ソードアート・オンライン 仮想世界に降り立つ暁の忍 -改稿版-   作:鈴神

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第八十九話 地獄へのカウントダウン

『ISLニヴルヘイム』

それが、第三回BoB本選のバトルフィールドだった。ISLとは、ISLand――即ち、島の意である。そして、ニヴルヘイムとは、北欧神話に登場する九つの世界のうち、下層に存在するとされる冷たい氷の国であり、その名前を冠するこのステージもまた、神話をそのまま再現したかのような世界だった。

直径十キロの円形の島であるこのバトルフィールドは、前回および前々回の大会の舞台となった、山あり森あり砂漠ありで、中央に都市廃墟がある複合ステージ『ISLラグナロク』が元となっている。だが、『ISLニヴルヘイム』においては、フィールド北部の砂漠エリアが氷に覆われた湖沼に、中央の都市廃墟が炭鉱都市の廃墟に変更されている。そして最大の変更点は、フィールド全体を覆う雪と氷である。曇天に覆われた灰色の空からは雪が降り、地上の全てを凍えさせていた。

 

 

 

 

 

(そのまま……動くな!)

 

枝先に雪が降り積もった木が並び立つ森林フィールドの中。シノンは岩の上で伏射姿勢を取りながら、目の前の標的を照準戦の十字に捉えていた。現在、シノンが追っている敵の名は、ホワイトフォックス。白狐の意の名前を持つこのプレイヤーは、敏捷に優れる上、雪に足を取られることも、森の木々に行く手を阻まれることも無いフットワークを有する、文字通り狐のようなプレイヤーである。装備は軽装で、主武装には短機関銃のM41Aパルスライフルを持ち、防具として狐の毛皮を纏っている。シノンのヘカートの威力ならば一撃で仕留められるだろう。だが、狙いを外せば、シノンは逆に追い詰められることになる。この森の中で、重量級の武装を担ぐシノンが逃げるには、悪過ぎる相手だった。

故に、シノンは狙撃手として万全を期しての狙撃に臨んでいるのだが……中々隙を見せない。今も、立ち止まって周囲を見回して警戒している様子だが、実際はすぐに走り出せるよう構えている。

 

(さっきから、辺りを見てばかり……それに、足を止めたまま動かない……明らかに、私の存在を察知している……!)

 

優れた移動力を持っていながら、その場から動かないフォックスの不自然な動きに、シノンはそう結論付けた。BoB本選参加者には、『サテライト・スキャン端末』と呼ばれるアイテムが配布されている。十五分に一回、上空を監視衛星が通過すると同時にマップ内の全プレイヤーの位置情報が送信されるアイテムである。最後にスキャンが行われたのは、およそ五分前。STRに傾倒した狙撃手たるシノンならば、そう遠くへ動けないのは自明の理。故に、フォックスはシノンがこの森に潜んでいると踏んで、接近を試みたのだろう。

そして今、フォックスはシノンの居る森林フィールドへ辿り着き、開けた場所にて周囲に視線を巡らせている。まるで、狙撃してくれと言わんばかりの行動である。

 

(誘っているわね……間違いなく、私の居場所を既に知っているわね)

 

開けた場所に立っての索敵など、狙撃手が潜む森の中で取るべき行動ではない。ましてや、対物狙撃銃が相手では、危険極まりない。先に見つけられてしまえば、即座に勝負が決まことすらあるからだ。にも関わらず、このような無謀な真似をしている理由は、シノンの居場所を既に視認し、弾道予測線も把握できているからなのだろう。

居場所を知っていながら仕掛けて来ないのは、シノンを視認した時の互いの距離が原因として考えられる。恐らくは、腰に提げている望遠スコープを用いて居場所を看破したのだろう。しかし、視界には捉えても、射程に捉え切れなかったため、死角からの接近を試みたのだ。だが、シノンも然るもの。遮蔽物が少なく、フォックスが接近を試みた際に機動力を殺がれる、足場の雪が深く積もった場所を移動せざるを得ないルートを移動したのだ。

結果、フォックスは作戦を変更し、未だにシノンを見つけていないかのような装いをすることになった。狙いは、シノンがヘカートⅡの引き金を引いた後に生じる、リロードまでの間隙で間違いない。フォックスは弾道予測線を頼りにこれを回避した後、一気に肉薄して勝負を決めるつもりなのだろう。

 

(でも、埒が明かないわね……こうなったら、こっちから打って出るしかない)

 

BoB参加者は、自分とフォックスだけではない。こうしている間にも、他の敵が接近している可能性もあるのだ。機会を窺い、待ち続けるのが狙撃手の本業とはいえ、膠着状態が続けば、シノンばかりが不利な展開になる。

それを回避するためには、目の前の標的たるフォックスを早々に撃ち取らねばならない。あちらが初弾を回避した後の間隙を突くつもりならば、こちらはさらにその先を予測する必要がある。つまり、フォックスが回避する際に飛び込む方向……それを予測して銃弾を撃ち込むのだ。

言うまでもないことだが、失敗すれば居場所を知られて返り討ちである。つまり、文字通りの一発勝負なのだ。それを探るべく、シノンはフォックスが立つ地点の周囲の地形マップを脳内に展開する。配置されたオブジェクトや積雪、フォックスの居場所から見える視界……狙撃手としての立体把握能力と、氷のように冷たい思考力を最大限に発揮し、フォックスの回避ルートを導き出す。

 

(狙いは…………そこ!)

