BIOHAZARD CODE:M.A.G.I.C.A.   作:B.O.A.

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・2001年

某国、ある街の高層ビルに大規模な爆弾テロが起こり、日本人三人が巻き込まれ“死亡”する。





戦闘BGM:バイオハザード・アンブレラ・クロニクルズより「Escapee」


chapter 5-2

・見滝原市、工事現場。

 

 

 

『……はぁ』

「随分とお疲れの様だな」

『竜二の奴が、“魔法少女”相手に喧嘩し出してな』

「仲裁は必要か?」

『本人は要らないと言っているが……念の為に“スクランブル”の準備を頼む』

「了解だ」

 

トラックの中、デスク上のパソコンに映るジョージと会話するレズモンド。

頭を押さえて悩み苦しむジョージの様子を見ながら、レズモンドは彼に同情の思いを抱いていた。

竜二の目論見は外れたどころか、予想し得る最悪のパターンとなっていたので、ジョージの態度は尤もだと言えよう。

 

『“六年前の惨劇”だけは避けねばならんと言うのに……』

「……丁度、アンブレラ相手に裁判やってた頃だったか?」

『ああ……その通りだ』

 

2003年、3月上旬。

某国の、ある街で“それ”は起きた。

世間ではダム崩落による大規模な“濁流”の所為とされているが、勿論それは政府の隠蔽工作による物である。

人口三万人の街の、たった“一夜”における“消滅”。

大雨の中の悲劇は、それを知る者にはこう呼ばれている。

 

 

 

 

 

キャッスル・ロック(砂岩の城)陥落事件”。

 

 

 

 

 

「……そろそろ、聞いても良いか?」

『…………分かったよ』

 

顔を上げ、苦々しそうな表情で画面越しにレズモンドを見るジョージは、

 

『話せる事は全て話そう。……何から聞きたい?』

「勿論…………」

 

 

 

 

 

 

「彼という存在の“実態”だな」

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

・見滝原市、ビル工事現場。

 

 

 

放棄された建設中のビル。

無人の筈のそこは、今だけは嘗ての様な賑やかな音が響いていた。

 

 

 

 

「何丁持ってやがんだソレ!!!」

「気にする余裕があるのね。全く、舐められた物だわ!!」

 

太い銃声と、二人の怒声であったが。

 

 

 

 

 

目的:巴マミを倒す。

 

 

 

「ああクソッ!! やり辛ぇ!!!」

 

先程から響く銃声は幾つもの白いマスケット銃に因る物。

地上より数十m上、丁度ビルの真ん中に架かる足場に陣取ったマミが、その周りに架かる鉄骨の上を走る竜二に滞空させたマスケット銃を発砲しているのだ。

一発限りのマスケット銃も、幾つも出せるならライフル射撃と何ら変わらない。

然も、一丁一丁に一々引き金に指を掛ける必要も無かった。

 

「ちっ!!」

 

何とか鉄骨の柱に辿り着いた竜二は、それに身を隠しながら右手だけ出してマシンガン(H&K MP5)をマミ目掛けて乱射する。

柱ごと吹っ飛ばすつもりで大砲を抱えていたマミだったが、流石の反応でマシンガンに気付き咄嗟に大砲を盾にする。

大砲の銃身に幾つもの穴が空くが、マシンガン程度では大砲その物は貫けない。

 

(ああもう!! チートか此奴は!!!)

 

マガジン一個分を撃ち尽くした竜二は、リロードもせずに直様左手を真上に伸ばす。

そこから瞬時に伸びた濃いピンクの触手が二段上の鉄骨に突き刺さり、一気に身体を引き上げる。

直後、

 

 

 

砲撃音と共に、数秒先まで隠れていた鋼鉄製の柱が大きくひしゃげる。

 

 

 

(危ねぇ……。もうちょっと遅かったらヤバかった……)

 

鉄骨に登った竜二は右手からも触手を出し、身を隠す様にビルを斜めに登って行く。

ただ、突き刺すのではなく柱や鉄骨にそれを巻き付けて上がっていた。

多少速度は落ちるが、その分音は出ない。

 

