BIOHAZARD CODE:M.A.G.I.C.A.   作:B.O.A.

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・1996年

ラクーン市警特殊部隊「S.T.A.R.S.」結成。
アルバート・ウェスカーが隊長に就任する。


chapter 3-2

・落書きの魔女の使い魔の結界。

 

 

 

話は少し遡る。

さやかのパトロールに同行したまどかは、さやかの後ろで変化する辺りの光景を見ていた。

 

「この結界は、多分魔女じゃなくて使い魔の物だね」

「楽に越した事ないよ。こちとらまだ初心者なんだし」

 

キュウべえと会話しながらも、さやかはその光景を油断無く睨んでいる。

まるで、子供のお絵描きの様な風変わりな光景を睨みながら、二人と一匹は進んでいく。

と、その時、

 

「あッ、あそこ!」

 

まどかが指差すと同時に、飛行機に乗った人の様な落書きがケタケタ笑いながら、彼女等の頭上を飛んでいく。

 

「任せて!」

 

そう言うと、さやかは青色のソウルジェムをかざし、その身体が青色の光に包まれる。

その光が止んだ時、そこには魔法少女の姿となったさやかがいた。

制服タイプのほむらやフワフワしたマミのとは異なり、その姿はスレンダーで活発な印象を人に与えている。

その肩に纏った白いマントを翻し、一旦その身体をマントの下に隠すと、その次の瞬間には周囲に複数の長剣が突き立てられて、

 

「いっけーーーッ!!!」

 

叫びと共に、さやかはその剣を引き抜いて次々に使い魔に投擲していく。

剣は放物線を描いて、次々に使い魔の周囲に突き刺さる。

悲鳴を上げて使い魔は逃げ惑うが、その剣が確実に追い詰めていく。

そして、直撃コースの剣が使い魔に迫ったその瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

キィン!!!

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

当たる寸前に、長い何かが剣を弾き落とす。

呆然とする二人の前で、それは素早く動いて、

 

「…………」

 

彼女等の前で、赤い衣装の少女の手元で一本の槍に変化する。

 

「な……逃がしちゃう!」

 

結界が解除されていくのに気付いたさやかが、使い魔の後を追おうとしたが、

 

「……ちょっとちょっと、何やってんのさ、アンタ達」

 

赤い少女の槍に行く手を阻まれる。

赤い髪をポニーテールに束ねたその少女は、右肩で槍を担ぎ、左手に持った鯛焼きを一口食べて、

 

「見てわかんないの? あれ魔女じゃなくて使い魔だよ。グリーフシード持ってる訳ないじゃん」

 

そこからは、一気に話が進む。

 

 

 

「魔女に襲われる人達を……、あんた、見殺しにするって言うの!?」

「アンタさ、何か大元から勘違いしてんじゃないの? 食物連鎖って知ってる? ガッコーで習ったよねェ? 弱い人間を魔女が喰う。その魔女をアタシ達魔法少女が喰う。当たり前のルールでしょ? そういう強さの順番なんだから」

 

 

 

話が進むに連れ、彼女等の間は険悪さを増していく。

 

 

 

佐倉杏子(さくらきょうこ)、君はわざわざそんな事を言いに来たのかい?」

「マミの奴が魔女狩りを辞めて、後輩に譲ったって聞いたからね。どんな奴か見に来たんだけど……、アンタさぁ、まさかとは思うけど。やれ人助けだの正義だの……マミみたいな甘っちょろい理想に乗せられて、ソイツと契約したわけじゃないよね?」

 

 

 

それが決定打となって、等々二人の少女は刃を交える。

 

 

 

「フン、トーシロが。ちったぁ頭冷やせっての」

「誰が……あんたなんかに……」

 

 

 

その二人の戦いを、まどかはただ眺める事しか出来ない。

 

 

 

「言い聞かせてわからねー、殴ってもわからねーバカとなりゃ……後は殺しちゃうしかないよねェ!!」

「や、やめてぇ!!」

 

まどかの叫びも虚しく、二人の戦いは続く。

数日前になったばかりのさやかと、数年間も戦っている杏子とでは実力の差は歴然としている。

それでも、治癒に特化した魔法で騙し騙し戦っていたさやかだったが、それも終わりの時が迫っていた。

確実に追い詰められていくさやかを前にして、杏子の張った境界の外でまどかはオロオロするばかりである。

と、そこにキュウべえが、

 

