BIOHAZARD CODE:M.A.G.I.C.A.   作:B.O.A.

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・1998年9月29日

・ラクーン市を訪れたレオン・S・ケネディと、クレア・レッドフィールドがバイオハザードに巻き込まれる。途中でシェリー・バーキンと合流した彼等は、アンブレラ地下研究所を通り9月30日に脱出する。




バイオハザード2 ~ラクーン市崩壊~


chapter 4-4

・白鴎女子高等学校、グラウンド。

 

 

 

目的:敵を刻む。

 

 

 

「さてさて~、私の敵はドコに隠れたかな~?」

 

キリカが、グラウンドの中央に向けてゆっくりと歩を進める。

そのまま四分の一くらい進んだ所で、

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!!

 

 

 

 

 

 

地鳴りと共に前方の地面が隆起し、その隆起が真っ直ぐ突っ込んで来る。

 

「来た来た☆」

 

軽くサイドステップして、隆起の軌道を外れるキリカ。

隆起はそのままキリカの脇を通り過ぎ、後方へ流れる。

 

「…………」

 

隆起に目をやるキリカ。

そのまま隆起は後方へある程度進んだ後、突然進行を止める。

少し身構えるキリカだったが、

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 

 

 

 

 

 

何も起こらない。

思わず拍子抜けするキリカ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオオオオオオォォォォォォオオオオオオオオオオンンン!!!!!!

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

その“背後”から、砂虫は飛び出す。

キリカの隙を突いた完璧なタイミングで飛び出した砂虫は、そのまま花弁状に六つに裂けた大顎を開く。

人を軽く丸呑み出来るそれを、砂虫はキリカの背中にむけて瞬時に突き出す。

巨体に似合わない、弾丸の様な速さだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

という風に、キリカは評価した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはッ!! 凄く速いねッ!!!」

 

完璧に捉えた筈であった。

だが、砂虫の顎にキリカは擦りもしなかった。

代わりに喰らったのは、

 

 

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!???」

 

 

 

キリカの武器である、黒いかぎ爪。

魔力で輝く、片手に三本ずつ付いた計六本のそれを、キリカは縦に揃えて振り下ろす。

右顎の一部が切り取られ、絶叫と体液を撒き散らす砂虫。

 

「ふーん」

 

対し、キリカは感心した様な声を出していた。

 

(一撃で決着の予定だったけど、逃げられた)

 

本来なら、一撃で頭部が飛ぶ筈だった。

そうならなかったのは、砂虫がキリカの攻撃の寸前に、頭部を反対側に反らしていたからだった。

 

 

 

 

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

砂虫は一旦直立して咆哮すると、一瞬で地中に身を隠す。

その後直ぐに、

 

 

 

 

 

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!

 

地面が隆起し、キリカの周囲を回る様に移動し出す。

 

 

 

 

 

「魔女じゃないのに、結構やるね~」

 

だが、キリカは呑気にそんな事を言う。

 

(でも、底は知れたかなぁ)

 

巨体の攻撃力と不釣り合いのスピードを持つ砂虫だが、そもそも、彼女との相性は悪い。

というのも、彼女、呉キリカの魔法は“速度低下”である。

自分以外のあらゆる対象の速度を下げられる彼女は、異なる“時間軸”においてマミの狙い(エイム)からも瞬時に逃れている。

砂虫の速度など、お遊びの領域であろう。

 

 

 

 

ガガガガガガガガガガガガガガガ…………!!!

 

 

 

 

一周した辺りで、再び隆起が止まる。

 

「今度は何をするのかな?」

 

静かになったグラウンドで、キリカはボンヤリと呟く。

脅威にならないと悟った今、彼女の興味対象は砂虫の行動だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、直ぐに満たされる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオオォォォォォオオオオオオオンン!!!!

 

「おっ!?」

 

少し離れた場所に出現した砂虫は、グラウンド脇に生えていた木を咥えると、

 

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 

 

それを引き抜き、キリカの方へ正確に投げてくる。

 

「凄ッ!! 君、頭良いねッ!!!」

 

元がミミズとは思えない行動に、キリカのテンションが跳ね上がる。

 

「よーし! そりゃあああぁぁぁあああ!!!」

 

上がったテンションのままに、キリカは子供の様に叫んでかぎ爪を振るう。

幾重にも振られたかぎ爪によって、投げられた木は空中でバラバラになった。

 

「次ッ!!」

 

叫ぶキリカに応える様に、砂虫は二本目を投擲する。

 

「ヒューーーーーー!!!」

 

二本目も同様に切り刻んだキリカの前で、

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

体を曲げて、砂虫は頭から地面に潜る。

暫く経つと地響きと共に、

 

 

 

 

 

 

ドオオオオォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオンンン!!!!!

