BIOHAZARD CODE:M.A.G.I.C.A.   作:B.O.A.

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・1968年7月
エドワード・アシュフォード死去。
息子アレキサンダーが家督を継ぐ。


chapter 1-2

・見滝原市ショッピングモール裏、非常階段。

 

 

 

目的:受け渡し地点に向かう。

 

 

 

「え~っと、5階だったな」

 

竜二が外にせり出すように設置されている非常階段を上っていく。

5階に辿り着き、その扉を開けようとした所で、

 

「あ?」

 

扉には鍵が掛かっているらしく、固く閉ざされている。

思わず蹴破ろうとした竜二だが、

 

「流石にマズイわな……」

 

思い止まり、他の道を探し始める。

一つ下の階に降りると、そちらの扉には鍵が掛かってなかった。

 

「内部の階段から上がるか」

 

扉から4階のフロアに入る竜二。

ここも改装中のフロアらしく、人影はない。

電気もついてない暗い廊下を歩いていく竜二。

 

「……」

 

立ち止まり、前方を凝視する竜二。

彼の、エージェントとしての研ぎ澄まされた感覚が、何か妙な気配を感じ取ったのだ。

だが、それに反して前方で動くものはない。

時間だけが流れていく。

 

「……気のせいか」

 

そう言って、一歩進んだ直後だった。

 

 

 

 

 

 

世界が、大きく揺らいだ。

 

 

 

 

 

 

前方から始まった“揺らぎ”は、一気に竜二のいる場所を通り越し、後ろに流れていく。

殺風景だった廊下は、一瞬で薄気味悪い空間へと変化する。

すぐそこに壁があったはずなのに、いつの間にか広い空間の中央に佇んでいた。

 

「!!?」

 

自身の常識を覆す様な事態に、警戒を一気に強める竜二。

そんな彼の耳に、何処からともなく子供の笑い声が聞こえてくる。

それは楽しそうというより、哀しく、壊れてしまった、嘆きの声のように竜二は感じた。

 

「……幻覚や幻聴を見せるタイプか?だが、それにしてはぶっ飛びすぎている気もするが……」

 

過去に読んだ資料に、幻覚を操るB.O.W.(有機生体兵器)の事が書いてあったのを思い出す竜二。

この異常な空間を、彼は自分なりの常識で整理しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

そこに、新たな“異常”がやって来る。

 

 

 

 

 

 

 

「ewfewfvrgrrytduhuvhufyttgth」

「fvvbhjlozopybtrvcrejtwklofr」

「!」

 

子供の笑い声以外の声を聞き、そちらに注意を向ける竜二。

そこにいたのは、もはや生物と呼んでいいのかも分からないような“生き物”だった。

灰色の頭部に目鼻はなく、ヒゲのようなものだけ付いている。

胴体は青と灰の部位が交互に並ぶイモムシ状で、そこから指のない同じ形の腕が一対生えている。

一番異質な下半身は蝶の胴体がそのまま付いたような形をしており、その羽で飛んで移動していた。

 

竜二は腰の通信機に手を伸ばす。

 

「ジョージ、聞こえるか。今、正体不明の生物に遭遇した。新型のB.O.W.(有機生体兵器)の可能性がある」

『……』

 

返事はない。どうやら妨害されているらしい。

そう結論付けた竜二は、目の前の生物を注視する。

 

(形状は真逆だが、アフリカで確認された「キぺぺオ」と似ている。亜型なのかもしれんな)

(さて、問題はどう対処するかだ。なんせ、今の俺には)

 

 

 

 

 

 

( 武 器 が な い )

 

 

 

 

 

目の前に注意しながら周りの様子も確認すると、合計六体の同じ形の生物に囲まれていた。

 

(退路も断たれてるし、新型相手には流石に億劫だが……)

 

悪意と殺意を隠そうともせず、確実に包囲網を狭めてくる生物。

それを前にして、竜二は決意する。

 

(やるしかないか。“誰も”見てないしな)

 

 

 

目的:目の前の生物を倒す。

 

 

 

殺気を向け合いながら、静かに相対する両者。

終わりの無いように思われたその均衡は、

 

 

 

 

 

 

「kjusidhduhduedheyfgb!!」

「mkjihygybbefygssjdiu!!」

 

六体の一斉攻撃によって打ち破られた。

 

 

 

 

 

 

「うおおッ!」

 

