BIOHAZARD CODE:M.A.G.I.C.A. 作:B.O.A.
アンブレラ・アークレイ研究所がマーカスの思念が宿った女王ヒルとヒルの軍勢に襲撃される。
これによって、アークレイ山中にて“Tーウィルス”が流出。
・見滝原市、工事現場。
「……言いたい事は、分かるな?」
クリスが珍しく、眉間に青筋を立てながら言う。
「……十分に、存じ上げております」
竜二が、地面に膝を付いて若干震えながら言う。
「じゃあ、その上で聞こうか。…………何故だ?」
クリスの纏う怒気に、ピアーズ以下の隊員も圧倒されている。
「気が付いたら、走り出していたので……本当に、すいませんでした」
そのまま、竜二は
よく見ると、竜二の両頬が痛々しく腫れ上がっている。
それもその筈、竜二は合流地点、と言ってもスタート地点であったが、そこにジョージから送られてきたマップデータを見て帰って来た途端、
“「取り敢えず、歯食いしばれ」”
問答無用でクリスの、
左フック→右フック→ボディブロー→ヘビィブロー→フィニッシュコンボ
合計1300ダメージのフルコンボを食らって数秒間気絶していたのだ。
後に、竜二はこの事をこう語る。
“「はっきり言って、鉛玉撃たれるより死に近付いた感じがした」”
「ほおう…………」
クリスが元上司の仕草を真似して言う。
「君が一人で消えていった後、俺達がどうなったか、知っているか?」
「……存じておりません」
竜二がその体勢で顔を上げたまま言う。
「あの後な……、湧いてくるリッカーを駆逐した後に、事件の捜査の前に、君の捜索をしていたんだよ。待機組から連絡が来るまでな」
「…………俺が、そう頼みましたので」
「そうだな……。で? 何か言いたい事は?」
竜二は地面に頭を付けんばかりに下げて、
「チームとしての自覚が足りませんでした。二度とこの様な危険な行動はしません。本当に、申し訳ありませんでした」
(Oh……。ジャパニーズ、ドゲザ…………)
竜二の潔いまでの土下座に、ピアーズ以下隊員が違う意味で圧倒される。
「……………………」
長い沈黙の後、クリスが、
「…………次は、無いからな」
「分かりました。本当に、すいませんでした」
(やっと終わったか…………)
クリスから怒りが抜けていくのに、隊員達も安心する。
「その場で良い、あの後の事を報告しろ」
竜二は、あの後の事を“魔法少女”絡みを除いて説明する。
「……じゃあ、何か? 君は突っ走った挙句に、相手を逃したって事か?」
「…………」
どうしようも無いほど、居た堪れない思いになる竜二。
「ま、まあ、隊長。新型の弱点も隠し球も分かっただけでも、十分収穫じゃないですか」
見兼ねたピアーズが助け船を出す。
「む…………。まあ、良いか。かく言う俺も、余り人の事を言えんしな」
クリスは3年前のある一件で、長年の相棒を失った過去を持つ。
それから半年前の事件まで、クリスは能力に物を言わせて突っ走りまくっていたのだ。
「じゃあ、そろそろ“彼等”に引き継ぎますか」
「そうだな。……撤収だ」
「あの~、お二人方?」
クリスとピアーズが話しているのに、竜二が割り込む。
「俺は何時になったら、地上に出れるのでしょうか…………?」
「「お前(君)は俺達が動けるようになるまで下水道で待機」」
「そんなあ!?」
「「いやだって、お前(君)臭すぎるんだよ」」
(うんうん)
満場一致で言われて、崩れ落ちる竜二。
(一度でも、好都合だと思った自分が憎い……!!)
因みに、お互いの様子は、下水道に持ち込んだノートパソコンと地上のとを、テレビ電話で結んで見ていた。
崩れ落ちた竜二を尻目に、クリス達は引き継ぎの準備を始める。
暫くすると、準備を進めるクリスに、顔を上げた竜二が、
『そう言えば、引き継ぎって誰にするんです?』
「……そういや、君は知らなかったな」
「BSAAの“対生物兵器調査部隊”でしたっけ?」
「ああ、その通りだ」
『何だそりゃ? また随分と長い名だな~』
聞き慣れない名称に疑問を覚える竜二。
「まあ、余り表舞台には出ないからな。彼等の任務は、B.O.W.の死体を回収してデータ化や処分をしたり、対B.O.W.兵器の試験運用や開発に携わったりする事だ」
『ふーん、どっちかと言うと、事後処理班みたいな感じがするな』
「気がするも何も、そのまんまだ。戦闘員もいるが、技術者や専門家の隊員もいるのが特徴だしな」
「確か、“バイオスキャナー”の開発にも携わってた筈ですよね?」
「よく勉強してるな、ピアーズ。その通りだ。“ジェネシス”に代表されるバイオスキャナーの開発も行ってる。クイーンゼノビアの探索の時は、本当にお世話になったな……」
『…………ん? 待てよ、そんな便利なもんが何で俺達に支給されてないんだ?』
「あ…………確かに、そう言われてみるとそうですね」
二人の疑問に対し、クリスは渋い顔をすると、
「二人とも……これには、深い訳があってだな…………」
(…………!)