 

キリカの前方から飛び出し、頭上を超えて後ろの地面に再び潜る。

 

 

 

 

 

 

「わおッ!! サーカスみたいだ!!!」

 

叫ぶキリカの横から、地響きと共に隆起が迫る。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

地面から飛び出し、砂虫が大顎を開く。

 

 

 

 

 

 

「でも、結局単調だね」

 

 

 

 

 

迫る顎を軽々と避け、今度は左顎に向けてかぎ爪を斜めに振る。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!???」

 

左顎も切断されて、大きくのたうつ砂虫。

 

「うん。飽きた」

 

地面に潜る砂虫を見て、キリカはポツリと呟く。

 

「織莉子も待たせてるし、次で仕留めよう」

 

キリカが右のかぎ爪に魔力を集中する。

 

 

 

 

 

ガチガチガチガチガチガチガチガチ!!!

 

 

 

 

 

直後に爪が大きく伸び、鋸状の巨大な物に変化する。

「ヴァンパイア・ファング」と呼ばれる、キリカの決め技の一つだった。

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!!

 

 

 

 

 

再び地鳴りが響く。

地面が隆起し、一直線に向かってくる。

 

「同じ手には…………」

 

サイドステップで進行ルートから外れるキリカ。

そのまま脇を通り過ぎる隆起。

 

 

 

 

 

「二度も掛からない!!!」

 

ドオオオオォォォォォオオオオオオオオンン!!!!!!

 

 

 

 

 

振り向き様に巨大なかぎ爪を振るう。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!???」

 

かぎ爪は、飛び出した砂虫の下顎を刈り取る。

 

(少し早かったか。でも!)

 

上顎以外を失った砂虫は、頭を叩きつける様にのたうちまわっている。

 

「ばいばい☆!!」

 

右手のかぎ爪を翻し、巨大なそれを上から叩きつける。

その爪は、砂虫の頭部に迫って…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチィ!!!!

「あれ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

かぎ爪が途中で止まり、キョトンとするキリカ。

それは、砂虫の頭部で止まっていた。

 

 

 

 

 

ただ、止めたのは“顎”ではなかった。

 

 

 

 

 

 

「…………へえぇ」

 

切り取られた砂虫の顎の断面からは、昆虫の様な節のある触手が十本以上生えていた。

一本一本のその先には二股のかぎ爪があり、それがキリカの爪を受け止めていた。

それを見たキリカは、

 

 

 

 

 

 

「へええぇぇぇぇぇえええええええッ!!! 凄ッ!! 凄いね!!! 止めたッ!! 私の爪をッ!! 止めたぁッ!!!」

 

魔女ではない相手の予想外の実力に、完全にブッとんだ様子になるキリカ。

興奮冷めぬままに、次の攻撃に移るべく左手を構える。

 

「じゃあ次は!!? 次ッ!! 次々つ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチィッ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(!!!???)

 

奇妙な音と共に、キリカの全身に凄まじい衝撃が走る。

一瞬で全身から力が抜ける。

 

 

 

 

そんな隙を砂虫が見逃す訳もなく、

 

 

 

 

 

 

 

 

(あ…………ヤバ…………)

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」

 

キリカの爪をしっかり掴み直すと、

 

 

 

 

 

 

 

頭を大きく振って、キリカを思い切り地面に叩きつける。

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォオオオオオオオオン!!!!!

「があああああああああああああああああああああああッ!!!!」

「キリカぁぁぁああああああ!!!?」

 

その衝撃でキリカの爪が中程で折れ、キリカの身体は数回バウンドする。

やがて身体が完全に静止したのは、織莉子の目の前であった。

 

 

 

「|ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ《キィィィィィィィィィィィィィィィィィ》!!!!!!」

 

 

 

二重の咆哮を放った砂虫は、地面に潜り隆起を作りながらキリカの元に迫る。

 

(しまった…………。身体、動かない…………)

 

どうにか動こうとするキリカだったが、全身のダメージは重く指一本動かせない。

 

「キリカ!!? キリカぁ!!!?」

(ッ!!!)

 

頭の上から聞こえる声に、キリカは我に帰る。

 

(ダメッ!! 私が死んだら織莉子がッ!!! 織莉子が死ぬ!!! それはダメ!! 絶対!! ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダぁ!!!)