「何処に隠れた……ッ!」

 

下にいるマミが、周囲にマスケット銃を展開して辺りを見渡す。

今までの魔女戦の経験からしても、頻繁に身を隠す相手は一筋縄では行かないと彼女は感じていた。

だが今は魔女では無く“B.O.W.”、それも竜二である。

ノビスタドール、ヤトノカミと見てきた彼女からすれば、人に近い彼にとって不意討ちは十八番だと考えてしまうのも無理は無いだろう。

現に、それはあながち間違いでは無い。

 

(さてと……)

 

必死に竜二を探すマミの様子を、彼は遥か上方の足場、その柱の影で伺う。

辺りを隈なく睨む彼女だが、どうやらその場を動く気は無い様である。

射撃手の彼女にとって、見渡しの良い場所は多少の危険を犯してでも確保しておきたいのだろう。

 

(こっから撃っても良いが、見下ろす状況なのはマズイな……)

 

先程までの戦闘中に確認した事だが、彼女の魂(ソウルジェム)は頭の髪飾りにあった。

下手に撃って、もしそれを砕いてしまったら面倒な事になる。

 

(やはり閃光弾が一番か)

 

閃光で目を眩まし、その隙に上空から奇襲して無力化する。

今後の方針が決まった竜二は、静かに目を細めて彼女を凝視する。

 

(ここからじゃ、確実に周囲の鉄骨に当たるな。場所を変えるか……)

 

と、マミが此方付近を探し出したので、竜二は柱の裏に一旦引っ込む。

やり過ごしている内に、マシンガンをコート裏に仕舞い、腰のポーチから閃光手榴弾(フラッシュ・バン)を取り出す。

右手でそれを持ってそのまま暫く待機し、その後ゆっくりと覗いてみると彼女は別の方向を見ている様だった。

それを確認した竜二が自身の周囲を見ると、

 

(彼女の真上に、手頃な足場があるな)

 

自身の高さから一段下に、丁度彼女の真上を通る細い鉄骨があった。

そこからなら彼女までの障害物は存在せず、確実に閃光を当てられる。

真上を見られたら確実に見付かり、かつ障害物が無いので彼女の射撃も届くというリスクもあったが、タイミングを計れば問題ないだろう。

 

(良し……)

 

鉄骨の先は、自身の隠れる柱から伸びる足場の、少し進んだ所から行ける様だった。

マミの隙を見て、竜二はゆっくりと左手の触手を足場に沿って這わす。

既に“リミッター”は半分開けている。

最悪、これに失敗したら“残り”も考えなければならない。

彼としては、その前に蹴りを付けたかった。

 

(届けよ……)

 

足場を伝い、そこから鉄骨に向けてゆっくりと降ろす。

 

1m。

 

伸びていくそれにマミは気付いていない様子だった。

 

80cm。

 

竜二は少しほくそ笑み、右手を口元にやって閃光手榴弾(フラッシュ・バン)のピンを咥える。

 

(…………)

 

 

 

60cm、40cm。

 

 

 

息を整え、静かにその時を待つ。

 

 

 

20cm。

 

 

 

 

 

マミが此方に目を向ける。

 

 

 

 

 

(……っ!)

 

身を強張らせる竜二だが、彼女は暫くそこに目を向けていた後、そのまま横に視線を動かしていった。

どうやら、気付かれなかった様だ。

 

 

 

 

 

 

10cm。

 

 

 

 

 

 

5cm。

 

 

 

 

 

 

先が触れる。

 

 

 

 

 

そのまま、触手は鉄骨にくるりと一回巻き付く。

伸ばせる限界、ギリギリの長さだった。

 

(…………)

 

口に咥えたピンを意識しながら、竜二は一回大きく息を吐くと、

 

 

 

(始めるか)

 

 

 

右手を引き、手榴弾のピンを外す。

同時、一回分巻き付いた触手が微かに膨らむ。

丁度、腕を曲げた時に力瘤が出来る様な感じだった。

グンっと、竜二の身体が持ち上がる。

柱から飛び出し、宙を飛ぶ様に鉄骨の中央、その上に素早く降り立つ。

目的の場所に移動した彼は、それを解こうともせずに手榴弾を落とすべく真下に目をやる。

 

 

 

 

 

見上げるマミと目が合った。

 

 

 

 

 

(なッ!!!?)

