ビスコッティ共和国興亡記・HA Edition   作:中西 矢塚

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 ドッグデイズ二話。
 ドッグ恒例の作画で遊ぶ回。一人原画良かったですね。
 一人原画をやるからには、設定に合わせるのではなくむしろ設定が合わせる。
 原画の個性が出てナンボって感じの、良い一人原画でした。
 因みに原画やってた木曽さんは、多分OPの崖を飛び降りるカットをやってらっしゃる方だと思います。
 アクションとフォルム優先で影を減らしてるのが特徴なのかな。


4-3

 昼下がり。

 街道を南下する二羽のセルクルと、その周囲に続く隠密犬の群れ。

 竜が住まう地へと向けた道程は、今のところ順調である。

 

「……ユキカゼさんや」

「なんでござろう、シガレット」

「……良い天気ですなぁ」

「うむうむ、魔物の気配など一つも感ぜられぬ、平穏な空気でござる」

「いやまったく」

「ござるござる」

 

 セルクルに騎乗した二人は、空を見上げながら言葉を交わす。

 いや。

 徐々に徐々に、視線が下へと下がってきている。

 

「……なぁユッキー」

「なんでござるか、シガレット」

「……アレ、何に見える?」

 聞いた。聞きたくないけど聞いた。

 ユキカゼは、フム、と一つ頷いて質問に応じた。

「彗星……で、ござろうか」

 彗星。

 そうかもしれない。

 空から降り注ぐ光の奇跡。まさしく天体現象のそれに似ていた。

「いやでも、彗星ってもっとこう、ばぁ~って光るからね。直角に落ちてくるのはちょっと違うんじゃないかな」

「ふむ、では隕石でござろう」

「隕石って直滑降するんだっけ……? いや、兎も角。隕石にしてはちょっと柔らかそうじゃないかな、アレは」

「いやいや、あれで意外と脱いだら凄いでござるよ。確り引き締まってたでござる」

「いつ見たんだよ。いや、見る機会なんていくらでもあった気もするけど」

 裸体に関する認識だけはラリってるからなーこの世界、などと嘯きながら首を横に振る。

 

「現実逃避はやめよう。なんで空から勇者が降ってきてるか考えようぜ」

 

 親方、空から勇者が!

 ―――いや、勇者が空から降ってくること自体はそれほどおかしい事ではない。

 仕組みはよく解らないが、異世界から召喚された勇者は常に空から降ってくるのが段取りだ。

 但し、降ってくる場所は、召喚主の手前で固定だった。

 だが、現在は。

 

「シンク、ナナミも。竜の森のほうに、落ちていっているように見えるでござるが」

「やっぱりアレ、イズミくんとタカツキさんだよな。マジカル☆ベッキーは居ないみたいだけど」

 派手に落ちてるなー、と他人事のようにつぶやく。

「……事故かな」

「その可能性が高いでござろう。しかし、事故だったとして、二人とも無事に着陸できるのでござろうか」

「禁足地には強い加護の力が働いているはずだから、まぁ、墜落したところで死ぬようなことは無いだろうけど……」

「……魔物が発生しているかもしれないところで、フロニャ力は正常に働いているのでござろうか?」

「……」

「……」

 

 そうこうしているうちに。

 ものすごい速度で空から降ってきた二条の光の帯は、一直線に森の中へと消えていった。

 

「急ぐか」

「急ぐでござる」

 並足から駆け足へ。周りの隠密犬たちも速度を上げた。

「それでも後一時間かそこらってところか。……流石に、南の外れは陸路だと遠い」

「禁足地ゆえ、道も整備されてござらぬからな。シガレットが乗せてくれれば早くつくでござるよ」

「ユッキーが背中にしがみついてくれるってのは魅力的だけどさ、人を乗せて飛ぶと疲れるんだよ。そもそも、夜にひとっ飛びした後だしね」

 森には早くたどり着くだろうけど、たどり着いたところで疲れて何も出来ないだろう。

「狙ったように勇者が降ってくるとかいう状況で、疲れました後はよろしく、って訳にもね」

「確かにそれでは、さぁびすのし甲斐も無いでござるな」

「……ユッキーもそういうことが理解できるお年頃かぁ」

「話を振ったのはシガレットなのに、何で呆れられなきゃならんでござるか」

「いやぁ、ウチの連中にも見習って欲しいわ、マジで」

 あいつ等いまだに性差とか理解できてないっぽいしな、と遠い目をする。

 そこに。

「お、通信入った」

 背負った荷物入れから薄い板状の機械を取り出す。

 金属製の外枠に、ガラスのような半透明の板が嵌ったものだ。

 外枠の隅に嵌っている宝石がピカピカと光、音が鳴っている。

 現代地球で言うところのタブレットPCと、全く同じ機能を有したフロニャルド脅威の技術力の結晶である携帯型汎用情報端末だった。

「ちょっと前までは交換所必須の電話機とかだった筈なんだけど、かがくのしんぽってすげーわ」

 端末の機能をオンにする。

 透明部分が通信先の遠くの映像を表示した。無論、タイムラグゼロのリアルタイム映像である。

「やぁ、ミルヒ。召喚塔に居るみたいだけど、勇者シンクはそちらにいらっしゃらないのかい?」

「シガレット、それが……!」

「ああ、うん。落ち着け。大体解ってる」

 涙目の妹分を手で制する。

「ご安心めされよ、姫様。シンクたちの行く先なら、拙者たちがもう見つけたでござる」

 横からユキカゼが端末を覗き込んできて、通信先の向こうへと告げた。

 そして、両者の経緯の確認に移る。

 

「大体解った。その駄犬はそろそろ吊るそう」

「よく考えたら、召喚時のトラブルは二度目でござったか……」

「いえその、どちらもタツマキの責任と言うわけではないですし、そこは多少……」

「だとしても当事者として少しは心配する姿勢を見せようぜ。まったく悪びれずに欠伸こいてるじゃねーか! ウチの駄猫といい、一芸特化の畜生はどうしてこう、ふてぶてしく育つか……」

「代わりがおらぬでござるからなぁ」

「たははは……」

 事情を確認すれば、別に本当に強引に勇者を召喚陣に引き込んだ犬畜生に責任があるわけではない。

「けど、こう狙ったようにトラブルの現場に首を突っ込んでいく感じなのが、なんというかこう、なんていうか」

「仕方ありませんよ、シンクもナナミさんも勇者なんですから」

「その一言で納得できちゃいそうな自分が嫌だよ」

「それに、シガレットも居ますし」

「おい。……おい」

「妥当なご意見でございまする」

「お前らなぁ」

 

 生い茂る木々が、見上げるほどの高さにまでになった。

 人の踏み入らぬ竜の棲家は、まさしく目の前だ。

 

 

  

  




 可愛い妹>>越えられない壁>>嫁って感じである。
 そうしないと嫁が怒るという説もありますが。
 まぁ、毎話二千文字前後でその場の乗りって縛りで書いてるものなので、尺が足りなかっただけだったりもするんですけど。
 

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