BIOHAZARD CODE:M.A.G.I.C.A.   作:B.O.A.

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んーっと、プラグは此処で…………、スイッチは此処、っと。

さやかー、まだかー?

もうチョットだから、って早くしたいならあんたも手伝えよ!!

アタシがやったら、倍の時間は掛かる自信がある。

それ、自慢げに言う事…………?



ここまでの、“BIOHAZARD”。



数日前までは、本当に平凡な日々だった。

魔法少女として生きるアタシ、佐倉杏子もこの街に来るまでは、まあ、普段通りに生活してただろう。

全てはあの日、あの人と出会ってから。

アタシ達は、“もう一つの闇”に向き合わなくてはならなくなる。

新米の魔法少女になったあたし、美樹さやかも、あの人と関わりを持って、自分の在り方をもう一度見つめ直していた。

だけど、アタシ達が知らない所で“ソレ”はもう動いていて。

そしてあたしを、“ユイ”が破滅に導いた。

でも、これは本の始まりに過ぎなくて。

それを知る者は、まだ誰もいなかった…………。



Chapter 5 -DCLXVI-II 《666-2》-
chapter 5-1


・見滝原市、工事現場。

 

 

 

「……じゃあ、結果は暫く後か」

「かなり急いでやっているが、時間が掛かるのは仕方ない事だ」

 

早朝、何時かの大型デコトラの中。

今度は“玄武”のイラストのされたそれの中で、竜二は椅子に座って朝のブラックコーヒーを飲みながらレズモンドと向き合う。

 

「新型からも出ていた“触手”、あれが“砂虫”のそれと同種かどうかは、遺伝子を見てみないと分からんな」

「……多分、俺は同じだと思うがな」

 

デスクの上のパソコンを叩いていたレズモンドが、クルッと椅子ごと身体を回して、

 

「それは、お前の身体の事からか」

「ああ……そうだ」

 

その顔を見返しながら、竜二はゆっくりと続ける。

 

 

 

 

 

「三体共、取り込んでも“触手”が発現しないんだ」

 

 

 

 

 

「“使い魔”やらとは、また違うのか?」

「あっちはそもそも、物理的に反応が無かった。こっちは感覚こそ為れ、発現するのが元の奴ばかりだ」

「対策されてる……?」

「分からん。だから解析待ちなんだ……お代わり」

 

コーヒーを飲み干し、竜二はコップをレズモンドに手渡す。

それに新たなコーヒーを注ぎながら、レズモンドはふと思い出したかの様に、

 

「そう言えば、結局バラしたのか」

「……仕方ないだろう。ああでもしないと向こうは納得しないだろうし」

「だが、関係は最悪と」

「これで、向こうが気味悪がって近付いて来なくなれば最高だな」

「……少しは何かしてやろうとは思わないのか?」

「俺は当事者じゃ無いし、専門家でも無い。口で言うだけならやったが、これ以上変に首突っ込んで共倒れは御免だ」

「…………」

 

レズモンドは眉を潜め、そう言った竜二の顔をほんの少し覗き込む。

彼、レズモンド・デイビスもBSAA所属とあって、その正義感はかなり強い。

元々、軍の研究員だった頃にバイオテロを知り、当時出来て間も無いBSAAの技術班に入った彼は、その後調査部隊に配属された際、戦闘員との仲の取り持ちの為に態々戦闘員に転向している。

それは、二つの陣営が混合するこの部隊の行先を案じていたからに他ならない。

軍所属だけあって、クリス程では無いが銃火器の扱いは上手く、数ヶ月の調整だけで実戦に出れるレベルだったのも一因だったが、それ以上に自身が現場に出る事で“仲間達”の仲を取り持とうという思いが強かった。

そんな彼だからこそ、一部隊の長に選ばれたのだ。

そして、だからこそ、自身の協力者だった筈の彼女等に対する竜二の乾いた態度に、疑念を持たざるを得なかったのだ。

 

「……目の前で人が死んでもか」

「だからこそだ。下手な手を打って死人増やしたら、それこそ最悪だろ? だから、俺は必要な事以上に“他”には構わない。“自分の(任務)”に全力を尽くす。そう決めたんだ」

 

そう言った竜二の瞳は強い決意に彩られていたが、それは同時に何処か危なげで悲痛な雰囲気を漂わせていた。

まるでその決意が今の自分の“全て”だと、それにしか自分の存在理由が無いと言うかの様に、一つの意志に必死に縋っている様な危なさがそこにはあった。

 

「…………」

 