 

冷徹な分析の末に導き出したポイント目掛け、躊躇無く引き金を引いた。狙いは、シノンから見て完全な死角である、木と木の隙間。果たして、シノンが導き出した場所へ放った対物弾は、オブジェクトである木を破壊し、その向こう側にいたフォックスを狙い違わず撃ち抜いた。

 

「ビンゴ」

 

 そう呟き、勝利の余韻に浸るシノンだが、雪の上に倒れる木に背を向けて、次の狙撃場所へと移動を開始する。スナイパーにとって、狙撃後の数分間に生じるリスクは非常に大きい。ましてや、このフィールドは雪と氷に覆われている。狙撃手のシノンにとって足場の不安定な場所は、移動するのも、狙撃のためのポジション確保も容易ではない。

 

(さて、そろそろ時間ね……)

 

地面に積もった雪の上に足跡を残さないよう、注意しながら森の中を進むことしばらく。時計を見て、間も無くBoB本選開催から三十分が経過することを確認する。十五分に一度のサテライト・スキャンの受信端末へと、監視衛生から位置情報が送信されてくる。

十五分に一度送られてくるこのデータで分かることは、このバトルフィールド上におけるプレイヤーそれぞれの位置と、現在生存しているプレイヤーの人数。どちらも重要な情報ではあるが、現状を左右するという意味では前者の情報にウェイトが置かれる。このバトルフィールドは、重量の大きい武装を持って動き回るには、足場が不安定過ぎる。加えて、敵に動きを悟らせないためには、雪の上に足跡を残さないよう注意する必要がある。敵の居場所次第では、行動ルートに制限が発生する可能性があるだけでなく、即時に迎撃する用意をせねばならない。

 

今回の大会の本選出場者は、自分以外はほとんどが初出場者である。この二名も例外ではなく、シノンはゲーム内で会ったことすらない。一応、本選出場者全員の装備や特徴についてはある程度まで調べているが、入手した情報も限られている。だが幸い、ジェイソンは、シノンの中では強く印象に残るプレイヤーだったので、よく覚えている。

 

周囲を警戒しながらも、意を決し、サテライト・スキャン端末から全体マップを表示させる。ホログラムで形作られた、ISLニヴルヘイムを再現した立体マップの中には、幾つもの輝点が見られる。その数は、十九。シノンは、自分の居る場所の周囲一キロ圏内に敵がいないことを確認すると、次に最も近い場所にいるプレイヤー探した。すると、ニヴルヘイム南西の山岳地帯を、東側へと移動する二つの点を見つけた。一つずつ、反射に近い速度でそれらをタッチすると、プレイヤー名二つが表示された。移動速度からして、この二人は全力疾走の追跡戦をしている。

 

(ジェイソンに……ヴァンパイア、か)

 

今回の大会の本選出場者は、自分以外はほとんどが発出場者である。この二名も例外ではなく、シノンはゲーム内で会ったことすらない。一応、本選出場者全員の装備や特徴についてはある程度まで調べているが、入手した情報も限られている。だが幸い、ジェイソンは、シノンの中では強く印象に残るプレイヤーだったので、よく覚えている。

 

(この二人の動きを見るに、追跡を受けているのはヴァンパイア。ジェイソンは追手ね……)

 

そこまで確認したところで、シノンは端末をしまって再び動き出した。先程確認した二人は恐らく、サテライト・スキャンの確認をしている暇も無いだろう。つまり、こちらの位置についても知る余地が無く、シノンから見れば格好の獲物なのだ。よって、シノンが向かう先は、森林西方。そこには、森林エリアと山岳エリアを正攻法で行き来できる唯一のルートの、鉄橋が存在する。

山岳エリアからこちらへ逃げているヴァンパイアは、ジェイソンを迎え撃つために、直線状のここへ来る筈。そして、それを追うジェイソンもまた、必ず現れる。シノンは、森林エリアの中で鉄橋を見下ろせる場所に陣取り、そこから狙撃を仕掛けるつもりなのだ。

 

(次の獲物は、この二人……道のりは遠いけれど……待っていなさい、死剣!)

 

今この場所にはいない、しかしいずれ会い見えるであろう最強と言ってもおかしくない程の強敵の姿を思い浮かべながらも、シノンは駆ける。次の狙撃ポイントへと…………

 

 

 

シノンが新たに移動した場所は、森林エリアの川沿いにある小高い崖の上。ブッシュの下へと身を潜らせた後、素早くヘカートのスタンドを立てて、対岸の鉄橋付近をスコープで覗き込む。

 

(来た……!)

