BIOHAZARD CODE:M.A.G.I.C.A.   作:B.O.A.

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・1998年12月27日

ロックフォート島を脱出したクレアとスティーブが、島の責任者アルフレッド・アシュフォードの手で強引に南極基地に誘導される。





バイオハザード:CODE Veronica ~ロックフォート島襲撃事件~


chapter 4-10

・見滝原市、路地裏。

 

 

 

「…………はぁ…………」

 

人通りの無い路地裏を、竜二は一人歩いて行く。

その足取りは何処か重い。

 

(……慣れてねぇ事が多すぎるわ……)

 

それは、先程のまどか達を送った時の事だった。

とは言っても、散々自分をネタに使われた事はまだ良い方で……。

 

(あの後のまどかが大変過ぎた)

 

さやかと別れた後、まどかは直ぐに竜二に、

 

“「あのっ! 本当に違いますからね!? 別に私は竜二さんを好きな訳じゃ……ああっ、でも、別に竜二さんが駄目って訳じゃ無くて……って、何言ってんの私!?」”

 

自ら深みに嵌って顔を真っ赤にしながら、まどかは必死に弁明していた。

それが家に着く直前まで続いたのだ。

宥めるのに彼がどれ程気を使った事か、想像するに難くないだろう。

 

(女って奴は…………)

 

何処ぞの“先輩”の口癖を呟く竜二。

それでも、仕事をする為に工事現場に向かっていた彼だったが、

 

「…………」

 

急に足を止める。

 

 

 

 

 

 

 

「…………何か用か?」

「……………………」

 

 

 

 

 

 

 

彼の前に現れたのは、魔法少女姿の暁美ほむらだった。

 

「……あるならあるで、手早くしてくれないか?」

「……………………」

 

ほむらは黙ったまま動かない。

その顔は、何処か強張っている様に見える。

だが暫くすると、厳しい目を竜二に向けて、

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あなた、昨日の傷は大丈夫?」

(!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

内心動揺するが、どうにか笑顔を作って、

 

「……そんな事か? なら、心配は要らない。」

「…………見せてくれる?」

「…………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に大丈夫かどうか、見せてくれる?」

「……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

竜二の顔にも、僅かに緊張が見え始める。

 

「人に見せる物でも無い。そこまで心配する必要は…………」

「…………何方なの…………?」

「っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

「“見せたくないのか”、“見せられないのか”、何方なの…………?」

「……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

場が一気に緊迫する。

 

(……クソッタレ……、予感はしてたが、此処でか…………)

 

思わず竜二は毒づく。

最早、彼女に下手な言い訳は通用しないだろう。

自身の身体について明かそうと、竜二が口を開いた瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………どういうつもりだ。」

「……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

何時の間にか、ほむらは竜二の背後に立っていた。

その背に、硬く冷たい物が当たる。

 

「…………俺は、お前の敵では無いと言ったと思うが」

「…………なら、答えて」

 

“デザートイーグル”の安全装置を外し、ほむらは言う。

 

 

 

 

 

 

 

「あなたは…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

ー見滝原市、見滝原中学校屋上ー

 

 

 

「……………………」

 

お昼休み、ほむらは屋上で物思いに耽っていた。

彼女以外に屋上に人影は無い。

 

(…………“アレ”は、一体何だったの…………?)

 

悩みの種は、昨日の竜二の事だった。

今朝もまどか達と登校している辺り、恐らく気付いているのは自分だけだろう。

 

(諜報員(エージェント)なら、秘密の一つぐらいはあるとは思っていたけど……)

 

今更ながら、自分達は彼自身について余りに知らない事に気付く。

 

(…………どうするべきか…………)

 

自分がそれを聞けば、彼をこちら側に完全に巻き込む事になる。

そして、それは自分にも言える。

 

(今更と言う感じもするけど、“唯の人間”を巻き込む訳にはいかない…………彼を“唯の人間”とは呼べないかもしれないけど)

 

それでも、元々彼は無関係だ。

タダでさえ彼はB.O.W.(彼の事)で手一杯なのに、それを邪魔してはいけない。

 

