BIOHAZARD CODE:M.A.G.I.C.A.   作:B.O.A.

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・1998年12月27日

クレアがロックフォート島に投獄された直後に、ウェスカー率いる特殊部隊が襲撃。島にバイオハザードが発生し、クレアはスティーブ・バーンサイドと共に脱出を図る。





バイオハザード CODE:Veronica ~ロックフォート島襲撃~


chapter 4-8

・見滝原市、バス停。

 

 

 

夜の街に雨が降っている。

まどかが走って行く先には、運行終了したバス停のベンチに座るさやかがいた。

 

「……さやかちゃん」

 

まどかが声を掛けるが、さやかはこちらを向く事無く、

 

「…………まどか、あんたも、そう思う?」

「……へ?」

「あたしが…………、“化物”だって…………」

「……………………」

 

黙ってしまうまどか。

彼女は、“化物”とハッキリ思った訳では無かったが、“魔法少女”らしく無いとは思っていた。

その間を感じて、さやかは自嘲気味な笑みを作ると、

 

「あはは…………。やっぱ、そうだよね…………」

「…………あんな戦い方、ないよ…………」

 

ポツポツと滲み出る様に、まどかは言葉を紡ぐ。

 

「見てるだけでも、痛かったもん…………。あんな事してたら、さやかちゃん、本当に壊れちゃうよ……」

「…………あたしは、才能無いからさ。ああでもしないと勝てないんだよ」

「でも、マミさん達だって居たし…………」

「頼ってるばかりじゃ、もし本当に危ない時が来たら、あたしは何も出来なくなる。一人でも、やれる様にならなきゃ駄目なんだ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「無茶した所で、得る物なんて無いぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!」」

 

二人が見ると、まどかの後ろから竜二が歩いて来ていた。

 

「テレビ番組とかで見ないか? 無茶なダイエットして、病院送りになる奴の事。訓練とかでも同じだ。無茶な事して、それで強くなった奴なんて見た事ない」

「…………何が、分かるって言うんですか…………」

 

顔を俯け、冷めた声色で言うさやか。

 

「竜二さんは一人でも戦えて、護る事が出来て、才能があって。そんな事も出来ない、才能の無いあたしの、何が、分かるって言うんですか…………!!」

「……はぁ。あんまり、人を見かけで判断して欲しく無い物だ」

「…………?」

 

竜二はさやかの隣に、少し距離を離して座ると、

 

「俺が、まだこの仕事に就く為の訓練をしていた頃の事だ。……当時の俺は、大まかに分けて、勉学、体術、射撃の三つ訓練をやってたんだがな。勉学と体術は、かなり速いペースで終えたのだが、射撃だけはてんで駄目だった」

「え? …………でも、あの時使い魔を…………?」

「それも、最初の頃は真剣に三百発撃って、中心に当たるか当たらんか位だった。…………出来る様になった今でも、ライフル射撃だけは苦手だ。」

 

それがショックで、意地でも当てる為にジョージの家に飾ってあったショットガンを改造して使おうとしたのが、実は今の相棒“ウィンチェスター”との出会いだった。

苦い過去を思い出して、思わず竜二は苦笑する。

 

「確かに、才能の有無が強さに与える影響は大きいかもしれんが、それでも例え才能が無くても地道に努力を積み重ねれば、才能に高くくってる奴よりは強くなれる」

「でも…………」

「本当は、訓練とか、お前の場合は剣道とか始めるのが良いんだろうけど、そんな事してらんないって言うなら、無茶して突っ込むぐらいならいっそ、“他人の動きを盗めよ”」

「!」

 

顔を上げたさやかと竜二の目が合う。

 

「まあ、これでも飽くまで付け焼刃なんだが、あんな無駄をする位なら杏子とか剣道部の練習とか、いっそアニメやゲームの動きを参考にした方がマシだ。お前みたいのは、よく見るだろ?」

「…………」

「確かに、様になるのに時間は掛かるし、最初は強くなっている実感も湧かないだろうが、そもそも一瞬で強くなる方法に、碌な物は無いんだ。お前には分かるだろ?」

 

