BIOHAZARD CODE:M.A.G.I.C.A.   作:B.O.A.

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・1978年1月13日
ジェームズ・マーカスが「t-ウィルス」を開発。


chapter 1-4

・見滝原市立病院、正面入口。

 

 

 

「今日は残念だったね」

「全く、せっかく来てやったのに、都合が悪いなんて失礼しちゃうな~」

 

ピンクのツインテールの少女、鹿目まどかが青のショートカットの少女、美樹さやかと共に病院から出てくる。

 

「今日はごめんね、付き合わせちゃって」

「ううん、そんなこと気にしなくても……」

 

まどかが突然話すのを止める。

不思議に思ったさやかが見ると、まどかは何か遠くを見つめてるようだった。

 

「どうしたの?」

 

まどかは答えること無く、何処かに歩いていく。

一緒になって歩いていくと、病院脇の自転車置き場に着いた。

 

「こんな所に何かあるの?」

「……あれ」

 

 

 

 

 

 

まどかが指差したのは、自転車置き場の横の物置小屋の影だった。

 

 

 

 

 

 

「んん? ……何か刺さってる?」

 

見ると、確かに黒いものが壁に刺さっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「グリーフシードだ……。孵化しかかってる!!」

 

 

 

 

 

 

 

足元にいた白い獣、“キュウべえ”が驚いたように叫ぶ。

 

「嘘……、それってヤバくない!?」

 

その声で、まどかはかつてマミの言っていた事を思い出す。

 

“「病院とかが魔女に撮り憑かれると、ただでさえ弱っている人達の生命力が吸い上げられて、最悪の事態になるわ」”

「ど、どうしよう。このままじゃまずいよ……!」

「まどか、さやか、早く逃げよう。結界が出来始めている。取り込まれたら出られなくなる!」

「…………」

 

まどかの足を引っ張って急かすキュウべえを尻目に、さやかは俯いたまま動かない。

 

 

 

 

 

 

 

「……まどか、先に行って。あたしはコイツを見張ってる」

「さやかちゃん!?」

「無茶だよ、さやか。君が残った所で……」

 

 

 

 

 

 

 

反論する二人を前にして、さやかは顔を上げる。その目は決意に彩られていた。

 

「あの迷路ができたら、コイツの居場所もわからなくなる。それに、ここには恭介もいるんだ。放っておけないよ」

「……やれやれ、仕方がない」

 

キュウべえがさやかの足元に移動する。

 

「そこまで言われては、魔法少女のパートナーとして動かない訳にはいかない。僕がこっちに残れば、マミの誘導もできるだろう」

「キュウべえ……」

「まどか、早くマミを呼んで来てくれ。それまで僕らは隠れているから」

「わかった!」

 

まどかは二人を残し、マミのマンションへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

(さやかちゃん、キュウべえ、無事でいて!)

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

・見滝原市内、マンション前。

 

 

 

マンションから2人の少女が出てきて、病院の方へ走っていく。

その様子を、暁美ほむらは近くの建物の屋上から見ていた。

 

(お菓子の魔女が見つかったようね)

 

彼女は白と紫を基調とした、コスプレのような格好をしていた。

だが、それはコスプレではなく魔法少女としての姿だ。

 

(あの魔女をマミにぶつけるのは不味い。どうにかして食い止めないと……)

 

走っていく二人を建物の屋根を飛び移りながら追うほむら。

下を歩く通行人が彼女の姿に気付くことはない。

 

 

 

 

 

 

(…………)

 

 

 

 

 

 

ふと、彼女は竜二の事を思い出す。

 

(あのイレギュラー、引っかかる所はあったけど、大した事はなかったわね)

 

最初、あの廊下に現れた時は呆然としたものだが、武器は持っていないようだったし、まさか素手で使い魔をどうにかしたとは思えなかった。

 

(……だけど)

 

そこまで考えて、彼女はある事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

(すれ違った時、確かに血の匂いがした)

 

 

 

 

 

 

 