「…………う、うううううあああああああああああああああああッ!!!!」

 

当に、思いが生んだ奇跡と言うべきか。

立ち上がれる筈もない状態で、それでもキリカは気力で立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、それが限界だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眼前に砂虫の触手が迫ってくる。

結末は、容易に想像出来た。

 

 

 

 

(織莉子…………、ゴメン…………)

「|ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ《キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ》!!!!!!!!」

「キリカぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タァン!!!タタタァン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「|ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ《キィィィィィィィィァァァァァァァァァァァァ》!!!!!!????」

「「!!!??」」

 

突然悲鳴を上げて頭部を引いた砂虫に、二人が驚愕する。

二人が何が起きたか把握も出来ない内に、

 

 

 

 

 

ダラララララララララララララララ!!!!

 

「|ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ《キィィィィィィィァァァァァァァァ》!!!!???」

 

続いて響いた轟音と共に、砂虫が悶えて地面に潜る。

二人が音のした方へ振り向くと、

 

 

 

 

 

 

「…………そこにいるだろうから聞くが」

 

 

 

 

 

 

 

そこにいたのは、クリス・レッドフィールド(語られぬ英雄)

 

 

 

 

 

 

「間一髪だったな。大丈夫か?」

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

・白鴎女子高等学校、グラウンド。

 

 

 

「ピアーズ。民間人と“魔法少女”を保護。そっちは?」

『屋上の“敵”を一掃して、ようやく安全が確保出来ました』

「良し。今から大型B.O.W.と交戦する。援護出来るか?」

『ピアーズ・ニヴァンス。援護射撃、了解しました!!』

 

クリスは通信を切り、周囲を警戒しながら側の二人に声を掛ける。

 

「君達はそこでジッとしていてくれ。その中は安全だろう?」

 

クリスにキリカは視認出来ないが、織莉子を包むバリアは見えた。

フック状の“何か”が組み合わさった奇怪なバリアに、クリスは僅かに眉を顰める。

 

「え……? あの…………」

「俺達がアレを倒す、それまでの辛抱だ。…………心配は要らない。生憎、これが仕事なのでね」

 

優秀な成績を持つ織莉子は、クリスの英話を“アレを倒す間でここで待ってろ”と解釈して、クリスに向けて頷く。

それを横目で見たクリスは、

 

「そっちの子はど」

「恩人!!!」

「うおおおおお!!??」

 

クリスからすれば、虚空から突然少女が湧き出たのである。

驚いて思わず銃口を向けたのも、仕方のない事だろう。

 

「有難う!!! 恩人のお陰で織莉子と織莉子への愛は死なずに済んだよッ!!!」

「そ、そうか」

 

キリカの異様な雰囲気にクリスが気圧されていると、

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!!!

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

三人が目を向けると、グラウンドに隆起が生まれ、周囲をデタラメに動き出す。

 

「君も下がっていろ。俺達に任せてくれ」

 

キリカにそう言い残し、クリスはアサルトライフルを改めて握る。

 

「ピアーズ!! やるぞ!!」

『了解です!! 隊長!!』

 

 

 

目的:大型B.O.W.を倒す。

 

 

 

グラウンド中央へと走り出すクリス。

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!!!!

 

 

 

 

その後を隆起が追う。

隆起は直ぐにクリスに追い付いて、

 

 

 

 

 

 

ドオオオオォォォォォォオオオオオオオオオオオンン!!!!!!

「|ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ《キィィィィィィィィィィィィィィ》!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

砂虫はクリスの進路を塞ぐ出現し、大口を開く。

鋭い牙の付いた触手を蠢かし、その大口を素早く前に突き出す。

 

 

 

 

 

 

タタタタァン!!!!

 

「|ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ《キィィィィィィァァァァァァァァァァァァァァ》!!!!???」

 

が、その口に複数のライフル弾が突き刺さり、砂虫は絶叫を上げる。

その頭部に、クリスもアサルトライフルを発砲するが、

 

Damn it !!!(畜生!!!)

 

素早く窄めた触手は意外と硬く、アサルトライフルの弾を弾いてしまう。

 

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ(キィィィィィィィィィィィィ)!!!!」

 

砂虫は直立した後、素早く地中に戻る。

 

(不味いな。攻撃のチャンスが少ない)

 

地響きと共に周囲を回り出した隆起を睨みながら、クリスは内心歯噛みする。

 

(手榴弾でも喰らわせられれば良いが、そもそもその隙がない。ライフル弾だけで倒せるか……?)

 

この砂虫は明らかに“ロックフォート”のソレより改良されている。

同じ様に行くとはクリスには思えなかった。

と、隆起が止まり、また時間が流れる。

警官や他の隊員達の銃声が遠くから聞こえた。

 

「何処へ行った……!?」

 

辺りを見渡すクリス。

 

 

 

 

ドオオオォォォォオオオオオオオオオオンン!!!!

