この中に1人、ハニートラップがいる!   作:佐遊樹

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山田先生ログアウト^^


VS薄幸令嬢系ハニトラ
ハニトラくんメイツ/織斑一夏の来訪


5月。4月に始まった新環境にも慣れ、個人としてのキャラクター性や集団の中でのポジションなどが決定し、中心なら超リア充、輪に混ざれればリア充、休み時間の度に一人なら非リアとクラスカーストが無情にも確定してしまう季節だ。

後はゴールデンウィークとかがあるな。楽しみが多い季節でもある。ただ楽しいことしかないかと言えばそれは違う。五月病のヤツがひっそりと俺を狙っているのだ。油断すればヘッドショットを食らうことになる。ワンショットキルである。

 

俺は五月病と無縁の生活を送るべく、ひたすら朝昼晩誰かと一緒にいるよう心がけた。ゲームしたり、だべったり、勉強会開いたり、ラジオ聞いたり。俺より先に五月病の餌食となったのか、我らが巨乳先生が長期休暇を取っていた。情けねぇ、胸はデカいんだからもっとデカい態度取っていいんだって。

 

「我ながら元気なもんだぜ……」

 

地味にオルコット嬢も気づいたら隣にいたりして精神的に辛い。鈴からのスキンシップが(ピンク的な意味で)激しくて紳士的に辛い。

そろそろヒッキーになっても問題ないと思うんだ。ヒッキー知ってるよ、この呼び方は色々とアブないって。

 

「そうだ京都行こう」

 

そんなワケで俺は廊下をルンルン気分で爆走していた。目指せ五輪ではなく姉さんの部屋。

休日の外泊は書類を書いて教師の許可を得なければならない。イッツマイソウルが京都に生きたがっている以上は行くしかねぇよな。

 

「廊下を走るな馬鹿者」

「早速発見」

 

角を曲がった瞬間姉さんとすれ違った。俺はその場でピタリと止まり、腰を九十度に折って手を差し出す。

 

「京都行きましょう!」

「…………デートのお誘いか?」

 

違ぇよ。どこの世界に超絶美人スタイル抜群実姉をデートに誘う奴が……すいません居そうですね。こんだけ完璧だったら肉親からもモテそうですね。そのモテ能力を七割でいいから俺にくれよ。

俺が無言で返事を催促していると、姉さんは俺の手を掴んで起き上がらせた。

 

「いいだろう、ちょうどこちらからも話をしようと思っていたところだ」

「え」

「明後日にはここを発つ。しっかり準備しておけ、一週間ほどあちらに泊まることになるぞ」

「えええ」

「ああ許可については問題ない。『こういう場合』は特例で審査なしに許可が出るんだ」

「ええええええ」

 

実にスムーズな対応だ。そもそも俺が言い出す前から決まってたっぽいしもはや対応ではない。

そんなワケで俺の京都デートwith世界最強が決定した。あまりにとんとん拍子な決定に超スピードとか催眠術とか、あ、前もこれやりましたねすいません。反省も後悔もしないけど。

 

 

 

 

 

 

 

ということで二日後、学園の滑走路。俺も姉さんもスーツ姿だ。

……そう、スーツだ。スーツである。ガンツスーツではない。

姉さんはこないだ俺がアイロンがけしたYシャツにいつものフォーマルスーツとタイトスカートで、俺は無地のダークスーツ。ちなみにYシャツは薄いブルーでネクタイは黒と黄の細けぇ格子柄だ。正装は一通り揃えてある。髪もポマードをたっぷりと塗って整えてきた。

まァ立場が立場なもんで正式な場での会見とかがあるかもと思って用意してたんだがな。そういう機会は全部姉さんが代理でしやがったのでこのスーツは日の目を見ることがないかと思われていた。それが思わぬトコで役立つとは過去の俺グッジョブ。

 

「オイ、俺をどこに連れて行くつもりだよ」

「フランスだ」

「ちょ」

 

荷物をまとめたキャリーケースはもう学園に預けてしまった。Yシャツの下にISスーツを着るよう言われたのはもしかしてアレか。何か衝撃に備えるためか。

 

「さっさと乗れ。一応これは公になっているから、マスコミが来ている」

「……何だ、アレか、俺がフランスに旅行に行くとこんな人が集まるのか。こりゃ新婚旅行は大変だな」

「これは旅行ではなくフランス訪問だ」

 