 

一瞬呆然とする竜二だったが、複数の銃口が此方を向くのに気付き、直様鉄骨から横に飛ぶ。

触手で身体を支えつつ、手の中の手榴弾を放り投げようとする。

マミの銃口もそれを追うが、何故か発砲しない。

だが、それを気にする余裕は今の竜二には無かった。

 

 

 

 

 

それは、マミに向かって落とす為に彼が軽く手を振りかぶった時だった。

 

 

 

 

 

突如激痛が走り、身体がガクンと落ちる。

 

「ッ!?」

 

驚愕と激痛に、竜二の思考が一瞬停止する。

手の中の手榴弾が零れ落ちる。

それに気付いて、直ぐに右手で顔を覆う。

 

 

 

 

 

マミがマスケット銃を撃つのと、手榴弾が強烈な閃光を放つのはほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

「がッ!!!?」

 

魔法の銃弾が身体を貫き、竜二はその苦痛に苦悶の声を上げる。

だが閃光で視界を失う事は避けれた。

彼は直ぐに左手の触手を動かし、それを近くの鉄骨に巻き付けて自由落下する身体を止めようとする。

触手から伝わる凄まじい激痛に顔を歪めて耐えながら、鉄骨に降り立ち側の柱に身を隠す。

 

「くッ!!?」

 

一方マミは閃光を真面に受け、顔を背けて手で目を覆い苦痛に耐えている。

どうやら、逃げる隙は作れたようだった。

 

「……畜生が」

 

柱に隠れる竜二は、左の触手の先に目を向ける。

限界まで伸ばしたソレの、3/4から先が綺麗に切断されていた。

傷口からは、止めどなく血が流れている。

だが竜二が触手に力を込めた途端、膨張した筋肉によってピタッとその血が止まった。

 

「彼奴、刃物の飛び道具もあるのか……?」

 

何処ぞの捕食者の殺人ディスクを彼が思い浮かべていると、ふと柱から妙な感触がするのに気付く。

柱に顔を近付けると、何やらピアノ線の様な物が巻き付いているのが見えた。

 

「……まさか」

 

柱から僅かに顔を出し、何もない筈の空間に目を凝らす。

すると、細い何かが幾つも日の光に煌めいているのが飛び込んでくる。

全てのトリックに気付いた竜二は、思わず苦々しい表情を作り右手で頭を抱える。

 

(…………女郎蜘蛛かよ)

 

 

 

その正体は、マミの生み出した魔法の“糸”。

それが、ビルの内部にまるで蜘蛛の巣の様に張り巡らされていた。

その糸の全てが、マミの手の中に繋がっている。

彼女が中央にいたのは見渡しが良いからではなく、そこが一番安全な場所だったからなのだった。

 

 

 

(そうか、あの時直ぐに撃たなかったのも、“引っかかる”のを待ってたって事なのか。……とことん蜘蛛その物じゃないか)

 

更に言うなら、あの時直ぐに竜二の居場所に気付いたのも、手に繋がった糸の振動を感じ取っていたからである。

このビルは、完全に彼女の支配下にあった。

と、そこまで考えた時、

 

 

 

 

 

キィキィキィ…………。

 

「おっ。お帰り」

 

 

 

 

 

頭上から聞こえる甲高い声に、まるで親が自身の子供に言う様に竜二は優しい口調で答える。

彼が見上げると、螺旋を描きながら濃いピンクの蛇の様な長い“何か”がスルスルと柱を降りてきていた。

それは、竜二の切り取られた残りの触手だった。

降りてくるそれに竜二が左の触手を向けると、触手同士が綺麗に切断面を合わせてくっ付く。

十秒程経つと、最早傷口の場所も分からなくなった。

 

