ビスコッティ共和国興亡記・HA Edition   作:中西 矢塚

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幼少編・2

 

 

 

 ◆◆◇◇◆◆

 

 

 

 

 ☆月ж日

 

 現在地はビスコッティ共和国と隣国ガレットとの国境沿い。

 ―――いや、ウチのあるチョコボ牧場の目と鼻の先が国境だったらしいですけど。

 

 で、この国境地点が戦場になってます。

 

 いやーなんつーか、戦争してるわ、マジで。

 チョコボ騎士団とチョコボ騎士団が槍振り回してたり、剣と盾持った歩兵の大群が平原でぶつかったり、水面から突き出てる丸太の上を渡って向こう岸に渡ろうとして川に次々と流されていったり、すっごい滑るすっごい傾斜の坂道を奪取で駆け上がろうとして次々にずっこけたり、ロープからロープへターザンしていったり……はいはい、戦争戦争。

 

 新人の実況のお姉さんの紫色の髪の人がほんわかしてて癒されるなーとか思いながら、戦場リポーターのやっかましい兄ちゃんは救助活動の邪魔だから他所行ってくれないかなとか思いつつ、私も大人に混じって衛生兵っぽいことやってます。

 

 猫たま犬たまをお手玉しながらわっしょいわっしょい。

 この世界の人間って玉になると思考まで犬猫並みになるみたいで、投げたり重ねたりすると喜ぶんですよね。

 ですので、戦場から回収してきた玉を次々に積み重ねてタワーとか山とか作ってみたりして、うん、半分遊びですねもう。

 

 やー、近所のおっさんとか知らないおっさんとかが、皆必死でチャンバラごっことかアスレチック大会とかして遊んでるのが『戦争』とか言われても、正直ないわ~。

 なんつーか、国を挙げての大運動会って言うかこう、昔テレビでこんなのやってたような。

 風雲なんちゃらとか、あと忍者っぽい名前ェ……。

 

 うん、思い返すとたまにテレビ見るとこんな感じのアスレチック大会とかの様子が流れてた気もしてるんだけど、そうか、アレ戦争中継だったんだね。

 ウチ、あんまりテレビとか見ない家なんで、全然気付いてなかった。

 なんでも、フロニャルドで行われる戦は、所謂国民参加型のスポーツイベントっつーか、本当にオリンピックが代理戦争になっちまったぜイェ~みたいな、ある意味人類の夢である恒久平和が実現した世界にも思えてきた。

 

 何だこの平和な戦争。

 剣で切られてもたまになるだけ。

 川に落ちても(敵軍が)すぐさま救助。

 実況のお姉さんは癒し可愛い。

 

 こんな平和な世界に勇者呼んで、何させるのかなぁ?

 

 

 ・Ъ月г日

 

 戦争三日目。

 現在私、戦場に居ます。

 

 ええっと、うん。

 

 昨日も一昨日も戦場に居たは居たんだけどさー。

 今日は何と言うか、選手……いや、戦争で選手ってのもおかしいんだけど。

 突発的にちびっ子駆け足大会みたいなのが始まってしまいましてねー。

 それに私が、ビスコッティ代表で出場することになってしまいました。

 なんだろうこの羞恥プレイ。

 昨日までドンパチやってた人たちと、ついでに猫たま犬たまがワンワンキャーキャー平原の向こうで酒盛りしながら宴会してるんだけど……いやまて、お前ら国家間の利益対立のために戦争してたんじゃ―――え? 何?

 

 あ~~~、うん、そう言う事ね。

 

 今回の戦争って本当に、『戦争』が目的の『戦争』なんですね。

 単純に身体を動かして楽しむだけ、と。

 ついでに勝てたら景品出るし、戦争映像の放映権料も多く取れるし、ビデオパッケージで販売できるし……何と言うか、何処の世界でも戦争は経済活動の一環ってことなのかなぁ?

 それにしても若白髪のキミ、詳しいねぇ? あ、王子? へぇ、ガレットの。

 そういえば相手側の指揮官っぽかった元気なお姉さんと似てるね―――って、え、王子?