「……君があの二人を止めたいなら、確実な方法が一つだけあるよ」

「え?」

「あの戦いに割り込めるのは、彼女等と同じ魔法少女だけ。でも君が魔法少女になれば、力尽くで止められる……、あの佐倉杏子ですらだ。君には、それだけの素質がある」

「でも……、でも…………」

 

そんなやり取りをしている内に、

 

「ぐあッ……!」

「これで、終わりだよ!!」

 

等々追い詰められたさやかに、杏子が止めの一撃を加えようとしていた。

 

「ッ! ……私……」

 

友達の為に、まどかは迷いを投げ捨てて、

 

「私の願いは…………」

 

契約の言葉を言おうとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

ガコッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

突然響いた音に、杏子は手を止めて振り向く。

まどかもその視線を追うと、杏子よりも奥のマンホールの蓋が下から開かれようとしていた。

下から伸びた手によって蓋が完全に開き、そこから顔を出したのは、

 

「あん?」

「…………?」

「竜二さん!?」

「…………へえ」

 

黒いコートの捜査官、竜二・K・シーザーだった。

 

「……………………」

 

彼女等を見て、暫く呆然としていた竜二だったが、

 

「…………何やってるんだ…………?」

 

苦虫を噛み潰したような顔をして、そう聞いてきた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

・見滝原市、路地裏。

 

 

 

「何? コイツ知り合いなの?」

 

目の前の赤い服の少女は馴れ馴れしく、前の青い服の少女“美樹さやか”に聞く。

対して、竜二はマンホールから出ると、

 

「竜二・K・シーザー、アメリカ合衆国の派遣捜査官だ。彼女等とは、前に事情聴取したのでね。“この事”もある程度聞いてる」

「ヘェ〜、ポリ公かよ。アタシは佐倉杏子。ここの隣町の風見野ってトコで魔法少女やってる」

 

そこまで杏子が言った所で、急に彼女が顔を顰めると、

 

「…………アンタ、風呂入ってるか?」

「…………下水道で調査中に、すっ転んだんだ…………」

 

実際は新型にかけられた液体の所為なのだが、嘘で誤魔化す竜二。

 

(まあ、こいつは逆に好都合だったんだがな)

 

と言うのも、竜二は先程の戦闘において、盛大に新型の返り血を浴びている。

見た目上は返り血が目立たない様な服装をしていて、頬の血も既に“取り込み済み”なのだが、臭いまでは流石に誤魔化せない。

それが、この液体の悪臭によって完全に掻き消されているのだ。

…………まあ、余りに強過ぎて、かなり離れた位置にいる筈のまどかまでもが、鼻を摘まむ惨事になってるが。

 

(…………)

 

竜二が言いようのないショックに打ち拉がれていると、

 

「……んでさ、アンタはコイツ等の仲間なんでしょ? どうすんの?」

 

杏子が挑発的な笑みを浮かべながら、そう聞く。

 

「あ……」

「竜二さんは下がってて下さい! こいつはあたしが……」

 

二人がそれぞれの反応を示す中、竜二は彼女等を一瞥すると、

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうもこうも、やんならやっとけよ。俺は知らん」

 

 

 

 

 

 

 

「「!!?」」

 

さやかとまどかが驚愕に目を開く。

 

「…………へえ、頭イイじゃん」

 

杏子は感心したような言い方するが、対して竜二は無関心な風で、

 

 

 

 

 

 

「“ガキの喧嘩”に付き合う時間なんて、俺には無いだけだ」

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

杏子の表情が固まる。

 

「邪魔して悪かったな。俺も仕事中だし、ここで失礼させて貰うわ」

 

そう言って、竜二はマンホールに戻ろうとしたが、

 

「……おい、ちょっと待てよ」

 

杏子の槍が多節棍の様に変化し、竜二の行く手を遮る。

 

「アンタさぁ、自分の立場わかってる? ただの人間の癖に、アタシ等のコレを“ガキの喧嘩”ってまぁ、随分とナメた事言ってくれんじゃん? そこまで言うならさぁ、アタシ等に“オトナの喧嘩”ってもんを教えてくれよ」