 

そして、鉄橋の向こう側にある山岳エリアを監視すること数分。シノンの予測通り、先程マップ上で追撃戦をしていたプレイヤーの片割れが姿を現した。漆黒のミリタリースーツに、黒いローブを羽織った黒装束。プレイヤー名、ヴァンパイアである。その名の通り、闇夜の眷族たる吸血鬼を彷彿させる軽装である。敏捷特化型のステータス振りなのだろう。その手に持つのは、短機関銃のHP5。麺制圧を目的としたオープンボルト式の短機関銃とは一線を画す、目標に当てるための命中精度に優れる短機関銃である。軽やかなフットワークで鉄橋を駆けるヴァンパイアは、狙撃するには動きが速過ぎる。もうしばらく、様子を見ようと監視を続けるシノン。だが次の瞬間、予期せぬ出来事がスコープの向こうで発生した。

森林エリアを目指すヴァンパイアの背中に、“何か”が飛来したのだ。銃弾にしては遅く……しかし、並みの人間には回避することの難しい速度で迫る、黒く細長い物体。それは、ヴァンパイアの太腿に深く突き刺さり、転倒させた。

 

(あれは……まさか!)

 

橋の上で転倒し、動きを止めたヴァンパイア。その太腿に刺さった凶器を確認するや、シノンは橋の反対側へとスコープを向けた。シノンの予想通り、そこには新たなプレイヤーの姿があった。山岳エリアの鉄橋入り口。そこに立っていたのは、ホッケーマスクを模した仮面を被り、灰色のつなぎを彷彿させるコンバットスーツに身を包んだ男だった。体格はヴァンパイアより一回り大きく、伸長は百八十超。どこぞのホラー映画の殺人鬼を彷彿させる異質な姿をしたこの男こそ、ヴァンパイアを追跡していたジェイソンである。その右手に握られていた武装は、シノンの予想通りの代物だった。

 

(コンパウンドボウ……やっぱり!)

 

コンパウンドボウとは、滑車とケーブル、てこの原理、複合材料など力学と機械的な要素で組み上げられた近代的な弓である。その有効射程は百五十メートルに相当し、オリンピックのアーチェリーやコンポジットボウを凌ぐ性能で知られている。現実世界では、海外の狩猟や軍隊のサイレントキリングに用いられたこともある。

そのような軍事的な武装としての側面故に、コンパウンドボウは変則的な狙撃武器として、銃撃戦メインのGGOにも導入されていた。だが、弓矢故に、システム上で設定された仕様は、一般の銃器とはまるで異なる。その最大の違いは、GGOの銃撃戦に付き物とされる『弾道予測線』が発生せず、『着弾予測円』が使用できないことにある。つまり、標的とされた相手は、矢の軌道が見えず、矢を発射する射手は、システムのアシスト抜きで狙いを定めねばならないのだ。

 

(……成程。あれなら、足の速いヴァンパイアが劣勢を強いられたのも納得できるわ)

 

射程距離が百メートルを超える上に、相手の姿を視認した状態でも、回避は容易ではないのだ。山岳地帯のように、地形の高低差が激しく、足場の悪い戦場では、自慢の敏捷を活かし切れないヴァンパイアが劣勢に立たされるのは、自明の理だった。尤も、コンパウンドボウという、変則的かつマイナーな武装が相手では、どのようなプレイヤーが、どのような条件で戦ったとしても、不利な戦況は免れなかっただろうが。

 

(残念だけど、勝負あったわね……)

 

太腿に矢を受け、転倒させられたヴァンパイアは、ジェイソンに反撃するべく手に持ったHP5の銃口を向けた。だが、ジェイソンも黙って被弾する程愚かではない。コンパウンドボウに再度矢を番え、ヴァンパイアが引き金を引くよりも早く矢を射出した。矢はヴァンパイアの右肩を貫通し、それが原因で手元が狂った末に銃口は有らぬ方向を向き、そのまま発砲してしまう。これが原因で、ヴァンパイアは手元が狂って狙いが外れたばかりか、反撃の手段を封じられてしまった。

そして、ジェイソンはその隙を見逃さない。足を射抜かれ、銃が言う事を聞かない状態のヴァンパイアは、格好の獲物でしかない。ジェイソンは、手に持ったコンパウンドボウを横へと放り投げると、懐からもう一つの武器を取り出し、ヴァンパイア目掛けて突撃を仕掛ける。

 

(また、随分と特殊な嗜好の武器を…………)

 

シノンがそんな感想を漏らすのも、無理の無い話だった。ジェイソンの手に新たに握られた武装は、小型の斧――ハチェットだった。現実世界においては、消火活動の際に建物への進入や障害物の破壊等に用いられている。また、スプラッター映画の殺人鬼が使用する、殺害の凶器としてしばしば用いられている。そして、今回の使い道は、明らかに後者である。