「さて……不味いな」

 

小声で呟き、思考に入る竜二。

 

「何時まで隠れている気? 子供相手に情けないわね」

 

マミもとっくに回復しており、挑発しつつ辺りに再び注意を向けている。

奇襲を防いだ事で、少し自信でも付いたのかもしれない。

だがその程度の煽りに竜二が乗る訳も無く、そのまま思考を続けていく。

 

(ショットガン(ウィンチェスター)は使いたくない、ハンドガン(M92F)やマシンガンでは防がれる。手榴弾は警戒されるだろうし、奇襲しようにも動いたらバレる……)

 

上階に登った時や、切れた触手が降りてきたのには気付いてない様子だが、恐らく前者は“大砲の振動で潰されていた”からで、後者は“対象が軽過ぎた”からだと竜二は予測していた。

逆に、奇襲前に触手が降りてきているのに顔を向けたのは、10m近くのそれが蠢く振動を僅かでも感じていたからだろう。

 

(……仕方ないか)

 

 

 

取れる手立ては三つ。

 

一つ目、“逃げる”。多分後で数倍キツい事態になる。

 

二つ目、“説得する”。出来たらカウンセラーに転職する。

 

三つ目…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減に出て来たら? ……世の中には随分とチキンな兵器もあるものなのね」

 

先程の奇襲から竜二側に動きは無い。

余裕そうに挑発している彼女であったが、その内心は穏やかでは無かった。

というのも手数勝負の彼女にとって、“糸”を使った戦法はかなりリスクを伴うのだ。

 

(糸を張ればその分、魔力の消耗は激しくなる……。恐らくバレただろうし、対策を練ってくる筈……)

 

今更自分の命なんざ惜しむつもりは毛頭無いが、あと一歩で魔力切れという事にはなりたくない。

 

(此方が遠距離に分があるのは分かってるだろうし、恐らく接近戦に持ち込んでくる筈……。ゴリ押しで向かってくるとは思えないし、糸を切っても場所は此方に分かる……。さっきの閃光で陽動してくるかもしれないわね)

 

とは言え、相手はプロ中のプロである。

自分の想像も付かない戦法を見せてくるかも知れない。

まして、竜二(B.O.W.)なら尚更予測出来ない。

油断は禁物、と自らに言い聞かせてマミは警戒を更に強める。

 

「……私の方が、よっぽど貴方の仕事(B.O.W.退治)に向いてるんじゃない?」

 

挑発だけはそのまま続けていたが。

対して視界には鉄骨と足場しか見えず、糸にも何も反応は無い。

突進して攻め込むタイプでは無い以上、彼女は待ちの一手に徹するしかなかった。

 

(…………)

 

マミは頭上の外周上の鉄骨に目を移し、柱を順々に睨んでいく。

 

 

 

 

 

その時、その中の一つの裏にいる竜二が、通信端末を自身の胸に押し当てて“CALL”を押していた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

・見滝原市、工事現場。

 

 

 

ピーッ、ピーッ!

『む?』

 

トラック内でレズモンドと通信していたジョージが、突然の警告音に片眉を上げる。

 

「どうした?」

『……あの野郎、“制限解除”したみたいだ』

「……エゲツない……」

 

まだ見ぬ“魔法少女”の冥福を思わず祈るレズモンド。

そう、先程まで彼等は“竜二の実態”について話していたのだ。

 

『それだけ、“魔法少女”ってのもエグいって事だな』

「敵では無いのが幸いだな……。彼奴だけは敵対視されてるがな」

『仕方の無い事だ……。“B.O.W.”という枠組みにいる以上、怨みの矢面に真っ先に立つのは彼奴だからな』

「……不思議な物だな。彼の“力”は寧ろ、“対B.O.W.”と言っても良い物なのに」

 