 ああ、こりゃまた失礼いたしました~。

 

 その後、流れ出ちょっと話を聞いてみると、どうもこのかけっこ大会、この王子様が自分も戦争したいって駄々こねたから急遽開催されることになったっぽい。

 流石に私たちの年齢だと危なすぎて、戦場には入れてもらえないしねー。

 ガレットの人って戦争―――この『戦興行』ってのが大好きって昨日一昨日と散々聞いたけど、王家の人からしてそうなのかぁ。

 将来この坊ちゃんが王位とかついだら、年から年中戦争ばっかりしてる隣国が完成するのかなぁ。

 未来のガレットの隣の国、スゲェ大変そう。

 

 うん、お隣のガレット―――正確にはガレット獅子団領国は海に面した国で、内陸に出るには隣国であるビスコッティ他数カ国の領土を経由しなければならないんですが。

 

 うわぁ、私が大人になる頃には世界大戦とか始まってそうだなぁ、もう。

 何か白髪の王子様―――ええと、名前は……そう、ガウル殿下ですか。

 そのガウル殿下が超ハイテンションだし。あのね、これ駆けっこで丘の上目指すだけの戦争なの、解る?

 走ってる途中に隣の子とかけり倒すのとか絶対駄目だから―――駄目だからな、目を輝かすなよ!

 マズイ、この殿下やる気だ。

 しかもこの駆けっこのルールって、把握してる限りは『丘の上の旗をとったものが勝ち』らしいから途中で他の選手攻撃とかも平気でアリになりそうだし。

 大人たちの戦争が基本的にそのノリだからなぁ。

 

 参加者両国併せて十名弱。

 

 ガウル殿下はゴールするよりも周りを蹴散らすことを優先しそうな気配しかしないから、ここは一つ、開始と同時にロケットスタートを決めて周りの混乱から逃れるしか。

 日頃から草原をチョコボを追いかけて走り回りながら鍛えた成果を見せる時だな。

 

 ……ところでガウル殿下。

 何ゆえ、貴方はスタート開始前から僕の服の裾を握り締めてるんでしょうか。

 

 ―――え? 何?

 

 一番歯ごたえがありそう?

 

 ああ、そうですか。

 ところで貴方の国の人って、猫って言うかまんま肉食系のライオンって感じですよね。

 ウチの国、基本的に草食系の部屋飼いの犬なんですけど……。

 

 

 ・¢月υ日

 

 新聞の一面を飾りました。

 あと、朝のニュースのトップを飾ったりもしたそうです。

 

 ……いやね、ホラ。一昨日まで戦争やってたじゃないですか。

 それに私も、ちょっと参加してきたわけなんですけど……いやぁ、大変でした。

 試合に勝って勝負に負けたと言うか。

 

 まぁ早い話、あの白髪王子に勝ったんですよ。

 

 ああ、勿論ボコボコに熨されたのも事実なんですけど。

 ルール上、制限時間終了までゴールにある旗を確保していた人が勝ちって話でしたから―――今思うと、駆けっこの競争で制限時間がある時点で、この戦争がちびっ子バトルロイヤルであることに気付くべきだったよなぁ。

 うん、開始と同時にリアルファイトが発生して、殴り殴られつつが始まっちゃえば皆子供だから旗を確保とか当初の目的を見失っちゃうんですよね。

 そんな訳で、微妙に乱闘に巻き込まれながら、私は律儀に終了間際ギリギリに旗を確保して―――いや、正確に言えば素手対素手だとどう考えてもあの白髪に勝ち目がなかったから、手近にあった長物を使って牽制しようかなって旗を抜き取ったら、たまたま丁度そこで時間切れだったんですけど。

 

 素手の子供相手に武器持ち出すとか何様だよって話なんでしょうが、だって仕方ないんですよ。

 あの白髪、一人でどっかの戦闘民族バリに身体光らせてるし。

 『気力全開!』とかアホな発言したと思ったら、ビカビカ光って衝撃波とか撒き散らしてやがるの。

 私は周りの幼児たちを盾にしつつ、出来上がったいぬだまねこだまを即席の飛び道具にして牽制しつつ、必死で逃げましたけどね。

 こぇ~、戦闘民族超こぇ~。

 何でチョコボと併走できる私の脚力に余裕で併走して来るんだよ。勘弁してください。 

 そりゃ周りを巻き添えにするし、武器の一つだって欲しくなりますって。

 