 

 

 

 

少し離れた場所に出現する砂虫。

何か投げてくるのか、と身構えるクリス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砂虫の行動は、予測出来ない物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「|ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ《キィィィィィィィィィィィィィィィ》!!!」

 

口を窄めて頭を一旦引いた砂虫が、咆哮と共に窄めた口を突き出す。

 

 

 

 

 

その触手が、根元から射出される。

 

 

 

 

 

「!!?」

 

クリスは反射的に地面に転がる。

射出された触手はクリスの頭を掠め、背後の地面に突き刺さる。

 

 

 

 

 

 

 

 

それで終わりではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

バチバチバチィッ!!!!

「うおおおおおおおおおッ!!?」

 

凄まじい音と共に放電し出した触手から、クリスは直様離れる。

 

「野郎……!!!」

「|ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ《キィィィィィィィィィィィィィ》!!!!!」

 

続けて二射、三射と放たれる触手。

それを躱し切るクリスに第四射を放とうとして、

 

 

 

 

 

タタタァン!!!タタァン!!!

 

 

 

 

ピアーズの援護射撃が届くが、硬く閉じた口はライフル弾を通さない。

 

「ウウウウウウウウウウウウウ…………!!!」

 

砂虫は頭を動かし、校舎屋上を向く。

 

「ッ!! ピアーズ!!」

『畜生……!!!』

 

悔しそうなピアーズの声が無線機から響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

屋上の一角に、触手が突き立った。

一本だけでなく、三四本と刺さり一帯を高圧電流で覆う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピアーズ!!!?」

『大丈夫です。何とか逃げ切りました……!』

 

無事そうなピアーズの声が響く。

だが、状況は悪くなる一方だ。

 

(ピアーズの援護も頼れない。手持ちの火力も不安が残る……!)

 

ロケットランチャーやグレネードランチャーが無い以上手榴弾でどうにかするしか無いが、アサルトライフルを弾く相手に闇雲に投げても効果は薄い。

心当たりがあるとすればピアーズの持つ“アンチ・マテリアル・ライフル”だが、掃討戦だったので直前でセミオート機能付きの“ドラグノフ”に変更していた。

 

『三階でポイントを探してみます!!』

「分かった。確保したら報告してくれ」

 

通信を切り砂虫を見ると、砂虫は射出した触手の分を再生していた所だった。

 

ウオオオオオオオオオオオ(キィィィィィィ)…………!!!」

(危険だが、噛み付きを誘って手榴弾をねじ込むしか無いか…………!)

 

口を窄めて再び射出の体勢を取る砂虫。

 

(次の射出のタイミングで奴に近付く!!)

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ(キィィィィィィィィィィィィィ)!!!」

 

触手がクリス目掛けて射出されて、

クリスはそれを避けて踏み出そうとして、

 

 

 

 

 

 

 

ガスッッッ!!!!!!

 

空中で、触手が長い“何か”に撃ち落とされる。

 

 

 

 

 

 

 

「!!?」

 

突然の事に驚くも、クリスの足は止まらない。

手榴弾をポーチから取り出し、一気に砂虫に肉迫する。

 

「|ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ《キィィィィィィィィィィィィィィィ》!!!!!」

 

砂虫がクリスに気付き、喰らい付くべくその大口を開く。

 

(今だ!!!)

 

ピンを抜き、横に飛びながら口を目掛けて投げ込む。

砂虫の触手の牙が、クリスの足先を掠める。

投げ込まれた手榴弾は大口に入り、砂虫が反射的に口を閉じる。

 

 

 

 

 

直後に、くぐもった爆発音が響いた。

 

 

 

 

 

口の周囲の触手が吹き飛び、そこから黒い煙が上がる。

 

「|ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ《キィィィィィィィァァァァァァァァァァァァァァァ》!!!!????」

 

砂虫は凄まじい絶叫を上げるが、だが直ぐに地面に潜り込んでしまう。

 

(まだ死なないか……)

 

そう思いながら、クリスは先程の“何か”が飛んできた方向を向く。

 

 

 

 

 

 

 

「恩人!! 無事かい!!?」

 

 

 

 

 

 

 

眼帯の“魔法少女”、呉キリカがクリスに近寄ってそう言う。

 

「引いていろと言った筈だが」

「恩人の言った事は理解出来てるよ。でも、私は恩人に礼がしたい。恩人の力になりたい!」

 

言い切ったキリカは、急に目を潤ませると、

 

「ダメ!? 恩人は礼を拒否なの!!?」

「……いや、その」

(彼女を危険に晒したくは無いが…………)

 

クリスは彼女が両手に持つかぎ爪に目をやって、

 