(それに、私自身も“それ”に巻き込まれたくは無い)

 

なら、気付いていない振りをすべきか。

ほむらがその判断に迷っていると、

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………随分と悩んでいるみたいだね」

「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

久しく聞いた、“怨敵”の声。

それに顔を上げると、屋上の柵の上にキュウべえがいた。

 

「君も、“彼”の正体に疑問を持っているんだね」

「…………それが?」

「僕も同じって事さ」

 

冷ややかな目を向けるほむらに、キュウべえは、

 

「“こちら側”についたのは、その為だよ」

「今更言い訳をするつもり?」

「まさか。それは本題じゃ無い」

 

眉を顰めるほむら。

 

「なら、何の用なの?」

「警告だよ」

「警告?」

「“彼”は、そう簡単に信じて良い相手なのかって事さ」

 

キュウべえが柵の上から降りてくる。

 

「今日、この街の近く、五郷市でバイオテロがあった」

「!?」

「その首謀者は、“美国久臣”」

 

驚くほむらの前にキュウべえが座って、

 

「彼は、その数日前にある人物と会っている。…………然も、密会という形で」

「…………彼が共謀したと?」

「僕には分からないけど、最近、BSAAの周りで盗聴器も見つかったみたいだよ」

 

黙り込むほむらに、キュウべえが続けて、

 

「彼への“声掛け”も、“彼等”の指示だ。何らかの繋がりがあるかもね」

「……………………」

 

キュウべえは、基本的に“嘘”は言わないのだ。

彼の言う通りなら、竜二が自分達に接近してきたのにも説明がつく。

 

「…………どうして私に伝えるの?」

「飽くまで、僕は本気で“彼等”の味方をするつもりは無い。全て、(アンノウン)の事を調べる為さ」

 

平然と言うキュウべえ。

ほむらはキュウべえを睨んで、

 

「…………私は、あなたの言葉を簡単に鵜呑みにするつもりは無い。だから、参考にはして置くわ」

(全ては、彼の話を聞いた後に決める)

 

そう考えたほむらに対し、キュウべえは、

 

「なら、此れも参考にしてくれるかい?」

「…………?」

 

 

 

 

 

 

 

「彼は……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたは…………、過去に、どれ程の人間を殺したの?」

「ッ!?」

 

背中越しに、竜二の身体が強張るのが分かる。

 

「……………………俺は諜報員(エージェント)だ。それなりにいる」

「分かる範囲で良いのよ」

「……………………さあな。数えた事は無いから…………」

「嘘ね」

 

銃口を強く押し付ける。

自分でも、動揺してるのを自覚する。

 

「あなたは…………」

 

少し声を震わせながら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「過去に、“三万人”の人間を、“一夜”で、殺している。…………そうよね?」

「…………………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

その沈黙が、全てを語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………何故黙ってたの」

「…………自慢する事か?」

 

力無く、竜二が答える。

 

「あなたは何者なの? 目的は? 此処で全て話して」

「…………前に言ったが」

 

引き金に指が掛かる。

正直、銃口を向けてないと震え出しそうだった。

 

「……………………俺は」

 

そう竜二が言い出した時だった。

 

 

 

 

 

 

prrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

「「!!」」

 

竜二のポケットから携帯の音が鳴る。

 

「……………………」

「…………出なさい」

 

竜二は静かに携帯を抜き、電話に出る。

 

「俺だ、竜『やっと繋がったか!? 聞こえるか!!?』」

 

聞き覚えのある大声が携帯から響く。

 

「…………杏子?」

『早く来てくれ!!!』

 

杏子が続けて叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

『公園に、“デカい奴”が出やがった!!!』

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

・見滝原市、市民公園。

 

 

 

夕暮れの公園、その並木道を外れた林の中にさやかはいた。

 

(あたしの……本性?)