「……………………」

 

微かに怒気を孕んだ言い方をする杏子。

と、我に帰ったさやかが、

 

「あんたの相手はあたしだ。竜二さんに手を出すな!」

「…………って、言ってるが?」

 

竜二は杏子にそう聞くが、対して、

 

「ハッ、オメーにもう用はねえよ。今用があんのはアンタだ」

「あんた、いい加減に…………!」

「黙れよ。ザコが」

 

もう興味なしと言うように、吐き捨てる杏子。

 

「…………はあ」

 

ここで時間を使う訳にはいかないと、竜二が口を開きかけた時、

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あなた達、一体何をやっているの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

声の主を竜二が探すと、何時の間にかほむらが自分の後ろにいた。

 

(あの時もそうだが、本当に前触れなく消えたり現れたりするな。どういう原理だ?)

 

と、ほむらが突然、

 

「ゴホッ、ガハッ!!」

「お、おい!?」

 

急に咳き込み出したのを見て、心配する竜二。

 

「……多分、その臭いだと……」

「あっ、そうか」

 

さやかの指摘に納得する竜二。

急に出てきたから、体が驚いたのだろう。

 

「…………何なの、これ」

「下水道でコケた」

 

端的に返した竜二を、ほむらが恨めしそうに睨む。

 

「それより、コイツ等を何とかしてくれ。仕事中なんだよ俺は」

 

ほむらの視線を受け流して、竜二は彼女に助けを乞う。

 

「…………」

 

納得しない様子ながらも、竜二から杏子等に視線を移すほむら。

 

「……ああ、なるほど、アンタが噂の“イレギュラー”か。今のはアンタの能力か?」

「ええ、そうよ」

「!?」

 

杏子の問いに対して、正面にいる筈のほむらが、次の瞬間には杏子の真後ろで答え、全員を驚かせる。

 

「本当に妙な技だな……。タネが見えない」

「それで、どうするの? 私は無駄な争いをする人の敵よ」

「…………」

 

杏子が押し黙っていると、そこに、

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうなっているのよ、この臭い……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

見ると、まどかの後ろの方から魔法少女姿のマミがやってきていた。

 

「マミさん! 大丈夫なんですか!?」

「ええ、お陰様で。心配掛けて御免なさい」

 

まどかに微笑んだマミは、柵の向こうの杏子を見て、

 

「あら、戻ってたの?」

「…………ッチ」

 

見知った様に声を掛けるマミに舌打ちを返す杏子。

 

「こんだけ集まられちゃ、勝ち目がない。降りさせてもらうよ」

「賢明ね」

 

その言葉が終わらない内に、杏子は大きく跳躍して姿を消した。

 

「あっ! この、待てーーー!!」

 

さやかが叫ぶが、既に追う事は諦めているらしく、動く事はなかった。

と、境界が解除されたのか、マミがまどか達を引き連れてくる。

 

「大丈夫ですか?」

「ああ、お陰様で。本当に助かったよ」

「どう致しまして。本の些細な恩返しですが」

「十分過ぎるな。後でお釣りを払わないと」

「そのまま、取って置いて下さい」

 

冗談混じりでマミと話した竜二は、彼女等に背を向けて、

 

「じゃあ、俺は仕事に戻る。元気でな」

「クリスさんにも宜しく伝えて置いて下さい」

「心得たよ」

(……クリス?)

 

三人の疑問を残したまま、竜二はマンホールへと戻っていった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

・見滝原市、マミ宅。

 

 

 

竜二が仕事に戻った後、ほむら一行は偶々場所が近かったマミ宅にお邪魔していた。

実の所、ほむらにその気は無かったのだが、マミがキチンとお礼をしたいとせがんだのだ。

 

「さやか、この前倒した魔女のグリーフシードを持ってるかい?」

「うん? 持ってるけど」

 

取り敢えず、マミが出した紅茶を皆で飲んで一服した後、ふとキュウべえが切り出す。

 

「さっきの戦いで、君のソウルジェムは随分と濁っている」

「あ、本当だ」

「グリーフシードをソウルジェムに近づけてごらん」

 

キュウべえに言われるままに、さやかは自分のそれに近づけてみる。

 

「わ、グリーフシードに黒いのが移ってる」

「それで、暫くは大丈夫だろう」

「ヘ~」

 