 

「ぎゃぁぁぁああっ!」

 

転倒し、身動きの取れなくなったヴァンパイアに対して繰り出される、ジェイソンからの無慈悲な一撃。助走と振り下ろしの勢いで威力が倍増した一撃は、ヴァンパイアの脳天を直撃した。

これを食らったヴァンパイアは、断末魔の叫びを上げる。殺人鬼の格好をした敵が、目の前で凶器を振り翳しているのだ。ゲームのアバターと分かっていても、その恐怖は計り知れず、悲鳴を上げることも無理は無い。

眉間に斧がめり込んだヴァンパイアのHPは、当然のことながら全損。ヴァンパイアのアバターを操っていた人間は、斧を食らった途端に動かなくなった。恐らくは、恐怖の余り気絶したのだろう。

本来、アバターを操る人間が意識を失えば、ゲーム内のアバターは消滅する。だが、BoB本選においては、優勝者が決定するまでアバターはフィールド上に残存するシステムとなっているのだ。

 

(さて……ここからは、私の仕事ね)

 

ヴァンパイアの脱落を確認したシノンは、橋の上に一人残っているジェイソンへと照準を合わせる。

 

「どんな時も、後ろに注意よ、ジェイソン君」

 

先程の、ジェイソンとヴァンパイアとの派手な戦いで熱狂しているであろうギャラリーには悪いが、ここは確実に仕留めることにする。敵を倒して油断しているであろうジェイソンは、狙撃手たるシノンにとっては格好の的である。

近接に特化した武装であるジェイソンを仕留めるタイミングは、今をおいてほかに無い。橋の上のように開けた場所ならば、遮蔽物の類は無く、ジェイソンも筋力寄りのステータスなのは明らかなので、確実に命中させる自信がある。

 

「終わり(ジ・エンド)よ」

 

ヴァンパイアの頭部から斧を引き抜いたジェイソンは、先程投げ捨てたコンパウンドボウを拾うべく踵を返す。その無防備な背中に狙いを定め、いざ引き金を引く――――

 

「なっ!?」

 

引こうとした、その時だった。シノンにとって、予想外の事態がスコープの向こうで発生した。シノンが今、まさに狙撃しようとしていた標的のジェイソンの身体が、橋の上で仰向けに倒れたのだ。一体、何が起こったのかと混乱するシノン。だが、すぐさま常の冷静さを発揮して、現状を把握するべく、脳の思考をフル回転させる。

 

(私以外の第三者からの襲撃……でも、一体誰が?)

 

倒れたジェイソンの身体を、スコープの倍率を上げて見てみる。すると、その脇腹に針状のものが突き刺さっていた。さらにそこから、細く青白いライトエフェクトが、ジェイソンの全身を這うように発生していた。

 

(電磁パルス弾!あれでジェイソンを麻痺させたのね……でも、どこから?……それに、どうしてこの局面で?)

 

電磁パルス弾とは、着弾点から高圧電流を発生させ、一定時間相手の動きを封じる特殊な弾丸である。しかし、装填するには大口径ライフルを必要とする上に、一発の値段が非常に高い。大型Mobを狩るのならばいざ知らず、対人戦闘の技術を競うBoBで用いるのは場違いな武装なのだ。

加えて、ジェイソンに弾丸を命中させられるこの局面で、殺傷性皆無の弾丸が使用するメリットは無い。電磁パルス弾を発射できる大口径ライフルを所持しているのならば、実弾を急所に叩き込めば勝負を決められた筈なのだ。何故、早急にジェイソンを仕留めようとしなかったのか……シノンには、この行動の意図が理解できなかった。

 

(それに、銃声は聞こえなかった……一体、どこから狙撃したの?)

 

ジェイソンが倒れた際、辺りから銃声は一切聞こえなかった。大口径ライフルで狙撃などすれば、間違いなく銃声は聞こえる筈である。それに、ジェイソンが被弾した角度から考えるに、弾丸は横合いから垂直に繰り出された可能性が高い。つまり、狙撃手は橋の上か、もしくは橋の入り口付近にいる可能性が高いのだ。しかし、いくら辺りを調べても、プレイヤーの姿は一切見当たらない。

加えて、最後に確認したサテライト・スキャンの結果によれば、この鉄橋の付近を徘徊していたプレイヤーは、シノンとジェイソンとヴァンパイアのみ。他のプレイヤーが接近する様子は無かったし、この場所を真っ直ぐ目指していたとしても、移動速度が速過ぎる。

結論として、ジェイソンはこの場にいない筈の何者かの手によって倒されたことになる。いくら冷静に思考を走らせても、一連の出来事について、手段も目的も見当が付かない。イレギュラー極まる事態に直面したシノンは、焦燥に駆られながらも、なおも落ち着いて現状把握を試みた。

 

(……ジェイソンを麻痺させた以上、狙撃手には何らかの意図があったということ。となれば、倒れたジェイソンを見張っていれば……)

 

姿無き狙撃手は、必ずジェイソンに止めを刺そうとする筈。そしてその方法は、実弾による狙撃。そう考えたシノンは、橋の上で仰向け状態のジェイソンの監視を続けることにした。電磁パルス弾の効果が持つのは、一分前後。勝負を決めるつもりならば、すぐに次弾を放つ筈……

 

(んなっ!)

