公太郎はトラウマ   作:正直な嘘吐き

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三話

 駒王学園に転入してから数日。

 

 俺は誰もいない部室のソファーで、横になって寛いでいた。

 

 何故誰もいないのかは知らん。来た時には既にいなかったのだ。

 

 悪魔なだけあって彼女らの主な活動時間帯は夜。暇だから俺も夜の部室に来させてもらっているわけだが、やっぱり眠い。

 

 まあ日付が変わった頃に、サンデーやらなんやらの漫画を買うついでに来てるからいいんだけど。

 

 眠気覚ましにエリクサーを一発。

 

 エリクサーは色々と回復できるから便利だ。傷や疲れ、状態異常の回復まで。はては精力まで回復できるのだから驚きである。

 

 VP1では体力最大値の半分を回復。VP2では状態異常の回復という風に効果が変わっていたエリクサーだが、俺の生成したエリクサーはその両方の効果を持ち合わせている素敵仕様だ。

 

 チート乙。いやホントに。

 

 オカルト研究部の面々もグレモリー部長をはじめ、皆いい人ばかりだ。

 

 リアス・グレモリー。

 

 三年生で、学園のアイドル。すんごい人気者。オカルト研究部の部長で本物の悪魔。『(キング)』。

 

 姫島朱乃。

 

 三年生で、学園のアイドルその二。かなりの人気者。グレモリー部長と併せて『二大お姉さま』と称されている。役割は『女王(クイーン)』。

 

 『女王』は『王』の次に強く、『兵士(ポーン)』、『騎士(ナイト)』、『僧侶(ビショップ)』、『戦車(ルーク)』、それら全ての力を兼ね備えたとにかくすんごい駒らしい。

 

 塔城小猫。

 

 一年生で、こちらはアイドルではなく学園のマスコット的な位置づけ。こちらも人気者。役割は『戦車』。

 

 『戦車』の特性は高い攻撃力と防御力が持ち味だとか。肉壁ですね、わかります。

 

 木場祐斗。

 

 俺や兵藤くんと同じ二年生。学園一のイケメン。爽やかスマイルと甘いマスクが売りのムカツキ野朗。そして剣フェチ。役割は『騎士』。

 

 『騎士』の特性はスピード。なんか早い。以上説明終わり。

 

 そして最後に彼、兵藤一誠。

 

 前述の通り二年生。スケベ小僧。そのエロさは、学園内でもある意味有名。仲間があと二人いるらしい。悪魔なりたて。役割は『兵士』。

 

 この時の『兵士』だと言われた兵藤くんの表情は中々に見物だった。

 

 ――あからさまにガッカリしてたからな……。

 

 『兵士』の特性は――はて、なんじゃったかのう。ああそうだ、まだこれについては説明を受けていなかったんだ。

 

 以上の五名がオカルト研究部のメンバーである。

 

 一人だけ毛色の違う者が混じっているが、学園の有名人が揃い踏みという凄まじい部活だ。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 メンバーの帰りを待ちながら、俺がソファーに寝そべったまま、漫画ゴラクに手を伸ばした時のことだ。

 

「うおっ!? なんぞ!?」

 

 突然部室の魔方陣が(まばゆ)い光を放つ。

 

 魔方陣の急な発光にてんやわんやしてしまったが、そういえば以前グレモリー部長から聞いたことがある。

 

 悪魔とは自らを召喚した人間と契約を交わし、それ相応の代価をいただく。そうやって力を蓄える存在だと。

 

 部室の魔方陣は転移用のものであり、それを通って依頼主の元へ瞬間移動するんだとか。

 

 契約が終わり次第この部屋に戻してくれるという親切設計付き。

 

 ということは誰かしらが契約を終え、帰って来たのだろう。

 

 思えばこうして誰かが魔方陣を通って帰ってくるのを見たことがなかったな。

 

 さてさて、誰が帰ってきたのやら。

 

 光も収まり、魔方陣を見やるとそこには――俺を除くメンバー全員の姿があった。

 

 ――そうですか、俺は除け者ですか。そうですよね、俺は悪魔ではありませんもんね。

 

 なんて不貞腐れそうになるが、彼女らの様子を見てそんな思いは霧散する。

 

 なにやら皆切羽詰った様子で、その上兵藤くんが怪我をして倒れ込んでいたからだ。

 

「兵藤くん!?」

 

「九々! 急いでエリクサーを生成して!」

 

 生成するよりもこっちの方が早い!