感心したような声を出すさやかに、台所にいたマミがポツリと、

 

「…………それ、一回私が実演したのだけど…………」

「…………あ、あはははは…………」

 

気まずそうに笑うさやか。

それを見ていたほむらが、

 

「そのグリーフシード、もう限界ね」

「うん?」

 

見ると、“黒いの”を吸い切ったグリーフシードが、気味の悪いぐらいドス黒くなっていた。

 

「本当だ。これ以上穢れを吸ったら、魔女が孵化するかもしれない」

「ええ!?」

「大丈夫。僕にそれを頂戴」

 

キュウべえの前にグリーフシードを置くと、それを咥えて上に放り投げ、器用に背中のポシェットの様な器官に入れる。

すると、膨らんでいた器官がペタンと凹み、

 

「これでもう、安全さ」

 

キュッぷい、と満足そうにゲップするキュウべえ。

 

「た、食べちゃったの?」

「これも僕の役割の一つだからね」

 

まどかの問いに、胸を張る様に答えるキュウべえ。

 

「でも、魔力を使う度にまた穢れは溜まる。そうなれば、また浄化の為に新しいグリーフシードが必要になる」

「その為に、魔法少女同士が戦う事になるの?」

「その通りだね」

 

呑気に言うキュウべえ。

と、台所から戻ってきたマミが、

 

「グリーフシードの数は限られている。だからこそ、私の様に縄張りを持つ魔法少女もいれば、各地を巡って縄張りを侵す魔法少女もいるのよ。実際、佐倉さん以外にもそういうのと争いになった事もあるしね」

「佐倉杏子は、その中でもかなりの古参株だ。実力も経験もあるし、余分に持っているグリーフシードの数も多い。だからこそ、魔力を気にせずベストコンディションで戦える」

「あいつって、そんなヤバい奴だったんだ……」

「分かるかしら? しっかり下準備を整えても倒せるか分からない相手に、無策で突っ込もうとした愚かさが」

「うっ……」

「次からは、あんな事は止めて欲しいわ」

「すいません……」

 

二の句が告げなくなり、しゅんとするさやか。

と、ここでまどかが、

 

「……あれ? マミさんってあの子の事知ってるんですか?」

 

確かに、さっきマミは彼女の苗字を言っていた。

杏子が名乗ったのはマミが来る前なので、あの場で本人から聞ける訳もない。

 

「…………ええ、実は、その事もあって、皆に来て貰ったの」

 

マミが微かに寂しそうな目をして、静かに言う。

 

「あの子……佐倉さんは、実は昔の私の弟子なの」

「えええええ!!?」

「…………」

 

驚く二人と、事情は全て知っていたので特に反応を示さない一人。

 

「どどど、どういう事ですか!?」

「嘗て、まだ魔法少女に成り立てだった頃の佐倉さんが、逃げた魔女を追って見滝原に来た事があってね……」

 

そこから、マミは自身の“失敗”の過去を話す。

魔女に返り討ちにされかけた杏子を助けたら、弟子入りされた事。

それから、二人で魔女退治をしていた事。

その頃の杏子は、家族思いで優しく素直な子だった事。

そんな彼女といた時が、とても楽しかった事。

 

「でも、そんな時は長くは続かなかったの……」

 

彼女は、牧師だった父を助ける為に魔法少女になった事。

それがばれて、父から拒絶された事。

そして……、

 

「佐倉さん一人を残して、家族は無理心中したの」

「そんな…………」

 

ショックを受ける二人を前にして、ゆっくりマミは続ける。

 

「それ以来、彼女は自分が願った所為で家族を殺してしまったと思う様になってね。私と一緒にやっていけないって言って、私の元から離れていったの」

「…………」

「私は、あの時彼女を止められなかった自分が嫌で、あの楽しかった時間を失った事をずっと後悔してたの。だから、例え演技でも、鹿目さん達を自分の元に惹きつけようとした」

「愚かね。そんな事をやっても、いつかはボロが出る物なのに」

「そうね。暁美さんの言う通りだわ」

 

ほむらの言葉を否定せずに受け止めるマミ。

 

「鹿目さんには話したけど、私はずっと一人で戦ってきて、周りには強くて勇ましく見せてたけど、本当は怖かったし、寂しかったし、そういう弱い部分を隠してただけだったの」