 ―――結局最終的に時間切れに気付かなかった白髪王子にワンパン良いのを喰らっちゃって、そのままいぬだまコースを辿って漸くさっき元に戻ったばっかりです。

 目を覚ましたらウチのベッドに乗っけられてました―――ああ、たまだったんでね。

 で、母上様に聞いたら戦争終わって一日以上過ぎてるとか、あんたはガウル殿下の初陣に黒星つけたとか言われて、新聞とか手渡されたら旗振り回してる僕の写真がデカデカと載ってやがるの。

 顔面腫れ過ぎ服ズタボロ、ついでに全身切り傷擦り傷塗れで、表情が悲壮感モロだしとくれば、どんな幼児虐待現場だよって話です。

 

 我慢して逃げ回らずに、最初に一発喰らって、そのままいぬだまになっておけばよかったかなぁと、終わったあと冷静に考えると思わんでもないです。

 たまになるまでに受けた傷って基本的に治らないから、今もひりひり痛いんですよ。

 

 と言うか白髪王子、アレがデビュー戦だったんだってね。

 デビュー戦で駆けっことか、平和で結構……いや、殴り合いのリアルファイトの何処が平和だって話か。

 さすが、国を挙げて戦大好きの脳筋国家。

 私みたいな田舎の平民風情が勝っちゃったら拙いんじゃねーのとかすっごく思うんですが、どうなんでしょう。

 まぁ、戦争全部纏めた話をすると結局ガレットが勝ったらしいですから、一つの戦場で黒星ついた程度で……。

 

 あの脳筋国家が、怒らないと良いなぁ。

 

 

 ・¶月ι日

 

 母上様に、怪我が治るまで安静にしてなさいと言われて、三日ほど日頃のお仕事の手伝いとかもお休みすることになりました。

 普段、昼間はチョコボ追い回してるか幼馴染連中に追い回されてるかの二択で、殆ど家に居ないから何をすればいいやらと―――そういえば、日記を連続で書くのって割りと珍しいかなぁ。

 

 で、暇だからベッドの上に転がりつつテレビとか見てるんですけど―――うん、本当に戦争映像が流れてたりするんですね。

 あのやっかましいキャスターの兄ちゃんとか、癒し系の新人アナのお姉さんとか、テレビにまで映ってます。

 いや、僕も出てるんだけどさ。

 白髪王子にシャイニングなフィンガーで殴り飛ばされてるシーンが、スロー交じりで何度も何度も放映されて……何この羞恥プレイ。 

 つーか、本人に許可なく実名報道するのやめようぜ!

 白髪王子も試合後インタビューとかで雪辱戦するとか宣言してるし……ウワァアアア。

 

 ―――親父殿に誘われても、もう絶対戦場に寄るのは止めよう。

 痛いのとか恐いのとか、嫌だし。

 

 

 ・λ月Ю日

 

 怪我も一通り治って、漸く身体を動かす許可が母上様から降りました。

 早速ちょっと走ってこようかなぁと、仕事の手伝いはまだやらなくていいと言われていたので、気楽な気分で玄関を開けたんですが―――。

 

 ゴン、とか言う音が聞こえて、ドアが何かにつっかえたみたいです。

 

 首を捻りつつもう一度ドアを開けようとしたら、やっぱりゴンって音と―――今度はちょっと、何か犬の鳴き声っぽい感じ。

 何でしょうか、いぬだまでも転がってたのか?

 気になって、今度はそうっとドアを開くと流石に障害物はドアの脇に避けていたらしい。

 

 うん、何かおでこをおさえてしょんぼりしているピンク色の物体―――って、ウチのお姫様じゃねぇの、コレ。

 

 気付いてヤベェと言うか何でと言うか、疑問がわきあがってきた瞬間、緑色の物体にドロップキックを貰ってました。

 そのままいぬだまコースへ。暫らくお待ちくださいって感じ。

 

 ―――で、やっぱり隣の国の王子様の初陣に泥塗ったのが拙くって粛清フラグでも立ったのかと、何故か目の前にいるお姫様と御付の緑色のおかっぱをウチの中に招いた訳ですが。

 こういうときに限って身重の母上様まで出かけてたりするんだよなぁ。

 と言うか、本当に何でこんなに偉い人がウチみたいなド田舎に―――え? 何よ緑の人。

 

 ……はぁ。ああ、なるほど。

 

 このチョコボ牧場、王室御用達しでしたか。

 騎士団で使うチョコボはここでしか使用してない……え、ガレットの王家にも納めてるの?