聞いてねーよそんなコト。

姉さんがなんかコピー紙を渡してきた。俺の訪問先リストらしい。日本大使館、フランス大統領官邸、議会、IS関連の企業がいくつか……

 

「旅行じゃねぇよこれ!」

「当たり前だ」

 

満面のビジネススマイルでカメラに手を振りつつ、俺は姉さんを小声で糾弾する。マジねぇってコレ面子ヤバいじゃねーかガチガチじゃねーか。俺死ぬって過労死的な意味で。

 

「私からの進学祝いだ」

「イヤミか貴様ッッ」

 

もう俺のイライラは限界を突破して有頂天(?)だった。多分背中に鬼の顔が浮いてるレベル。

 

「ハメられた……俺は本来ハメる側だってのに……!」

「オイ、そういう発言は慎め」

 

眉をひそめて注意してくる姉さんに肩をすくめてみせる。そろそろカメラのシャッター音がうざったくなってきた。

これから俺が搭乗するのは学園のロゴが入った音速旅客機だ。マスコミの方々にオサラバして中に入ってみると、豪華なソファーとバカでかいモニターが置いてあった。ソファーに俺と姉さんが腰掛け、付いてきたSPの人たちは部屋の隅の席に座っている。

 

「……ISスーツを着た意味あんの?」

「黙っていろ、舌を噛んでも知らんぞ」

 

は? 舌噛むってどーゆーことだ?

航空機特有の甲高い騒音が耳を突く中、旅客機はその小さな機体を進ませ始めた。滑走路のド真ん中を走り、一気に空へ

 

『ブースター、点火』

 

誰かの声が聞こえた。多分パイロットの声だろう。

瞬間、ボゴンッ! と俺の体はソファーに叩きつけられた。

間抜けな効果音で申し訳ない。ただガチでこんな音だった。なんか呼吸が詰まってヤバいひゅーひゅーとしか息できねえんだけど。体も上から透明人間がのしかかってるみてーに動かねえ。隣の姉さんは涼しげな表情。ホントにあんた人間か?

 

あ、ちょっヤバ、頭から血が下りて

 

 

 

 

 

 

 

気づいたらフランスにいた。新手のスタンド攻撃でも受けたのかと思った。

 

まだ朦朧とする意識を、頭を振って覚醒させる。隣に姉さんは居ねぇ。先に降りたみてーだ。

 

「クソ、あの馬鹿姉め……いつかぜってーぶち込んでやる」

 

何をかって? そりゃナニだよ言わせんな恥ずかしい。

いや本人を前に言ってもいいんだがな。ただそん時は間違いなく俺がぶち込まれる側になっちまう。

何をかって? そりゃ銃弾だよ言わせんな恐ろしい。

 

悪態を吐きつつ席から腰を上げる。同時に四方を取り囲んでたゴツいSPの方々が立ち上がった。

オイこれ、面白い遊びができる気がするんだが。

また座る。SPも座る。

立つ。釣られて立つ。

素早く座る。咄嗟の反応で座る。

立ち上がりかけて止める。四人中二人が立った。

 

「立ち上がったお前らチェンジな」

『ちょ』

 

初めての発言が二文字とかさすが寡黙なプロフェッショナルだぜ。

 

俺は満面の笑みで飛行機を降りた。実に楽しかった。階段を降りる途中にもまたパシャパシャとシャッター音の連続。テレビカメラに俺のイケメンっぷりがしっかり伝わるように手を振っていたら、黒塗りのクラウンがスモーク付きで目の前に停まっていた。

日本製てオイ。配慮の現れなのか、そうなのか。

 

「遅いぞ」

「悪ィ」

 

中には姉さんが先に乗り込んでいた。クッソ余裕な表情しやがってこの人外め。

俺も後部座席に座りドアを閉める。

走り出す車内でケータイを取り出しメールを読み返し始めた。クラスメイト達からのお土産の要求リストだ。

 

こいつら高そうなモンばっか選びやがって。ブランド物の服とかバッグとか女子高生が持つもんじゃありませんよ。相川を見習えってバケットとか良心的で涙が出てくるじゃねぇか。これはこれで馬鹿丸出しだが。

ブランド物は全てかっ飛ばす。ここが東南アジアとかだったらパチモンを大量に仕入れてやるんだがな。生憎本場だし適当に安いフランス菓子とか買っときゃ満足すんだろ。

 

「まずどこに行くんで?」

「大統領邸宅」

 

