問題児たちが異世界から来るそうですよ?―振り回される問題児―   作:gjb

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第八十四話

紫炎と耀はヒッポカンプの騎手の参加者待機場まで来ていた

 

「確かコミュニティごとに更衣室用のテントがあるらしいんだが」

 

「一体どこだろうね」

 

二人は腕を組みながら歩いていると、あるテントの前にジンがいた

 

「お二人とも、人前ではもう少し控えてください」

 

ジンは頭を抱えながら二人に告げる

 

開口一言目が注意の言葉なのだからジンの苦労がさらに増したのがわかる

 

「嫌だ」

 

しかし、その苦労を知ってか知らずか、耀はバッサリと切り落とした

 

「諦めろ、ジン。それより何の用だ?」

 

「昨夜、六本傷の頭首、ポロロ・ガンダックから要請を受けました」

 

それを聞いて紫炎は少し嫌な予感に襲われる

 

「実は今回のゲームの優勝者に南の階層支配者に相応しい人物がサラ様かグリフィスさんか選ぶというものです」

 

グリフィスの名前を聞いて、耀は途轍もなく嫌そうな顔をする

 

しかし、紫炎はジンの言葉に少し違和感を覚えた

 

「それは一体誰が決めたんだ?」

 

「多分サラ様だと思いますけど、詳しくは・・・」

 

紫炎はその言葉を聞いて、さらに不審に思った

 

(サラが自分の立場を守る為だけに俺らに厄介事を任せるか?誰かが裏から手を引いてるとしてもサウザンドアイズの面々は今回の事を知らないはずだからな・・・)

 

紫炎が考えていると、耀が水着に着替えて出てきた

 

「ねえ、紫炎。どうしたの?」

 

ずっと黙ってるのを不審に思った耀が紫炎に話しかける

 

とりあえず考えるのを止めた紫炎はジンを一発殴って、フードを深く被らせて前を見せないようにした

 

「し、紫炎さん。何するんですか!?」

 

「とりあえずそうしてろ」

 

ジンは怒るが、紫炎は気にせずに昨日のように上着を羽織らせた

 

「どうしたんですか!?」

 

ジンの声が聞こえた黒ウサギが慌てて更衣室から出てきた

 

紫炎は何の気なしに後ろを振り向く

 

そこには水着の黒ウサギが立っていた

 

「ぐあぁぁぁぁ、目がぁぁぁぁ」

 

・・・が、紫炎は耀の目つぶしにより、それを見ることはなかった

 

「耀さん!?何をしてるんですか!?」

 

「身体が勝手に動いた」

 

黒ウサギの言葉に耀は悪びれもせずに答える

 

「おう、待たせ・・た・・・な」

 

すると、十六夜がやってきたが、ジタバタするジン、のた打ち回る紫炎、水着の女子二人をいっぺんに目にしたので思考が追いつかない

 

「説明頼む、エ黒ウサギ」

 

「はいな、ってなんですか、エって!なんて言おうとしたんですか!?」

 

「説明頼む、エ」

 

「言わせないのですよ、このお馬鹿様ぁぁぁぁあああ」

 

十六夜が二回言う前に黒ウサギがハリセンで黙らせる

 

一人冷静な耀は『カオスだな~』と他人事のように静観していた

 

――――――――――――――――――――――――

 

テントのカオス状態が収まったのはレティシア達が着替えに来た時だった

 

「うう~、まだ目が痛い」

 

「ごめん」

 

「頼むぜ、紫炎。お前が騎手なんだからな」

 

黒ウサギは司会の為壇上に行った為、現在は紫炎、耀、十六夜の三人だけである

 

「しかし黒ウサギはエロかったな、紫炎」

 

十六夜が半笑いで話しかけてくる

 

「お前わかってて聞いてるだろ」

 

「は?何のことだ?」

 

紫炎の言葉に十六夜は半笑いのまま返す

 

ちなみに耀、紫炎、十六夜の順で座ってるので、十六夜が紫炎に話しかけると、十六夜は耀の様子が見える

 

(見えてなくても黒いオーラみたいなのが感じ取れるのに、正面から見ている十六夜が何にも感じ取って無いはずがねえ)

 

紫炎はその黒いオーラを怖がり、いまだに耀の方を向けてない

 

「ねえ、紫炎はどう思ったの?」

 

黙秘で貫こうとした紫炎だったが、耀の言葉は無視できない

 

何故なら無視すると後が怖いからだ

 

「よ、耀とはまた違ったベクトルの良さがあるな」

 

怒らせないように無難な答えを出せたと思う紫炎

 

「ほう。紫炎は黒ウサギの胸に見惚れてたのか」

 

すると十六夜が超弩級の爆弾発言をする

 

「ち、違うぞ、耀。今のは十六夜が適当に言った言葉だ」

 

紫炎が弁解をしようと耀の方を向くと、耀は頬を膨らませて怒っている

 

「信じてくれ。俺が好きなのはお前だけだ」

 

「知ってる」

 

「へ?」

 

紫炎の言葉に耀は顔を横にそらして拗ねているように答えた

 

「私も紫炎の事が好き。けど少しプレッシャーかけたら全然私の事信じてくれないんだもん」

 

ぷんぷんという擬音が似合いそうなほど、耀は頬を膨らませて紫炎を怒る

 