「マミさん…………」

「御免なさい。軽蔑するよね。ずっと、貴方達を騙していたんだから」

「……そんな事、する訳無いじゃないですか」

 

さやかはマミの目を見て言う。

 

「そりゃあ、確かにマミさんを理想のヒーローみたいにして憧れていたから、軽蔑してもおかしくないんですけど、何か……逆に、安心したんです」

「…………?」

「マミさんも、ちゃんと人間らしさがあって、ほら、今まで強い所しか見てなかったから、逆に“自分の理想は結構近かった”って思えたって言うか……。ああん、もう、何で言葉が出ないかな~!」

 

必死に言葉を紡ごうとして頭を抱えるさやかを見て、マミは、

 

「……フフッ、アハハハッ」

「ちょ、マミさん!?」

「……あなたらしいわね」

「何おーーーーう!!」

 

ほむらに食ってかかるさやかを見て、マミは笑い続ける。

 

(本当だ……。無理なんてしなくても、信じればちゃんと付いて来てくれる……)

 

前では、最早愚痴と化したほむらの毒舌に一々反応するさやかの図が繰り広げられている。

 

(佐倉さんの時も、ちゃんと分かっていれば、連れ戻せた筈だった…………)

 

今まで、マミは杏子に、認めたくは無かったが、微かに裏切られた思いを持っていた。

彼女は、ずっと自分と一緒に戦ってくれる物だと信じていた。

でも、それは彼女を“仲間”だと思っていたからこその信用じゃなかったと、今のマミは振り返る。

 

(私は…………佐倉さんに、依存してたんだ)

 

マミは笑いを止めて、騒いでいる後輩達を見ながら思う。

初めて手に入れた“仲間”だったからこそ、ずっと欲しかった物だったからこそ、自分は何処か彼女に必要以上に寄りかかっていた。

彼女は絶対に自分を裏切らないと、根拠のない信用を持ってしまっていた。

勿論、先輩として、叱る所は叱らないといけない事は分かっていた。

でも、その所為で彼女が離れてしまう事を、心の何処かで必要以上に恐れていた。

だからこそ、あの時、例え彼女を傷付ける事をしてでも、正してやる事が出来なかった。

そうしなくても、話せば分かってくれると、結局は自分の元に戻ってくれると、思い込んでしまった。

 

“「嘗ての同僚を撃たねばならない時もあった。でも、止まる訳にはいかなかった。止まれば、全てを失ってしまうからだ」”

 

(それが全て正しいとは思わない。でも、クリスさんは、それだけの覚悟を持って戦っていた)

 

今ある“仲間”を守る為に、嘗ての“仲間”に銃を向ける。

それだけの覚悟を、あの時の自分は持っていただろうか?

 

(結局、佐倉さんの事も、私は信じられていなかったのね…………)

 

今にも飛び掛りそうなさやかを宥めていたまどかが、マミのその様子に気付いて、

 

「……マミさん、私の気持ちは、あの時と変わりません」

「……鹿目さん?」

「まだ私は、魔法少女になる決心はついていませんけど、でも、マミさんをもう一人になんてしません。まだ何の力にもなれないけど、マミさんを見捨てる事は絶対にしません」

「ま、まどかの前にあたしがなっちゃったもんね。そっちのサポートはあたしに任せてよ」

「確かに戦う力は持てないかもしれないけど、それでも、何も出来ないなんて事は無い。…………無理に変わろうとする必要なんて、無い」

 

まどかの思いに合わせ、さやかとほむらも自身の意見を言う。

 

 

 

 

 

「だから、もう、何も抱え込まなくてもいいんです。信じて下さい」

 

 

 

 

 

 

「ッ……………………」

 

マミはその言葉を聞いて、俯いてしまう。

 

(…………失いたくない。もう、絶対に無くしたくない!!)

 

嘗てないほど、強く思うマミ。

 

(もう迷わない。この子達を信じよう。何があっても、絶対に守って見せよう!!)