 って言うかこの前の戦の論功行賞で渡した? へぇ~、知らんかった。

 と言うことはお姫様はご視察と言う事なんでしょうか?

 ひょっとして、ウチと事務所のほう間違えたとか?

 

 あ、違う?

 

 え~っと、なんでしょうか、そのしょんぼり顔。

 あと、垂れ耳の緑の人は恐いから胸倉掴まないで下さい。何かオーラ出てるし。

 え? 先触れで来るって連絡が―――母上様、そう言う事はちゃんと伝えておいてください。

 『お茶が切れたから買ってくる』とか、そっかぁ、そういう意味でしたかぁ。

 いや、せめて私に留守番くらいは頼んでおいてくださいよ、そこは。

 うん、ごめん。本当にごめんなさい。

 ですから打ち首だけはご勘弁―――無い? ああ、冗談だから涙目にならないで。

 緑の人が恐くて私が涙目になりそうだから!

 

 

 ・ξ月‰日

 

 結局昨日は緑の人に思いっきりいぬだまにされてしまったため、色々と話がお流れになりました。

 あけて翌日、つまり今日。

 今度は緑の人のお兄さんも一緒に、お姫様がご来訪。

 因みに母上様と親父殿は仕事。私は一人お留守番して、お姫様たちのお出迎えです。

 ―――って、何で若干五歳にロイヤルファミリーの相手させるかなぁ、あの夫婦。

 子供が粗相とかして国を追い出されたらどうするんだと……昨日の段階でそろそろ打ち首レベルの状況か。

 

 え? なんでしょうかイケメンのお兄さん。

 

 ―――ああ、そっか。

 王族って言ってもこの国共和制国家だもんねぇ。

 政治委託されてる領主様は領主様だけで、領主様のご家族は建前上は一般市民と変わらない地位だと。

 だから、こうやって気軽に突撃隣のお昼ご飯とかも出来ますか。すいません、粗茶しか出せなくて。 

 ああ、ええ。権威に敬意は払いますよ、私は。ご心配なく。

 まぁでも、今回のご来訪はその領主様のご指示でとのことらしいですので、現状、このお姫様が目上の人である事実になんら間違いは無いのですが。

 

 ―――で、ご来訪の目的は?

 外で『反省』ってフダを掲げて正座してる緑の人を見せびらかせるためでしょうか……違いますか。

 

 はい?

 なんですかこの巻物。

 景品? 景品……くじ引きとかやった覚え―――ああ、景品ですか。

 戦争の勝利祝いですね。

 いやでも、ウチの国負けたんですよね。で、レアな黒チョコボをガレットに持ってかれたって……おや、イケメンお兄さん、どうしましたそんな、ふがいなさそうな顔で。

 ああ~、お兄さん騎士様ですか。

 我が国唯一の常備軍の王国騎士様の―――え、千人長とか、お姫様、それ偉い人なんじゃねーの?

 そっかぁ、戦負けちゃったら、そういう立場の人だと辛いですよねー。

 でも仕方ないですって。

 この国、常備軍殆ど居ないから基本的に戦争後とに領民徴兵しないといけないですし。

 お隣みたいにデカい常備軍抱えて戦争ビジネスやってるような国には、勝てませんって。

 と言うか、隣に軍事国家があるのにまともな軍隊が存在しないこの国って、大丈夫なんでしょうか……今度はお姫様がへこんでいらっしゃいますが、どうしました?

 

 どうでも良いけど、この巻物、真ん中にデカデカとマークが書いてあるだけで何にも書いてないんですけど、何なんでしょうか?

 

 美術品?

 

 

 ・δ月β日

 

 ねんがんの もんしょう を てにいれたぞ!

 

 ……紋章、だそうです。

 お姫様から手ずから渡された戦争勝利のお祝い品と言うか副賞と言うか、とにかくそんな感じの巻物なんですが、開いて中に書いてあったのは何か記号と言うか、そう、紋章らしいです。

 で、紋章って何? って私が首を捻っていると、イケメンのお兄さんが『手を置いてみなさい』とか言うんで、指紋とかついたら美術品の価値落ちるんじゃねーとか首を捻りつつ、言われたとおりに描かれた紋章の上に手をぺたり。

 

 こう、ピカっとね、光るんですよ。

 紋章が―――と言うか、私の手が。

 

 なんじゃこりゃと驚いてると、巻物に描かれた紋章がホログラムみたいにふわっと手の甲の上に浮かび上がって、それで、光が収まった後に巻物を見てみると―――紋章の絵図が、消えてるの。

 

 ―――どういうこと?