 

だが、シノンの予測は思わぬ形で裏切られた。ジェイソンに撃ち込んだ電磁パルス弾の効果が薄れ始めた頃になり、そろそろ次の狙撃が起こる筈だと思ってより注意深く監視をしていた時。シノンは、鉄橋の支柱の影からゆっくりと現れる黒い影をスコープ越しに捉えた。つまり、ジェイソンを狙撃した敵は、自らその場に姿を現したのだ。

シノンは改めて、鉄橋の上に新たに現れたプレイヤーの容姿を確認する。下に着ているのは、迷彩色のミリタリー風のズボンで、上は半袖のベルト付きジャケットを着ており、その上から黒いマントを被っている。顔には、首から鼻の部分までを覆うマスクを被り、左目には暗視ゴーグルを装着している。その手には、電磁パルス弾を射出したのであろう、大口径ライフルが構えられたままだった。そしてその銃の名を、シノンは知っていた。

 

(沈黙の暗殺者(サイレント・アサシン)!)

 

アキュラシー・インターナショナル・L115A3――それが、橋の上に立つ黒いマスクを付けた男の所持する武装の名前だった。射程距離は二千メートルを超え、専用のサウンド・サプレッサーが標準装備として備え付けられている対人狙撃銃である。その射程距離と仕様故に、標的は狙撃手を見つけることはできず、銃声すら聞こえないため、射殺されたことにも気付かず死に至る。まさしく、『沈黙の暗殺者』の名前に相応しい狙撃銃だった。銃声が聞こえなかったことは、これで説明がついた。だが、新たな疑問が浮上した。

 

(電磁パルス弾を撃ち込んだのはあの凶器で間違いない筈だけど……移動が速過ぎる)

 

シノンやジェイソンに気取られないよう狙撃をしたならば、そのポジションは、射程ギリギリの位置になる。となれば、射撃位置は山岳エリアの岩間の筈。だが、狙撃後に岩場から橋へと徒歩で渡ってきたのならば、直線距離で十分はかかる。雪の上に足跡を残さないよう注意しながら歩いたのならば、尚更である。しかし、山岳エリアからの橋の入り口付近にスコープを向けてみても、積もった雪の上に足跡は見られない。

サイレント・アサシンを持ったプレイヤーが現れたのは、狙撃から二分と経たないタイミングである。如何に敏捷に特化した、闇風のようなプレイヤーであろうとも、痕跡を残さずに辿り着ける距離ではない。最早、瞬間移動レベルの速度である。一体、何が起こっているのか……

だが、氷のように冷たく、滅多なことでは動じないシノンの思考が凪ぐよりも早く、スコープの先で起こっている事態はさらなる急展開を迎える。

 

(何を、しているの……?)

 

サイレント・アサシンを右肩に提げた黒マスクの男は、倒れたジェイソンの傍に立ってその姿を見下ろしていた。だが、単に勝ち誇って見下しているだけというわけではない。フリー状態の左手の指先を、額へ、胸へ、左肩へ、右肩へと動かしていく。要するに、十字を切るポーズである。まさか、このプレイヤーのリアルはクリスチャンで、敵を倒す前の儀式としてこのような真似をしているというのか……

 

(……馬鹿馬鹿しい。でも、何であんなことを)

 

この短時間でイレギュラーな行動を連発した、黒マスクの男の行動に、シノンは理解に苦しんでいた。ただ一つ言えることは、この十字を切るこのポーズには、何らかの意味があるということ。そして、それはまるで、ジェイソンをこの本戦から退場させる止めの一撃を放つまでの秒読みをしているかのように見えた。地獄へのカウントダウン……とでも称すべき何かが秘められているように思えてならない。

そして、黒マスクの男の奇行は続く。十字を切り終えたと思ったら、今度は腰のホルスターに手を突っ込み、副武装らしきものを取り出した。だがそれは、何の変哲も無い、ただのハンドガンだった。距離が距離なだけに、スコープ越しに正確な型番等を見抜くことは不可能だったが、別段特殊な改造が施されている様子も無い。ジェイソンの残存HPを削り切るには、明らかに威力不足の武器である。

 

「…………」

 

嫌な、予感がした。この男に引き金を引かせると、何かとんでもないことが起こるのではないか、と。確証は無い。だが、確信はあった。銃を構える黒マスクの男の姿。それが、かつて幼き頃に、シノンが現実世界で相対し、自身の手で殺したあの男――銀行強盗の男の姿と重なったのだ。

シノンは知らず、引き金にかけていた指を震わせていた。スコープの向こうで繰り広げられる光景について、まるで現状把握が追い付いていないそんな中。シノンの胸中に湧いたのは、『焦燥』と『恐怖』という感情だった。理性ではなく、本能が告げている。「早くこの男を撃て」と――――

 

(駄目よ……落ち着いて!)