さやかは顔を逸らして黙り込み、暫く会話は途切れる。

前の道路には車一台すら通らず、雨がバス停の屋根を打つ音だけが響いていた。

 

「さやかちゃん…………」

 

心配そうなまどかの声が響く。

やがて、さやかは何かを決した様に竜二の目を見て、

 

「…………あたしは」

「ソウルジェム無しに生きられない、“動く死体”」

「!?」

 

目を見開くさやか。

竜二はそれに笑みを返して、

 

「知らずに言ったと思ったか? 生憎、B.O.W.の中には“動く死体”みたいな奴もいる。今更その程度で驚かんよ」

「…………」

 

呆然とした様子のさやかに、竜二はそのまま続ける。

 

「だから、俺はさっきのお前を“化物”と呼んだんだ。…………あの時のお前は、正にソイツ等と同じだった。死も痛みも恐れず、相手を殺す事しか考えていない、そんな奴等とな」

「っ…………」

「だけど、お前には心がある。ソイツ等と違う選択が幾らでも出来る。だから、お前は間違えるな。誰かの為に戦えるのなら、決して“化物”になるな。それが、俺の伝えたい事だ」

 

等々、さやかは俯き黙ってしまう。

 

(…………やれやれ)

 

竜二は黙ったさやかから、まどかの方に目を移し、

 

「そう言えば、鹿目ちゃん」

「はい?」

 

 

 

 

 

 

 

「お前の顔、中々ショッキングだぞ」

「ふぇ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

慌てて顔に手をやり、直ぐに手を離して自分の前に翳し、

 

「ひゃあ!!?」

 

素っ頓狂な声を上げる。

その手には、先程被った竜二の血がべっとり付いていた。

 

「ほら、タオル貸してやるから早く拭きな」

「す、すいません! ありがとうございます!」

 

竜二から渡されたタオルで顔を拭うまどか。

 

「ふえぇ。いっぱい付いてる……」

 

顔を拭ったタオルを見て、そんな事を言う。

 

 

 

 

 

(…………やっぱり、あたしには…………)

 

 

 

 

 

声にならないさやかの言葉は、当然二人に知れる事は無かった。

 

「…………凄いですね。竜二さんは」

「ん?」

 

竜二が目を戻すとさやかはこちらを向いていて、

 

「こんな姿にされたあたしに、死体動かして人の振りをしているだけのあたしに、まだそんな事を言ってくれるんですね」

「…………」

「もう一度、ちゃんと考えてみます。あたしが、強くなれる様に。竜二さんみたいに」

 

 

 

「なるな」

 

 

 

「…………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何があっても、“俺”みたいには、なるな」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言った竜二の顔は、何時になく厳しく、辛そうな物だった。

二人は思わず黙り込んでしまう。

 

「……ゆっくり、自分で考えてみな。まだ、時間はあるんだ」

 

そう言って、竜二は席を立つと、

 

「もう遅くなるしな。二人共、家に帰る時間だ」

「…………」

 

二人は顔を見合わせ、互いに少し笑い合うと、

 

「まどかもゴメンね。また、心配掛けちゃった」

「ううん。気にしてない。さやかちゃんが元気になるなら、私は全然良いよ」

 

席を立ったさやかは、竜二に向き合い、

 

「竜二さん、あたしに付き合ってくれて本当にありがとうございました。……それで、また明日、で良いですよね?」

「お前が登校すればな」

「じゃあ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まどか、竜二さん、また明日」

「またね。さやかちゃん」

「考えに詰まったら、また言いに来な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

去って行くさやかを笑顔で見送るまどか。

 

(…………)

 

だが、その横で竜二はその背に“妙な気配”を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやかは、夜道を一人歩いて行く。

 

(……やっぱり、あたしには、マミさんや竜二さんみたいにはなれない)

 

顔を俯けながら、そう思うさやか。

 

(言えないよ……あたしが、後悔しかけた事。あんな事言った後に、言えっこないよ……)

 

それは仁美の宣言を受けた時、過去に彼女を助けた事のあるさやかは、一瞬助けなかったら良かったと思ってしまった事であった。

 

