問題児たちが異世界から来るそうですよ?―振り回される問題児―   作:gjb

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第七十七話

朝食を食べ終わった後、紫炎は耀と別れてリリが手伝っている店の手伝いをしていた

 

「リリ、シチュー作りに行ってくれ」

 

「はい、わかりました」

 

紫炎の言葉にリリが嬉しそうに裏に回った

 

「いや、よく働く娘だね」

 

この店の店主が紫炎に話しかけてきた

 

「ええ。あの娘はうちのコミュニティでも一番の働き者ですから」

 

「そうなのかい?それに君も良く働くねえ。顔も良くて料理も出来るんだからさぞモテるんだろ?」

 

店主が肘で小突きながら言うと、紫炎は少し照れる

 

「モテる、ってわけじゃありませんけど、彼女はいます」

 

紫炎がそう言うと、店主は残念そうな表情をする

 

「やっぱりそうか。独り身ならうちの娘を紹介したかったんだが・・・」

 

「それなら俺なんかどうですか?」

 

すると、どこからいきなりクリスが現れた

 

「・・・何の用だ、クリス。客として来てるならさっさと注文しろ」

 

「客じゃない。女の子を紹介してくれるって聞こえたから飛んできただけだ」

 

それを聞き、店主と紫炎は苦い顔をする

 

(・・・本物のバカだな)

 

すると、クリスの後ろから見知った顔が見えた

 

「紫炎にクリス、いいところにいた。今、忙しいか?」

 

碓氷が少し息を切らして来た

 

「こいつは暇だ」

 

「なんだ?俺に頼みごとか?何でも言ってみろ」

 

いつもより鬱陶しいテンションのクリス

 

「紫炎はどうだ?」

 

「いやいや、俺が手伝うって言ってるだろ?」

 

クリスを無視して碓氷は紫炎に話しかける

 

「俺は・・・」

 

「別に行ってきてもいいよ。もうそろそろ無料の立食が始まるからね。リリちゃんもちょうど抜けるし」

 

紫炎が断ろうとすると、店主が勝手に答える

 

「それじゃあ、手伝ってくれ」

 

「ちっ、わかったよ」

 

面倒臭そうに紫炎が言う

 

すると、裏からなにやら音がした

 

「・・・悪い。ちょっと先に裏を見てくる」

 

リリの事が気になり、碓氷に一言告げて裏に行った

 

「リリ、だいじょ・・・」

 

すると、目に飛び込んできたのは愛しの彼女である耀と気絶している飛鳥と女性店員だった

 

「何があったんだ?」

 

紫炎がとりあえず説明を求めると、いきなり耀が紫炎の手を握る

 

「飛鳥達が起きる前に早く行こう」

 

そういって耀はリリと紫炎を連れて飛び立った

 

「余程腹減ってたんだな、春日部の奴」

 

取り残された十六夜がそう言うと、碓氷達がやってきた

 

「紫炎、おそ・・・って何で彼女たちは気絶してるんですか!?」

 

碓氷が飛鳥達が気絶しているのを見て驚きの表情をする

 

「説明するのが面倒臭い。お嬢様でも起こして聞きな」

 

十六夜がそう言うと、その場から去っていった

 

碓氷もとりあえず飛鳥を起こして事情を説明してもらうことにした

 

「飛鳥さん。起きてください」

 

「う・・・ん。・・・碓氷君?」

 

目を覚ました飛鳥は目の前に碓氷がいることに少し困惑する

 

「大丈夫ですか?」

 

「え、ええ」

 

「すいませんが何が起きたか説明してもらっていいですか?」

 

碓氷の言葉に飛鳥は簡潔に事情を説明する

 

狩猟のゲームが終わった後、女性店員が耀にある生物を探すように頼んで一緒に探していたが、耀がしびれを切らしてここに急降下したらしい

 

「なるほど。だから紫炎もいないのか」

 

碓氷が納得していると、頬を腫らしたクリスが話しかけてきた

 

「ダメだ、碓氷。あの人結構ガードが固い」

 

そういってクリスは女性店員の方を指さす

 

「お前は何やってんだ」

 

「綺麗な人がいたらナンパするのが普通だろ」

 

クリスが堂々と言うので、碓氷は頭を抱える

 

「碓氷。もう見つけましたか?」

 

