転生?チート?勘弁してくれ……   作:2Pカラー

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36.Eyes on me

 

 ズギャ――――z_____ン

 

 そんな効果音をバックにポーズを決める。

 自分がプロポーズをしてしまっていたことに気付いてからは、もう心臓がうるさいのなんのって感じだけど、退くわけにはいかねぇよ。

 というか、さすがにココで勘弁してくれなんて言えるほど、俺は恥知らずじゃないしね。

 愛ってなんだ? 躊躇わないことさ!

 

「ぷっ、ふふ、あははは、ゴ、ゴメンナサイ、ぷっ」

 

 と、俺が人生の墓場とやらに突っ込む覚悟をしていたというのに、何故に笑い声が?

 

「いや、気にしないでいいが……笑わせるような事を言ったかな?」

 

「だ、だって、なんなんですか? くればーに抱きしめるって? あはははは」

 

 なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け。とは思うモノの……なんなんだ? テンパってたから良く考えず口にしたフレーズなんだけど。

 ……あれか? 子供がマセたこと言ってるなぁとかそんな感じだろうか?

 まぁ今の俺は十一歳。ハルケギニアの一年が384日と地球の一年より長いことを鑑みても、精々が小学生程度の年齢だろう。

 …………そりゃ笑うか。一応王家からの指示を受けるだけの立場にあることは示していたし、子供扱いされることは無いと思ってたけど、まぁ仕方がないか。

 

「ふふっ。失礼しました。お恥ずかしい所をお見せしてしまって」

 

「いや、こちらこそすまなかった。突然すぎたね」

 

「ふふっ」

 

 まぁ突然すぎたことは事実だ。

 はぁ。にしても気が抜けちゃったな。

 マチルダさんを引き抜ければかなりの問題が解決すると気付いたり、と思えばいつの間にかプロポーズしていたり。自分でやったことながら急展開すぎるだろう。

 と、そんな思わずため息をついてしまった俺を見て、

 

「オルレアン公。少しの時間だけ、立場を考えずに話してもいいでしょうか?」

 

 ふむ? つまりはガリアの公爵とサウスゴータの娘、ではなく、クーとマチルダとして話したいことがあると? くすぐったい感じもするが、拒否することでもないし、と頷けば、

 

「では、」

 

 と、マチルダさんの黄色がかった翠瞳が俺を真正面から捉えた。

 

「オルレアン公、……クーさんの言葉、とても嬉しく思います。でも、私はサウスゴータの、アルビオンの人間です。この空飛ぶ大陸に愛着を持ってます」

 

 フーケではなくマチルダの言葉だと思えば、その言葉に不自然な点など無いだろう。彼女がアルビオンを憎むきっかけはまだ発生していないし、貴族を嫌うようになるのもまだまだ先の話なのだから。

 

「私はサウスゴータが好きです。領主によって統治される地ではなく、人々が集まって発展させるこの街が。議会の皆が力を合わせるこの街が」

 

「始祖の降り立った地だからではなく、サウスゴータ家が統治する地だからでもなく、住む者が手と手を取り合うこの街だから、ということか」

 

「はい。叶うことならば、私も生まれ育ったサウスゴータのために生きて行きたいと思ってます」

 

 そういえば原作のフーケはトリステインで活動していた。思う所の多いアルビオンではなく。

 サウスゴータ家の者として面が割れているから、そう思っていたが、それだけじゃないのかもね。

 サウスゴータ家で生まれ育ち、サウスゴータの街を良く知る彼女だからこそ、アルビオンを嫌いになり切れなかったのか。モード大公の投獄を切っ掛けにサウスゴータ家の家名を取り潰され、その後も苦労しただろうに、それでも嫌いになり切れなかったということは、なるほど確かに今のマチルダさんの言葉は本物なのだろう。

 

「それに……」

 

 続く言葉はなんとなく予想できる。『コミュ力』が俺に無かったとしても、きっと分かったはずだ。

 マチルダさんはこう言いかけたのだろう。それに『ここには妹のように思っている子がいますから』と。

 それはガリアの公爵(オレ)には明かせない秘密。口ごもることは当然。むしろそれを言いかけてくれたということから、マチルダさんが俺の戯言に真摯に応えてくれたということが分かり、嬉しくすらある。

 

 まぁつまりは、だ。俺はどうやらフラれてしまったらしい。

 そりゃあのプロポーズは本心からと言うよりもうっかりしてしまったと言う方がしっくりくるものだった。

 冗談だなどと言うことなく、マチルダさんを傷付けることもなく、求婚したという事実が無くなると言うのなら、俺はそれを歓迎するべきなのだろう。

 ……そう。俺はそれを嬉しく思うはずなのだ。

 …………だけど、何故かね。マチルダさんの瞳に見つめられて、彼女を手に入れることが出来なくなったと思うと、こう、ショックを受けているのは何故なんだろうね。

 

「ですので、私はクーさんの言葉に頷くことは出来ません。とても嬉しかったです。私のような、一太守の娘でしかない者が何故クーさんに気に入られたのか分かりません。でも、貴方に欲しいと言われて、とても嬉しかった。それでも、私は……」

 

 強い意志のこもった瞳。それはとても尊いもので。

 彼女の聡明さは、ハルケギニアで精々十年と少ししか生きていない俺には眩しくもあり。

 

 ……あぁ。なるほど。

 ははっ。あの時、俺はうっかり言葉を間違えたのではなく、あの言葉こそが俺の本心だったと考えれば、それは、なんて……

 

「どうかご無礼をお許しください。私は、貴方とは結婚「それ以上は言わないでくれないか」」

 

「私は、いや、()はね、望まぬ相手を地位をかさにきて無理矢理にってのは嫌だったんだ。ミス・マチルダが結婚などしたくないと言うのなら、俺は潔く退くつもりだったんだ。でもね、もう無理だ」

 

 そう、無理だ。

 取り繕うつもりはないさ。誤魔化そうとも思わない。

 

「もう、俺の心は止まらない。俺は君に惹かれてる」

 

 君の意思の強さに惹かれてる。

 君の聡明さに惹かれてる。

 君の民を思う優しさに惹かれている。

 君の瞳の美しさに、どうしようもなく惹かれてしまっている。

 だから、

 

「俺は、君を手に入れる」

 

 マチルダの見開かれた瞳を正面から見つめ、視線に意思を込める。

 今回ばかりは『コミュ力』には頼らない。

 俺は、俺の力で君を手に入れて見せる。

 君の心を手に入れて見せる。

 だから覚悟しておいてくれ。君を必ず、俺のものにしてみせる。

 

 

 アルビオンの方は最早ついでだ。

 ま、救ってやるんだから勘弁してくれ

 




クーの男度アップ回 そんな36話 シリアス味

さすがにギャグで突っ走ってそのまま結婚ってのはどうかと思ったので、マジにならせてみました
そう言えばクーが女性への好意を明確にしたのは今回が初めてな様な

マチルダさんは立場的に断ろうとしましたが、心情的にはクーを嫌ってるわけではありません。なのでクーの宣言に対して嫌悪感を抱くこともなく……
一歩間違えればフラレ男のストーカー宣言なんですけどねw

それにしてもアルビオン編の着地点が見当たらにぃ

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