問題児たちが異世界から来るそうですよ?―振り回される問題児―   作:gjb

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第五十話

談話室を出た紫炎は、自分の部屋で考え事をしていた

 

(あの時、紫龍に言われて初めてあの時の記憶が曖昧なのに気が付いた。でも、なんであいつはそう思ったんだ?俺の記憶がない時に何かあったのか?)

 

紫炎は答えが出ずに頭を抱えている

 

すると、少し離れたところから凄い音が聞こえた

 

「な、なんだ?」

 

紫炎が外を見てみると、巨人が宿舎を殴ってるのが見えた

 

(あそこは、確か耀たちが泊まってる場所に近かったはず・・・)

 

紫炎は窓から外に出て、炎翼をはばたかせ、巨人に一気に近づいた

 

そして、日本刀で一気に切り落とした

 

「大丈夫か!?」

 

「う、うん」

 

「YES!ありがとうございます、紫炎さん」

 

「ありがとう」

 

耀、黒ウサギ、飛鳥の無事な姿を見て、紫炎はホッとする

 

すると、間髪入れずに巨人が三体、落下してきた

 

飛鳥がそれを見てギフトカードを取り出す

 

「だ、駄目です、飛鳥さん。地下都市で、巨人とディーンが暴れたらめちゃくちゃになってしまいます」

 

黒ウサギが慌ててそれを制す

 

「じゃあ、どうすればいいのよ!」

 

「紫炎さんと耀さんと共に地表へ。都市内は黒ウサギにお任せください」

 

そう言って、黒ウサギは巨人の方にかけて行った

 

「黒ウサギ、大丈夫かな?」

 

「あいつ一人なら集中狙いされたりして分からんが、他にも人がいるんだ。大丈夫だ。耀、飛鳥を頼むぞ」

 

紫炎がそう言って一気に地表に出る

 

そこには二百人前後の巨人と、アンダーウッドの住人による“戦争”が始まっていた

 

巨人一人にこちらは十人ほど、人数をかけて戦っている状態だ

 

それでも人数で勝るアンダーウッド側が優勢に見えるが、混乱した戦場で統率がとれなくなっていた

 

(サラはどこに行ったんだ!?議長のあいつならこの混乱もどうにかなるはず・・・)

 

紫炎が周りを見ていると、耀が近づいてきた

 

「紫炎!」

 

「耀か。サラを探してく。この混乱した戦場を収めさせたいんだが・・・」

 

「サラならあそこにいるけど・・・」

 

耀が指さした方向を見ると、サラは他の巨人より少し小柄な巨人三体と戦っている

 

戦い方を見ると、小柄だがあの三体が主力のようだ

 

「お前らは普通の巨人を相手にしてろ。俺は向こうに加勢する」

 

紫炎はそう言うと猛スピードでサラの方に向かった

 

「よっと」

 

紫炎は巨人の顔を踏み、加速を止める

 

「サラ!お前は連盟の指揮をとれ。ここは俺がやる」

 

「だ、だがお前一人では・・・」

 

サラの言葉の途中で巨人の一体が紫炎に向かって剣を振り下ろす

 

紫炎は冷静に剣ごと巨人の腕を切り落とす

 

「これぐらいなんでもない」

 

「そ、そうか・・・。なら任せるぞ」

 

サラがそう言って飛翔し、連盟に激励の声をかける

 

「よし、やるか」

 

そう言って紫炎は炎を全身に纏う

 

すると、どこからかポロン、という音が聞こえた

 

その音が聞こえた瞬間、あたりが霧に包まれた

 

「何!!」

 

いきなり視界がゼロになり、わずかに隙を見せる紫炎

 

そこに巨人が拳を当ててくる

 

「まともに食らってたらやばかったかもな」

 

それを紫炎は左手一本で微動だにせずに受け止める

 

「それじゃあ、試し切りさせてもらうぜ」

 

紫炎は巨人の腕を伝い、顔の前まで行き、剣を振り下ろした

 

「ウォォォォオオオオ」

 

巨人は断末魔をあげ、真っ二つになる

 

すると、もう一体の巨人が斧を振り下ろしてきた

 

「お見通しだ。デカブツ」

 

紫炎は炎を薄く放出し、周りの状況を把握している

 

体をひねり、剣で斧をかち上げる

 

先ほどのように何の前触れもなく、不思議なことが起き無い限り巨人たちには紫炎に触れられない

 

「そっちか」

 

紫炎はニヤリと笑い、斧が振り下ろされた方へ飛び、巨人を横一線に切る

 