一発目からクソ重いのキタコレ。

そうか時差か、日本を出たのは夕方だったがフランスだとまだ真っ昼間なのか。

今更だけどこの訪問ってどんな意味があるんだろう。

 

それは置いといてだな。フランス大統領ッつったら、かつてIS操縦者だった女性のはずだ。

ISのせいで政界も大分女性が進出したからなぁ。日本の総理大臣にアメリカの大統領、中国の国家主席や国連事務総長まで女性だ。

まァまだ男性が行政を執行している国もあるといえばあるが、なぜかそこが保有するISは少ない。無い国だってある。ホント何故なんでしょうねー、ぜひネクストコナンズヒントで教えて欲しい。

 

「フランスの大統領って言ったらあれか、日本の総理大臣との会談で土産に葉巻を持ってきたゴリラみたいな女か」

「それを言ったら日本の総理大臣は塩を渡して『戦国武将』とあだ名を付けられているがな」

 

なにそれこわい。

つーことは俺も何か持ってった方がいいのか。タバコかな、マイルドセブンとキャスターとパーラメントだったらどれが好きなのかな。意表をついてアメリカンスピリットとかかもしれん。フランスなのに。

 

相手はゴリラ女だ、下手に機嫌を損ねれば和田アキ子を怒らせた勝俣の二の舞になりかねない。あ、我ながら巧い例えだったわ今の。

 

「土産はこちらで用意してある」

「マジかよさすが姉さん。俺姉さんの弟に生まれて良かったわ」

「私もお前が弟で嬉しい。好きだ結婚してくれ」

「はいはい分かった分かった。んで、土産に何持ってきたの?」

「フィリップモリス5カートン」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

大統領邸宅なう!

豪奢な外見もさることながら内装のリッチっぷりも負けてねぇ。

インテリアに趣向を凝らすということは国内のカメラが入ることでもあるのだろうか。案外虚栄心の現れだったりな。

 

「くれぐれも無礼のないようにしろ」

「わーってるっての」

 

さすがに一国の、しかも欧米列強の一国の長にケンカを売ろうとは思わない。

デカい門が自動で開き、玄関までの道を歩く。噴水といい装飾ように整えられた観葉植物といい、いかにも欧米ですってカンジだ。

玄関のえらく荘厳な扉を姉さんがノックする。向こう側へとゆっくり開いた。

 

開いた先には、金髪の――雌ゴリラが一頭、動物園から脱走していた。

ナニこの人めちゃくちゃごっつい。肩幅が俺の1.5倍ぐらいあるんですけど。俺の目線がちょうど肘の辺りなんですけど。常時岡スーツ装備みてーになってるんですけど。

固まっている俺を尻目に、雌ゴリラは何事か喋り出した。どうやらフランス語のようだ。

 

「……ようこそ、織斑千冬さん、織斑一夏……だそうです」

 

雌ゴリラの隣に立っている美人さんがそれを聞いて素早く日本語を話す。どうやら彼女が通訳らしい。ていうか俺呼び捨てかよ、ミスタとか付けてくれねぇ辺り扱いの雑さが見て取れるな。

すると姉さんはまったく表情を変えずに返した。

 

「一夏に『さん』を付けろゴリラ女」

 

フルスロットル過ぎるだろ。

 

「ちょっ!? 姉さん今サックリ戦争の引き金引かなかった!?」

「……いえいえ、確かに私はマドンナによく似てると言われますが、やはりアンジェリーナ・ジョリーの方が似ていると思います……だそうです」

「アンタもアンタだ今の姉さんのセリフをどう訳したらそんな答えが返ってくんの!? 明らかにねつ造したろオイ!」

「餌をやるぞ感謝しろ。ああ、生憎バナナは日本だと値上がり中でな、代わりに知り合いの実家に余っていた三年ほど前のタバコを持ってきた」

「クッソこの姉やりたい放題かよ! マジで日仏関係がどーなっても知らねぇぞ!?」

「……私の方でもプレゼントを用意させていただきました、どうぞお受け取りください……だそうです」

 

そう言って奥から黒服を着込んだいかつい方々が何かを抱えてやって来る。

頼むからマトモな品物でありますように……!