「君、それでアレを切れるか?」

「勿論! 楽勝だよッ!!」

「!!?」

 

彼女が叫ぶや否や、右のかぎ爪が大きく伸びる。

「触手を」というつもりで言ったクリスの言葉を、彼女は「砂虫を」という意味で取ったようだった。

 

(…………今の現状、“彼女”の力を借りるべきかもしれない)

 

“異常な物”を前にしても、クリスの頭は冷静だった。

 

「……良し。俺達がアレを引きつけるから、それでアレを切ってくれ」

「うん!! 分かったよ!!恩人!!!」

 

ここで、無線機のコール音が響く。

 

『ポイントを確保しましたが……、あの、隊長の横の子は…………?』

「奴を倒す“鍵”だ。俺が奴を引きつける。お前は先程通りに撃ってくれ」

『…………ああ、そう言えば…………、ピアーズ・ニヴァンス、了解しました!!』

 

ピアーズも、彼女の正体に思い至ったようだった。

通信が切れると、タイミングを合わせた様に、

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!!!

 

 

 

 

地面の隆起が二人の周囲を回り出す。

身構える二人。

遠く離れた校舎の三階で、下階からの揺れに注意しながらも、ピアーズはドラグノフを握る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あり得ない筈の共闘が、実現していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地響きが止み、隆起の進行も止まる。

三人に緊張が走る。

 

 

 

 

 

 

ドオオオォォォォォォオオオオオオオオオオンン!!!!!

「|ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ《キィィィィィィィィィィィィィ》!!!!!!」

 

飛び出したのは、クリスの脇。

大きく地面から飛び上がって、クリスを押し潰そうとする。

だが、彼等の行動は速かった。

 

 

 

 

 

タタタタタタタタタタァン!!!!

ダララララララララララララッ!!!!

「|ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ《キィィィィィィィィァァァァァァァァ》!!!!!???」

 

 

 

 

 

クリスのアサルトライフル、ピアーズのドラグノフが盛大に火を吹く。

砂虫は絶叫して体勢を崩し、力無く落ちて行く。

 

「行くぞぉぉぉおおおおお!!!」

 

その真下にキリカが走り込む。

「ヴァンパイア・ファング」を発動した右手のかぎ爪を構え、上空を睨む。

その爪は、砂虫の全長に匹敵する程の長さがあった。

 

 

 

 

 

「止めだぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

その右手で宙を大きく薙ぐ。

爪の先は胴体から落下する砂虫の頭部を捉え、そのまま尾の先まで縦に切り裂いた。

 

 

 

ビシャビシャビシャビシャビシャビシャ!!!!!

 

 

 

緑色の体液と、毒々しい色の臓器と、犠牲者の赤い“何か”が二人に盛大に降り注ぐ。

 

「………………………………」

 

微妙な気分になった二人の側に、四枚下ろしにされた砂虫の残骸がボタボタ、と落ちてくる。

 

「…………やったな」

「…………うん。勝った気がしないけど」

「奇遇だな。俺もだ」

 

戦闘を終えて、つかの間の安堵を得る二人。

 

『隊長。大丈夫ですか?』

「大丈夫だ、ピアーズ。竜二の援護に回ってくれ」

『了解です!』

 

ピアーズとの通信を終え、クリスはキリカと向き合う。

 

「お陰で助かった。礼を言うよ」

「恩人が礼言っちゃダメだよ!」

「ああ、悪い。そうなってたな」

 

頬を膨らませるキリカに、クリスは少し微笑む。

 

(日本に来てから、随分と子供と触れ合う事になったなぁ)

 

それを目の前の少女に言わなかったのは、彼の悪運が成せる技だった。

 

「君達は直ぐにここから離脱してくれ。出た後は、正門の方で警察に保護して貰うと良い」

「恩人は?」

「首謀者の方をお」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドオオオオォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオンンン!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!?」

 

突然響いた轟音に、二人が一斉に振り向く。

二人が目をやると、校舎の一部から凄まじい砂埃が立っていた。

 

「おい! あの方向って…………!!」

「織莉子!!?」

 

二人はお互いに目をやり、同時に走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ、事件は終わらない。

 

 

 

 

 




どうも~、B.O.A.です。

今回はキリカ・クリスサイドです。
砂虫って、ノーマルのスペックでもさやか相手なら良い線行くんじゃないかと思うのですが、どうでしょうか?

次回がオリ主サイド。事件の終結の予定です。
それでは、また。
感想等、お待ちしてます(^-^)/

追伸:「砂虫」戦闘用BGM~バイオハザード ダークサイド クロニクルズより「Gulp Worm」


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