混沌の使い魔 小話   作:Freccia

17 / 63
夜が明けて

 子供達が手に手にプレゼントを自慢しあう。可愛らしいぬいぐるみだったり、模造刀だったり。子供達それぞれにばらばらだけれど、皆嬉しそう。

 

 思えば食べるばかりに精一杯で、プレゼントなんてあげたことなかったしなぁ。せいぜい、誕生日には少しだけ、ほんの少しだけ豪華な食事にしたぐらいだっけ。こんなに喜んでもらえるなら、私がプレゼントしたかったな。こんなに喜んでもらえるなんて、『サンタクロース』さんがうらやましいなぁ。

 

 

 

 

「――姉さん」

 

 テファがそっと耳打ちする。シキさんにはお礼を言っておいてね、と。

 

「それとね」

 

 ふわりとテファが微笑む。

 

「私にもイヤリングをプレゼントしてくれたの。エルフの耳を隠してくれるっていう、姉さんも探してくれていたもの」

 

 くるりと回ってみせる。エルフだって分からない耳元に、小さなイヤリングが揺れている。

 

「石は姉さんとお揃い。これで一緒に買い物にだっていけるね。嬉しいなぁ。姉さんと一緒にどこかに行ったことなんてなかったから。ううん、何も気にせずに外に出られるなんて、生まれて初めて」

 

 耳に触れ、本当に嬉しそうにはにかむ。上気した頬、子供のようにはしゃぐ様子はまるでお酒に酔ったよう。それとも、テファなら妖精が舞うようとでも。

 

 そんなテファがふと、ことりと首を傾げる。

 

「ところで、さっきからお尻を押さえているけれど、どうかしたの?」

 

「……言わないで。お願いだから」

 

 子供達とテファにはプレゼントで、私には――

 

 

 

 

 

 

 テーブルにはシキさんとエレオノールさんがいた。私に気づいたエレオノールさんが手をあげる。でも、シキさんは目を合わせない。ええ、気づいているはずだけれど、目を合わせない。

 

「楽しそうですね。私も混ぜてもらってもいいですか?」

 

「ええ、もちろん。ね、シキさん?」

 

 エレオノールさんがシキさんに笑いかける。

 

「ああ、そうだな……」

 

 それなのに、やっぱりシキさんは目を合わせない。

 

「ん? シキさん、どうかしたんですか?」

 

 いつもと違う様子に、エレオノールさんが首を傾げる。シキさんは曖昧に言葉を濁すだけ。

 

 ふーん……。一応、反省はしているんだ。

 

「シキさん……」

 

 私の呼びかけに、びくりと肩を振るわせる。

 

「な、何だ……」

 

「お尻、痛いです」

 

「……そうか」

 

「シキさんには本当に、ええ、本当に感謝しています。でも、子供達とテファに比べて、私の扱い酷くないですか?」

 

 シキさんが更に目を逸らそうとするけれど、両手で捕まえる。

 

「……悪かった。本当に悪かった」

 

 ようやく、それだけ口にした。

 

「えっと、お二人とも何の話をされています?」

 

 エレオノールさんはさっきから首を傾げたまま。

 

「知りたい、ですか? 本当に?」

 

「いや、知らなくていい」

 

 私の口を押さえようとするけれど、そうはいかない。

 

「前に、好きな人は好きだって言ったことがあったでしょう?」

 

「好きな人は好き……」

 

 目を閉じて考え込む。そしてあっと言う間に真っ赤になった。

 

「あ、ああっ、シ、シキさん! ……あれ? いない?」

 

 ぶんぶんと茹だった顔で探すけれど、もう遅い。私が口にした時にはもう逃げる準備は終わっていた。

 

「逃げ足、早いなぁ。でも、ま、これぐらいで許してあげようかな? 一応、テファには手を出さないようにはしてくれたみたいだし」

 

 走り去っていった後の扉が、かすかに音をたてて戻ってくる。

 

「……と、ところで」

 

「ん? 何ですか?」

 

「その、お尻でするのって、どうなんでしょうか?」

 

 ちらちらと周りも伺いながら、恥ずかしそうな小声で口にする。

 

「えーと、分かっていると思いますけれど、人前で話す内容じゃないですからね? まあ、私が言えた義理じゃないですけれど」

 

「あ、そ、そうですよね……。うー、わ、私ったら……」

 

 テーブルの上で頭を抱え込む。

 

「うーん、純粋な方が変な風に興味を持っちゃうのかなぁ。はぁ、テファ、大丈夫かな……。シキさんに変なこと教えられなきゃいいんだけれど」

 

 もう一度、テーブルで悶えるエレオノールさんに視線を移す。上気した頬は色っぽくもあるけれど、色々と駄目だと思う。

 

――でも、なんだかんだで興味津々みたいだし、シキさんにお願いするんだろうなぁ。テファがこんな風になったら嫌だなぁ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。