.E.70年2月8日
サハク家屋敷の庭で、久しぶりに家族四人が揃って優雅にティータイムを楽しんでいた。
「戦争は既に避けられない、そして我が家にとってはチャンスだ。しかし今更だがソロモンの戦力はやり過ぎた。反省も後悔もしてないけど。」
ロイが溜め息をつきながら言った。
「あれか、バレたら世界が敵に回るだろう、隠蔽は大丈夫なのか?」
「問題ないよ姉さん。要塞のAIは高い、ハードウェアは8世代後の物を使ったんだし、補給とかもいらないから、出入口はすべて封鎖してある、忍び込むのは無理だ。それに今は誰もあんな所に目を向けないよ。」
「すべてがロイの言った通りになっている、そして計画も順調だ。サハクが表舞台に出るのも時間の問題だな。はっはっはっ」
すべてが順調なので、コトーがここまで喜ぶのも無理はない。
「そろそろ時間、本題に入ろう。」
ギナの一声で4人とも顔を引き締めた。
「大体あと2時間でクライン親子が来る、おそらく我々の支援が欲しいのだろう。シーゲルがラクス・クラインを交渉の席につれ出すのは初めてだ。ロイを狙っている可能性もある、気をつけろ。」
ロイはラクス・クラインが敵になる可能性が高い事を知っいる、気を許すことはあり得ないだろう。
「では報告を聞こう、まずは外部担当のギナから。」
「ザフトのNジャマーは既に完成し、かなりの数を揃えた。地球全土をカバーすることもできる、時を見て使うつもりだろう。我らのコロニーとオーブはには問題ない、コロニーは太陽発電と核融合発電でオーブは地熱発電だ、核分裂を抑制しても影響は少ないだろう。ザフトのMSはバリエーションが揃った。宇宙でのジンとシグー、海でのグーンとゾノ、空でのディン。連合はこれらに苦戦するであろう。」
「兄さん、Nジャマーキャンセラーの情報はある?」
「ない、当分は開発する理由もないからな。」
「わかった、次は姉さんだね。」
「うむ、国内の反体制側の人数は思ったよりも多かった、他の氏族どもが権力を乱用しているらしい。五大氏族は問題ないが、幾つかの下級氏族が隠しきれ無い身内の犯罪を無理やりもみ消し、今では公然の秘密になっているとか、コロニーへの移民は増えると思われる。国内のスパイはかなりの数を狩った、特に家はまだマシだがモルゲンレーテのスパイが多すぎた、これからは戦時ともあって防諜レベルも上がるから、特に心配はいらない。そしてヤラファス島で連合の強化兵士実験施設を発見、それを封鎖した。キオウ家が絡んでいる可能性大だが、証拠が無かった。なお検体のステラ・ルーシェは保護している。」
ぶぶっ。ロイがこれに紅茶を吹き出した。
「ちょ、姉さん、その子ってまさか金髪の女の子?」
「そうだが、何か問題があるのか?」
「マジかよ...いえ、些細な事です、後にしましょう。」
「うむ、それとつぎはお前だ、ロイ。」
「はいはい。コロニーは目標の22基か完成、戦火を恐れる人たちが移民を開始しています。C.Bコロニー本部ではサハクの主力兵器、VF17の試作機が完成、テストが済み次第改良、量産するとのこと。連合とプラントに販売する兵器も準備が完了しました。それとサハク財閥のほぼ全ての企業の本部をコロニーに移しました。これで移民さえ揃えば国家として独立できます。」
「聞けば聞くほど全てが順調だな、いい事だ。クライン親子との会談は私とロイが行く。人数が多いと威圧しているように思われるからな。」
「分かりました」「うむ」「解った」
「じゃあ兄さんはC.Bにソーラーシステムの建造を伝えてくれないかな、姉さんはベースマテリアルの買い溜めを指示して欲しい、あれはNJCに欠かせないレアメタルだからね。私と父さんは今から会談に行くから。」
4人はそれぞれの役割をはたすために離れた。
明るい応接室に二人のオッサン、少年一人と絶世とも言える美少女がソファに座っていた。
「プラント最高評議会議長のシーゲル・クライン、隣は娘のラクスだ。」
「サハク家首長及びサハク財閥総帥のコトー・サハクと次期首長のロイ・サハクだ。」
二人はまず握手した。
「しかし議長も大変だったでしょう、コペルニクスの事件、地球連合の設立、オーブの中立宣言、この一週間はご多忙だったでしょう。」
「それはミスター・サハクも同じでしょう、忙しい中時間を作ってもらって感謝します。」
「して今日はどの様なご要件で?」
「では率直に言いましょう、我らプラントの独立を支援して欲しい。」
コトーは茶を一口飲み、答えた。
「はっきりと言いますな、しかしそれでは見返りがない。」
オーブが既に中立宣言したが、サハク家がプラントを支援するのは法律上問題はない。しかし連合がそれを口実にオーブに干渉することは可能だ、そのリスクは大きい。それにサハク財閥の技術は事実上プラントを超えている、ロイがいるので技術で遅れを取ることはないだろう。つまりプラントが出せる対価がない。
「確かにサハク財閥の技術レベルはプラントに迫るものがある。しかし、それも小型の精密機械だけだ、それだけでは国は守れない。」
「!ほう、それはプラントが軍事技術を渡す用意がある、と解釈してもよろしいかな?」
「交渉次第ではお互い満足するものが得られるでしょう。」
C.Bの最新兵器はVF17のスペックはかなり高い、しかし完成したばかりなので情報は出回っていない、そしてVF17の正式配備もまだ時間がかかる。総合で言えばZAFTの方が技術力は高いだろう。もちろんそれは表の話、実際ではソロモンにガンダムXXとかターンエーガンダムとか、チート戦力がある。
当然それらは隠す必要がある、機が熟すまで。
「C.Bが開発したMTヒルドルブはみましたか?あれはMS開発の中継点と考えてもらって結構です。戦争が始まれば技術はいやでも漏れる、はっきり言ってそちらから貰う必要がありません。」
はあ、溜め息をつくシーゲル、それがどう言う意味か、直ぐに解った。
「ニュートロンジャマーを御存知ですか?」
NジャマーはZAFT最高機密だ、ここで持ち出すということは、それを持って脅迫するつもりなのだろう。
ここでロイが初めて口を開けた、ちなみにラクスは知識不足で内容が理解出来なかった。
「もちろんよく知っています、地熱に頼れるオーブは問題ないこと、そしてそれを使えば連合との講和が不可能になることも。」
さすがのシーゲルもこれには腰を浮かせた、“地熱”という言葉から相手がNジャマーを完全に把握していることが解った。
「さすがだ、帰ったら情報管理を見直さないとな。」
最高機密を知られたことも問題だが、先程の一件で交渉が破綻することはもっとまずい、最悪の場合連合側につくかもしれない。C.Bの兵器は汎用性が高く性能もいい、MS以外の兵器を一部C.Bから買うつもりでいる、ライセンス生産出来ればなおいい。
「まあ、我々は飽くまでも中立だ、適正価格での貿易なら歓迎しよう。」
助け舟をだしたのはコトーだった。
「プラントもオーブとは仲良くしたい。共に戦えないのは残念だが、プラントとオーブは良き友であることを願う。」
シーゲルは会談を終わらせるためにそう言った。
結局ラクスは何も話さなかった。
その後クライン親子は直ぐにプラントへ戻った、最高評議会議長はやはり忙しいらしい。別れの際、ラクスとロイが握手をしたが、自分の笑顔に動揺しないロイを見てちょっとご機嫌ななめになった。