「悪い、耀。確かに俺は自分の事で精いっぱいでお前の事を見れなかったわ」

 

紫炎がそういって耀を抱きしめると、耀は一転して幸せそうな表情を浮かべる

 

「紫炎。今回のゲーム、頑張ろうね」

 

「ああ。そうだな」

 

紫炎はそういって耀の頭を撫でてやる

 

すると、耀は緩み切った表情になる

 

(また完全に忘れられてるな。此処はゲームに集中させるために注意するべきか、放っておくべきか)

 

十六夜は全然関係ないことで悩んでいた

 

―――――――――――――――――――――――――

 

レティシア、ペスト、白雪、リリは水着を着て観客席で飲み物や凍った果物を売っていた

 

「くっ!神格保持者の私がこんな格好をするとは・・・」

 

「それを言うなら私もよ。別に水着じゃなくてもいいと思うんだけど」

 

白雪、ペストの新米メイドたちは現在の水着の姿に不満を漏らしていた

 

「おい、お前達。きちんとしろ。リリを見習え」

 

先輩のレティシアは麦わら帽子を深く被り、顔を見えないようにしているが、二人よりかは幾分真面目に働いている

 

「斑梨~、斑梨のジュースはいかがでしょうか?氷菓子もありますよ」

 

リリは二尾をパタパタと揺らして声を出していた

 

「それじゃあ一つもらおうかな。リリちゃん」

 

「ありがとうございます、紫龍さん」

 

リリが嬉しそうに買った人物の名前を呼ぶ

 

すると、その人物の名前を聞いた瞬間、白雪とペストは心底嫌そうな表情になる

 

「紫龍、お前は主催者として壇上に上がってるのではないのか?」

 

レティシアは自分が思った疑問をぶつけてみると、紫龍は疲れた様子で答えた

 

「白夜叉が『せっかくラプ子がおるのだから今回のゲームを映像で見えるようにしよう』って言いだしてな。碓氷がいないから俺がラプ子たちを絶好の場所に移動さして戦闘に巻き込まれないように炎で守るようにとか色々してきたところなんだよ」

 

紫龍の愚痴にレティシアが笑う

 

「何だ?」

 

「いや、昔はよくゲームの愚痴の言い合いをしていたなと思ってな」

 

「そういやそうだったな」

 

レティシアの言葉に紫龍が返すと、リリが狐耳と首を傾げていた

 

「あの、お二人はいつごろからの知り合いなんですか?」

 

実は紫龍は問題児と黒ウサギがいないときにちょくちょくノーネームに来ていたので、リリとはいくらか面識はある

 

リリはその時にレティシアと紫龍が会ったものだと思っていた

 

「結構前だよ。ちなみにレティシアだけじゃなくて君のお母さんとも会ったことはあるよ」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

リリが驚き、狐耳と二本の尾をパタパタと揺らす

 

二人の新米メイドも少しは驚いてる様だ

 

「アンタ、リリのお母さんにまで手を出してたの?」

 

「最低だな。リリ、危ないから隠れていろ」

 

・・・違う意味で驚いていたようだ

 

「お前ら俺を何だと思ってるんだ?」

 

「「変態」」

 

紫龍の言葉に二人のメイドが即答で返すと、紫龍は崩れ落ちた

 

「し、紫龍さん、大丈夫ですか?これサービスです」

 

「ありがとう、リリちゃん」

 

憐れんだリリが紫龍に斑梨を紫龍に渡す

 

紫龍はそんなリリを撫でてあげる

 

「そんな優しいリリちゃんにはプレゼントをあげるよ」

 

紫龍はそう言うと、爪で指に傷をつけ、ギフトカードからいくつかの鉱石を出した

 

そして、手から炎を出したと思ったら、すぐにそれを消した

 

すると、手の中には鉱石ではなく色鮮やかな宝石があった

 

「はい、どうぞ」

 

「宝石なんて高価なものもらえません」

 

紫龍が渡そうとすると、リリが狐耳をパタパタと揺らして断る

 

一方、メイドの二人はぽかんとした表情で紫龍を見ていた

 

二人は炎を恐れずに紫龍の手元を見ていたが、手品のようにすり替えたわけではなく、本当に鉱石から宝石を作り出したのだ

 

「素人の作ったものだから高くないよ。それでも受け取れないならノーネームへの寄付をリリちゃんに預けたと思ってくれればいい」

 

「素直に受け取っておけ、リリ。お前の為に作ってくれた宝石だぞ」

 

紫龍の言葉に戸惑っているリリをレティシアが背中を押してやる

 

「そ、それじゃあ・・・」

 

おどおどしながらリリは宝石を受け取る

 

「それじゃあ、俺はこれで。これ以上遅かったら白に何言われるかわからんからな」

 

「あ、ちょ」

 

ペストが声をかけようとすると、紫龍は逃げるように消えた

 

「なあ、レティシア。貴様はあの男と知り合いなのだろう?」

 

「ああ」

 

白雪も紫龍について疑問があるのでレティシアに聞くことにした

 

「あの紫龍という男、何者なんだ?」

 

「さあ?変態なんじゃないか?」

 

白雪の言葉にレティシアは先ほど二人のメイドが言った言葉を真似をして、言う

 

「ほら、そんなことを気にせずに売るぞ」

 

レティシアの言葉に白雪とペストは返す言葉もなかったので手伝いに戻った


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