 

 疑問顔で尋ねる私に、お姫様はふんわり笑いながら―――説明に途中で詰まってしょんぼり。

 途中からはイケメンのお兄さんが説明してくれました。

 あ、書き忘れてたけど、このイケメンさんは外で正座してた緑の人の実のお兄さんらしいです。

 うん、二人とも垂れ耳だもんね。髪の毛の色が違うのは、最早問うまいだけど。

 

 ああ、で。

 何か、私はガレットの王家から、紋章を賜ったらしいです。

 白髪王子を倒した記念品に、今後ともよき好敵手でありますようにとか―――おぉい、好敵手ってなに!?

 まぁ、それは追々考えるとして、つまりなんでしょうか、勲章とか家紋みたいなものだと判断すればいいのかな?

 子供にお金を渡す訳にもいかないから、さしあたって名誉っぽいものを、みたいな。

 つーか、腕の中に吸い込まれたけど、これ、どうするの。

 刺青とかは好きくないから、出来れば巻物に戻して飾っておきたいんですが……。

 

 あ、違うんですかお兄さん?

 

 ―――紋章術。輝力。

 

 なぁにぃそれぇ?

 

 

 ・∽月Ч日

 

 輝力。

 

 ……フロニャ『ちから』なのに、なんで輝『りょく』なんだろうねとか、多分突っ込んだら負けだ。

 未だに脳内では日本語で思考しているから、オーガニック的な何かが作用して、そう聞こえてしまっているだけだろう。

 こう、呼んで字の如くぴかっと光ってズバっと出来る力らしいです。

 しょんぼり姫が得意げに語ってくださいましたけど、何か私にも出来るらしいですよ?

 たまーに前髪が光弾いてまぶしいなぁとか思ってたんだけど、アレが実は、髪から輝力が漏れてたって話らしいです。

 

 あー、道理で夜でも眩しい筈だと。

 

 輝力って言うのは大地に溢れる守護のフロニャ力を身体に取り込んで、指向性を持たせて放出する事を言うんですが、その現象発生プロセスを総じて、『紋章術』と呼ぶんだとか。

 なんだろうね。

 紋章って言うのは、要するに取り込んだフロニャ力を放出するための門みたいなものかなぁ。

 いや、型紙みたいなものかも。そこに輝力を通して外界に臨んだ形で完了させる、と。

 まぁ、日本人的な感覚で簡単に言ってしまえば魔法です、魔法。活用方法も大体そんなノリ。

 戦闘目的でビーム飛ばすとかバリア張るとか、後は白髪王子みたいにシャイニングなフィンガーを作ってみるとか……あのガキ、人にそんな危険なもの向けてきやがったのか。

 

 閑話休題。

 

 で、その紋章って言うのが曲者で、本来であれば家系で受け継がれる固有のモノらしい。

 領主様のお家であればフィアンノン家の紋章が、イケメン騎士様のお家であればマルティノッジ家(って家名なんだってさ)の紋章が、あの白髪王子の家にも、勿論。

 所謂『戦うための力』と言う意味合いが強いから、戦うことを目的としてる騎士、戦士、民を守る必要のある王家などに受け継がれていく力―――なのかな、多分。

 勿論家系所以の紋章を持ってない人でも、紋章術は使えます。

 紋章術は大地に満ちる守護のフロニャ力を形にしたもの―――ならば、大地の恩恵に対する信仰があれば、自然守護のフロニャ力は力を与えてくれる訳で。

 大体はアバウトかつフレキシブルに、暮らしている国とか土地の代表的な紋章が宿るんだとか。

 

 それで、今回の私のケースですが。

 

 騎士の家系だって、元を辿れば只の人。

 お国に貢献して認められて、世代を重ねて漸く家系と言えるようになるんだから、そう、初めから固有の紋章なんてある訳が無いのです。

 じゃあ、それどっから持ってきたのよ―――って、それでつまり、今回みたいに偉い人たちから下賜して貰うんだってさ。

 