『うんっ☆。もう直ぐかなっ♫』

 

そう言った“ユイ”は、何処か楽しそうに、

 

『私は、あなたに自分自身を知って貰いたいの…………ほら、何処の草むらから覗いてご覧♫』

 

言われた通りに、さやかが茂みから覗くと、

 

「…………恭介に、仁美?」

 

恭介の車椅子を押す仁美の姿があった。

声は聞こえなかったが、楽しそうに二人は話している様だった。

 

(っ…………)

 

少し、胸が苦しくなるさやか。

 

『…………フフフッ、やっぱり~☆』

(…………何がよ)

『あなたは無茶してる。自分の気持ちに嘘吐いてる』

(…………あたしは)

『あの子に譲った? だったら、何で動揺するの?』

(当たり前でしょ。そう簡単に割り切れる訳無いよ)

『変だよねぇ~っ』

 

“ユイ”は何処か憎々しく、

 

『あなたは、自分の人生振って彼を救ったってのに、今も自分の思いに苦しんでるのに、あの子は何にも思わずに、当たり前の様に彼と笑ってる。おかしいと思わない? 不公平じゃない?』

(あたしは、自分のやった事に対価なんて求めない。自分の都合の為にこの力は使わない。魔女を倒して皆を救う、それがあたしの使命なんだ。ユイも分かるでしょ?)

『当然だよ。だから、…………あ、見てっ』

 

さやかが目を向けると、仁美が公園の湖に沿うベンチに座り、恭介がそれに車椅子を横付けしていた。

 

『あの子、告白すんじゃない?』

(……………………!!)

 

確かに、座る仁美の表情は固く、何処か緊張している様だった。

 

『どーすんのーっ☆? 見逃しちゃうのーっ♫?』

(…………あたしに、今から出て行けって言うの?)

『チョット、違うかなっ☆』

 

仁美が、ゆっくりと口を開こうとする。

 

(じゃあ、どうすんのよ?)

『“公平”にしようよっ☆!』

 

“ユイ”は本当に楽しそうに、

 

 

 

 

 

 

 

 

『“公平”に、苦しんで貰おうよっ☆!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

ザバァァァァアアアアアアアアアアン!!!!!

 

それと共に、二人の背後で突然水柱が上がる。

振り向いた二人と、さやかが目にしたのは、

 

 

 

 

 

 

 

「ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

神話に出てきそうな、巨大な黄色い“蛇”。

 

 

 

 

 

 

 

(なっ!?)

 

驚くさやかの前で直ぐに蛇、“ヤトノカミ”は動く。

その大口を開け、仁美の方を向く。

 

「…………えっ」

 

悲鳴すら上げられず、呆然とする彼女にその大口が一気に迫り、

 

 

 

 

 

 

 

「っ! 危ないっ!!」

 

恭介が車椅子越しに仁美を押し倒す。

 

 

 

 

 

 

 

ガシャァァァァァアアアアアアアアアン!!!!!

「うあぁぁぁあああああああああああああっ!!!」

(っ!? 恭介ぇ!!?)

 

 

 

 

 

 

 

ヤトノカミは恭介を咥え、高々と持ち上げる。

車椅子が倒れ、大きな音を立てた。

 

「きゃぁぁああああああああああああああっ!!!」

 

仁美が悲鳴をあげる前で、恭介を咥えたまま頭を振るヤトノカミ。

 

『ふ~んっ、彼って意外と根性あるねっ』

(あんた…………まさか)

『ど~でしょ~ね~っ☆。っで? どうするの?』

(決まってる。今すぐ仁美と恭介を…………って、え?)

 

漸く、さやかが自分の異変に気付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

(どうして…………、どうして身体が動かないのっ!!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

どんだけ動かそうと思っても、念じても、指一つ動く気配が無い。

まるで、身体と意識が繋がってない様だった。

奇妙な事態に、さやかは恐怖を覚える。

 

『行っかないの~? いや、ひょっとして、行けないんじゃない~っ☆』

(っ! あんた! あたしに何したのっ!!?)

『あなたの“本当の思い”に身体を支配させただけだよ~っ♫』

 

今、もしさやかを機から見る人がいたならば、“それ”に気付けたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

彼女の“瞳孔”が、開き切っている事に。

 

 

 

 

 

 

 

(あたしの、思い!?)