「弱すぎるぜ、お前ら。ちっとは楽しませろよ」

 

紫炎は久々の戦闘で回りの音などには気が付かずにいた

 

そして、最後の装飾が施された巨人は直接手で触れて燃やし尽くした

 

ちょうどその時にグリフォンたちが巻き起こした突風により、霧が晴れた

 

するとそこには、紫炎が倒した三人以外が同一の殺害方法で倒れていた

 

「一体誰だ?弱いとはいえ、この数をあんな短時間で・・・」

 

紫炎が呟いていると、ある人物を見つけた

 

顔の半分を仮面で隠し、ドレススカートと鎧をつけていた

 

恐らくそれらは白を基調としてたものだろう

 

「あいつか・・・」

 

確信を持ってその人物を睨む

 

なぜなら、その人物は全身を巨人の血で赤く染めていたからだ

 

耀たちとその人物が何やら話しているのを見た紫炎は、その人物が去った後二人の元に戻った

 

「お前ら無事だったか?」

 

「ええ」

 

「うん」

 

紫炎の言葉に少し苦々しく答える二人を見て不思議に思ったが、機嫌を取り戻してもらうために続ける

 

「ま、まあ無傷でよかった。巨人くらい楽勝ってことだろう」

 

紫炎の言葉を聞き、飛鳥は顔を逸らし、耀は紫炎の渡したペンダントを握り俯く

 

すると、飛鳥が口を開く

 

「紫炎君も無傷みたいね」

 

「あ、ああ。まあな。俺の相手は三体だけだったし」

 

自分を下げて二人に元気を取り戻してもらおうとする紫炎

 

「主力三体を相手にして無傷ね」

 

飛鳥が自分で反芻し、耀と二人で項垂れる

 

「やっぱり紫炎は強いね」

 

(私なんて普通の巨人一体にすら勝てなかったのに)

 

それをみて紫炎は、二人の頭を乱暴に撫でる

 

「い、痛い」

 

「何するのよ!」

 

いきなりの事に耀は頭を押さえ、飛鳥は怒りながら紫炎を見る

 

「何、落ち込んでんだ。お前らにはお前らのいいとこがあるんだぜ」

 

その言葉を聞き、耀はもちろん飛鳥も顔を赤くする

 

「な、何でいきなりそういうことを言うのよ!」

 

「不意打ちは卑怯」

 

「へ?何が?」

 

何の事だか分からない紫炎を見て、少し呆れた目で見る二人

 

「もういいわ。それより彼女・・・強いわよ」

 

飛鳥が先ほどの仮面の女性が去って行った方を見ながら言う

 

すると、安全を知らせる鐘が鳴り響いた

 

「とりあえず大丈夫みたいだな。宿舎に戻ろうぜ」

 

「・・・・・・・・あっ」

 

紫炎の言葉を聞いた耀が何かを思い出したような声を出す

 

それを不思議に思った紫炎が口を開く

 

「どうし・・・うわっ」

 

「きゃ」

 

耀は紫炎の言葉も聞かずに旋風を巻き上げ、凄いスピードで地下都市に戻って行った

 

「マジでどうしたんだ?」

 

いきなりの事で考えの追いつかない紫炎

 

「そんな事言ってないで早く追うわよ」

 

「おっとそうだった」

 

飛鳥の声で紫炎が耀を追おうとする

 

「ちょっと待ちなさい。私も連れて行きなさい」

 

「あ、忘れてた」

 

紫炎は飛鳥を担ぎ、地下都市に戻ると、黒ウサギがやってきた

 

「あ、紫炎さん。サラ様が今回の事でお話があるそうなので着いて来てください」

 

「え。でもな・・・」

 

紫炎が宿舎の方を見る

 

「大丈夫よ。私が代わりに探しておくわ。あなたご指名なんだから早く行ってきたら?」

 

飛鳥が軽く笑いながら言ってくる

 

「・・・わかった。それじゃあ行ってくる」

 

そうして紫炎は黒ウサギの後をついていった

 

――――――――――――――――――

 

本陣に着き、サラの話を聞いた紫炎達

 

「十年前の魔王の残党か」

 

「しかし、あの巨人族は一体どこの巨人族なんでしょうか?あの仮面、どこかで・・・」

 

その言葉を聞き、サラがゆっくり口を開く

 

「あいつらは箱庭に逃げてきた巨人族の末裔の混血だ」

 

「やはり」

 

黒ウサギは確信があったのか、頷く

 