怪我を負った状態で、彷徨いていたとは思えない。

あの場で負ったものだと考えるのが妥当だろう。

 

(それに、あの時のイレギュラーは何かを見たような素振りだった)

 

はぐらかすかのような竜二の口振りを思い出すほむら。

 

(だとすると、イレギュラーは使い魔を見た事になる。でも、使い魔相手に武器を持たない生身の人間が生き残るなんて……)

 

眼下では、二人が病院の正門を通り過ぎた所だった。

 

(とりあえず、今は目の前の事に集中しなくては)

 

魔女の結界に入った二人を追って、結界の中に入るほむら。

 

 

 

 

 

 

 

その後に、もう一人入っていくのには気付かなかった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

・見滝原市立病院、ロビー。

 

 

 

「はー、やっと終わった」

 

“挨拶回り”を終えて、ロビーのソファーで背を伸ばす竜二。

 

『連日お疲れさん』

「ほんっと、疲れたよ。日本生まれだけど日本嫌になったかも」

 

病院の人の流れを眺めながら、竜二は会話を続ける。

 

「結局、今のところ情報は最初の以外は入らなかったな」

『ああ、生物の事も、“イザナミ計画”の事も、何も入らなかった』

 

竜二は、先程買ってきた缶コーヒーの蓋を開ける。

 

『お前の体の方も、音沙汰無しなんだろ?』

「ああ、何もない。こんなのは初めてだ」

 

竜二は缶コーヒーを飲みながら、自分の右手に目をやる。

 

「どんな時でも、何かしら反応があったのに、それすら無いんだ」

『“DNA”が存在しないという事か』

「それに近いものすら存在しないのかもしれん」

 

缶コーヒーを飲み終えて、空き缶を捨てる為に席を立つ竜二。

 

「まあ、何はともあれ調べ続けるしかないな」

 

空き缶を捨てて、席に戻ろうとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

正面入口の前を二人の少女が通り過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あいつら、何やってんだ?」

『気になる事でもあるのか?』

 

訝しげに見ている竜二に問いかけるジョージ。

 

「改装地区にいた子供の一人が、ピンクの髪を赤いリボンで束ねたツインテールで、制服を着た少女だったらしいが、まさにドンピシャの奴が走って行ったんだ」

『…………』

「しかも、あの方向には自転車置き場と物置小屋しかないはずだ。……あんなに急いで向かう理由があるか?」

『自分の自転車が盗まれそうとか』

「来る前に確認したが、地面に固定できるタイプだったぞ」

 

竜二は手に持っているボストンバッグの重みを確認すると、

 

「まあ、覗いてみるか」

 

病院の正面入口から出る竜二。

そのまま自転車置き場の方を見て、眉をひそめる。

 

「アイツ等、何処行った?」

 

二人の少女が走っていったはずの自転車置き場には、誰もいなかった。

不思議に思った竜二がその方向に歩いていくと、

 

「あれは何だ?」

 

物置小屋の影にある奇妙な落書きを見つける。

 

「病院に落書きなんて、不謹慎だな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特に理由はなかった。

ただ、なんとなくその落書きに手を置いた。

 

 

 

 

 

その直後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒い落書きが大きく広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何!?」

 

咄嗟に飛び退く事すら出来ず、黒い落書きは竜二を包み込む。

そして、落書きが元に戻った時、その場には誰もいなかった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

・お菓子の魔女の結界、入口付近。

 

 

 

最初に思った第一印象は、“お菓子の洞窟”だった。

壁だけでなく、床や天井からも飴玉やらチョコレートやらが飛び出している光景は、それだけ見れば小さい子が喜びそうだが、薄暗い洞窟の雰囲気が見事にそのファンタジー感をぶち壊している。

 

「…………」

 

竜二は辺りを見渡し、この空間の入口に立っている事を自覚した。

というのも、自分の真後ろにチョコレート製の大きな扉があったからだ。

 

(全く構造が異なるが、おそらく改装地区で見たのと同種だろう)

 