 

「……ラッキーストライク5カートンです……だそうです」

「どんだけタバコ好きなんだアンタァーーッッ!」

 

 

 

 

 

 

 

現在IS本体の製造に関して世界第三位のシェアを誇る大企業、デュノア社。

その代名詞とも言えるのが第二世代IS『ラファール・リヴァイヴ』だ。スタンダードな武装を取り揃え、攻撃型・防御型・支援型をマルチにこなせる万能機である。基本スペックも優秀で、搭乗者によっては第三世代機を完封することだってできるえげつねぇ機体なのだ。

 

すでに現地時刻で夕方、俺の今日というかフランス訪問最後の訪問先である。夕食も泊まる場所もこの企業傘下のホテルらしい。

 

「にしてもデケーな……海馬コーポレーションみてぇだ」

 

黒塗りのクラウンから降りてうんと伸びをする。

今日は精神的に疲れることが多すぎた。姉さんはずっとフルスロットルだったし毎回通訳の人が上手い具合にねつ造するせいで会話は噛み合わねぇし。ひょっとして今まで姉さんが海外に行く度にこんなカンジだったのか、よく外交関係に影響なかったなオイ。

 

俺に続いて車から降りた姉さんが本社ビルを見上げて鼻を鳴らした。

 

「ビグザムの方が大きいな」

「もうツッコまねーぞ」

 

なんで今日はやたら俺がツッコミ役なんだ。

なんで周りがみんな突き抜けたボケなんだ。

 

「いいから入ろうぜ、確かここでISを実操縦するんだろ」

「ああ。フランスの代表候補生と模擬戦だ。マスコミも多数集まっているからな、迂闊な戦いはするなよ」

「わーってるよ、ネット配信されるってコトは学園のみんなも映像は見るんだ、俺サマのイケメン極まりない戦いっぷりを見せつけて惚れ直させてやるよ」

 

手渡された書類に目を通す。模擬戦の相手はフランス代表候補生――シャルロット・デュノア。あれ、名前がデュノアだ。

俺の手元にある書類が確かなら彼女はデュノア姓である。

ちょっと聞いてみっか。

 

「なあ姉さん」

「ん?」

「デュノア嬢の専用機って『ラファール・リヴァイヴ』のカスタム機だったりする?」

「……正式名称『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』だな。まァすぐに分かるか、彼女がここの社長の娘だということぐらい」

 

やはりか。俺は内心納得した。

恐らく彼女はこの企業のバックアップを受けて実力を伸ばしているのだろう。これほどの規模になると優秀なテストパイロットも多いに違いない。その中で切磋琢磨すれば、代表候補生レベルの実力ならついて当然だ。

その理屈でいくと世界最強と世紀の大天災に挟まれて成長した俺はマジで素敵だな。間違えた無敵だな。いや間違えてねぇや。

素敵に無敵ということにしとけば、お後がよろしいようで。

 

 

 

 

 

 

 

金髪が出てきた。

金髪は金髪でもさっきの雌ゴリラじゃねぇ、あんなのとは大違いだ。こっちはちゃんと人間だ、それもとびきりの美少女だ。

流暢な日本語で自己紹介される。

 

「初めまして、シャルロット・デュノアです」

「織斑一夏だ、よろしく」

 

握手を交わす。

デュノア嬢の手……小さくて、温かくて、柔らかああああああい。いや別に禁じられた男女合体はしないが。

 

「模擬戦は二時間後ですので、双方準備をしておいてください。模擬戦に使用する演習用スタジアムは解放しておきますので、ご自由にどうぞ」

「了解。あ、更衣室とか案内しといた方がいいですか?」

「いやもうスーツは着てるからいい」

「? そのスーツで戦うんですか?」

「違ぇよISスーツのことだよ」

 

マジかこいつ天然入ってんじゃねぇか。

 

「へぇ! やる気全開、ってカンジですね!」

 

いや、バカ姉に着させられただけなんだがな。

その張本人たる姉さんは、少し離れたとこで別の人と話し込んでいた。

日本語・英語・ロシア語・ドイツ語の四カ国語をマスターしている俺サマがまったく聞き取れないということは恐らくフランス語か。ってオイ話せるのかよ。今までの通訳は何だったんだ。

 

「ピットはどこだ?」

「あ、それは僕が案内します」

 

……ん? 僕?

なんだ、まさか僕っ子か。萌え属性付属なのか。声がもうたまらんというのにこれ以上萌え属性を増やして何がしたいんだ俺をブヒらせたいのか。

一旦落ち着こう。うっ! ……ふぅ。

 

「織斑君? どうしたんですか?」

「いや――なぜ世界から争いがなくならないのかをちょっと、ね」

「はぁ……」

 

後このISスーツどう処理しようか。更衣室で『白雪姫』に量子化させておこう。それだと俺はあれだな、模擬戦中ノーパンになっちまうな。

致し方ねぇ、ISスーツを上も下も変えとこう。予備あるし。今装着してる全身長タイツじゃないタンクトップとスパッツみたいなモデル。露出度高すぎだろ。いいもんパンツじゃないから恥ずかしくないもん!