 

想起されるかつてのトラウマに、冷静な思考を失いつつある感情を制御すべく、シノンは残った理性をフル稼働させて、己自身に必死に言い聞かせる。今、黒マスクの男を狙撃した場合、復活したジェイソンがこちらへ向かってくる可能性が高い。仕掛けるならば、橋の上にいるプレイヤーが潰し合って一人になった時を狙うのが効率的なのだ。故に今は、その決着が着くのを待たねばならない。だが、脳内で鳴り響く警鐘は、どうしてもそれを許そうとはしない。ジェイソンに向けてハンドガンを構える黒マスクの男を、今すぐに撃ち殺せと告げている。

 

「…………」

 

結局、シノンは自身の本能ではなく、理性による判断を優先させることにした。即ち、スコープの向こう側の端の上で、仰向けに倒れるジェイソンに向けて、黒マスクの男がハンドガンの引き金を引くことを容認したのだった。

そして、シノンが内心で葛藤にも似た感情を抱いている間に、黒マントの男は親指でハンマーをコッキングし、グリップに左手を添え、準備を完了した。そして、遂にその引き金は引かれた――――

 

 

 

パァンッ――――

 

 

 

GGOにおいてありふれた、乾いた銃声。同時に、撃ちだされた弾丸は、足元に倒れるジェイソンの胸部に命中した。現実世界ならば致命傷だが、生憎ここはゲームの中。九ミリパラベラム弾が胸や頭部といった急所に命中したところで、即死は有り得ない。HPが僅かに削られる程度である。

 

(……考え過ぎ、だったか)

 

本能的に恐怖したハンドガンの一撃だったが……何も起こらない。拍子抜け極まりない結果に、シノンは肩透かしを食らったかのような感覚に陥る。また、見た目だけの虚仮威しに目を曇らせ、判断力を鈍らせた自分に呆れを抱いていた。まだまだBoB本選はこれからだというのに、こんな調子では優勝することも、死剣を倒すことも儘ならない。

先行きの思い遣られる自分自身に苛立ちを覚えながらも、シノンは、再度照準を構え直した。狙うべくは、ジェイソン。電磁パルス弾の効果は、あと数秒足らずで切れる。そうなれば、ジェイソンが黒マスクのプレイヤーを、先のヴァンパイア同様にハチェットを頭へ叩きつけて、HPを全損させることだろう。それが終わり次第、狙撃を食らわせるのだ。

 

(そら、動き出した)

 

そうこうしている内に、シノンが考えている通り、ジェイソンは麻痺から立ち直って再起動を果たした。がばりと勢いよく起き上がると、目の前に立つ黒マスクの男目掛けてハチェット片手に襲い掛かった。全く、言わんこっちゃない。電磁パルス弾で倒した時に仕留めていれば良かったものを。結局のところ、この黒マスクの男は、高価な弾丸を無駄に消費しただけに終わっただけだった。これで、黒マスクの男の死亡は確実になる……

そう、思った時だった――――

 

「!?」

 

シノンが覗くスコープの向こう側で、またしても信じられない現象が起こった。麻痺から復活し、黒マスクのプレイヤーに襲い掛かったジェイソンの巨躯――そのアバターが、まるで糸の切れた操り人形のようにバランスを崩してよろめいたのだ。そして次の瞬間、ジェイソンのアバターは白い光に包まれて、消滅した。ジェイソンが立っていた場所には、『DISCONNECTION』という小さな文字列が浮かんだが、それさえも瞬く間に消え去った。

 

(何……今の?)

 

一瞬、何が起こったのか……シノンには、理解できなかった。『DISCONNECTION』とは即ち、回線切断が起こったということ。しかし何故、どうして、このタイミングで、こんな現象が起こったのか……

 

(……偶然と言うには、出来過ぎている。あのプレイヤーの行動が関係しているのは、明らか……)

 

シノンの予測が正しければ、回線切断を引き起こしたのは、黒マスクの男。銃撃によるHP全損ならまだしも、回線切断によるゲーム内からの排除など……一体、どんなチート技を使えばそんな真似ができるのか。GGOの世界をある程度まで知り尽くしたシノンでも、そんな裏技があるなどという話は聞いたことはない。

シノンは、黒マスクの男をスコープ越しに捉えた際に感じていた、得体の知れない、恐怖にも似た感情――その正体を、垣間見たような気がした。そして、同時にこれからやることも決まった。

 

(この男を、これ以上生かしておくわけにはいかない……)

 

回線切断を引き起こしたチートの正体は分からないが、銃弾一発でそんなことができるとすれば、脅威以外の何物でもない。今、この場で仕留めるのが最善策であることは、疑いようも無かった。