試しにジョージと連絡を取ろうとしたが、予想通り通じなかった。

 

「やれやれ、断りぐらい入れたいものだがな」

 

そう言って通信機を腰に戻すと、竜二は前の暗がりを見つめる。

 

(後ろの扉から外に出られるみたいだが、また戻ってこれる確証はない……。ここは前に進むのが先決だろう)

 

 

 

目的:洞窟を探索する。

 

 

 

ボストンバッグから自動拳銃―“ベレッタM92F”を取り出すと、竜二は奥に進み出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奥に進んでいくにつれ、竜二は洞窟にあるのがお菓子だけではないことに気付く。

オレンジ色の液体の中に人の脳みそのようなものが浮かんだビーカーがあったり、飴玉の中に眼球が混じってたり、チョコレート製の骸骨があったり、錠剤が上から降ってきたり、

 

(どう考えても趣味悪いだろこれ……)

 

子供を連れてくるような場所ではないなと、周囲を警戒しながら、竜二はそんな感想を抱く。

 

(アイツ等がこの中に入ったなら、まだそんなに奥には行っていないはずだ。この付近に動くものはないし、先を急いだ方がいいな)

 

そう思って、少し足を速める竜二。

 

 

 

 

 

 

 

 

動くものではなかったから、少し気付くのが遅くなったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くすると、少し開けた場所に出た。

ここも、あちこちで気味の悪いお菓子が転がっている。

 

「…………」

 

気配を感じ、竜二は周囲を見渡す。

お菓子の他にも、ここにはあちこちに黄色いリボンが張ってあった。

リボンは天井の方に続いている。

釣られるように天井に目を向ける竜二。

 

 

 

 

 

 

 

「……お前は」

 

 

 

 

 

 

 

天井付近には、かつて改装地区で会った少女が吊り下げられていた。

 

「あなた……! どうやってここに……!」

 

吊り下げられた少女は、驚きを隠せてないようだ。

 

「さあな。んで、お前は何でこんな所に吊り下げられている。趣味か?」

「…………」

 

答えはない。

 

(やれやれ……。どちらにせよ、視点が高くて話しづらいし、一度下に降りてもらおう)

 

近くのリボンに目を付けると、ベレッタの照準を合わせる。

少女が目を丸くするのに気付かないまま、発砲。

リボンは打ち抜かれ、そこで千切れる。

そのまま何本か撃つと、上の方でリボンが緩んだのか、少女が落ちてきた。

 

「危ない!?」

 

かなり高さがあったので、竜二は下に回って受け止めようとする。

 

「…………」

 

だが、少女の方で何かしたのか、空中で進路を変えて離れた位置に着地する。

そして、唖然とする竜二を放って、少女は奥に走り去ろうとする。

 

「おい!?」

 

竜二の声で立ち止まり、振り返った少女は言う。

 

「武器があるみたいだから、“使い魔”ぐらいはなんとかなるでしょう。死にたくなければ、そのまま引き返しなさい」

(使い魔? あの生物のことか?)

 

改装地区地区で見た生物を思い出し、確かめるために質問しようとした竜二だが、

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

次の瞬間には、少女の姿は忽然と消えていた。

周囲を見渡すが、少女の姿はない。

 

「…………」

 

一人残された竜二は、今の状況を整理しようとする。

 

(明らかに、今の少女は“あれ”について何か知っている素振りだった。昨日に比べて妙な格好をしていたが、さっきの“現象”と関連しているかもしれん)

 

思考を進める竜二。

 

(彼女の口振りからして、この奥にはあの生物以上の何かがいるようだが……)

 

洞窟の奥を見つめて、竜二は呟く。

 

「先に入った二人の事もある。ここでおとなしく引き返す訳にはいかない」

 

仮にあれが“B.O.W.”なら、“民間人”の被害を出す訳にはいかない。

そう思った竜二は、洞窟の奥へ向けて走り出す。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

・お菓子の魔女の結界、最奥部付近。

 

 

 

(あのイレギュラー、まさか結界にまで入り込んでくるなんて……)

 

時間停止を駆使しながら、暁美ほむらは結界の奥へと走る。

傍からその光景を見れば、テレポートか何かを使っているように見えるだろう。

 

(だけど、今はそれ所ではない。巴マミを助けて、話を聞いて貰わねば……)

 

結界の中で揉めて空中に吊るされた時は、マミの事は覚悟していたが、あのイレギュラーのお陰で彼女を戦力に加える望みが出来た。

 

 

 

 

 

 

やがて、最奥部の扉が見えてくる。

 

(間に合って……!)

