。好きな人に汚いところを見られるのって、すごく恥ずかしいんですよ。それで嫌われたらって思うと、とても怖いんです」

 

「それで嫌いになるということは……」

 

 睨まれ、思わず口を閉じる。そして、マチルダが笑う。仮面のようにどこか冷たい笑みで。

 

「ええ、いいんですよ。どうしてもお尻がいいと言うのなら。私だって我慢します。ただ、代わりに私もシキさんのお尻を責めさせて下さい。それぐらいはいいですよね? ねえ?」

 

「――本当に済まなかった。もう二度としない」

 

 額に触れた床は、冷たい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――こんなに沢山、どうしたの?」

 

 わいわいと、子供達がマチルダの周りに集まる。正確には、マチルダが持ってきたお菓子の周りに。もっと正確に言えば、俺が人気店と呼ばれる店という店から集めてきたもの。

 

「シキさんからのプレゼントよ。他に欲しいものがあったら何でも言いなさいね。悪いことをしたシキさんが皆の言うことを何だって聞いてくれるから」

  

 ねえ、と笑いかけるマチルダの笑顔は、やはり冷たい。マチルダのことを良く知っているらしい子供達の何人かは、自分の分のお菓子をちゃっかりと確保すると、さっと距離をとる。

 

 ――賢い子だ。きっと、将来有望だろう。少なくとも、俺よりはうまくやるかもしれない。

 

 

 

 

 ふと、服の裾を引かれる。そこには不安気に姉の様子を窺うテファ。

 

「あの、姉さんすごく怒っているみたいなんだけれど、何かしたんですか?」

 

「……まあ、な。気にしないでくれ」

 

 純心なテファにはとても言えないこと、言えるはずがないこと。

 

「何か、変態的なことをしたとか……」

 

 息が詰まる。

 

「……誰から、そんな話を聞いた?」

 

 テファが気まずげに目を逸らす。だが、俺はじっと、じっとテファを見る。そして、根負けしたテファが言う。

 

「ええと、メイドさん達が変態魔人と呼んでいたのを聞いたことがあったから……。あ、私はそんなこと気にしないですから。シキさんがそういうことが好きなら、私は我慢します。姉さんが駄目でも、私は大丈夫ですから」

 

 むん、っとテファが力強く言うと、大きな、とても大きな胸が揺れた。たゆんと弾むそれは、確かに魅力的だ。

 

 ドスン、と背中に衝撃。マチルダから蹴りが飛んできた。体重の載った、良い蹴りだ。

 

 ――自重しよう、色々と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――シキさん、シキさん。新しいものが手に入ったんです」

 

 文字通り、新しい玩具を手に入れた子供のようにはしゃぐエレオノール。例え、その玩具が子供向けではないにしても。ほんの少しだけ恥ずかしそうにはにかんでいても、本当に嬉しそうに――尻尾でもあれば、ばっさばっさと振っていることだろう。

 

「……エレオノールも、少し自重しようか」

 

「え……」

 

 眉を下げ、不満げな表情。先ほど見えたような気がした尻尾は地面に落ちる。

 

 もちろん、半分は俺のせいなんだろう。それは認める。だが、確実に半分はエレオノール自身の問題だ。一部は妙なアドバイスをした母親かもしれないが。


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