(このまんまじゃ、仁美に恭介を取られちゃう。でも、竜二さんには絶対に言えない)

 

竜二に言えば、恐らく彼は答えてくれるだろう。

だけど、自身の“汚点”を隠したまま、さやかは相談したくは無かった。

それをすれば、自分の考えを真剣に伝える竜二への一種の“裏切り”になるとさやかは考えていたのだ。

 

(あたしは…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうしたいの?』

(あたしは…………)

『強くなりたい?』

(駄目。あんたに従って、ああなったんだから)

『ふーん。でも、ね』

 

今、さやかの周りには誰もいない。

まるで頭に直接響く様なその“声”は、少し微笑みながら言っている様にさやかは感じた。

 

『言ったよね? 私はあなたの中にいる。あなたの知っている自分も、あなたの知らない自分も知ってる。私の言葉は、あなたの言葉なのよ?』

(でも……)

『所詮赤の他人に、あなたの一体何が分かると言うの? あなたを何も知りもしない癖に』

 

その声に、思わず考えが詰まってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この声が聞こえたのは、今日の下校後からだった。

マミ達との待ち合わせ場所に向かう途中、さやかは仁美絡みで悩んでいた。

 

(どうしよう……)

 

動揺しているさやか。

 

(今のあたしに、恭介に告白出来る資格は無い。でも、『仁美に取られたくない。』 …………、最低だよ。まどか達にあんな事言って、『結局、見返りを貰いたいだけだった』なんて…………、『正義の味方失格』だよ…………)

 

何時の間にか、その声は違和感無く響いていた。

 

(『あたしは、何も出来ない』)

 

声が同調する。

 

(どうすれば良いの……? 『強くなれば良いよ』 どうすれば、強くなれる? 『教えて上げようか?』)

 

此処で、漸くさやかは声に気付く。

 

(あんた……?)

『やっと気付いたねっ。私の事』

 

それは、幼い女の子の声だった。

さやかは周りを見るが、それらしい人はいない。

 

『私はあなたの中にいるの。そんな所にいないよ~』

(あたしの中……?)

『うん。あなたの思いが、私を呼んだの』

 

クスクス、と笑う声が聞こえる。

 

(どういう事…………?)

『どうすれば良いか。あなたは答えを求めてたでしょ? それで、無意識に魔法を使って私を呼んだの。でもね、それは新しい“何か”じゃ無くて、結局あなたはあなた自身と会話してるだけ』

(つまり…………?)

『私はあなた。私の言葉は、あなた自身の言葉。でも、もう一人自分がいる様で気が楽でしょ?』

(今のあたし、二重人格者?)

『そんな夢の無い事言っちゃ駄目だよ~!』

 

頬を膨らませて、怒っている様な気配。

自分で気付かない内に、さやかは少し落ち着いていた。

 

(あはは、ゴメンゴメン。って、自分に謝るのも変か……)

『うんうん、そんな感じっ♫』

 

今度は満足そうな気配。

今の自分と対照的な様子に、知らず知らずにさやかは気を許していた。

 

『それで、強くなりたいんでしょ?』

(……うん)

『じゃあ、次の魔女戦の時に私を呼んで。その時教えて上げる♪』

(どう呼べば良いの?)

『う~ん、そうねぇ~』

 

顔に手をやって可愛く首を傾げる様子が、目の前に浮かぶ様な声が響いて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『“ユイ”、っで良いかなっ☆』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(それであんたを呼んで、そしたらあんたは『枷を取って上げたよっ☆』って、あたしの痛覚を奪ったんだ)

『何度も言うけど、自分が何処かで望んだ事だよ? 説明不足だなんて言ったら、おかしいよね。自分の事なのに』

(……あんたは、あたしを一体どうしたいの?)