 

一気に扉を開け放つほむら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティロ・フィナーレ(最後の射撃)!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

号令と共に、マミの大砲が火を噴いたのは同時だった。

空中に縛られたお菓子の魔女、“シャルロッテ”の胴体に、大きな風穴が空いた。

 

「やったあ!!」

 

近くの大きなケーキの影に隠れていたさやかが叫ぶ。

ティロ・フィナーレ(最後の射撃)”の音にかき消されたのか、その近くのまどかやキュウべえもほむらが来た事に気が付いていないようだ。

 

ほむらは大きく息を吸うと、

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだよ!! まだ終わってない!!!」

「!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

三人と一匹は驚いたようにこちらを見る。

それと同時に、シャルロッテにも変化が起きる。

人形のような体の口から、黒い蛇のような巨体が伸びる。

 

「……え?」

 

目を戻したマミが見たのは、カミソリのように鋭い巨大な歯の生えた口だった。

それが、眼前で大きく口を開けていた。

 

「…………!」

 

呆然とするマミを捕らえようとその口が閉じられて、

 

「……?」

 

シャルロッテは手応えがない事に疑問を持つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残念だったわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声と共に、シャルロッテの口の中が“爆ぜた”。

 

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!」

 

痛みに悶えるシャルロッテを見つめるほむら。

 

「え? 暁美さん? あれ??」

 

その側には、状況が飲み込めずオロオロするマミがいる。

 

「離れなさい、巴マミ。今のあなたは足手纏いよ」

 

左手の円盾(バックラー)の裏から新たな爆弾を取り出しながら、ほむらは言う。

 

「こいつは私が仕留める」

 

 

 

目的:お菓子の魔女を倒す。

 

 

 

マミがまどか達と合流したのを横目で確認したほむらは、痛みから復帰し鎌首をもたげるシャルロッテに向き合う。

 

「来なさい」

「GAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!」

 

口の中を焼かれた怒りのままに、ほむらを噛み砕こうと突進するシャルロッテ。

対し、ほむらはそれを睨んだまま動かない。

 

「GAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!」

 

その大口が開き、ほむらに喰いつこうとした所で、ほむらは円盾(バックラー)に手を触れる。

 

「……GAA?」

 

確かに喰いついたと思ったはずなのに、またも手応えがない事に疑問を持つシャルロッテ。

 

 

 

 

 

 

 

「こっちよ」

 

 

 

 

 

 

 

その声はシャルロッテの後ろから響く。

 

 

 

そして、シャルロッテが振り向くより早く、

 

 

 

今度は、眼前で爆弾が炸裂する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……いけるわ)

 

のたうち回るシャルロッテの巨体を見ながら、ほむらは思う。

 

(攻撃のパターンも今までのと変わりない。このまま繰り返せば倒せるはず)

 

チラリと後ろに視線を向けるほむら。

見られた事に気付いたまどかが、小さく体を強ばらせる。

 

(……何があっても、必ず救ってみせる)

 

決意を胸に、ほむらは前に視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

彼女は油断していた。

 

 

 

 

 

 

「GAA!!!」

 

突進すると思われたシャルロッテが、急に手前で頭を下げる。

 

「!?」

 

予想外の動きに驚くほむら。

 

「GAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」

 

そしてシャルロッテは、頭を軸にして“一回転”する。

巨大な胴体を振り回す形で。

 

「な……!?」

 