 

「キュア・プラムス!」

 

 キュア・プラムス。

 

 体力最大値の80%を回復してくれる優れた回復用の呪文だ。

 

 その上使用者を含めた味方全員を回復してくれるのだが、あろうことかこの呪文、敵キャラまで使ってくるのだ。

 

 ダンジョン内をうろついているような雑魚が使ってくるならともかく、ボス級の敵が使うのは本当にやめてほしい。

 

 ブラッド・ヴェイン。お前だよお前。ついでにアズタロサ。

 

 ――あともう少しで倒せる! いやー長かっ『キュア・プラムス!』

 

 となり、絶望させられたプレイヤーは多数いることだろう。

 

 まあスキル『ガッツ』と『オート・アイテム』を装備してれば楽勝なんですけどね。

 

 閑話休題。

 

 淡い光が兵藤くんを包み、その怪我を癒す。とりあえずこれで粗方回復しただろう。

 

 俺が呪文を使っている姿を見て、驚いた様子のオカルト研究部の面々。

 

 ――ふっ、また驚かせてしまったか……。

 

 内心でカッコつけてみたりするが今はそんな場合ではない、兵藤くんの怪我についてだ。

 

「……九々崎くん、魔法も使えたんですね」

 

「というよりはこちらがメインなんですよ、俺は」

 

 姫島さんにそう返す。しかしメインというの大嘘である。

 

 だがセラフィックゲートにいた頃、諸事情により錬金術師にして死霊術師という二足の草鞋(わらじ)をはきこなす天才にして変態の、レザー……フラれストーカーから失伝魔法(ロストミスティック)を教えてもらい、これを修めることができたのだ。

 

 メインと言い張っても問題はないだろう。

 

「それよりも、一体何があったんですか? 兵藤くんの怪我といい、ただ事ではなさそうですが……」

 

 この発言で部室の空気が重苦しくなる。こりゃあマジで何かあったな。

 

 姉さん、事件ですってか?

 

「イッセーがはぐれエクソシストと出くわしたのよ」

 

 はあ、はぐれ悪魔の次ははぐれエクソシストですか。

 

 まあ世の中にははぐれメタルだとか、はぐれ神族(純情派)なるものが存在しているのだ。

 

 はぐれエクソシストがいてもなんらおかしくはない。

 

 恒例となったグレモリー部長の説明。

 

 まず始めに、悪魔祓い(エクソシスト)には二通りの例がある。

 

 ひとつは神の祝福を受けし者が行う正規の悪魔祓い。こちらは神や天使の力を借りることで、悪魔を滅するそうだ。

 

 そしてもうひとつ、それが先程グレモリー部長が口にした『はぐれエクソシスト』。

 

 エクソシストの中には悪魔を殺すこと自体に悦楽を感じるようになる者が稀に現れる。

 

 それが、はぐれエクソシスト。

 

 彼らは例外なく神側の教会から追放されるか、有害とみなされ裏で始末される。

 

 だが生き延びる者もいる。そういった輩はどうなるのか? 堕天使のもとへ走るそうだ。

 

 堕天使も天から追放されたとはいえ、悪魔を滅する力を有している。

 

 堕天使も先の戦争で仲間や部下の大半を失った、そこで彼らも悪魔と同じように下僕を集めることにした。

 

 悪魔狩りにハマりこんだ危険なエクソシスト達が堕天使の加護を受け、悪魔とそれを召喚する人間に牙をむく。

 

 背後に堕天使がいる組織に属するはぐれエクソシスト。

 

 正規のエクソシストと比べ、リミッターが外れている分普通のエクソシストよりも相当危ないとのこと。関わり合いになるのは得策ではないらしい。

 

「イッセーの行った教会は神側ではなく、堕天使が支配しているもののようね」

 

 兵藤くんが教会に行った? そんな話聞いちゃいないが……俺が転入する前の話か?