竜二は本来、本当にそれ単体だけなら、それこそ単に“死ににくい”存在でしかない。

だが、今の彼は触手を伸ばしたり、数mも飛び上がったり、尻尾を生やしたりとかなり多様な能力を使っている。

 

『まさに、偶然の産物だ』

「そうだな……、“G”だからってのもあるがな」

 

 

 

 

 

《Gーウィルス》

 

アンブレラの研究者の一人、ウィリアム・バーキンが開発した恐るべき発明品。

一世代だけの突然変異体(ミュータント)を生み出す「Tーウィルス」と異なり、「Gーウィルス」は半永久的に“自発的に進化”する新生命体「G生物」を生み出す力を持っている。

「G生物」は繁殖も可能で、かつ死亡しようが「蘇生」する力すら存在すると言われる。

最早“兵器”という概念も当てはまらない、他の始祖系列のウィルスとは完全に未知なる構想の上にある存在である。

 

 

 

 

 

『彼は“適合者”でも無ければ、“G生物”でも無い。何方の定義にも当てはまらない未知の存在(Unknown)……いや、寧ろ欠陥品(Defective)

「だから注目された、だから“B.O.W.”という枠組みに入れた、って事か。……全く皮肉な話だ」

 

「G生物」発生には、ある一定のプロセスがある。

まず、「Gーウィルス」が感染者の体内に侵入すると感染者の細胞をゆっくりと侵食し融合、そこから生まれた「G生物」を構成する「G細胞」が元の細胞と入れ替わる事で、生態の構造を改変し“進化”するのである。

 

 

 

 

 

 

 

では、ここで仮定の話をしよう。

「Gーウィルス」が細胞を侵食し、そこから「G細胞」を発生させてそれが複製増殖、本来の物と入れ替わる事で「G生物」は誕生する。

では、もし、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「融合」の過程に「欠陥」が生じ暴走、他の遺伝子と「融合」し続けた結果、「G細胞」の“核”内に「本来の遺伝子」が大幅に残ってしまったとしたら?

そんな、“核”に異常をきたした「欠陥的G細胞」が大量に「複製」され、本来の「G細胞」を全て駆逐してしまったとしたら?

それにより“進化”の過程が不安定となり、「欠陥的G細胞」が“進化”の為に無尽蔵に「他の遺伝子」と「融合」を繰り返す存在になったとしたら?

そして、それによって、

 

 

 

 

 

失われる筈の人格、記憶が保たれてしまったとしたら?

 

 

 

 

 

「“意志を持つB.O.W.”……。“ネメシス”以来じゃ無いか?」

『いいや、寧ろ“ジェームス・マーカス”の方が近いな』

 

遺伝子の吸収による、宿主の意識復元。

マーカスに取り憑いたヒルは、十年もの月日を掛けてそれを実現した。

そしてその“生物学上驚くべき現象”は、その“三年後”に再び起きたのだ。

つまり、彼は“意志”は人でも“元人間”では無い。

 

『“G生物”どころか“生物”としてあり得ない、“遺伝子融合”を繰り返す“B.O.W.”……それが“竜二”だ』

 

 

 

 

 

 

Defect-gene Replication Abnormalities (核小体過剰融合による) G by Overly Nucleolar-fusion(欠陥因子複製性異常G生物) Type-Ⅱ

 

D.R.A.G.O.N.ーⅡ(竜二)

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

・見滝原市、ビル工事現場。

 

 

 

それは本当に突然始まった。

 

プツンッ!!!

「!?」

 

いきなり張っていた糸の一本が切れたのだ。

更に、続けて次々と糸が切られていく。

 

(そう来るか……でもっ!)

 

糸自体の本数を減らした上で、改めて奇襲する気なのか。

マミは直様糸の張っていた方向に向けて、自身の得物(マスケット銃)を向ける。

 

 

 

 

 

その方向一帯を、纏めて吹き飛ばせる程の数を。

 

 

 

パロットラ・マギカ(無限)エドゥ()インフィニータ(魔弾)

 

多数のマスケット銃によって、まさに敵を一掃する射撃魔法である。

 

 

 

(これでもう逃げ場は無い)

 

無数に浮かぶ単発式の長銃を指揮するかの様に、マミがその右手を上げる。

その手を振り下ろしながら、その技を叫ぼうとした時だった。

 

 

 

 

 

ブツッ!!!!