時間停止の為に、盾に触れる事すら叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

「あああああああああああああああああああああああああッ!!!」

「ほむらちゃん!!」

 

 

 

 

 

 

 

シャルロッテに跳ね飛ばされ、結界の壁に激突するほむら。

 

(……くそ、油断した……)

 

今更ながら、先の行動を後悔するほむら。

 

 

 

 

 

 

だが、それだけでは終わらなかった。

 

 

 

 

 

 

「いやああああああああ!!!」

「!!?」

 

ほむらが目をやると、今まさにシャルロッテが三人を喰おうとしている所だった。

まどかとさやかは怯えきってるし、マミも先程の体験のショックがここで効いてきたのか、咄嗟に出したマスケット銃の照準が定まってない。

 

 

 

 

 

 

「まどか、さやか、早く僕と契約を!」

「!」

 

 

 

 

 

 

 

キュウべえの声でほむらは我に返る。

 

(ダメ!! まどかを契約させる訳にはいかない!!!)

 

起き上がろうとするが、体のダメージが大きいのか力が入らない。

 

「動いてよ……! お願いだから……!!」

 

だが、意思に反して体は動かない。

 

(……そんな……)

 

また失敗するのか。

そんな思いが過った時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立て続けに三発の銃声が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!?」

「!!!?」

 

三発の銃弾は正確にシャルロッテの眉間と両眼を射抜き、シャルロッテを昏倒させる。

 

「だ、誰!?」

 

さやかが叫びながら、辺りを見渡す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その銃声の主は、最奥部の入口にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どういう原理で飛んでんだ、あれ」

 

黒いコートを着た男は、そんな事を呟いた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

・お菓子の魔女の結界、最奥部。

 

 

 

最奥部に来た竜二は、巨体の怪物がのたうってるのを見てしばし唖然とする。

 

(何が出てくるかと思いきや、まさか空飛ぶ蛇だったとは……。あれ?これ竜じゃね?)

 

変な所に飛びかけた思考をどうにか戻すと、辺りを少し見遣る竜二。

 

(最初に見た二人に何かもう一人とペットが追加されてるな。黄色い方はまた妙な格好にあれはマスケット銃か? 骨董品の銃を持ってるな。それと、もう一人は……)

 

探すと、壁際でボロボロの少女を見つける。

 

(……少し来るのが遅かったみたいだ)

 

視線を戻すと、怪物が立ち直ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「GUUUUUUUUUUUUU……」

「……随分とお怒りのようだな」

 

 

 

 

 

 

 

口の端を上げながら、竜二が言う。

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!」

「うおっと」

 

突っ込んできた怪物を横に転がるようにして躱す竜二。

 

「いいぜ。相手してやる」

 

 

 

目的:怪物を倒す。

 

 

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」

 

Uターンして向かってくる怪物に対し、竜二は今度は避けようとしない。

 

「俺の代わりにこれでも喰らいな!」

 

その声と共に、竜二は背中から何かを抜いて、

 

 

 

 

 

 

 

先程とは桁違いに大きい銃声が轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

「GYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!?」

 

絶叫を上げる怪物に対して竜二が右手で向けているのは、一丁の散弾銃だった。

 

 

 

 

 

 

ウィンチェスターM1887。

 

旧世代のレバーアクション式散弾銃を、竜二が現代でも通じるように改造したソードオフモデルだった。

 

 

 

 

 

 

「その様子じゃ、弱点は顔みたいだな」

 

手元を操作して、次弾を装填するとさらに発砲する。

そのまま装弾数七発を撃ち切り、装填し、さらに撃つ。

 

「GAAAAAAAA……」

 

十四発撃ち切ったあたりで、怪物は虫の息だった。

 

(随分と呆気ないな……)

 

竜二が弾込めをしていると、突然、怪物が何処かへ逃げ始めた。

 

「何処に行くつもりだ?」

 

怪物は、やたらと脚の長い椅子の上にある人形に吸い込まれていく。

吸い込まれて暫くすると、再び人形の中から出てきて、

 

 

 

 

 