『最初に言ったでしょ? 私は、あなたの求めている答えを、あなたの本当の思いを教えたいの。自分に嘘付いてちゃ、幸せになんかなれないよ?』

(今更、あたしが幸せになれる訳無いじゃん)

『そんな風に、自分から逃げてるから駄目なんだよ』

 

さやかは、“ユイ”の呆れた様な気配を感じる。

 

『良い? 例え、あなたが死体だろうが、“化物”だろうが、何時誰が幸せになっちゃ駄目だって言ったの? 神様? 真面に信仰も持ってないのに、随分と敬虔なのね』

(…………)

『まあ、ゆっくり考えるといいわ。私は、早く自分の思いに素直になった方が良いと思うけど』

 

気配が消える。

さやかは雨降る夜空を見上げて、

 

 

 

 

 

 

 

(素直、か…………)

 

そう思った。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

・見滝原市、美国邸。

 

 

 

雨の降る夜空を、窓越しに見上げるクリス。

その背に、ピアーズが声を掛ける。

 

「グラン・フォートに関して、目ぼしい物はありませんでしたね」

「そうだな……」

 

警察の美国邸の捜査に立ち会った彼等だったが、決定的な繋がりを示す物は無かった。

 

「竜二にも伝えましょう、隊長」

「ああ、頼む」

 

ピアーズは携帯を取って、部屋を後にする。

クリス達がいたのは、嘗て竜二が久臣と会っていた応接間だった。

 

「…………」

 

クリスは部屋の内装を見やり、そのまま廊下に出る。

 

(やはり…………)

 

廊下の装飾を見て、クリスは一つ確信する。

 

 

 

 

 

 

 

(この屋敷、アレンジが多いが、土台が“洋館”の物と似ている…………)

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

・見滝原市、通学路。

 

 

 

さやかが登校していると、後ろからまどかが追い付いてくる。

 

「さやかちゃん、おはよっ」

「ああ、おはよう。まどか」

「お早う。昨日は眠れたか?」

 

その後ろから竜二が追い付く。

 

「おはようございます。竜二さん」

「そんなに畏まらんでも良いのに」

 

お互いに挨拶を交わす三人。

 

「考えは決まったか?」

「いえ……、ちょっとま…………」

 

さやかが固まる。

不審に思った竜二が前を向くと、

 

(ほおぅ…………)

 

前で、仁美と恭介が歩きながら話していた。

 

「あ…………」

 

まどかも気付き、その場が気まずい空気になる。

 

『話し掛けないの?』

(っ…………)

 

さやかが“ユイ”の言葉に返答出来ないでいると、

 

 

 

 

 

 

 

「……よぉ。もう退院したんだな」

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

竜二が前の二人に近付いて話し掛ける。

後の二人が驚いていると、恭介が竜二を見て、

 

「え? 竜二さん?」

「久しぶりだな。上条恭介」

 

恭介も驚いた顔をして、直ぐに挨拶を返す。

 

「お久しぶりです。あの時はお世話になりました」

「元気そうで何よりだ」

 

男二人がそう話していると、

 

「あ、あの……上条君、お知り合いですの?」

「ああ、病院で少しお世話になったんだ」

「成り行きだったけどな。初めまして、捜査官の竜二だ。昨日も会ったよな?」

「はい。志筑仁美ですの。あの、捜査って……?」

「…………ちょっと前に、児童狙いの通り魔があっただろ? そのな…………」

「…………成る程ですの…………」

 

予め用意した“設定”に納得した様子の仁美。

 

「じゃあ、竜二さんはその為に此処に?」

「昨日もだがな。ま、それであの子達といた訳だ」

 

そう言って、竜二はさやか達を見る。

それに釣られて視線を向けた恭介は、

 

「さやか?」

「っ!!」

 

一気に身を固くするさやか。

対して、恭介は何かを思い出した様に目を開き、直後に済まなさそうな顔をして、

 

「…………その、お早う」

「…………お、おはよう」

 

会話が止まる。

それを静かに見守る三人。

 

「…………さやか、その」

「…………何?」

『何でそんな言い方ああぁ!!? ビッグチャンスだよっ!? もっと当たれっ!! 落とせっ!!』

(煩い!!! あたしの頭で騒ぐな!!!)