どうでもいいけど劇場版ははいてないってホントなのか、いやこれはどうでもよくないけど。帰国したらすぐさま劇場に足を運ぶのもやぶさかではない。

最近はデレ期到来の流星さんといい涙目ダブルピースといい、俺の祖国の未来がお先真っ暗で日本大好きだぜ。休日の朝っぱらから俺がフルスロットルにならざるを得ないとはニチアサタイム恐るべし。これで京都コラボがガチだったら俺は宇宙に行ってた。

 

「こっちです」

「ああ」

 

デュノア嬢が腰をフリフリしながら先導する。

俺は賢者のごとく澄み渡った思考と双眸でその光景を脳内に刻みながら、彼女(のお尻)の後を着いていった。

 

 

 

 

 

 

 

「なんてこった……ハンパねぇ広さだ。これならジャブロー降下作戦が再現できちまいそうだぜ」

 

ドロドロになっていたISスーツを量子化しようとしたら『白雪姫』に拒否られたのでお手洗いで洗った後更衣室に干しといた。

なんでISが反抗期突入してんだよ俺はそんなに過保護な真似はしてねーぞ。

 

模擬戦までの時間を適当につぶす。学園で量子化しといた武器は特にないのでいつも通り二丁のハンドガンと『白世』でウォーミングアップ。

今いるスタジアムが無駄に広いので、あれがしたくなるな。

 

「これって模擬戦前にエネルギーの補給できるよな?」

『ああ』

 

姉さんが答えてくれた。なら思う存分エネルギーを消費しちまっていいワケだ。

手にしていた大剣を粒子に還し、ウイングスラスターを調整。

 

まず瞬時加速。そこからスタジアムの端から端まで一気にすっ飛ぶようなイメージで、高速連続瞬時加速(アクセル・イグニッション)に移行する。

二発目(セカンド)、三発目(サード)

壁に激と  回避しテ    方向テンかんッ、

四五ろく7八9拾ーーッ!!

 

「ヒャッハハハハハハハハッハハァァッァァッァ!!」

 

速い速い! 世界が点から線に変わっていく! もう物質の見分けがつかねぇ! 狂っちまいそうだぜぇぇぇッ!!

 

――模擬戦が間もなく始まります。ピットに戻ってください!

 

……、

思考が一気にクールダウン。冷水をぶっかけられたみてーな気分だぜ。

10回目までの瞬時加速は数えてたんだがな、……途中で飽きちまってた。何回やったんだか覚えてねぇ。

 

「んだよイイ所だったのによ。お前だってそうだろ?」

 

『白雪姫』は答えを返さない。まあIS相手に会話をしかける俺がキチガイじみてるだけか。

ピットに大人しく帰還。整備のため機体を量子化することなく『白雪姫』から降りる。きちんと膝をつかせてからね。

 

「んじゃ後よろしくー」

 

整備士の方々に丸投げ。機体の整備は俺の管轄外だ。

 

「あまり見せつけすぎるなよ、一夏」

「あれで魅せられちまったヤツが悪ィ、まだショーの始まりだぜ?」

 

若干咎めるようにして、姉さんが話しかけてきた。

10連続ぐらいじゃ驚くなよ。実際のトコ、連続瞬時加速より多重瞬時加速の方が難しいんだ。

 

「それと一夏、お前に客だ」

「あん? ……ゲッ」

「やっはろー」

 

姉さんが振り向いた先には、俺に対し満面の笑みで手を振る美人さんがいた。美人は美人でも女性特有の二つのふくらみはまったくない。

揺れない。掴めない。揉めない。ないない尽くしだ。その内MOTTAINAIとか言い出すんじゃないだろうか。

 

「たぁー♪」

「げはぁっ!」

 

なんてコトを考えていたらドロップキックをくらった。

呼吸が割とガチに詰まって、ちょ、洒落、ならんッ。

 

「失礼なことを考えてる顔だったからネー。思わずV3キックをキメちゃったよ」

「……テメェには……回転が足りてねぇ……!」

 

ただのドロップキックでV3サマの必殺技を名乗るとはおこがましい奴だ。

俺は直撃を受けた腹をさすりながら立ち上がる。

 

