転生?チート?勘弁してくれ……   作:2Pカラー

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52.ラグドリアン湖の中心で

 

 キーコキーコと小舟をこぐ。

 魔法を使えば一発だろうし、そうでなくとも水の精霊サマに頼めば舟など軽く運んでくれるだろう。ラグドリアン湖なわけだし。

 しかしやっぱり自分の力で櫂を動かしてこそだろう。

 湖で小舟でデート。素晴らしく甘美な響きだと思うわけだよ。

 フフ、フフフフ

 そう! こいつはデート! マチルダさんと二人っきりの、テラスイートなデートなのよさ!

 出し抜いてやったぜ、ティファニアめ!

 フハハハハー!

 

 おっと、テンションが上がってしまった。どもっす、クーです。

 あのジョゼット騒動から数か月。長くもつらい時間だった。

 いや、ジョゼットちゃんがオルレアンではなくジョゼフ兄を選んだってことで負担は減ったと思いたいんだけどね。

 事実今後のジョゼットちゃんの処遇に関してはジョゼフ兄に一任出来たし。なにか仕事でも押し付けられちゃあかなわんってなもんで早々にオルレアンに帰っても来られたしで。厄介事なんてなかったんだけどさ。

 でも……つらかったんすよ。俺。

 だってさ、だって。

 オルレアンでは四六時中マチルダさんとティファニアがイチャイチャしてんねんもん!

 あんの小娘ときたら、マチルダさんに甘えてばっかりで。

 せめて寝所くらいは別にしてくれよ。

 そうすりゃ夜這……ゲフンゲフン。夜のデートに誘えたかもしれないってのに。

 だが、俺は勝った!

 ついにティファニアを出し抜くことに成功し、マチルダさんと二人でのデートにこぎつけることが出来たのだぁ!

 そりゃ顔もにやけるってなもんですわい。

 

「クー?」

 

 おっと、折角のデートなんだ。チンチクリンのことなんて考えていたらもったいない。

 

「どうしたかな、マチルダ?」

 

「えっと、行きすぎじゃないかしら?」

 

 おぉ? 言われてみれば確かに。

 まぁ腕力はランサー並みだからな。

 

「それもそうだね。ここらへんで少しのんびりしようか」

 

 そういって櫂を小舟へと引き上げる。

 のんびりまったり。静かな湖面を眺めながらぼうっとしているのも悪くはない。

 きらきらと太陽を反射するラグドリアン湖はどこか壮大ですらあり。

 こういう日には、詩才のない自分に腹立たしくなったり。

 なぁんて片目の大将みたいなことを思ってみたりも。

 ……あふぅ

 

「いい天気だ。眠気を誘う」

 

「少し横になる?」

 

「そいつは勿体ないかな。折角の二人きりの時間だ」

 

 うん。もったいない。

 眠ってる時間のことは記憶できないからね。

 むしろ時間が冗長に感じるくらい退屈なほうが嬉しいのかもしれない。

 

「あら、膝を貸してもよかったんだけど」

 

「是非に」

 

 ……いや、拒否はできないでしょ。

 んなもん即前言撤回だっての。

 

「ふふっ。どうぞ」

 

 うにゃーん。マチルダさんのひざまくらだぁ。

 太ももモフモフしたいお! くんかくんかしたいお!

 

「あっ、うつ伏せじゃなくて仰向けにして下さ、あんっ、ちょっ、クー」

 

「アハハ。ごめんごめん」

 

 怒られちったから今度はちゃんと仰向けに。

 いやぁ、堪能させていただきました。正直、たまりません。

 

「もうっ」

 

 なんて口にしながらマチルダさんは俺の髪をなでてくれたり。

 あぁ。癒し効果パネェっす。

 

「こうやって」

 

「ん?」

 

「こうやってのんびりするのも良いものね」

 

 片目を開けて見上げれば、湖を眺めるマチルダさんの横顔が。

 

「アルビオンに居たら、なにも心配せずに、ゆっくりと景色を眺めることなんてできなかったでしょうから」

 

「ティファニアのことかい?」

 

「……テファとシャジャル様のことは、常に意識していたから」

 

 まぁ楽観は出来なかったろうけど。

 