 

ついぶっきらぼうに返してしまったさやかに、“ユイ”の大ブーイングが届く。

頭を降りそうになったさやかに、恭介は少しはにかんだ様子で、

 

「その……、改めて、お礼が言いたくて…………」

「え…………?」

 

さやかは思わず聞き返す。

 

「ほら、ちゃんと退院出来たよって。本当は退院した当日に言うつもりだったんだけど、スケジュールが忙しくてつい忘れちゃってさ……。本当にゴメン」

 

頭を掻いた恭介は、済まなさそうな表情を作る。

一方、呆気に取られていたさやかは謝ってきた恭介に慌てて、

 

「い、いや、そんな、謝る事じゃ無いよ。本当に忙しくて、自分の事で手一杯だったんだろうし、あたしの事なんか構ってられなかったんだしさ」

「……さやか」

「恭介…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅くなったけど、改めて。ちゃんと退院出来たよ。……その、当たっちゃたりもしたけど、何時もお見舞いに来てくれて、本当にありがとう」

(あ…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『きゃぁぁああああああああ!!! カモネギっ!! カモネギだよぉ!!』

 

ハッとしたさやかの頭に、スッカリ興奮した様子の“ユイ”の声が響く。

 

『今行かなきゃ何時行くのっ!!? ほら、躊躇しないでっ!!!』

(…………)

 

急かす“ユイ”の声に、しかしさやかは反応を示さない。

 

『…………さやか?』

(ユイ……、ゴメン、あたしはいいや)

『へ…………な、何でっ!!?』

 

驚いた様子の“ユイ”に、さやかは一旦返答せずに、

 

「……い、いや~。参ったな~。急にそんな事言われると照れるな~」

「さやか…………」

「うん…………、どう致しまして。言ってくれて凄く嬉しい」

 

照れた様な笑みを浮かべたさやかは、

 

「そう言えば、あたしも恭介に退院おめでとうって言えて無かったな。…………あはは、結局お互い様だった」

「あ……、本当だ。僕も気付かなかった」

 

二人して笑うその様子を、

 

(良かった。さやかちゃん元気になった)

 

まどかは満面の笑みで見ていて、

 

(やりますわね…………)

 

仁美は敵ながら天晴れといった様子で静観し、

 

(…………)

 

竜二は眩しそうに眺めていた。

 

「恭介、退院おめでとう。まだリハビリ大変だと思うけど、あたしは応援してるから。またバイオリン聴かせてね」

「うん、ありがとう。まだ全然下手だけど、何時でも聴きに来て良いから」

 

それを最後に、さやかはまどかの方を向いて、

 

「まどか、竜二さん。早く行こっ!」

「へっ?」

 

驚いた顔をした二人に、さやかは付き物の落ちた様な笑顔で、

 

「ほらほら、早く行くよっ! 竜二さんも、お似合いの二人の邪魔をしない!」

「え、ええ!?」

「なっ!?」

「へっ!?」

「お、おう」

 

態度がガラッと変化したさやかに連れられ、顔を赤くする恭介と仁美を置いて三人は通学路を歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………どうして?』

(気付いたんだ。あたしの本当に望んでいた物に)

 

静かに響く“ユイ”の声に、さやかはそう答える。

 

(あたしは、ただ恭介のバイオリンが聴きたかっただけだった。恭介が幸せでいてくれれば、それだけで良かったんだ)

『でも、それと…………』

(悔しいけど、今のあたしより仁美の方が適任だしさ。あんたには悪いけど、あたしは今のままで良い)

 

さやかは前を見つめて、

 

(あたしは、恭介と、恭介のいるこの街を守っていく。それだけで、あたしは幸せなんだ)

『…………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(だから、後悔なんて、ある訳ない)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………嘘吐き』

 

 

 

 

 

 




お待たせしました。B.O.A.です。

…………何か、純粋なホラーになりました。
バイオって感じじゃ無い、かも、です。

さて、不穏だらけの彼女の結末や如何に。
続きも頑張って行きます。



此処で一つ謝罪。次で終わりませんorz。
終盤間近ではあるので、お付き合い頂けると幸いです。(T . T)

感想等、お待ちしております。(^-^)/

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