目の前の美人さん。俺の唯一無二の相棒である『白雪姫』専属の整備士である。倉持技研という日本の研究所の研究員なのだが、姉さんと何かの縁があったらしく姉さんを介して俺に紹介され、『白雪姫』が第二形態移行(セカンド・シフト)する前からお世話になっている人だ。

 

「つーか下僕、何の用だ。整備は現地の人に頼むって言ったろーが」

「ううん、整備じゃないわ。ちょっと研究所から頼まれちゃってー」

 

倉持技研からの依頼……? イヤな予感しかしねぇ。

 

「新兵器のテストをしてほしいの、この模擬戦の中で」

 

やっぱりなクソッタレ。

 

「肩部設置のレールガンを二種類開発したから、そのテストをねー」

「無理に決まってんだろ、これは一応外交だぞ? お前らの利益のために勝てる試合を逃して全世界に醜態さらすことになったらどうすんだ」

「なぁに、自信ないの?」

「いいや、テメェらの造るヘンテコ兵器がいくら足を引っ張っても俺サマの勝ちは揺るがねぇ。だが万が一ってコトがある」

 

矛盾してるか? そうだろうな。基本的にこいつらが持ち込む武装はどれもロクなもんじゃないから嫌なだけだし。前はこいつらミサイルポットを渡してきたがハッチが開かないまま発射しやがって爆発に巻き込まれた。マジでマトモなもんがなかったな。

 

「うえーん。お姉さん、弟さんが苛めてきますぅ」

「誰が姉が馬鹿者」

「じゃあ義姉さん」

「斬り殺されたいのか……?」

 

俺が回想に浸っていると、いつの間にか下僕の生命が危機に瀕していた。

 

姉さんそのIS用ブレードどっから引っ張り出してきたんだよつかなんで生身で扱えてるんだよそしてそんな物騒なモン首筋にあてがわれてるのになんで下僕は顔色一つ変えてねぇんだよ。ツッコミ所が満載すぎて俺のツッコミスキルが急成長中。

騒然とするピットの中で俺は声を張り上げた。

 

「オイイイイ何してんのぉぉぉッ! 落ち着け姉さん、少しポジティブに考えりゃ俺にとっても利益だし! やるからやるから! な、な!?」

「……そうか」

 

姉さんがブレードを収める。

下僕はそれを冷たい目で見据え、鼻で嘲笑った。

 

「そうやって、いつも織斑君に構ってもらってるんですね」

「……貴様、よほど切り刻まれたいようだな」

 

何でこいつ火に油注いでんの? バカなの? 死ぬの? 自殺志願者なの?

せっかく人が鎮火しかけていた火をゴウゴウと燃え盛らせやがって。俺の努力を返しやがれ。

 

「オイ模擬戦始まんのいつ!?」

「も、もう相手方はスタンバイしてます!」

 

今返事くれた人マジでナイス。

 

「ということでもう出撃しまーす! オイ下僕、そのレールガンとやらはどこだ!?」

「もうインストールしてます」

 

作業早すぎだろ。ジョバンニじゃねぇんだから。

 

「……チッ」

 

殺気を撒き散らしながら姉さんが下がる。そのまま管制室の方まで歩いていった。やっと嵐が過ぎ去ったか。

 

「余計な口出しすんなよ、下僕。姉さんは確かに人外で中身はサイヤ人かベルセルクのどっちかだが、あれはあれで繊細なトコがあんだ」

「それを本人の前で言ってみたらどうかしら」

「お前なんて恐ろしいことを」

 

とにかく下僕をいさめて、ピットからアリーナに出る。

見渡せばデュノア嬢はすでに待機していた。一応武装の一覧を見ておくと、確かにレールガンが二つインストールされている。なんだこれ『禍(まがつ)』に『威(おどし)』とか中二病の権化みてぇな名前付けやがって。俺が中二病だと思われちゃうだろうが。いいぞもっとやれ。ばっちりエンチャント・エンディングしてやる。

 

さてと、社長さんの娘がわざわざ歓迎してくれるんだ、俺もしっかりしなきゃな。

 

「オイ下僕。『禍』と『威』、どっちを先に試せばいい?」

『うーん、今日は先に『禍』をお願いできるかな。そのコは割と使い勝手がいいし、企業向けに売れそうなコスパなんだ』

 

つーことは『威』の方はコスパ悪ィのかよ。

コイツらが造る武装は正直色物が多いので、新兵器をテストする度にビビる。誰が触手式有線ファンネル作れッつったんだよマジ誰得だよ需要どこにあんだよ。

 