「今は平気さ。シャジャルさんのことはモード大公に任せても平気だし、万が一の場合も俺が大公のバックにいる。ティファニアだって同じさ。オルレアン(ここ)は俺を慕って付いて来てくれた連中で固めているしね」

 

 ちなみに古株の臣下にはティファニアのことはそれとなく注意するように言っている。

 さすがにエルフであるとまでは教えていないが、常にフェイスチェンジが必要だ、と。

 見た目での差別なんて地球だけの話じゃないからね。

 今のティファニアは少し(・・)普通と見た目が違うだけで不当な扱いをされてきた貴族の子供だという認識をされている。それを俺の婚約者であるマチルダさんが使用人として引き取った、と。

 こう言っておけばオルレアンにいるのは気のいい連中だ。今の素直に笑うティファニアを見て、その笑顔を壊したいなんて思ったりはしない。安心できるというものだ。

 今日も連中に預けていることだしね。バッソやレティシアも可愛がってくれている。

 

「クーには感謝してもしきれないわ」

 

 何度も聞いた言葉。

 ただ、少し不満だったり。

 

「感謝してくれるのもうれしいけど、それだけで俺を受け入れるってのはやめてくれよ?」

 

 弱みに付け込んでだったり、感謝されていることを利用してだったり、そういう形で結ばれるってのはどうかと思う。

 俺は貴族だ。王家に連なる公爵だ。その必要があるというのなら、特に好きでもない相手とだって結婚するさ。

 でも、やっぱり『前世』が一般人だった身としては自由恋愛してみたかったり。

 それにマチルダさんは心から好きになった人だ。一緒にいたいとは思うが、マチルダさんの意思を無視してまで手に入れたいとは思わない。

 だから、感謝の言葉は不満でもあり、そして不安でもある。

 

「私が恩を返すためだけにクーとの婚約を受け入れたかもしれないと?」

 

「信じたくはないけどね。少し怖いんだよ。感謝の言葉は聞かせてくれるけど、君自身の思いは口にしてくれてないんじゃないかって」

 

 サラリと髪が撫でられる。姉のような仕草が似合うのはティファニアで慣れているからなのかな。

 俺はそれを受け入れながら目をつぶる。

 こういう時『コミュ力』は逆に足枷になる。

 相手が何を思っているのか。何を話そうとしているのか。それとなく感じ取れてしまうから。

 

「クー」

 

 反応は返さない。ヘタレだなぁなんて自分自身情けなくも思うけどさ。

 

「それを言うなら私もクーの思いは聞いてないわ。クーは私が欲しいとは言ってくれたけど。私を手に入れて離さないとは言ってくれたけど」

 

 そうだったっけか?

 まぁ、それは、……なんというか申し訳ないな。

 しかし言えと言われていうというのも恥ずかしさが倍増するというか。

 

「クー?」

 

 しかし無言というわけにもいかないか。

 俺が不安を感じていたようにマチルダさんも不安を感じていたのだとしたら、それは俺にとってもとても悲しいことだろうから。

 

「俺は、……俺は君が好きだ。マチルダ。君のことが好きだよ。多分、君が思ってるよりもずっと、俺は君のことが好きだ。こうやって、傍にいるだけで幸せを感じられるくらい。君が俺の人生に必要だと確信できるくらい。君が俺のことを思ってくれる何倍も、君のことが好きなんだと思う」

 

「私のクーへの思いの何倍も?」

 

「ああ。君よりも、いや、きっと他の誰にも負けないと思う。他の誰にも負けないくらい、もっとずっと深く、君のことを」

 

「フフッ」

 

 不意に聞こえた小さな声を意外に思って目を開ければ、そこには笑みを作って俺を見つめるマチルダさんの顔。

 覗き込まれるようにして俺と目を合わせたマチルダさんは小さく笑って、

 

「私よりもなんて、そんなの信じられないわ」

 

「俺は、本当に」

 

 しかし言葉は続けられなかった。

 

 視界いっぱいに広がったマチルダさんの顔に少し驚き、

 

 不意に訪れた、俺の唇に何かが触れた感触に、

 

 俺は、

 

 

 

 

 

 

 




グボハァッ
む、難しいぜ……こういうシーンは
今は、これが精いっぱい


ネギま二次ですが、ちょろっと書いてみました
よかったらそっちもお読みくださいませ

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