レズモンドは竜二については殆ど知らない。

知っているのも、幾つかのB.O.W.関連の事件に関係しているという事程度である。

それもその筈、彼の“過去”には保護プログラムが掛かっており、クリス・レッドフィールド位ですらその本の一部しか知らないのだ。

だが、そんな彼でも“ある事実”だけは知っていた。

 

「……それは罪滅ぼしか」

「そんな大したもんじゃ無い。そもそも償える事じゃないしな」

「“あの事”は、お前だけに非があるとは思えないが……」

「“その事“だけじゃない。もう一つある」

 

そう言いながら、竜二は足元に置いていたカバンからパワーバーを取り出す。

一本をレズモンドに投げてから、竜二はもう一本の封を開く。

 

「“そちら”は完全に俺の非だ。身の程を弁えなかったが故の報いだ。だから、もう同じ失敗を繰り返さない」

 

それは、彼がエージェントになった直後の話。

最初の任務で、最初の“失敗”。

 

「俺は、俺の“役目”を果たす。それだけだ」

「…………」

 

バーを食べ出した竜二を前に、ただレズモンドは黙り込んでいた。

自分よりも遥かに若い彼の、その言葉の唯ならぬ気迫に思わず圧倒されていたのだ。

だが直ぐに我に返り、その“失敗”について聞こうとした時、

 

 

 

 

 

「今戻った。二人共いるな?」

 

クリス・レッドフィールドがトラックに入ってくる。

その後ろからピアーズ・ニヴァンスも付いてきている。

 

 

 

 

 

二人に目を向けた竜二は真剣な面持ちになると、

 

「どうだった?」

「結論から言うと証拠は見つからなかったが、ハッキリ言って“クサイ”な」

「気になる事があるのか?」

「隊長が本社に行ってる間に、俺がその付近の調査をしてたんですが、そしたら面白い事が出てきまして」

 

レズモンドの問いに、クリスの後ろに控えていたピアーズが答える。

 

「続けてくれ」

「昨年に比べてこの数ヶ月の間に、タンカーの本社への出入りが大幅に増大している様なんです」

「……“前準備”って事か?」

「ハッキリとはしませんが、関わりがあるのなら、恐らく」

 

そう言って、ピアーズは数枚の書類を二人に見せる。

二人が覗き込むと、それは何かの表の様であった。

 

「それは?」

「その記録です。グラン・フォートは企業イメージを上げる為に、特定の民間海運業者に情報公開していましたので、それを頼んで見せて貰いました」

 

公開していると言っても、一般人は決して見られないその資料を手に取る竜二。

見ると、確かに此処数ヶ月の出入りが激しかった。

 

「“汚染区域の復興”ってあるな」

「本社は数年前、一部区域で兵器漏れ(バイオハザード)が起こっている。その区域の再建に目処が漸く立ったらしく、その資材搬入と瓦礫の運搬にタンカーを使っているそうだ」

 

クリスが補足する様に話す。

それを聞きながら、竜二は資料の表を読み進めて行く。

と、下の方に提供元の会社名が載っているのを見咎める。

 

 

 

 

 

《志筑海運》

 

 

 

 

 

(…………ん?)

 

何処かで聞いた事のある苗字に首を捻る竜二。

それを他所に、レズモンドが資料から目を離して入口付近に立つ二人の方を向き、

 

「話の筋は通っているが、タイミングがな……」

「そこで、新たに極東支部のエージェントに調査を手伝って貰う事になった」

「極東支部の?」

 

顔を上げた竜二がクリスを見る。

 

「ああ。直接此方には関わらないが、彼女には今回のバイオテロに使われたB.O.W.の密輸経路を中心に探って貰う」

「既に捜査に出たそうだ。彼女の腕は極東一だし、良い成果を期待出来るだろう」

 

レズモンドの発言に眉を顰めた竜二は彼に目を移し、

 

「……知ってたなら、先に教えてくれよ……」

「悪いな。彼等から聞いた方が良いと思ったんだ」

「そう言えば、彼女から伝言がある」

「何?」

 

今度はレズモンドが怪訝そうな様子でクリスに聞く。

と、クリスは同情する様な表情を作ると、

 

「“今度、ラーメン奢れ”、だそうだ」

「…………分かった、と言っといてくれ」

「知り合いなのか?」

「科学者時代のな。最も、今の彼女は実働部隊所属だが」

「何か、似てますね。その人と」

「俺は半端者だけどな」

 

レズモンドはピアーズの素朴な言葉に、少し苦笑いしながらそう答える。

 

「ふーん……」

 