(…………え?)

 

糸が切れる。

それだけの事だった。

 

 

 

それが、今向いてる方向と“真逆”でなければ。

 

 

 

向こうが飛び道具を使ったのかと思う。

だが、これはまどか達から雑談中に聞いた事だが、竜二は極端な射撃音痴の筈である。

それが糸を撃って切るなんて事を、マグレでも出来るものなのか。

彼女がそこまで考えた時、

 

 

 

幾つもの糸が、デタラメに切れ出した。

 

 

 

(な…………!?)

 

後ろ、右、左、左、前、後ろ、右、右、前。

階層も、方向もバラバラの糸が次々切れていく。

事態に追い付けず、思わず呆然とするマミ。

 

 

 

 

 

「驚いた?」

「!!!?」

 

それは、直ぐ真後ろから響いた。

彼女が慌てて振り向こうとするより前に、

 

 

 

 

 

横から重い衝撃が彼女を襲い、足場の上から大きく跳ね飛ばした。

 

 

 

 

 

「…………ふう」

 

ドサッ、と何かが落ちる音がする。

マミが地上数階、完成していた階層の床に落下した音だ。

入れ替わりでマミのいた足場に乗り、彼女が落ちた辺りを見詰める竜二の姿は、まさに“化物”その物であった。

 

「振動がネックなら、分からない位に“減らせば良い”」

 

彼の着ている黒のコート、その肩のファスナーが一周して外れており、更に腕の金具が全て外れている。

結果、コートの腕が一枚の布と化し、背中側に付いた紐でブラブラと垂れていた。

露出した半袖の腕からは、肩から前腕まで計五本の“透明”の触手、両腕で十本分が伸びていた。

と、透明だったそれら全てが急に濃いピンクに色付く。

 

「銃で狙えないなら、“別の”飛び道具を使えば良い」

 

その背中から、先端に十字に棘の付いた黒い甲殻の尾が伸びている。

先がノコギニの様に回転するそれがヒュンッと高速で振られて、そこから放たれた“四本の棘”が空中の糸を切断する。

竜二は、十本の“透化”した触手で体重を分散させて感知出来ない様に移動し、更に尻尾の棘を放って糸を切っていたのだ。

 

「ま、簡単な話だったな」

 

そう言うや否や、竜二は虚空に足を踏み出し、そのまま下階に落下する。

と、着地の寸前に十本の触手が蠢き、床に落下した身体の衝撃を均等に分散させる。

 

 

 

 

 

直後、その隙を狙うかの様にマスケット銃を手にマミが走り寄ってくる。

 

 

 

 

 

(この見た目の奴に接近戦を挑もうとは、大した決断じゃないか)

 

それとも、単に射撃する余力も無いのだろうか。

硬直している触手を踏み台に飛び、マミは両手でマスケット銃を竜二の頭部に叩きつける。

金属製の重い鈍器に因る衝撃で、ガクッと竜二の頭が下を向く。

 

「……度胸は認めるよ」

 

だが頭を下に向けたまま、何事も無い様に竜二は呟く。

そのまま、口の端をニヤリと吊り上げて、

 

 

 

「ま、そこまでだが」

 

 

 

直後に伸びた触手の一本が、呆然とするマミの首を捕らえる。

 

「ぐッ…………がぁッ!!?」

 

触手はそのままマミの胴にも巻き付き、宙に持ち上げて締め上げ始める。

 

「……決着かな?」

「…………ええ、……“予定通り”……」

「何?」

 

マミの言葉に眉を顰め、思わず聞き返す竜二。

対して、締め上げられながらも彼女は口の端を吊り上げる。

 