 

「部長、俺はあのアーシアって子を!」

 

「無理よ。どうやって――」

 

 ついていけん。俺にはまるでわからん話ばかりされても……。新参者は辛い、ていうかアーシアって誰だよ。

 

「塔城さんや、兵藤くんの言ってるアーシアというのは?」

 

「……堕天使陣営のシスターです」

 

 ――堕天使側のシスター? それだけじゃわからん。

 

 俺は理解することをやめた。

 

 口数の少ない子に聞いた俺が馬鹿だったよ。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「いないなー。まったく、どこほっつき歩いてるんだか」

 

 鮮やかな夕焼け空。

 

 アーシアとやらのことを聞けるような空気ではなかったため、結局昨日は事の顛末が聞けずじまいだった。なので今日、学校の方で兵藤くんに聞こうと思ったのだが……。

 

 来ていなかったのだ、学校に。

 

 学校の方には休むという連絡はきていないようで、兵藤くんの悪友にも何の連絡も無いとのこと。

 

 なのでお昼から学校をサボって町中を探し回っているのだが、成果は0。

 

 まったく見つかる気配がない。

 

「あーあ、もう家に帰ってんのかなあ?」

 

 探し始める時に、真っ先に兵藤くんの家を訪ねてみたがいないとのこと。

 

 出てきてくれた彼のお母さんに、学校に来ていませんよと伝えたところ、カンカンになって怒っていた。すまない、兵藤くん。

 

 俺ももう帰りたくなってきた。よくよく考えてみれば、別に今日聞かずとも日を改めればいいだけの話なのだ。いや、ともすれば今夜には聞けるかもしれない。

 

 ――よし、もう帰ろう。

 

 そう決めて――

 

「アーシアァァァァァァッッ!」

 

 自宅に歩を進めようとした途端これだよ。なんと間の悪い。

 

 兵藤くんの絶叫が聞こえてくる。今の絶叫からして、どうやらまたただ事ではない何かが起きたようだ。

 

 すぐに声のした方へ走る。そうして向かった先には、いつかの俺のように四つん這いになり、打ちひしがれている兵藤くんの姿があった。

 

「……兵藤くん? 何があったんだ?」

 

「九々崎か……」

 

 彼の目は赤く、涙を流した痕があった。というか今も流している。

 

 聞けば兵藤くん、堕天使に目の前で友達を攫われたらしい。

 

 話す途中で幾度となく「俺は無力だ」と口にしていたが、友達を攫われたのがよほど堪えたみたいだ。

 

 そりゃあ、そうだよな。何もできなかったようだし、それも相俟って悔しさは相当なものだろう。

 

 でも待てよ? 確かアーシアとやらは堕天使側のシスターじゃなかったか?

 

 先の叫び声から察するに、攫われたのはアーシアなのだろう。

 

 ――堕天使側のシスターが堕天使に攫われる? ええい! わけがわからん!

 

 またややこしいことに首を突っ込んでるなこいつは。

 

 いや、それよりもだ。

 

「なあ兵藤くんよ。きみはどうしたいんだ?」

 

 話を聞いてる途中に感じたことだが、彼からはこのままでは終わらないという想いがヒシヒシと伝わってきたのだ。まさかとは思うが――

 

「そんなの決まってるだろ!? アーシアを助けに行くんだよ!」

 

 やっぱり。でも悪魔と堕天使って、天使もそうだけど一触即発状態ってやつだよな?

 

「助けに行くってあんた……。堕天使のところに――っておい!」

 

 急に学校の方へと駆け出す兵藤くん。

 

 おそらく、グレモリー部長にアーシアを助け出す許可を貰いに行ったのだろう。それはいいんだが……。

 

 ――人の話ぐらいは聞いていけよ。


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