他人事の様にしているピアーズだが、後に彼は彼女と“別件”で関わりを持つ事になる。

とは言え、それはまた違う話であるが。

 

「……さてと、そろそろか」

 

と、壁に掛かった時計を確認した竜二が席を立ってバッグを掴む。

 

「今日も“日課”か?」

「昨日の今日だが、コレだけは仕方ない」

 

装備品を目立たない様に身に付け、クリス等の間を割る様に入口に立つと、彼は続けて、

 

「“日課”が終わったら、美国邸に行ってみるつもりだ。その後、“二人”の見舞いに行く」

「じゃあ、俺達も美国邸の捜査を手伝おう。ピアーズ、お前も行けるな?」

「勿論です」

 

二人のその言葉に、椅子に座ったままのレズモンドが少し心配そうに、

 

「大丈夫なのか? 少しは休んだ方が……」

「心配は要らない。そちらの対応のお陰で、昨日はゆっくり出来たしな」

「俺達は今朝早くに起きて、此処に帰って来たんです」

「なら、良いが……」

 

レズモンドが口を閉ざすと、竜二が二人を交互に見て少し微笑み、

 

「助かるよ。じゃあ、また落ち合おう」

 

そう言い残して、トラックから出て行く。

それを笑顔で見送った二人は、直ぐに顔を引き締めて、

 

「……隊長。確か、“美樹さやか”って、あの時の……」

「ああ……。あの青い髪の子だった筈だ」

「あんな元気そうだった子が……」

 

数日前の事を思い出し、思わず歯噛みするピアーズ。

彼等も、そしてジョージもそうだが、既に竜二から“彼女の死”と“魔法少女の真実”については聞いていた。

クリスも険しい顔付きになって、

 

「超人的な力を得るが、最後は結局“怪物”になる、か…………。“B.O.W.に憑かれた人間”の末路とまるで同じだな」

「キュウべえ、でしたっけ? ……“奴等”側に付くのも納得出来ますね……」

 

“魔法少女”と“B.O.W.”は、本来一切の関係の無い事柄である。

だが、彼女達の“末路”は、そして目的はどうであれ彼女達を無慈悲にそこに導く“キュウべえ”は、B.O.W.による理不尽な“暴力”と、それを“使う者の悪意”を憎む彼等にとって、決して見過ごせる物などではなかった。

出来るなら、この件が終わり次第直ぐにでも解決策を見付けてやりたいとさえ二人は思う。

だが、彼女達が“B.O.W.”を殆ど知らない様に、彼等もまた“魔法少女や魔女”を知らない。

然も、彼女達に現状一番近い竜二からは、“魔法少女”同様、“魔女”も理解を超えた理不尽な力を持っていると聞く。

彼女達を救える程の力に自分等がなれるとは、お世辞でも思えなかった。

 

「…………今の俺達には、彼女達を“B.O.W.”から守る事しか出来ない」

「そうですね……」

 

少女一人すら満足に救えない無力さに、二人は悔しげな表情を作る。

と、突然クリスの通信端末から電子音が響く。

 

「?」

 

本部からの通信だろうか。

無線を取り、直ぐに応答するクリス。

 

「…………何?」

 

だが、その相手は本部の人間ではなかった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

・見滝原市、通学路。

 

 

 

「……遺体が消えた?」

『そうだ』

 

通学路、その近くの小さな公園の一角で木を背にして、竜二が手の中の通信端末を見下ろす。

タブレット状のその画面には、いつも通りのスーツ姿のジョージが映っている。

 

『今朝、検死官が気付いたそうだ。警察は既に捜査を始めたが、侵入の痕跡が一切無く、早くも手詰まりといった風だ』

「…………」

 

考え込む様に黙る竜二。

普通に考えれば、“奴等”の仕業とするのが妥当だが……。

 

「……これが“彼奴等”なら、事件にすらならないと思うが」

『仮にグラン・フォートを元凶とするなら尚更だな』

 

アンブレラ、ウィルファーマ、トライセル。

彼等が多彩な“悪魔の発明”をしてきた背景には、数多くの“被験者”の犠牲があった事は最早言うまでもない事である。

にも関わらず、それ等が表沙汰になったのは決まって彼等が消えていった後である。

そこには決まって、彼等の隠蔽体制の堅牢さと政府の“黙認”の存在があった。

今回の敵を、少なくとも“国際企業に類する規模の組織”と見ている彼等からすれば、そのような前例がある以上、そもそも気付かれる事自体が不思議であった。

 

「奴等にしては、今回の件はどうも計画性に欠けている」

『つまり、犯人は……』

「……どういうつもりか知らんが、此方の邪魔だけはして貰いたく無いな」

 