「いえ、まだですけど、クリスには手伝ってもらうようにはなりました」

 

碓氷がそう言うと、女性店員はとても嫌そうな顔をする

 

(何を言ったらこんな表情をださせれるんだ)

 

碓氷がそう思ってるとクリスが口を開いた

 

「探すのは二人一組にしませんか?それなら見落としもなくなると思うんですが・・・」

 

クリスの言葉に女性店員が大分嫌そうな表情をするが、仕方がないといったため息をつく

 

「分かりました。それじゃあ・・・」

 

「飛鳥さん、一緒に行きましょうか」

 

女性店員の言葉を聞いた瞬間、クリスが飛鳥の手を握る

 

「それじゃあ、碓氷君について行こうかしら」

 

飛鳥はクリスの手を払い、碓氷の手を持つ

 

「分かりました。それでは」

 

そういって碓氷は飛鳥の手を持って二人に一礼をしてその場から去った

 

「それでは・・・」

 

「私は一人で探しに行きます」

 

クリスが女性店員の方を向いた瞬間、彼女はそう告げて逃げるように去っていった

 

「・・・帰って寝るか」

 

一人取り残されたクリスは一人そうつぶやいて自室に戻った

 

――――――――――――――――――――――――

 

一方、飛び立った耀たちは立食会の場所へと来ていた

 

耀は人前なのか、いつもより少し遅いペースで食べているが、それでも早い

 

「な、なんだ、あの速さは?何かのギフトの類か?」

 

「いや、あれはそんなんじゃねえ。噛んで飲むのが異常に早いんだ」

 

「十年前の英雄を思い出させてくれるぜ。食糧庫からありったけもってこい!」

 

この料理人の言葉に他の料理人も気合を入れる

 

「おい、耀!様子見はもう終わりにしたらどうだ」

 

料理人の言葉が聞こえた紫炎は耀にそう言いかける

 

紫炎の言葉を聞いた耀はゆっくり食べることを止め、遠慮なしに食べるスピードを上げる

 

「・・・えっと」

 

リリは困惑した表情で紫炎を見る

 

「頑張れ、耀!」

 

「おう、嬢ちゃん頑張れ!」

 

「料理人、だらしねえぞ」

 

しかし、紫炎はそれを気にせずに耀の応援をし、周りの空気もそれに応じて熱くなっている

 

自分のツッコミで場を白けさしてはいけないと思い、立食会を諦めて年少組の面倒を見に行こうと、人の輪から出た

 

すると、その場にそぐわない冷めた声が聞こえてきた

 

「何だ?このバカ騒ぎは?」

 

「ノーネームの屑が意地汚く食事をしてるだけですよ」

 

「普段から碌に食事をとれていないんだろう。まあ、名無しである以上、この栄光も一時のものだろう」

 

「違いない。如何なる功績を積み上げようとも名無しに降り注ぐ栄光などありはしないのだから」

 

「そんなことはありません!!」

 

仲間を侮辱され、リリは普段とは比べ物にならないほどの大声を出した

 

――――――――――――――――――

 

「頑張れ、耀!」

 

紫炎は耀の方に向いて応援していた

 

「ほら、リリも・・・」

 

一緒に応援しようか、と言おうとすると、リリがいないことに気づく

 

(やばい。早く見つけないと)

 

紫炎はそう思って移動しようとする

 

「そんなことはありません!!」

 

すると、今から探しに行こうとした少女がいままで聞いたことがないような大声が聞こえた

 

何か嫌な感じがしたのだろう、耀も食べるのを止め大声が聞こえた場所に移動する

 

―――――――――――――――――――――

 

リリが大声を出したことでその場にいたほぼ全員が耀の食事からそちらに注目が集まった

 

「何だ?この狐の娘は?」

 

「私はノーネームの者です。同士に対する侮蔑の言葉、確かに聞きました!直ちに謝罪をしてください!!」

 

リリはそういって頬を真っ赤に染め、狐耳を逆立てて激怒する

 

しかし、取り巻きの一人が前に出て口を開いた

 

「ふむ。君の身分は分かった。しかし、君はこの方が誰だか分かってるのか?この御方は二翼のコミュニティのリーダーにして幻獣ヒッポグリフのグリフィス様ですよ?」

 

取り巻きの言葉を聞き、リリは一瞬たじろくが、すぐに言い返す

 