シノンは黒マスクの男について、標的とだけ認識する。そして、その精神を氷のように凍て付かせ、それ以外の思考全てを停止した状態にて、狙撃に集中した。

相手はまだ動いていない。狙撃を妨げる障害も、今は特に見当たらない。このままいけば、ヘカートから繰り出される弾丸が、そのアバターを粉微塵に吹き飛ばすことだろう。

 

「終わり(ジ・エンド)よ」

 

頭の中で勝利を確信し、しかし徹頭徹尾冷めきった思考の中、シノンはその引き金を、引いた――――――

 

 

 

 

 

 

 

時間を遡ることしばらく。シノンが森林エリアと山岳エリアの間にある鉄橋を目指して移動を開始していた頃。彼女が本大会最大の敵と認識していたイタチの姿は、ニヴルヘイム北部の湖沼エリアにあった。不安定な足場である氷の上を、身体の軸をブレさせることなく歩くその姿には、一切の隙が見られない。そして、イタチが歩いて行くその先にあるのは、敗退したプレイヤーのアバターだった。獅子――正確には、沖縄のシーサーだろう――を模した仮面を被っていた、男性プレイヤーである。

 

(……キング・シーサー、だな。)

 

イタチは足元に転がるアバターと武装の残骸を確認し、心中でそのプレイヤー名を呟く。プレイヤーネームと、この場所の位置情報については、ここに来る前に行った、サテライト・スキャンで確認済みだった。果てた姿の同時に、氷でできた地面に膝を突くと、そのアバターの状態について分析を始める。

まずは、キング・シーサーの装備の確認である。キング・シーサーが所持していた武装は、自動小銃のスプリングフィールドM1。そして、下半身の腰に備え付けられたホルスターには、副武装である自動拳銃のベレッタM92が入っていた。その二つの内、イタチは胴体から分離した右手に握られているスプリングフィールドM1を手に取った。

 

(弾薬は使われていない。拳銃も抜かれていないということは、奇襲を受けて抵抗する間も無く殺られた証拠……)

 

続いてイタチは、アバターの損傷について思考を巡らせる。キング・シーサーのアバターは、四肢が断ち切られた上に、上下半身が両断されていた。GGOの一般的な銃撃戦においては有り得ない損傷である。明らかに銃撃戦によるものではなく、何らかの斬撃武器による切断だろう。

しかも、ただの切断ではない。通常、VRゲームにおいて四肢をはじめとしたアバターの部位欠損が発生した場合、ポリゴン片となって霧散するのが常である。BoBにおいては、例外として敗北したプレイヤーのアバターが、大会終了までフィールドに残される。しかし、欠損した部位が発生した場合には、通常時と同じくポリゴン片と化して霧散する。では、何故アバターの欠損部位が全てフィールドに残されているのか。

 

(四肢を切り刻まれながらのHP全損……それも、切断された部位が消滅する間も無い程の連撃、か)

 

それが、SAO制作に携わり、蓄積させたVRゲームのシステムに関する知識をもとに、イタチが出した結論だった。そして、この推理が的中していたならば、使用した凶器の正体も見えてくる。銃の世界たるGGOにおいて、アバターを高速で切断ダメージを与えることができる武器は、ただ一つ。

 

(光剣……だな)

 

イタチも主武装として使用している武器――『光剣』。刃の形をしたレーザー光線たるそれは、銃弾も容易く両断する力を持つ。また、刀身が実体を持たない故に、高速で振り回すことができる。このアバターの残骸を作ることができる武器は、これ以外に無い。

しかし、だとすれば疑問も残る。キング・シーサーが奇襲を受けたこの場所は、氷の張った湖の上。身を隠す遮蔽物の類は一切無く、奇襲など仕掛けようと近付けば、すぐに気付かれてしまう。

姿を隠すための、何らかのアイテムやトリックを使ったことは、間違いない。

 

(しかも、この技量……)

 

GGOにおいて、光剣はマイナーな部類の武装である。銃の世界たるGGOでこれを扱うには、相手が繰り出す銃弾の軌道を読み取る技量が不可欠である。イタチに限って言えば、現在の身体能力や反応速度が優れていることに加え、SAOと前世における戦闘経験のバックアップがある。だが、キング・シーサーを倒したプレイヤーは、何故ここまで光剣を使いこなせるのか……

 

(やはり、奴……か)

 

だが、イタチにはその理由が分かっていた。もっと言えば、キング・シーサーを倒したプレイヤーの正体を知っている。そして、そのプレイヤーこそが、イタチがこの世界へとやってきた理由なのだから…………

 

(奴が向かった先は……)

 

イタチが追い掛ける相手の行方。それを知るために、周囲に視線を巡らせたイタチだが、答えはすぐに見つかった。イタチがいる場所から見て前方、およそ十メートル先の地点に積もった雪の上に、足跡が見えた。足跡を隠蔽する意思がまるで感じられない……むしろ、見つけさせるために付けたとしか思えない足跡だった。挑発、或いは誘いとしか考えられない。