彼女の死をあの夜の時点で知っているのは、自分とBSAA、警察、恐らく“奴等”、そして“彼女達”だけである。

消去法で考えて、彼女達と見て良いだろう。

はぁ、と思わず竜二は呆れた様な溜息を吐く。

 

「……どうしようか」

『警察は放っといて良いだろう。後は、“奴等”の動きだが……』

「唯でさえ、後手はもう勘弁だと言うのに……」

 

此処で、彼はチラッと時間を確認し、自身の横に目を向ける。

そこから見える位置に、ショートツインテールの女子中学生がいた。

 

「続きは後にしよう。これ以上“彼女”を待たしたら悪い」

『分かった。また進展があったら連絡する』

 

通信を切り、彼はその人物に向かって歩いていく。

 

「待たせて済まなかった。鹿目ちゃん」

「…………」

 

竜二が声を掛けるが、彼女、鹿目まどかに反応は無い。

虚空を見詰める様な姿勢のまま、無言で佇み続ける。

 

「……大丈夫か?」

「…………へっ? あっ、ご、ごめんなさい!」

 

心配になった竜二がその顔を覗き込むと、我に帰ったまどかが此方に謝ってくる。

 

「今日位なら、休んでも良いんじゃ……?」

「いえ、その…………」

 

言葉の途中で顔を暗くし、そのまま俯き黙ってしまうまどか。

 

(…………まあ、そうだよな…………)

 

今、この通学路には彼等二人しかいない。

仁美は昨日の件で入院中で、さやかについては今朝会った時点で“行方不明”だと伝えていた。

唯でさえ親友がB.O.W.に襲われた事のショックを受け、精神的に不安定な今の彼女に追い討ちを掛けるのは彼も億劫だったのだ。

現に今も、彼女が今まで通りに学校に登校しようとしているのは、一変した日常への不安を少しでも忘れようとしているからだろうと竜二は予測していた。

 

「大丈夫なら良い。が、余り無理はするなよ? 最悪、早退しても良いのだからな」

「大丈夫です。その、心配してくれて、ありがとうございます」

「気にするな」

 

精一杯の笑顔を見せるまどかに、微笑みながら短く返す竜二。

二人はそのまま、“昨日と同じ様に”学校に向かう。

同じ様に、校門前で別れる。

 

 

 

 

 

 

 

違うのは、彼女がその後“直ぐに”早退した事だけだった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

・見滝原市、ビル工事現場。

 

 

 

嘗て“イワノフ”と戦ったのとは、また別のビル工事現場。

ある程度下地が完成しているらしく、あの場所以上に複雑に足場が組まれている。

唯、所々に錆が見えるので、既に放棄されている場所の様だった。

 

「…………ふぅ」

 

その足場の一角に竜二は静かに佇む。

クリス等と美国邸の捜査をする約束をしていた彼が何故此処にいるかと言うと、捜査の前に一つだけ“再確認”したい事があったのだ。

周りを見渡し、人気の無い事を確認すると、

 

「……始めるか」

 

そう呟き、右腕のコートの裾に目立たない様に付いていた留め具を左手で外す。

竜二はコート裏に半袖を着ているので、そのまま肘まで外して捲るとその前腕部が丸々露出する事になる。

 

「…………良し」

 

その後竜二は左手でポーチを漁り、そこから細いカプセルを取り出す。

その中には毒々しい赤色の液体が入っている。

そのラベルには《New Type 01》と書かれていた。

 

「ふー…………」

 

右腕を横に構え、露出した前腕部にカプセルを持った左手を近付ける。

一瞬の躊躇も無くカプセルを右腕に突き立て、その中身を注射する。

 

「…………」

 

カプセルを抜き、腕を構えたまま目を閉じる。

 

 

 

 

 

その変化は直ぐに起きた。

 

 

 

 

 

「…………っ」

 

右腕に微かな熱を感じる。

打たれた場所から無数の血管が浮き出て、赤や青の線で前腕を覆う。

ミキミキと異音を放ち、腕の肉が奇妙に波打ち出す。

それは段々激しくなり、まるで別の生き物の様に肉が自在に波打ち動き回る。

“固形物”と言うよりも寧ろ“液体”の様だと言っても、過言では無いのかもしれない。

やがて腕の中心に波が集まりだし、そこから“何か”が出て来ようとして…………、

 

 

 

 

 

「やはり駄目か」

 

 

 

 

 

目を開いた竜二がそう呟くと同時に、急激に波が引き血管が引っ込む。

熱も収まり、竜二はその腕を眼前に翳す。

 