「そ、そんなことは関係ありません!私は侮辱の謝罪を求めてるんです!!」

 

「ふん。ノーネーム如きに頭を下げていたらわがコミュニティの品が落ちてしまうわ」

 

グリフィスと呼ばれた男が尊大な表情でそう答えると、人ごみから紫炎と耀が出てきた

 

「如きとは好き勝手言ってくれるな」

 

二人の姿を見てリリは少し涙目になって二人の方に来た

 

そして耀が優しくリリを撫でてあげる

 

「とりあえず話は全部聞こえてきた」

 

「それがどうした?貴様も謝罪を求めろとでも言うのか?」

 

紫炎が出て来ても人を侮蔑した態度で話す

 

「いや、そんなことしなくてもいいぜ」

 

紫炎の言葉に周りやリリはもちろん、グリフィスの取り巻きも驚いている

 

しかし、グリフィスだけはそれが当然と言った態度で口を開いた

 

「ふん。ようやく自分の立場が分かったか」

 

「いや、違うよ。お前如きの言葉なんてなんとも思っていないだけだよ」

 

しかし、紫炎はグリフィスの態度を真似て言葉を返した

 

「貴様!グリフィスの様になんて口のきき方だ!!」

 

すると、グリフィスの取り巻きが戦闘態勢を取る

 

それを見て耀も生命の目録を白銀のブーツに変えて、戦闘態勢に入ろうとするが、それを紫炎が手で制す

 

「こんな奴らにお前まで出る必要はないよ」

 

それを聞いた瞬間、挑発と受け取った全員が一斉に襲い掛かる

 

紫炎も右手に炎を纏わせて迎え撃とうとする

 

「何をやっている、貴様ら!!」

 

すると、騒ぎを聞きつけてやってきたサラが大声をあげる

 

「彼らは私がゲストとして招いている。無礼は許さんぞ」

 

凛とした態度でグリフィスたちに向かって言い放つが、彼らの態度はあまり変わらなかった

 

「ふん。ノーネームをゲストに呼ぶなど、恥さらしでしかない。そんなざまだから議長の座も降ろされるのだ」

 

「どういうこと?」

 

今まで黙っていた耀だったが、サラが議長を降ろされると聞いて口を開いた

 

「そのままの意味だ。自分の龍角を切って霊格を落とすという愚かな行為をしたのだからな」

 

「サラは愚かじゃない」

 

グリフィスの言葉に怒った耀が前に出る

 

「おい、貴様!次期議長候補であられるグリフィス様になんて口のきき方だ!」

 

「冗談は止せよ。名無しの子供と言い争う低レベルな奴が議長になったらサラが命がけで守ったアンダーウッドが一日で潰れちまう」

 

「小僧!!」

 

紫炎の挑発に乗った取り巻き達が紫炎に襲い掛かる

 

「お前達!」

 

サラがまた大声を出して止めようとしたが、全員それを聞かずに紫炎に襲い掛かる

 

紫炎は避けようともせずにそのまま攻撃を受ける

 

「お前ら、拳を振るうってことは、それ相応の覚悟があるんだな?」

 

紫炎は攻撃が全然効いていない様子で口を開く

 

すると、その瞬間、紫炎を攻撃した取り巻き達の腕が一斉に燃え出した

 

「おい、紫炎!」

 

「心配すんな。威力は押さえてある。それよりも心配なのはあっちの方だぜ?」

 

紫炎がそういって上を指さすと、耀とグリフィスが対峙していた

 

「なっ!」

 

「今の耀があいつに手加減するとは思えないぜ」

 

紫炎の言葉を聞いたサラはすぐに耀を止めに行こうとするが、紫炎に止められる

 

「悪いけど、これはノーネームと二翼の問題だ。責任問題を問う場ならまだしもこの場では手を出させるつもりはない」

 

紫炎の言葉にサラが言い返そうとしたが、紫炎の冷たい瞳を見て黙ってしまう

 

「最悪の事態になる前には止めるつもりだ。けど、俺らの恐ろしさを少しは知ってもらいたいものだ」

 

紫炎はそういうと、口角を少し上げる

 

紫炎が言い終わったのが合図かのように二人が動く

 

二人が激突する瞬間、声が響いた

 

「そこまでや」


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