「まあいいさ。さっさと始めようぜフランス代表候補生。テメェを倒したらロシアUK中国フランスで晴れて四ヶ国目だ。そろそろ世界一周してぇんだよ」

 

でもあれだな。ロシアは機体が変わったっぽいからやり直しか。しかも冷静にカウントすりゃまだ一勝一敗だからイーブンだわ。

正直言って楯無と戦うのはしんどい。こないだのオルコット嬢みてーにパワープレイが通じれば楽だが頭使わなきゃ瞬殺される。あいつ強すぎだろ本当に俺と一つ違いか? いい加減『白雪姫』にももっと特殊な機能がついてくれませんかね。

 

「こっちは第二世代だし、手加減してよ?」

「……オイ、こいつ一応第二世代機だぞ」

「えっ」

 

確かに第二形態移行(セカンド・シフト)は済ませてあるが、こいつには操縦者のイメージ・インターフェースを利用した特殊装備がない。出力とかは最近の第三世代にも負けないようカスタマイスしてあるがそれ以外だと特段優れた点もない。

 

単一使用能力(ワン・オフ・アビリティ)って第二形態になったら発現するんじゃなかったの? 何ですかあれ都市伝説ですか? そう考えていた時期が俺にもありました。たとえセカンド・シフトしてもワンオフ・アビリティは発現しない方が圧倒的に多いんだってね。ただでさえ少ない第二形態のISのさらにその中でわずかな数とか羨ましすぎる。

まァそりゃそんな低確率なら第三世代機開発されるわな。偏光射撃とかカッコイイしね。エネルギー弾は外れた場合曲げるより新たに撃ちまくった方が明らかに効率いいってのが通説だけど。安定性を高めた機体――『甲龍』とかアメリカの『ファング・クエイク』とかが兵器としては理想だろう。競技スポーツ用としてどうかは分からないが。

 

「『第二形態・白雪姫(アメイジング・ガール)』がこいつの正式な名前だ。第一形態は……なんだっけ、百式だったかな」

「それだと金ピカになっちゃうよ」

「下僕、早急にメガバズーカランチャーを造るんだ」

『了解! えっと、確か先っぽにビームサーベルついてた、ゲームだとなぜか投擲武器のあれよね?』

 

それはハイパーメガランチャーだ愚か者がッッ!

 

「これ、いつ攻撃すればいいの?」

「ん? もう始まってんぞ。いつでもかかってこい」

 

俺がいつもどおり下僕の誤った知識を訂正していたら、デュノア嬢が遠慮していたのか、銃を構えるだけ構えてこちらの様子をうかがっていた。何だよ、奇襲強襲不意打ち離脱だなんて一番合理的な戦い方じゃないか。どうして仕掛けてこねーんだよ。

仕方ないので俺から膠着を崩す。『白世』を展開して突撃。デュノア嬢はすぐさま実体シールドとショートブレードを取り出して俺に踊りかかってくる。

 

え。

なにこいつ。まさか、この距離で俺から主導権を握れると思ってんの?

ごめん下僕。レールガン使う間もなく終わらせちまうかも。

 

「たぁぁぁっ!」

 

切っ先を向けて突いてくる。ていうか何考えてんだ俺の方がリーチは長いに決まってんだろオイ。

交錯するように俺も加速して相手の攻撃が届く前に『白世』を振るう。シールドを真っ向から打ち砕き、その反動でデュノア嬢は吹き飛んだ。いつの間にか手にしたサブマシンガン二丁の銃口を俺に向けたまま。

 

……!? しまった、これが狙いだったのか!

咄嗟に大剣を盾代わりにしてしのぐ。なるほど高速切替(ラピッド・スイッチ)ができるのか、そりゃイイ。確かに距離を選ばずに戦える。俺相手に冒頭から突っ込んできたのも納得。

ここで退くのは得策じゃねえな……好き勝手に距離を調節されると負けパターンだ。必死に食らいついていくのがベターか。

火花が散るのに構わずブースト。追いすがってくる俺にデュノア嬢の挙動が乱れる。そりゃ連射性能に優れたサブマシンガンの砲火の中に突っ込んでるなんざ非常識極まりないだろうしな。だが俺はレアだぜ。

 

「悪ィちょっとお前のことナメてたわ」

 

俺のリーチに入る。片手に面を向けていた『白世』を持ち替え、肘から先の動きだけで切り上げ。当然のようにデュノア嬢はのけぞって回避。こいつミリ単位で予測しやがって……俺が限界まで引き付けられたようにしか見えねえじゃねぇか。

超至近距離でデュノア嬢は不適に微笑む。ヤバい、ここは、大剣の距離じゃない。

 

「盾殺(シールド・ピアー)ッ」

「させねぇよ!!」

 

この距離で炸薬式で連射可能なキチガイパイルバンカーなんざ食らってたまるかクソッタレ!