 因みに私が貰った紋章は、羽根を広げたツバメと鳥の足跡をデザイン化したような―――ガレットのお国柄を象徴してるのか、なんつーか刺々しい攻撃的なデザインです。

 何で鳥―――って考えると、まぁ、住んでる場所とかそういえば白髪王子から逃げ回る時にひたすら飛び跳ね回ってたからでしょうか。うん、飛蝗とかじゃなくて良かったって思うところですね。

 

 ……ビスコッティ人がガレットの王様から紋章貰うとか、色々と良いのだろうか。 

 

 しかし、なんだろうね。

 この紋章のシステムって、応用が利くというか無茶も道理もすっ飛ばしてると言うか。

 良く解らないんだけど、王家とか領主家とか呼ばれる家系は強い輝力とか持ってるらしいから、より大地との繋がりも深いとかそういう感じなんでしょうか。

 元を辿れば巫女とか神主とかの家系だったりするのかなぁとかブツブツ言ってたら、イケメン兄さんが感心したような顔してた。

 

 『賢いなボウズ』って、いや別に物の道理を解る年齢―――ああ、良く考えたら渡しまだ六歳だよ!

 社会構造の成立に思いを馳せる五歳児とか、恐いわ!

 

 ……って、え? 恐くないの?

 リ、リコ……リコたん? はぁ、天才少女ですか。

 私の一つ下……。王立学術研究員の……既に働いてると。そいつはスゲェ。

 会う機会は無いでしょうけど、宜しくお伝えください。

 

 ―――って、何ですかしょんぼ……じゃない、お姫様。

 そういえば貴女、三日連続で私のウチに遊びに来てますけど、何時までいるの?

 ああ、明後日。ふーん。視察とか公務とか言うより、バカンスみたいなものですか。

 でも王都とかと違って、なんも見るもの無くないですか―――って、避暑地とかならそれが良いのか。

 ……で、何?

 

 え? 僕も一緒に王都に着いていく?

 

 ちょっと母上様、どういうことー!?

 

 

 ・Э月ё日

 

 だってアンタ、輝力使えるじゃない。

 

 ―――あ、輝力を使えるって貴重な才能だったんですね、母上様。

 

 貰った紋章をピカピカ光らせながら、母上様の言葉に妙な納得をしてしまった。

 なんでも輝力使えると―――つまり、守護のフロニャ力から強い恩恵を受けていると、幼児期から思考能力に優れたり身体能力が上がったりという特徴が見えるらしい。

 ああ、そういえば私、幼馴染連中の中で一番運動得意だわ。跳躍力とか、たまに人外っぽいし。

 で、ビスコッティ共和国ではそういう兆候が見えた子供には、その才覚を生かすために奨学金とかを出して王都の教育機関に招くんだってさ。

 勿論そういうところに入ったからって、将来はすわ官僚か、それとも騎士か、とかは決め込む必要は無く、職業選択の自由は与えられてるらしいけど、まぁ、才能は早めに伸ばそうってシステムなんでしょうね。

 うん、確かに頭の回転速くなりすぎると、同年代の一般的な子供の中だと浮いちゃうだろうから、いっそのことそういう子供たちで固めちゃった方が精神的な安定とかも得られるし。

 でも、子供も大人も皆良い人のフロニャルドで、浮いてるからって陰湿ないじめとか有るって話は聞いたこと無いけどなぁ。

 

 いや、五歳程度の子供の知ってる世間だけでの話しだから、実際はやっぱり人間らしい社会があるのかもしれないけど。

 

 兎も角。

 母上様の話を聞くところによると、私はどうやら初等教育年齢に達する来年から王都の学校に通うことは、生まれた時から決まってたらしいです。

 いや、流石に決まるの早すぎない?

 だって生まれた瞬間の赤ん坊では、流石に才能なんて海とも山ともって話しに―――……ああ、そりゃ。

 

 あのさ。

 輝力が強い人って、髪の毛の色が変色するんだって。

 

 なるほど、そいつは解り易い。

 青いもんねー、私の髪。

 

 

 ・∇月¦日

 

 可愛い子には旅をさせろ。

 バンと背中を叩かれて、牧場の人たち皆から送り出されました。

 なんつーかこう、田舎の期待を一身に背負って上京する気分。いや、本当にそうなんですけど。

 