「箱庭の巨人族は多くが異界からの敗残兵だ。その経緯から基本的に戦いを避ける、穏やかな気性なのだが、五十年前に“侵略の書”と呼ばれる魔導書を手に入れた部族が巨人族を支配し始めたのがきっかけだ」

 

それを聞き、黒ウサギの顔が険しくなる

 

「もしかしてそのゲーム名はLabor Gabalaと呼ばれるものでは?」

 

「知っているのか?」

 

「ウサ耳にはさんだ程度ですが、別名“来寇の書”と呼ばれ主催者権限で土地を賭けあうゲームを強制できる書だとか」

 

「そうだ。それで奴らはコミュニティを大きくしていった」

 

「だが、戦いに敗れ滅んだ」

 

いきなり、ドアの方から声が聞こえたので振り返ってみると紫龍が立っていた

 

周囲の目を気にせず続ける紫龍

 

「元々穏やかな性格なら敗れた後、なんでここを狙い続けるのかな?」

 

おどけて言う紫龍だが、目はサラをしっかりと見据えていた

 

それを聞き、サラは後ろの連盟旗をめくりそこの金庫から人の頭くらいの岩石を取り出した

 

「この瞳が原因だ」

 

「瞳?ただの岩石のように見えるが・・・」

 

紫炎が見たまんまの感想を言う

 

「巨人族に瞳・・・。まさかバロールの死眼か?」

 

「良く分かったな。その通りだ」

 

紫龍の推測にサラが肯定で返す

 

それを聞き、ジンと黒ウサギが驚く

 

「バ、バロールの死眼!!?」

 

「ご、ご冗談を!?見るだけで死を恩恵を与えると言われる魔王の瞳じゃないですか!!?」

 

それを尻目に紫炎が口を開く

 

「そんな強力なもんがあるなら一回の襲撃で諦めるはずないな。だから俺らを呼んだのか?」

 

紫炎の言葉にサラは首を縦に振る

 

「それは我々もですか?」

 

ジャックが不安そうに聞いてきた

 

彼らウィル・オ・ウィスプのメンバーは戦闘力は高いものの、本来は物作りのコミュニティ

 

ペストの時のように巻き込まれたならともかく、自ら手を出すのは主義に反するらしい

 

「奴らはギフトゲームではなく、直接侵略行為をするような無法者。それなら我々部外者ではなく、階層支配者に相談するのが筋、というものでは?」

 

クリスが反論するとサラが苦い表情をする

 

「今、南側には階層支配者はいないんだ。黒死斑の魔王が東側を襲った同時期に南側にも魔王がきたらしくてね、その時に討たれたらしいんだ」

 

相も変わらず軽い口調で言う紫龍

 

すると紫龍の後ろからあの少年が現れた

 

「私たちはサラ様が白夜叉様に南側の階層支配者の選定を頼まれましたが、そうそう相応しいコミュニティがいるわけでもございません。なので、龍角を持つ鷲獅子連盟の五桁昇格と階層支配者の就任を同時に行うことを白夜叉様から持ちかけたのです」

 

少年はそう言うと自分の出番が終わった様で、一歩下がる

 

「南側の安寧の為だ。両コミュニティにも力を貸してもらえないだろうか?」

 

「そうは言われましてもねえ・・・」

 

事情を聴いても渋るジャックを見てサラはバロールの死眼に手を載せた

 

「多くの武功を立てたコミュニティにはこのバロールの死眼を譲渡しようと思う」

 

「は・・・・?」

 

いきなりの事で言葉を失うジャック

 

「ウィラ=ザ=イグニファトゥスは生と死を行き来する力があると聞く。ならば我々の元で腐らせるよりそちらで力をふるった方が有益だろう」

 

「おっしゃる通りですが、我々以外のコミュニティに渡ったときはどうするのですか?きっと我々以外に使いこなせるものなど・・・いないと思いますよ」

 

ジャックはそう言いながらノーネームメンバーの方を見た

 

「安心してほしい。これを譲渡するのは此処にいるどちらかのコミュニティに限らせてもらう」

 

「ぼ、僕たちにもですか!?」

 

「し、しかし黒ウサギ達の同志には適性を持ってる人はいないと思いますよ?」

 

二人の言葉に何か思い出したようなサラ

 

「すまない。これを白夜叉様から預かってたのを忘れていた」

 

そう言ってサラは小箱を渡してきた

 

「なんだそれ?」

 

「これはお前たちが黒死斑の魔王のギフトゲームの勝利条件を全て満たしてクリアしたことによる特別恩賞だ」

 

それを聞き、ジンが小箱を開くとグリムグリモワール・ハーメルンの旗印が刻まれた指輪が入っていた

 

 


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