クリスの雰囲気の変化に、二人は息を呑む。
「実は…………、ジェネシスなどのバイオスキャナーには、共通する短所があってな…………」
『そ、それは…………』
「一体…………」
「メンテナンスの頻度が著しく多い上に、無茶苦茶金が掛かるんだ」
『…………は?』
「基本的に、あの手の機械は耐久性はあっても、機構自体は結構デリケートでな。当時NGOの頃は、規模の制約はあってもその手の予算には逆に緩かった上に、母体数が少ないからやっていけたんだが、国連管轄になって規模の拡大が進むと、どうしてもメンテ費が莫大になってしまうから、さっきの“対生物兵器調査部隊”にしか支給されなくなったんだ」
『…………』
「…………」
何か大変な事があったのかと思いきや、意外と現実的な理由だった事に言葉を失う二人。
『じゃ、じゃあ何か? 自分達で改良するまで、自分達の間でしか使わないって事か?』
「そう言う事だ。自分で作った物は、自分が一番分かるからな」
竜二の質問にそう返すクリス。
と、ここでピアーズが周囲を見て、
「隊長。ひょっとして、あれじゃないですか?」
「ん?」
顔を上げたクリスが見たのは、
側面に虎の模様が入った、見事なデコトラだった。
「…………え、あれが?」
「ほら、よく見て下さい。フロントガラスの隅に小さなBSAAのシールが……。」
言われて見ると、確かに向かってくるトラックのフロントガラスに貼ってある。
「…………」
他の隊員達と絶句するクリス等の前にトラックが止まると、運転手が出てきて、
「クリス・レッドフィールド部隊長はいますか?」
「ここに。俺がクリスだ」
「BSAA極東支部、対生物兵器調査部隊、部隊長のレズモンド・デイビスだ」
「米国系か?」
「ああ、今はシンガポールに住んでるがな」
お互いに握手を交わす二人。
「他の隊員達の姿が見えないが……」
「技術者達はトラック内で機材のチェックをしている。その他の隊員も……、今来たようだ」
言われて振り向くと、自分等同様に、銃器を外した
因みに、この街で彼等が乗っているのは、荷台に取り外せるルーフが付いているタイプである。
「では、この場は任せます」
「了解した」
そう言って、レズモンドとクリスはそれぞれの部下と引き継ぎの最終作業を行う。
と、ここで、
『お~い! まだか~!』
「? 彼は?」
「合衆国のエージェント。捜査の協力者だ」
「ああ、そう言えば、今回はそんな事になってたんだったな」
『クリス、その人は?』
「対生物兵器調査部隊、部隊長のレズモンド・デイビスだ」
『合衆国エージェント、竜二・K・シーザー。今後共よろしく』
「此方こそ」
お互い挨拶を交わす二人だったが、
「ところで、彼は何でテレビ電話で話しているんだ?」
「彼は今、物凄く臭いからです」
『そっちの設備に、強力な消臭剤って無いですか?』
「? あるにはあるが?」
この時は疑問に思ったレズモンドだったが、後に竜二が下水道から出てきた時に、その訳を痛感する事になった。
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・見滝原市、繁華街。
「ふ~、スッキリした~」
既に日は落ちていて、電灯やネオンが煌びやかに夜の街を飾っている。
その中を、竜二は一人歩いていた。
「しっかし、本当に消えちまったなぁ。嘘みたいに臭わないな」
あの後直ぐに消臭処置を取ってもらった所、1時間程度でスッカリ消えてしまった。
服のシミまで落ちてるのを見た時は、クリーニング屋でも開けよと割と本気で思ったりもした。
「今日は早めに休もう…………」
本気でないとは言え、“アレ”を使った以上少なからず体に負担がかかっている。
明日一日は“エネルギー補給”に努める予定なので、休めるのは今日の夜ぐらいである。
(クリス等は明日もあるらしいから、そこまでのんびりは出来んな)
因みに、クリスには彼等が帰る前に、個別で“魔法少女”についての報告をした。マミとの約束もここで果たした。
立ち直った様で元気にしてたと伝えてたら、
“「隊長、何時の間に女の子と知り合ってたんですか?」”
ピアーズに聞かれてたので、彼にも伝える羽目になった。
“「日本ってそんな子もいるのか…………。流石は怪獣の国」”
何か違う捉え方をしてたが、面倒なので放置した。
(明後日になったらまた合流する訳だし、そん時でいいかな?)