「……何が原因だ?」

 

ボソリと呟く竜二。

その疑問に答える者はいない。

 

 

 

 

 

 

 

「……さあ? 探せば見付かるんじゃない?」

 

筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

「!!?」

 

驚いた竜二が腕を庇い、背後を振り向く。

 

「最も、貴方にその時間は無いだろうけど」

 

そう言って上段の足場から彼を見下ろすのは、黄色い髪の美少女。

 

「覗き見してたのか」

「今のが貴方の“力”なのね。気色悪さなら魔女よりも優ってるんじゃない?」

「見せる物じゃないから、此処にいたのだがな」

 

少女は手すりを乗り越え、竜二と同じ足場に着地する。

竜二も溜息を吐き、庇ってた右腕をダラリと下げて彼女と向き合う。

 

「気分を害した所で悪いが、態々何の用だ? どうして此処にいる?」

 

その言葉に直ぐには答えず、彼女はゆっくりとベレー帽に手をやる。

 

 

 

 

 

「貴方を殺す為よ」

 

それと共にベレー帽を振り、多数の白いマスケット銃が宙に出現する。

 

 

 

 

 

「……次は無いと言ったよな?」

 

軽く頭を右手で押さえながら、竜二は問い掛ける。

 

「ええ、承知の上よ」

「訳を聞いても?」

「…………上手く行ってたの」

 

ポツリと、彼女は言う。

 

「上手く行ってたの。鹿目さんや美樹さんと、間違ってた事もあったけど、それでも何とかなってたの」

「…………」

「でも…………、貴方が来てから、何もかも全部狂い出した」

 

その言葉は傷付き壊れていく彼女の悲鳴の様で、だが同時に彼女自身を傷付ける刃その物だった。

 

「貴方に教えられた事もある。暁美さんから、私を助けたのは実質全て貴方のお陰だって聞いてもいる。でも…………、貴方が来てから、私の周りが全部壊れ出して、美樹さんも…………」

「……俺は」

「貴方の所為だって、全部決め付けてる訳じゃ無い。そんな事は、もうどうでも良いの…………。貴方は私を助けたけど、美樹さんを助けてくれなかった。貴方がこの街に来なかったら、彼奴等の事なんて、何も知らずに済んだ…………」

「…………マミちゃん」

「ね、最低でしょ? こんな事言いたく無いのに、誰かの所為になんてしたく無いのに、命の恩人にすらそう考えちゃう位に恨みや呪いに飲まれてるの。…………私が、美樹さんと同じ魔女になるのも、もう時間の問題よね…………」

「…………」

「間違ってる事をしてる事位、とっくに分かっているの。でも…………、貴方は、私達を壊した“アレ”その物…………」

 

その瞳から、一筋の涙が零れ落ちる。

今にも壊れそうな位に苦痛に顔を歪め、微かに震える手でマスケット銃を握りしめる彼女には、最早どんな説得も通じないだろう。

彼女の怨むのは“竜二”では無く、“竜二というB.O.W.”なのだから。

 

「……全く……」

 

多数の銃口を向けられた前で、右手で頭を掻いた竜二は、

 

「少し時間をくれ」

 

そう言って、腰から通信端末を取り出す。

それを操作し、竜二は何処かに連絡を取り出す。

 

「クリス。聞こえ『ハイハイ、此方ピアーズ・ニヴァンスです』…………番号間違えたか?」

 

思わず掛けた番号を見直しかける竜二。

 

『間違えてないです。これは隊長の通信機ですよ』

「…………じゃあ、何で…………?」

『隊長が取り込んでて、その代わりに出てるんです。所で、そっちは今何処に? 此方は既に着いてますけど』

「待たせてしまって悪いが、ちょっと“此方絡み”で野暮用が出来た。そっちで先に始めていてくれ」

『……分かりました』

「じゃあ切るぞ。応援は大丈夫だ」

『え? 応援ってな』

 

通信を切り、竜二は律儀に待っていたマミと改めて向き合う。

 

「…………悪く思うなよ」

「そちらこそ、覚悟してね」

 

起こるべきで無かった戦いが、始まる。

 

 

 

 

 




Chapter 5 始動!! B.O.A.です。

等々、種明かしが始まります。

ビミョーに出ている“あの人”ですが、実は作者はマルハワの4巻をまだ買ってない…………。
NETのレビューで、経歴がレズモンドさんそっくりだったんで参戦させました。

さて、次回。彼が本気を出す…………?

感想等、お待ちしております(^-^)/

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