『そっ♪。あなたの本当の思い』

 

唄う様に、“ユイ”は続ける。

 

『対価なんて求めない? でも、貰いたいよねぇ? 本当は。あの子の方が相応しい? そう言って、戦う事から逃げてるだけじゃない? ま、でも仕方ないよね。あなた、嘘吐きだから。何でも優等生のあの子に、嘘吐き劣等生が敵いっこ無いよね~っ☆』

(っ!!?)

「嘘だと言うなら、動いて、助けてみてよ。出来ないでしょ? でも大丈夫。“アレ”は魔女じゃない。あなたの管轄外。だから、言い訳は効くよ?』

 

まだ、ヤトノカミは恭介を振り回している。

その度に、鮮血が歩道に飛び散る。

その一部が、腰が抜けて呆然とする仁美に掛かる。

それを見たさやかが、等々痺れを切らす。

 

(あんた…………いい加減にしろッッ!!! 何が“あたしの為”よ!!! 全部あんたの勝手じゃない!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

『(誰の、勝手だって?)』

 

 

 

 

 

 

 

 

(ッ!!!?)

『(誰の勝手だって? ねぇ、もう忘れたの?)』

 

二重に響く声は、囁く様に響く。

 

『(私は、あなたが魔法で作った“もう一人の自分”。私言葉は、あなたの言葉)』

(あ……………………ああ、……………………)

 

嘲る様な口調で響く。

 

『(私はあなた自身。二重人格でも無い、あなたの“思い”その物)』

(や、やめ……………………)

『(誰の勝手だって? 分かったよ。教えて上げる)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

( 全 部 、 自 分 勝 手 )

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あ…………あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャアアアアアアアアア……」

「っ!?」

 

仁美は、ヤトノカミが自分を見た事に気付く。

 

ザバァァアアッ!!!!!

 

水中から、大きな尻尾が伸びてくる。

 

「そんな……、いや」

 

 

 

 

 

 

「ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

「いやぁぁあああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャキンッ!!!

 

 

 

 

「ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!?」

「!?」

 

突然、仁美に叩きつけられる筈の尾に“紅い槍”が突き刺さり、

 

ダァンッ!!!

「ジャァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

喉元に“弾丸”が刺さり、堪らずヤトノカミは恭介を放す。

 

 

 

 

 

 

 

「ック! 何なんだコイツッ!?」

「二人共、大丈夫!?」

 

 

 

 

 

 

恭介を抱えた“黄色い少女”が二人に聞き、その横で“紅い少女”が呟く。

 

「え…………あの…………?」

「オイ、ボサッとしてねェでとっとと立て!」

「は、はいぃ!?」

 

杏子の言葉に、仁美がビビりながら従う。

 

「ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

その間に、ヤトノカミは湖の中に姿を隠す。

 

「取り敢えず、二人を安全な場所に避難させましょう。彼の方は手当ても必要だし」

「そいつはアンタが…………、いや待て、オマエ、携帯あるか?」

「ありますけど…………」

「貸せ」

 

仁美から携帯を受け取った杏子は、

 

「後で返す。マミ、二人を連れてけ」

「分かったわ」

 

マミが二人を送って行く。

その間に、杏子は何処からかメモ書きを取り出し、

 

「え~っと、…………アアン、使い辛れェ!」

 

タッチパネルを触り、どうにか電話を掛ける。

 

 

 

 

『俺だ、竜「やっと繋がったか!? 聞こえるか!!?」』

『…………杏子?』

「直ぐに来てくれ!!! …………公園に、"デカい奴”が出やがった!!!」

『…………!! っく、分かった!! 直ぐ行く!!!』

 

 

 

 

電話を切り、杏子は湖を睨む。

 

「“B.O.W.”だか何だか知らんが…………」

 

何時もの不敵な笑みを浮かべて、杏子は続ける。

 

 

 

 

 

 

 

「魔法少女をナメるなよ?」

 

 

 

 

 




やほー、B.O.A.です。

今回は、正に外道祭り。
二人共やってくれました。

さて、次回は久々の戦闘パート。
勝っても負けても、絶望しか見えない戦いの結末は……?

続きも頑張ります。
感想等、お待ちしてます。(^-^)/

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