 

決意新たに、マミは顔を上げる。

 

「美樹さん、佐倉さんの事は私に任せて」

「マミさん?」

「あの子が利己的な子になってしまったのは私の責任でもあるから、ちゃんと決着を付けたいの。……こんな駄目な先輩を、信じてくれる?」

「当たり前ですよ。マミさんほど頼れる先輩はいませんから。」

 

笑顔で答えるさやか。

 

「…………ありがとう」

 

マミは少し涙ぐんで、お礼を言う。

その様子を、ほむらは静かに見ていた。

 

(…………この巴マミは今までと違う。今までよりも強い……)

 

最初からそうだった訳ではない、現にお菓子の魔女に油断して殺されかけていた。

この数日の間で何かが彼女を変えたのだ、とほむらは確信する。

 

(そして、それは恐らく……、あの“イレギュラー”)

 

マミは先程、“クリス”と言う名を出していた。

それも、竜二に関連した人物だろうとほむらは思う。

と、ここでマミが此方を向いて、

 

「暁美さん、本当に遅くなったけど、あの時は助けてくれてありがとう」

「……気にしてないわ」

 

マミのお礼に素っ気なく返すほむら。

 

「ちぇー、何だよ。感じワルーーッ!」

「仕方ないわ。それだけの仕打ちをして来たもの」

 

不平を言うさやかを、マミが宥める。

 

「それで、竜二さんが貴方が私に話があるって言ってたけど、何の事かしら? もし、力を貸して欲しいなら、出来る範囲で協力するわ」

(! あのイレギュラー……)

 

正直な所、本当に彼女を信じて良いか、まだほむらは迷っていた。

あの事実に耐えられるか、まだ確信を持てていなかったのだ。

それに、

 

(現状、ここで巴マミを引き込むと、佐倉杏子を加える事が難しくなる。…………まだ、様子を見るべきか)

 

マミの戦力は心強いが、不安が無い訳ではない。

 

「…………」

 

ほむらが黙っていると、マミが、

 

「……そうね。信用出来なくても当然よね。御免なさい。無理に言わなくてもいいわ」

「……御免なさい。でも、これだけは言っておくわ」

 

三人がほむらの顔を見る。

 

「私は、縄張り争いやグリーフシードの取り合いには興味は無い。その上で、佐倉杏子も味方に引き入れたいと思っている」

「それって……、何か別に目的があるって事?」

「ええ。だから、あなた達は出来るだけ彼女と対立しないで欲しいの」

 

俯いて考え込む様な態度をとったマミに、ほむらは、

 

「お願い、今はまだ事情は話せないけど、後で必ず説明する」

「…………本当ね? 後で話してくれるのね?」

 

頷いたほむらに、マミは、

 

「……分かったわ。何とか、和解出来るよう努力してみる」

「ありがとう。あなた達も良いかしら? 特に美樹さやか」

「あたしは名指しかよ……。う~ん、あいつは気に入らないけど、マミさんに全部任せたからあたしはそれでいいや」

「私も、マミさんに任せます」

 

二人も概ね了解の意を示す。

 

「ありがとう。私の方でも、彼女と接触してみるから」

「分かったわ」

 

その返答を聞くと、ほむらは彼女等に背を向けて、

 

「お邪魔したわ。良い返事を期待してる」

「ええ。また、来てくれるかしら?」

「検討しておくわ」

「またね、ほむらちゃん」

「ええ……、また」

 

そう言って、マミ宅を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、本当にあんな奴信用して良かったの? マミさん」

 

ほむらが出ていった後、さやかがマミに尋ねる。

 

「暁美さんなら、多分大丈夫よ」

「何で? あんな無愛想な奴。キュウべえも傷付けてたんだよ?」

「そうね……。確かにキュウべえを傷付けてたし、信用し切れない部分もあるけど、でも、ただ利己的な子って訳じゃないって分かったからかしらね」

「ふーん……?」

 

何処か納得出来ない様子でいるさやか。

 

(まあ、竜二さんの言葉を信じたからってのもあるけどね)

 

マミは、こっそり心の中でそう答えた。

 

 

 

 

 




どうも、B.O.A.です。

危うく一万字の大台に乗りかけました……。
分量の調整って難しい……。

何気無くUAのデータを見てたら、クリス登場で数値が倍以上に跳ね上がっていました。Σ( ̄。 ̄ノ)ノ
皆さん、次はクリス出ますよww。

それでは、また次回でお会いしましょう。
感想等、お待ちしてます。(^-^)/

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