 

(明らかに罠……だが)

 

イタチには、今更足を止めるという選択は有り得ない。イタチは迷うことなく、その足跡へと足を向けた。向かう先は、湖沼エリアより南側にある、中央の炭鉱都市である。

自身や、この大会に参加するプレイヤーに向けられる、膨大な悪意がそこに渦巻いている。イタチは知らず、そこが決戦の地になることを、予感していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~おまけパロキャラ劇場~

 

「あ、始まりましたよ、皆さん」

 

「イタチ君は映ってるかな?」

 

妖精の国として知られるVRMMORPG、アルヴヘイム・オンライン――通称『ALO』に存在するとある酒場の中。そこには、現在複数のプレイヤーが集まっており、モニターに映し出されていた第三回BoBを観戦していた。

 

「バトルフィールドの名前は、『ニヴルヘイム』だって。名前も風景も、サチの使う最大魔法そのままね」

 

「えっと……そうだね。あはは……」

 

リズベットの言葉に、サチは苦笑した。

 

「それにしても、参加しているプレイヤーは皆、妙な格好の連中ばかりだな……仮面やマスクやら、銃の世界で何の役作りのつもりなんだ?」

 

「全く意味不明ですよね……名前といい見た目といい、殺人鬼かと思う人ばかりですよ」

 

ダカの言葉に対し、リズベットの隣に座っていたシリカが賛同した。酷い言われ様だが、この場に集まった全員が同じことを考えており、フォローをしようとする人間は誰一人としていない。譬えその中に、知り合いのプレイヤーが混ざっていたとしても……

 

「ところで、この雪夜叉っていうプレイヤー。なんか声が、ランさんに似てませんか?」

 

「えっ?そうかな……」

 

リーファの言葉に対し、ランが戸惑いの声を発する。リーファが指差す先のモニターには、鬼の仮面を被った雪夜叉と呼ばれるプレイヤーが、斧を片手に近接戦闘を繰り広げていた。

 

「ああ、確かに似ているな」

 

「オイラもそう思うよ。でも、銃の世界で、何であんな武器を使ってるんだ?」

 

「近接戦闘が得意って言う点だけは、ランと同じだな。あと、怒ると鬼のように恐ろしいところもな」

 

リーファの呟きに対し、今度はカズゴ、アレン、ヨウまでもが確かに、と頷いた。それを聞いたランは、不服そうな表情で不満を口にする。

 

「失礼ね。私はあんな風に刃物を振り回したりはしないわよ」

 

「…………ああ、そうだったな」

 

鬼の仮面を着けたプレイヤーと同一視するなと言うランに対し、一同は苦笑を浮かべた。怒りを露にしたランが繰り出すものは、刃物等の凶器ではない。空手によって鍛えられた拳によって繰り出す鉄拳制裁である。探偵である父親の職場で、幾度となく抵抗する犯人達を沈めた実績を持つランの拳撃は、下手な凶器よりも殺傷能力があると言っても過言ではないのだ。

 

「声といえば、このフォックスとかいうプレイヤーも、キヨマロに似てないか?」

 

「あ、確かに」

 

「それに、この岩窟王ってプレイヤー……ハヤテのところのお嬢様の声に似ている気が……」

 

「ナギだな……言われてみれば、そう思えるな」

 

大会出場者に、やたらと知り合いに声が似ているプレイヤーが多いと思う一同。一体、どんな偶然だろうか……

 

「あ、それから。このシノンっていう人と、ローゼン・クロイツっていうプレイヤーも、声が似てます」

 

「確かに……けど、知り合いじゃないだろ」

 

いつの間にか始まっていた、知り合いに声が似ているプレイヤー探しが、知り合いの枠を逸脱していることに、カズゴが突っ込みを入れた。そんな中、リーファは一人、首を捻っていた。

 

「シノン……う~ん……なんか、どこかで聞いたことがあるような……」

 

「なんだ、リーファ。知り合いなのか?」

 

「ううん。でも、どこかで同じ様な名前の人に会ったことがある気が……」

 

「気のせいじゃない?それに、プレイヤーネームよ。リーファちゃんの知り合い本人じゃないでしょう」

 

アスナの尤もな指摘に、確かにとリーファは思うのだが、どうしてもシノンという名前は、頭のどこかに引っ掛かったままだった。

 

「案外、イタチの知り合いだったりして」

 

「ハハ、まさかそんなこと無いだろう。向こうの世界でまた、女を引っ掛けてきたってか?」

 

アレンが何気なく口にした冗談を、クラインは軽く笑い飛ばす。他の男性陣も同様の反応で、苦笑を浮かべていた。だが…………

 

『……………………』

 

アスナやリーファをはじめとする女性陣の一部は、神妙な表情で沈黙してしまうのだった。

 


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