……やぁ。クーだ。
スマン。胃が痛くてテンション上がんない。
マリアンヌ大后に親書渡してからは逃げるようにガリア領まで戻って来たんだが、もうね、東薔薇騎士団が殺気立っちゃって。
城を出る前にマザリーニ枢機卿が後で謝罪に行くとかなんとか言ってたからまだ抑えられたけど、コイツラよりにもよってジョゼフ兄に向けて鷹便飛ばそうとしてたからね。
止めるのがあと少し遅ければ全面戦争もありえたよ。
そりゃ俺だってさ、おそらく無意識的にとはいえ、ガリアを見下されるような事されたんだから頭には来たよ?
でもさすがに抗議に留めとくべきだろう。精々『遺憾の意』をブッパするくらいでいいだろう。
そしてガリアとして抗議するなら表の顔である父上か、これから表の顔になるシャルル兄に頼むべきだろう。
ジョゼフ兄は言ってみりゃ裏の顔。陰謀EXの、最近ではガリアを祖国として愛し始めている人間にトリステイン如き弱小国に舐められたなんて報せが行ったら……。あばばばばば
ホント、止めるの間に合ってよかったです。
まぁその後親の仇でも討ちに行くのかと言いたいくらい殺気だった騎士団に囲まれて馬車に揺られるのもつらかったんですがね。
いっそ発散させてやった方が……アカン! 今コイツラ自由にさせたらトリスタニアに突っ込んで行きそうだわ。
さて、そんなこんなでオルレアンまで無事戻ってきました。
いやー、ここまで来ちゃえば安心です。
ガリア国内なら他国の貴族の眼を警戒する必要もないし、ここには両用艦まで停泊してるからね。
……いや、両用艦はリュティスに帰れよとは思ったけどさ。園遊会の準備にも一役買ってるらしくて。
その園遊会の準備だけど、なんと言うか、俺の予想をはるかに超えてました。
そりゃ十ヶ月も前から準備を開始させるって時点で予想しとけって話なんでしょうが、これほどの規模になるとは。
簡単に言うとだね。街づくりだね、こりゃ。
パーティー会場はラグドリアン湖を眺められるよう屋外なんだが、だだっ広い場所を用意して魔法で平地に均して芝を整えて。
街道を引っ張って王族や貴族の滞在できる宿を用意して。
商人を集めて色々と用意させて何カ月も後の予定をキッチリ纏めて。
周辺に亜人や盗賊が現れないよう徹底的に調査&駆逐して。
うん。立派な国家事業だね、これは。
トリスタニアから戻って数日で理解しました。俺に出来ることは邪魔にならないようにラグドリアン湖でも眺めているしかないって。
……別にいじけてなんかないよーだ。
にしても、スゴイね。ラグドリアン湖。
何がスゴイってまずデカイ!
アニメで増水時のラグドリアン湖が出て来てたけど、実物はあんなモンじゃないぜ?
なんたって向こう岸が見えないんだから。
天気が快晴でやっと薄らと何かある様にも見えるかなぁって感じだし。
大きさ的には『前世』で見た琵琶湖に近いかも。
もっとも水の綺麗さとか比べ物にならないけどね。
さすが科学がほとんど存在しないアホ世界。水を汚す要因なんか存在すらしないしな。
これは景勝地にもなるわ。納得です。
とは言え眺めているだけでもなんだな。
こりゃアレだな。
「釣りでもしたいな」
「釣りですか?」
「ああ」
そばに控える騎士団長に返す。
釣り。なんとなく言ってはみたが、いいんじゃないだろうか。
「殿下が釣りを趣味とされていたとは初耳ですな」
「いや、一度もやったことないんだけどな。偶然思いついたんだが、俺たちにはそっちの方が似合っているだろう?」
「ハハッ。そうですな。確かに湖畔で紅茶を楽しむなんてのは、ご婦人がたに譲るべきでしょうな。では、早速小舟でも用意させましょう」
小舟か。それもいい。
俺は立ち上がるとラグドリアン湖へと近づいた。
これだけデカイ湖だ。魚が住んでいないなんてことはないだろうが、どんなのがいることやら。
そんなことを考えながら水面に映る自分を覗き込んでいると、
「げぼぁ!!」
突然腹部へと衝撃が襲いかかって来た。
「なんだお主は!? なんだお主はっ!!? なんだお主はーーーー!!!?」
仰向けに倒れた俺の腹の上で叫ぶ幼女ボイスの未確認物体。
というか護衛の花壇騎士は何やってんだよ、と目を開けてみれば、……うん。ちょっと待て。
……………………………うん。待ってくれてありがとう。
「水の精霊?」
俺の腹の上には水で出来たヒトガタのモノ。透明な人間がいた。
つか周りの騎士も開いた口が塞がってないし。
「うむ。我は単なる者らがそう呼ぶ者だ。して、お主はなんだ?」
「いや、なんだって言われても。つか精霊サマよ、どいてくれないか?」
「だが断る」
何故にそのネタを? 偶然?