『白世』を手放す。デュノア嬢の左手を俺の右手で押さえつけ、余った片手にハンドガンを召還。ついでに『白世』も粒子に還しとく。いくらか動きが軽くなった。

シールドの内側に銃弾を炊き込む。一発二発三発、火花が散り内側から鉄杭が弾け飛んだ。

 

「あのさぁ、こっちに夢中になってるのに悪いけど――」

 

ゾッとする声色。こないだ見たホラー映画より何千倍も怖ぇ。

やっとの思いで致命傷を作りかねない武装を処理したってのに今度は一体何を仕掛けて

 

「――『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』は、一つだけじゃないんだよね」

 

右腕。

いつの間にか、まさに今俺が破壊した『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』がそこにあった。本来は左腕に備え付けのシールドであるため、無理に握った不恰好な姿勢。ただその驚異的な破壊をもたらすパイルバンカーが俺に狙いを定めているのは間違いない。

 

やっべぇ敗北フラグ立ったわコレ。

無理。詰んだ、普通に負けた。さすがにひっくり返せねぇ。

うわーパネェなフランス代表候補生。強ぇ。おめでとう、俺をこんなあっさり倒すなんてIS学園最強を名乗ってもいいと思うよ。俺を踏み台に、君にはぜひ世界最強を目指してほしいね。

 

 

なーんて言うと思ったかァ?

 

 

「おめでとさん、国家代表以外で俺にコレを使わさせたのは、テメェが初めてだ」

 

空いた左手に懐剣を顕現させる。大して長くねぇ。だからこそ取り回しの良さは随一だ。

パイルバンカーを逸らす。放たれた鉄杭の先端にかち当て、懐剣が折れないようにしつつ、攻撃だけを捻じ曲げた。

 

「……!?」

「初見か? だろうな。俺も久々に見る」

 

『虚仮威翅(こけおどし)』。

それがこいつの銘だ。

 

俺の脇腹を少し逸れたシールド・ピアースを蹴り上げ、がら空きの胴体にハンドガンを突きつける。二丁だ。

ものはついで。肩に『レールガン・禍』を召還しておく。

 

「モウヤメルンダッ!!(CV.石田彰)」

 

トリガー×3。いやイメージ的には例のCSと同じだから俺のシャウトは決して間違っていない。

結論から言おう。デュノア嬢に直撃はできた。ただ俺の目の前にレッドアラート・ウィンドウが表示される。

 

――肩部設置電磁砲の砲身が融解しています! 連続での使用不可!

 

テッメェマジかよオイ。

見ると確かに、なんかドロッとしたのが俺の肩に垂れていた。ちょ、なんかジュージューいってんだけど大丈夫かこれ。

 

「オイ下僕ぅぅぅぅぅ! よくもこんなハズレ武装掴ませてくれたなオラァ!」

 

姿勢を立て直そうとするデュノア嬢に両手のハンドガンで弾丸を撃ち込みながら瞬時加速(イグニッション・ブースト)。ショットガンで迎撃しようとするが、俺は拡散する弾丸の隙間に身を滑り込ませて回避。ウィングユニットとかには当たっちゃってるけど気にしたら負けだ。

 

ハンドガンと入れ替わりに『白世』を召還し。

ありったけの運動エネルギーを叩き込み。

kill!!

 

巨剣がアーマーを発泡スチロールのように砕き散らし、そのままエネルギーをゼロまですり減らした。

 

「まあ強かったぜ」

 

『白世』を粒子に還す。デュノア嬢は悔しそうな表情で、地面に足を着けた。

 

「……君は、かなり強かったよ」

「最強の間違いだろ?」

 

融解したクソレールガンを取り外してその辺に放り捨てる。勝手に回収でもしてろボケ、不良品ばっか使わせやがってマジ救えねぇ。

に、しても。

 

これで俺のフランス訪問初日は終了、ってコトだろ?




・シャルル? 誰ですかそれどこぞの国の98代目皇帝ですか?

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