 ああ、因みに王都の学校って全寮制で一人部屋らしいのよ。

 念願の一人部屋を手に入れたぞ、これで、母上様から定期的に『今日はおじいちゃんの部屋で寝たら?』って言葉を聴かなくて済む―――意味はお察しください―――なんて、言って良い場面なんだろうか。

 間違っても息子に対する愛情が無いから放り投げるって訳では無いと思いたいんだけど、半年後には妹が生まれるってなると、なんだろう。

 

 結局は生れゆえの倫理観の違い。

 日本人的な感性とに於ける親子像と、このファンタジー世界に於ける親子像とは違う、という事なのだろう。

 

 可愛い子には旅をさせろ、かな。

 うん、折角だし真面目に勉強して頑張ってきますよ―――って、本当はチョコボ厩舎の清掃員の人になりたかったんだけどなぁ。

 駄目かー。駄目だよなー。紋章受け取っちゃったもんねぇ。

 これでそのうち起こるガレットとの戦争に僕が参加してないとかなると、白髪王子に恥を欠かせちゃうもんねぇ。

 身体動かすのは好きだけど、痛いのは嫌なんだけどなぁ。

 

 ……って、ちょっとしょんぼりさん、何を人の日記覗き込んでますかね。

 え? 折角同じチョコボ車の中なのに遊んでくれなくてつまらない?

 おおう、そこでしょんぼりするな! 緑の人が睨んでるから!

 

 あ、今丁度王都へ向かうチョコボ車の中なんですけど。

 うん、そう。何故かお姫様の乗ってるお召し車に、僕まで。

 え? あ、そう。王都に到着したらセレモニーとかあるの。

 新興の騎士家が誕生するなんてニュースですからね……って、騎士家って何!?

 紋章を貰っただろって? ちょっと、何でそこで冷めた目で言ってくれるんですか緑の人!

 母上様の許可は取った……?

 ちょっと待て、私には職業選択の自由が無いってんですか?

 

 いやいやいや、しょんぼりさんや。

 そこで頑張ってねってほんわかスマイル浮かべられてもさー。

 

 うう。無学の田舎者が鳴り物入りで都会入りとか。

 伝統の家柄の人たちに苛められたりしたら、ヤダなぁ。

 

 

 ◆◆◇◇◆◆

 

 

「人様の家で、何を物騒な言葉を呟いているんだ貴様は」

「ありゃ、エクレ嬢」

 

 振り返り、声のしたほうに視線を送る。

 半開きになったドアの向こうから、エクレールが不審げな瞳を向けていた。

 シガレットは手にしていた日記をパタンと閉じながら、苦笑を浮かべる。

 

「いやほら、若かりし日の過ちって、穴掘って地面に埋めてその上に岩でも乗っけて封印したくなるじゃない?」

「一々そんな事をしていたら、お前の人生は今頃、山の下敷きにでもなっていると思うが」

「何気に酷いな、オイ」

 

 何時もの事だけど、とは流石に口に出さない。

 表情で何を言いたいのか悟られたのだろう。エクレールは鼻を鳴らして、乱雑に物の散らばった小部屋の中に踏み込んできた。

 

「意外と、物が少ないな。いや、数えて精々一年かそこらしか使っていなかったのだから、当然かも知れんが」

「基本、ガキの頃からガレットに常駐してたからね、オレも」

「そして二年前に戻ってきてからは、基本的に風月庵か。この屋敷でお前と食事を取った記憶が、道理で少ない訳だ」

「メシ、ねぇ。―――いや、よく考えたらエクレ嬢だって、この家ではあんまり食事を取っていないんじゃない?」

「私も? ……ああ、そういえばそうか」

 

 何故、マルティノッジ家の屋敷―――自分の住んでいる家なのに、とそこまで考えた後で、エクレールはシガレットの言いたいことに気付いて、微苦笑を浮かべた。

 

「食事は何時も、姫様と一緒だったものな」

「朝飯くらいだよね、この家で食べたの。昼と夜は、ミル姫が一緒だったし」

「ああ。立場も礼儀も弁えず、堂々と……懐かしいな、あの頃は」

「だねぇ。最初の頃はオレ等より若いヤツらもまだ居なくって、ああ、先代様もご存命だった頃だ」

「うん。……楽しかったな」

 

 しみじみと、郷愁の面で語るエクレールに、シガレットは、そうだねと、頷いた。

 

 

 ◆◆◇◇◆◆

 

 






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