てか一体何が起きているんだ? 何かしたっけか? 釣りしようとしたから怒ってんのか?
「お主は他の単なる者と違うだろう? その身のウチに何を入れておる?」
……まさか、ジャッカルさんのことでせうか?
彼は無理やり居座ってるだけで俺の意思としては出て行って欲しいくらいなんですが。
「それに何故だろうな。お主を見ていると不思議な気持ちになる。お主に纏わりつく風の精霊共を見て、羨ましく思ったのだ」
ちょっと待て。まさか『コミュ力』のせいか? 無条件に好意を寄せられる効果なんて、この九年で確認してないぞ。それともまさか、精霊にだけ効く力というわけか?
くそっ。抜かった。サッパリ妖精だなんて馬鹿にせず、精霊ちゃんたちが何を考えているのか知ろうとするべきだった。
俺の後悔をよそに、なおも水の精霊は話し続ける。
「つまりはだな」
その時小舟を用意しに行った騎士団長の声が聞こえてきた。
「殿下。トリステインのマザリーニ枢機卿およびラ・ヴァリエール公爵、ド・モンモランシ伯爵がお見え「お主に惚れたッ!!」……へ?」
いや、間抜け面を晒した騎士団長を責めることなど出来ないだろう。俺だって、護衛のために侍っていた騎士たちだって、そして騎士団長の背後に見える三人のオッサン共だって、皆一様に間抜け面を晒していたのだから。
「ちょっと待った、精霊サマ! アンタ、トリステインと盟約結んでるんでしょう? 俺はガリアの人間なんで問題があると思うんですが!」
「我を顎で使えるなどと驕り高ぶった連中など知らん。我もお主と共にあるぞ!」
「いや、共にあるって何する気っすか!? この湖の精霊なんでしょうが!」
「心配するな。我は水の精霊。本来形を持たぬのが水の姿ゆえ、我は無限に別れることも全を一にすることも出来る。我が一部がお主と共にある限り、我もまたお主と共にあるという寸法だ」
すんぽーっすか。意識が繋がってる分身体ってことか?
ってか、ちょっと待て!
「一部が俺と共にあればって、瓶にでも入れて持ち歩けばいいんじゃないでしょうか!?」
「我に後塵を拝せよと言うのか? もっともお主に近しい場所を奪われたままでいろと?」
いや、ジャッカルさんはそんなんちゃいますから!
ヤメテ! なんかウネウネ触手みたいなの伸ばして来ないで!
「大丈夫だ。痛くはせぬ。空に浮かぶ雲の数でも数えておればすぐに済む」
「ちょ、待って、ってフゴッ、何故鼻から入ろうとする!? てか入ってくんな! おぅえっ、鼻はヤメ、うご、せめて口から、ぅおえっ、一旦戻って、ごぼぁ、勘弁、して、くっ」
ら、らめぇーーーーーー!!
釣れましたネ、精霊サマが
……
…………
…………………何書いてんだろ俺 orz
ぶっちゃけ水の精霊フラグのためだけに始めた継承式典&オルレアン編です
というわけなのでクーが水の精霊と接触する展開だけは考えていたんですが
……どうしてこうなった