そんな事を考えながら、竜二は人通りの少ない道に入っていく。
(ショートカットショートカット~♪)
事前に準備しただけあって、隠れた名店ですら把握している竜二。
時間短縮なんてお手の物だ。
ただ、今回だけは大通りを選ぶべきだった。
「……ん?」
竜二は違和感を感じて足を止める。
そのまま辺りを見渡すと、直ぐにその正体に気付く。
「人がいない?」
幾ら人通りが少ないからと言って、この時間帯で一人もいなくなるのは不自然である。
だが、現に今は一人もいないどころか、車すら一台も通っていない。
「…………」
何となく原因に予想を付けながらも、確たる証拠を探す為にその妙な通りを進んでいく。
それは直ぐに見付かった。
(…………あー、)
通りを進んだ先に、見覚えのある赤い柵があったのだ。
その向こうには多くの人が見えるが、誰一人それに気付いておらず、また此方にも来ようとしない。
「……無意識に避ける様に組んだ境界線。忌々しいが、結構これが使えるもんでねェ」
「……」
その声に振り向くと、主は竜二の後ろにある電灯の一つ、その上に腰掛けていた。
「こーやって、ドコでも喧嘩を吹っかけられるってェ訳よ」
「態々仕事帰りまで待ってくれたのか? 意外と素直な所もあんじゃねえか。」
「アタシは何時だって自分に素直だよ。」
持っていた板チョコを食いながら、杏子は下に降りる。
「前の続きをしようじゃねェか。アタシが唯の人間にコケにされたまま帰るなんて、全然素直じゃないからねェ」
「…………」
随分と可愛いチンピラもいるもんだと、竜二は感想を抱く。
「その唯の人間に随分とご執心だな。その情熱は、より強い奴に向けて貰いたいものだ」
「マミの奴の事か? まあ、何れ潰すだろうけど、その前にまずアンタだ」
右肩に担いだ槍をビュンッっと振って、杏子はその刃を竜二に向ける。
「カンネンしなよ。逃げ場なんてないんだからな」
「弱い者イジメに時間を使って良いのか? 魔女探した方が有意義だと思うが」
「心配はいらねェ。コレが無駄かどうかは、今から分かるんだからなぁ!!」
槍を翳して、素早く踏み込んでくる。
「ッ!!」
目的:佐倉杏子を取り抑える。
長年の経験で培った反射神経で咄嗟に後退する竜二。
縦の大振りの一撃は、竜二がいた場所のアスファルトを砕き、破片が頬を掠める。
「人様相手に振るう威力じゃねえだろこれ!」
「喋る余裕があるって事は、少しは楽しめるってコトだよなぁ!!」
思わず叫んだ竜二に対し、何処か楽しそうに叫ぶ杏子。
続いて出された素早い突きをサイドステップで躱すと、横薙ぎにされた槍をしゃがんでやり過ごす。
竜二はそのまま低い姿勢で杏子に踏み込み、取り押さえようとするも、
「ミエミエだよッ!!」
彼女の方もバックステップしつつ、更に槍を振り回す。
「クソッ!」
毒づきながら、限界まで体を反らす竜二。
庇ったその腕の裾を、槍の穂先が掠める。
(相手の武器は槍だ。銃を使う訳にはいかない以上、離れるのは愚策でしかない)
距離を離した杏子が、踏み込みながら連続で突きを繰り出す。
下がりながら躱していた竜二だったが、不意を突くように、躱しながら前に踏み込む。
だが、杏子はニヤリと笑うと、突き出した槍を素早く縦に回す。
(!)
下から上がってくる槍の柄を転がる様に横に躱す竜二だが、体勢を戻した時には既に杏子は距離を取っている。
(野郎、見た目の割に場慣れしてやがる……!)
再び向かってくる杏子に対し、竜二も何とか踏み込む隙を探そうとするが、杏子も逢えて隙を作ったりするので中々近付けない。
「っ!!」
高速で振り回される槍の穂先がコートの裾を掠め、その生地が切り取られる。
大きく距離を取った竜二は、若干冷や汗を流しながら、
(予想外の難敵だ。出来るだけ、“アレ”は使いたくはないが……)
クリスが会った“同類”は、人の姿を変化させずに
どうしても、竜二の場合人の姿のままでは多少怪力が出るくらいである。
(しかも、俺自身“ガス欠”間近だし……、ここは人のスペックで行けるとこまで行くか)
竜二の雰囲気が変わった事に気付き、杏子は手を止める。
「やっとヤル気になりやがったか」
「中々返してくれそうもないんでね」
「別に直ぐに返してやるよ……、アタシの気が済んだらな!!」
杏子が槍を構えて突進すると、竜二はクルッとターンして逃げ出す。
(オイオイ、今の威勢は何だったんだよ?)