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!」

「何だと!?」

 

 

 

 

 

 

先程とは打って変わって、元気良く襲ってくる。

 

(あれに入ると傷が癒えるのか? なら、あれを壊すのが先決か)

 

怪物の猛攻を避けながら、人形にベレッタを向ける竜二。

 

 

 

 

 

 

「……無駄よ。あの人形は抜け殻、攻撃は効かないわ」

「!?」

 

 

 

 

 

 

何時の間にか、満身創痍な少女が側にいた。

 

「お前!?動いて大丈夫なのか!?」

「……これくらい、心配ないわ……」

 

どう見ても大丈夫ではない様子で、少女は怪物を睨む。

 

「あなたの言った通り、頭が弱点よ……。だけど、どんな傷でも、抜け殻に戻れば癒えてしまう……」

「……戻る前に仕留めろと?」

「……その通りよ……」

 

突進の隙を伺う怪物を、油断なく見据える二人。

 

「火力には、心当たりがあるわ……。ただ」

「弱り切るまでは俺がやれという事だな」

「…………」

「そんな顔をするな。生憎、こういうのは慣れてる」

 

済まなそうにする少女を置いて、竜二は前に出る。

 

 

 

 

 

(……とは言ったものの、散弾銃の弾はあと一セットしかないし、マシンガンじゃパワー不足だしなぁ……)

 

 

 

 

 

腰のポーチを意識しながら、怪物を見据える。

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!」

「うおお!」

 

胴体を薙ぎ払ってきた怪物に対し、地面との隙間に潜り込んで躱す竜二。

 

「来いよ、当たってないぜ?」

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!」

 

竜二の挑発に乗ったのか、真っ直ぐ突進する怪物。

 

「…………」

 

向かってくる怪物に対し、タイミングを図る竜二。

 

「今!」

「GAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!」

 

喰われる直前で、竜二は横に大きく飛ぶ。

 

(土産だ!!)

 

横に飛んだ体勢のまま、手榴弾を投げる。

意図的にヒューズの短いそれは、怪物の頭で軽く跳ね返り、

 

「GYAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!?」

 

竜二が横に着地したのと同時に爆発する。

 

(ここで畳み掛ける!!)

 

素早く起き上がった竜二は、更に手榴弾を投擲する。

 

「GYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!?」

 

先程とは違い、今度は大量の火炎が生じて怪物を包み込む。

その上に、ウィンチェスターの射撃を重ねる竜二。

 

(よし、効いてきたな)

 

四発撃った所で、怪物が人形の方に向く。

 

「逃がさん!」

 

その進路に向かって、竜二は先程とは形の違う手榴弾を投げる。

 

「目を塞げ!!」

 

叫ぶと、竜二は後ろを向く。

 

 

 

 

 

 

 

残りの四人が目を背けた直後に、怪物の前で閃光が弾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「GYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!???」

 

鋭い光に目を潰されて、悲鳴を上げる怪物。

 

「今だ!!」

 

待機していた少女に合図を出す。

 

 

 

 

 

 

 

少女が盾に手を触れ、直後に離れた位置に移動する。

 

 

 

 

 

 

 

そして、爆音が結界を揺るがした。

 

 

 

 

 

 

 

音を立てずに、怪物の姿が崩れていく。

 

 

 

それと共に結界が揺らぎ、元の自転車置き場の光景に戻ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

「……やったみたいだな」

 

竜二がポツリと言う。

 

「…………」

 

少女は答えること無く、竜二の前に歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

怪物のいた場所には、小さな黒い石のような物が落ちていた。

それを取ろうと少女が手を伸ばすと、横から違う手が石を掠め取る。

少女が顔を上げると、竜二が石を持って立っていた。

 

「とりあえず、話を聞こうか」

 

 

 

 

 




B.O.A.です。

一場面を一話にしようとしたらこの有様だよ・・・。

これでチャプター1は終了。
次からバイオが、やっと始まります。


マミさんが活躍してないって?心配ご無用、彼女ならやってくれるはずです。

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