「運も味方だったわ…………、貴方を“この位置”に……誘う必要が、無かったのだから…………」

「“位置”…………ッ!!?」

 

周りを見渡し、その意味に気付いて彼の表情が凍る。

 

 

 

「貴方が“化物”だって、私は知ってた。なら…………、“前準備”位して置いて、当然でしょ……?」

 

 

 

四角いビルの四隅の柱、四辺の中央の柱。

計八カ所の柱の影から、“大砲”の銃身が覗いている。

更にこの時、竜二の下の階には竜二の立つ位置を向いた大砲が幾つも設置されていた。

 

 

 

「“蛇の化物”の様に…………バラバラに、してあげるわ…………!!」

「クソッ!!?」

 

 

 

殴りかかってきたのは、ここに竜二を引きつける為。

態々足場の悪い場所で中央を陣取ったのも、全て下階の“仕込み”に気付かせない為。

 

 

 

「不味い…………ッ!!!」

 

全てを悟った竜二の脳裏に浮かぶのは、

 

 

 

“「これは……何のつもりだ!?」”

“「貴方は化物だから……粉々にしなきゃ死なないでしょ?」”

 

一年前の“失敗”。

 

 

 

「ッ!!!」

 

半ばヤケクソの様にマミを放り捨て、彼は慌てて触手を身体に纏って繭の様になる。

 

 

 

 

直後、それに下と横からの“砲撃”が一斉に襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビーーーッ、ビーーーッ!!!!!

『ッ!!!?』

「どうした!!?」

『不味い……最悪だ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ティロ・アッセィディオ(包囲射撃)

 

砲撃によって舞い上がる大量の煙を眺めながら、マミはその技の名を呟く。

彼女が竜二にぶん投げられた先には、ビルの辺上に位置する柱があった。

背中を強かに打ったものの、立ち上がれない訳ではない。

 

「ッく…………」

 

正直、生き残るとは思わなかった。

自分を道連れにしてもおかしく無い状況で、竜二が彼女を放り投げたのは彼の最期の善意か、それとも生き残ろうとする悪あがきか。

 

 

 

 

 

本当は、何方でも無かった。

 

 

 

 

 

立ち上がった彼女は、ゆっくりと竜二のいた場所に歩いていく。

そこは砲撃によって、大きく床が抜けていた。

淵に立って、その下を覗く。

最初は煙が立ち込めて何も見えなかったが、次第に治まってくる。

 

 

 

 

 

 

 

「……………………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Warning.(警告。) Warning. (警告。) Lost Contact And Disconnection.(通信途絶並びに接続不良。) ‘Recovery’ Impossible.(“リカバー”不可能。) High Risk Of ‘Development’ Burst.(“発生”暴走の危険大。) Save The Situation Immediately (特殊部隊を派遣し) By Dispatched Special Forces .(直ちに事態を収拾して下さい。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Warning(警告)……Warning(警告)…………。

 

 

 

 

 




皆様、お久しぶりです。B.O.A.です。

先ず始めに、丸一日以上遅れてすいませんでした。orz
ここまで読まれたなら、理由はお察しかと思います。
また少し書き方変えました。
ホラーっぽくしたかったのです。

それと、今回はかなり突っ込み所満載かと思います。
感想でもメッセージでも良いので、ご指摘があったらドシドシ送って下さい。
あ、“リミッター”の事はちゃんと後で書きますよ。

では、感想等お待ちしております(^-^)/



次回、“悪夢”は解き放たれる……。





《オマケコーナー》
~“マーセナリーズ”のBGMを竜二達にノリで合わせてみた~

竜二:「The Path For Fight」(3D)

まどか:「Shooting In Desert」(3D)

ほむら:「Heat On Beat 2012」(6)

マミ:「A Warrier Filled With Hope」(3D)

さやか:「Subspecies」(3D)

杏子:「Killers」(5)

キリカ:「Power Of Flames」(3D)

織莉子:「Comtamination」(3D)

ゆま:「Assault Fire」(5)

????:「Breaking Limit」(3D)


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