全力で逃げる竜二だが、魔法少女の杏子の方が速い。
「逃げ場なんてねェって言っただろうがよぉ!!!」
等々追い付いた杏子はそのまま突きで仕留めようとしたが、
(待てよ。何か引っかかるぞ)
前を見た杏子は、竜二が走っている方向に気付く。
(コイツ、アタシの境界に向けて…………、ッ!!)
何かに気付いた杏子はニヤリと笑う。
(アタシ自身の攻撃で境界を壊させる気か。だが、そうはいかないよ!!)
杏子が槍に意識を向けると、一気に柄が多節棍の様になる。
(イイ線行ってたけど、相手が悪かったな!!)
杏子は槍を動かし、竜二の真上から攻撃を仕掛ける。
「これで、終わりだよ!!」
「それを待ってたんだよ」
多節棍と化した槍を構えた杏子が見たのは、笑顔の竜二と彼が何かを落とす所。
杏子は落とした何かを反射的に見ようとして、
莫大な閃光が辺りを埋め尽くした。
「があああああああああああ!!!??」
至近距離で真面に食らってしまった杏子は、苦痛に叫び声を上げる。
目を押さえてよろめく杏子に竜二が素早く近付くと、
「ぐあッ!」
そのままうつ伏せに杏子を倒し、両腕を拘束する。
「これで、俺の勝ちだな」
「………ッ!」
まだ焦点の合ってない目を悔しさに細める杏子。
「テメェ、何をしやがった……」
「正面から行っても勝ち目は薄そうだったんで、後ろの境界に向けて走って突進を誘い、お前が攻撃するのに合わせて閃光手榴弾を落としたって訳」
竜二が杏子に説明するが、杏子は納得出来ない様子で、
「じゃあ、どうやってタイミング合わせたんだよ。最後まで一回も振り向かなかったじゃねェか」
「お前が境界に向かっているって気付いたら、必ず攻撃方法を突進から変えるって思ってたからな。それに合わせてたんだよ」
(! …………読まれてたのか………)
杏子の目に視力が戻ってきたのか、顔を横にして此方を見てくる。
その瞳を見つめながら、竜二は、
「お前が強いってのは、確かに俺は認める。だから、俺は強い奴を倒すやり方をしたって訳よ。……コレが、“オトナの喧嘩”だ」
本当に悔しそうに顔を歪める杏子に対し、実はこの時竜二は、
(あ~、どーしよ。つい、大型B.O.W.倒すやり方をしちまったよ・・・。大人気なさ過ぎだろ俺。つか、閃光弾使っちまったよ……)
地味に反省会を脳内で開いていた。
と、ここで急に杏子の体が赤い光に包まれる。
「うおっ!?」
思わず飛び退いた竜二の前で、杏子は私服姿に戻っていた。
杏子は立ち上がって土埃りを払い、ポケットからペロキャンを咥えると、
「もう戦う気はないよ。自分の未熟さも思い知ったしな
「……………」
「は~、こんなんじゃ、もう一度修行し直しかねェ~」
「……………」
「…………? おい?」
反応が無いのに、杏子が疑問に思って見ると、
「……………………」
「は!?」
膝を突いて蹲る竜二に、思わず咥えたペロキャンを落とす杏子。
「おい、どうしたアンタ!? アタシの槍喰らってたのか!?」
「…………悪い、……ガス欠だ…………」
「ガス欠!!? どういう事だよ!?」
「スマン、タクシー、呼んでくれるか…………」
「タクシーってアンタそれ救急車呼ぶべきじゃねェの!?」
「…………頼む……近くの……ビジネスホテルまでだ…………」
「おい、おい!? しっかりしろ!! おい!!?」
それ以上反応を見せなくなった竜二を前に、杏子は一回舌打ちすると、
「近くのビジネスホテルだったな……、都合のイイ」
再び魔法少女になるべく、赤いソウルジェムを掲げる。
どうも、B.O.A.です。
前回の反省もあって、今回は割と短めです。
実は、1チャプターを4つ+アーカイブス1つ、と言う構成にしようとしてたのですが、諦めました。orz
書く事多過ぎて、4つに纏められない。(T_T)
次回はムービー回の予定。
出来るだけ、早く書きます。
それでは、また次回で。
感想等お待ちしてます。(^O^)/
追伸:杏子戦BGM~バイオハザード The Mercenaries 3D より「The Path For Fight」