一斉に飛び掛ってくる六体の正面の一体の下にローリングで飛び込み包囲網から脱する竜二。

 

「お返しだ!」

 

そしてまだ体勢が立て直しきれていない一体に近づき、踏み込むように前蹴りを放つ。

 

「jhuhygeygdey!?」

 

蹴りをマトモに喰らった一体はそのまま飛んで行き、

 

「njhugybhnu!!?」

 

先で二体を巻き込んで倒れる。

竜二はそのまま走り寄ろうとして、

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

 

 

横から飛んできた“黒い何か”をバックジャンプで躱す。

飛んできたそれは弧を描くように飛んで、

 

「jnyuguybygyghsdnehbed」

 

四体目の手に戻り、

 

 

 

 

 

「それヒゲじゃねえのかよ!!」

 

 

 

 

 

竜二が思わず放ったツッコミを尻目にその“ヒゲ”を元の位置に戻す。

 

(厄介だな。まさか飛び道具を持っていたとは……)

 

見ると、5・6体目が今まさにヒゲを投擲しようとしていた。

 

「クソッ!?」

 

飛んでくるヒゲを横に飛んで躱す竜二。

 

「kjihuhuhuihhdsfefr」

「byzxgsxyxmzudeyeyg」

 

既に最初に倒れていた三体は起き上がり、こちらに飛び掛ろうと隙を伺っている。

 

(マズイな。攻撃自体は単調だが数が多い……!)

 

三体のうちの一体がこちらに飛び掛かる。

それを躱し、カウンターで掌底を決めようとした所に残りの二体が飛び掛る。

 

(しかも、それなりに知能があって連携もしてくる……!)

 

無理やり体勢を崩して躱した竜二が目にしたのは、自分めがけて飛んでくる三つのヒゲ。

二つは当たらないが、残り一つは直撃ルートだ。

 

(ッ!)

 

咄嗟に右手を伸ばす竜二。

ヒゲはその手を切り裂き、後ろに抜けていった。

 

「がああああ!!」

 

どうにか逸らすことは出来たが、右手からは血が溢れ、切り飛ばされなかったのが不思議な位の怪我を負っている。

荒事には慣れている彼でも、流石にその苦痛には耐え切れず、悲鳴を上げる。

 

そして、その隙を彼らが見逃す訳がない。

 

「jhiuyugyhhncyebdncd!!!」

 

倒れた彼に止めを指すべく、一体が飛び掛る。

 

生物は勝利を確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが、過ちである事も知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後に、何かが潰れる音がした。

 

 

 

だが、他の生物が見たのは、立ち上がった竜二の姿だった。

 

 

 

音源はその足元にあった。

 

 

 

正確に言えば、竜二が“右手”で叩きつけた生物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

竜二は己の右手の調子を確かめる。問題ない。“傷はふさがっている”。

次に、足元の生物を見る。頭部から叩きつけられた生物は、灰色の体液をぶちまけて微動だにしない。

そこまでした時点で、彼は周りにいた生物の気配が消えていることに気づく。

周りを見渡すと、気味の悪い空間が揺らぎ、元の廊下に戻っていった。

 

「なんだったんだ……?」

 

いつの間にか、足元の死骸も消えている。

 

『竜二!! どうした!! 応答してくれ!!』

 

腰の通信機から、ジョージの声が聞こえる。

 

「こちら竜二。たった今正体不明の生物との戦闘を終えた所だ」

『なぜ直ぐに応答しなかった!?』

「出来なかったんだ。おそらく、妨害されていた」

 

言いながら、竜二は自分の右手を見つめる。

 

「さっきの奴は色々腑に落ちない所がある。噂の取引とやらの関連性も……!」

 

急に廊下の先を注視する竜二。

 

『どうした?』

「……誰かこっちに来ているみたいだ。通信を切るぞ」

 

通信を切り、警戒を強める竜二。

かすかだが、廊下の先から足音が聞こえ始める。

音が大きくなるにつれ、薄ら人影が見え始める。

そこで足音が一旦止まる。こちらに気づいたみたいだ。

相手をしっかり視認するため、ゆっくり先に進む竜二。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

果たしてそこにいたのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……子供?」

 

黒髪ロングに制服を着た少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は、この街の闇に、合流した。

 

 

 

 

 




最初の戦闘描写入りました~。

先人たちの偉大さを、思い知りました。


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